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廃棄寸前な私は社畜メシでマリアージュを探す〜ざまぁよりうまぁを添えて〜  作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!
第4章 レモンをかけるな?サラダは取り分けろ?黙って食えねぇなら家で弁当でも食ってろ!
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第17話 大将×粋

 釣り上げたばかりの新鮮な太刀魚たちうおのお刺身と、大将がオススメした白ワインのマリアージュに舌鼓したづつみを打った後。

 更なる美食を求めて、私たちは次のお刺身盛り合わせに手をつけていた。


「あっ、こっちはアジね!! これは素直に生姜醤油が美味しいわよ!」

「このニンニク醤油も日本酒に合ってて美味しいぜ。ウル君、こっちのサバはどう?」

「むぐむぐもぐ! むぐむぐっぐ!! ゴクゴクゴク!」


 あ~、獅童しどうは太刀魚にも使ったオリーブ油に、絞ったレモンを入れて食べてるのね。

 ちょっと私もソレ試してみようっと! 


「おうおぅ、やってるな! 新鮮な魚はうめぇだろ?」

「はい! やっぱり止風土しふどの魚介は美味しいです!」

「お? なんだ、姉ちゃんは止風土市に来たことがあったのかい?」


 あれ? 大将に私がこの港町の出身だって言ってなかったっけ?

 生まれも育ちも止風土市だし、もちろんこの魚介たちには親しみが深いよ。


 自己紹介がてらに大将にそれを伝えると、更に上機嫌になって声をあげた。


「そうか、飯野いいの爺さんの家の嬢ちゃんだったのか!」

「えっ? 大将、私のお爺ちゃんの事を知ってるんですか?」


 私も20年近く住んでいた土地だし、どこかで会っていたかもしれないとは思ったけど……。

 大将のリアクションから察するに、どうやらお爺ちゃんの知り合いだったみたい。


「おう。飯野の爺さんは、俺が昔に世話になった恩人だぜ」

「恩人……?」

「しっかし、あの爺様め。こんなに可愛い孫娘を置いて、早々にくたばっちまいやがって。俺のメシだってまだまだ食わせたかったのに……」


 ――それはビックリだ。

 確かにお爺ちゃんは建設関係の仕事をしていたから、顔はそれなりに広かった。

 だから町内会や漁港組合にも、それなりにツテはあったと思うけれど。


「飯野の爺さんにはこの店を建てて貰ったんだよ。ほら、こんな昔ながらの古くせぇ建物なんて、普通の業者じゃ取り扱ってくれねぇだろ? 飯野さんとこはそういう伝統的な仕事も受けていたからよぉ」


 たしかに……お爺ちゃんの会社は地元の昔気質むかしかたぎの職人さんを集めて、この止風土市にある神社の修繕とか改築をやっていたらしい。

 あー、だからそういう流れでこの店も建てたんだねぇ。

 お爺ちゃん、こんな素敵なお店を作ってくれてグッジョブだよ!!


「その当時は俺も若くて金がなくてさ。それをどっかで知った飯野さんが『代金まけてやるから、その代わりウチの衆に美味いモン食わせてやってくれよ』って言ってくれたんだよ。そのお陰もあって、この小料理屋『喰心房くいしんぼう』が出来たってワケだ」

「へぇ~。ウチのお爺ちゃんもいきなことをしますねぇ」

「それだけじゃなくてよ。事あるごとにウチで宴会をやってくれたし、それがキッカケで常連さんになってくれる人も増えたんだよ。だから飯野の爺さんには感謝してもしきれねぇんだ」


 あぁ……ウチのお爺ちゃんはそういうニクいことが好きなのだ。

 すぐカッコつけたがるクセがあって、調子に乗るなってお婆ちゃんに説教されていたけれど。

 でもそういうところも含めてお婆ちゃんは好きになったって言っていたし、他の家族もそうだった。


「この店が出来てからも、ちょくちょく奥さんに内緒でここで飲み食いしていってよぉ。仕事終わりにそのカウンターの端っこでチビチビと酒飲みながら、孫娘の自慢をしていたんだが……そうか、その孫娘が姉ちゃんだったのか……」


 腕を組みながら、仁王立ちで天井をあおぐ大将。

 そのつむったまぶたの裏では、記憶の中の祖父を見ているようだった。


 ――しばらくの間、沈黙の時間が流れる。


 夏の暑さで氷製の器が溶けて雫になり、汗のようにテーブルからピチャリ、と音を立てて落ちた。


「おっと、いけねぇ。すまんな、ちょっと昔を思い出してボーっとしちまった」

「いえ。お爺ちゃんを覚えてくださっている方が居て私も嬉しいです。先日、お婆ちゃんも亡くなってしまったので……」

「――何ッ!? そりゃあ本当か!? 知らなかったとはいえ、それは申し訳ねぇことをしちまったな。……あとで線香をあげにうかがっても構わねぇかい?」

「はい。2人とも、喜んでくれると思います」

「そう、か……そうか……」


 グイグイ、と甚平じんべいスタイルの料理服のすそで、顔についた液体をぬぐう大将。

 ついに強面こわもての大将の涙の防波堤ぼうはてい決壊けっかいしてしまったようだ。


 ……でも、家族以外でも悲しんでくれるのは本当にありがたいな。

 だってもう、家族は私とお母さんしか残っていないのだから。


「よし、紫愛しあ嬢ちゃんって言ったな!? 今日はとむらいも兼ねて盛大に行くぞ! そして俺もむ!! 暖簾のれんも片付けて店じまいだ!!」

「えぇー!? りょ、料理は!? 私のお酒は!?」


 いきなりそんなこと言われても、私はご飯を楽しみにしてたんだよ!?

 ここでおあずけなんて酷いよ大将!!


「おっ、今回は早かったっすね大将! 一緒に呑みましょう~!!」

「料理は簡単なモノでいいですよ。俺も手伝うし」


 ちょっと、ちょっと!?

 モッチーと獅童も何を余計な事を言っちゃってるのよ~!

 私のごーはーんー! おーさーけー!!


「よっしゃ! それなら今日は、この店秘蔵の酒も出すぞー!!」

「よっ!! 大将!! それは私にもそのお酒呑ませてくれるんですよね? ねっ!?」


 さっすが、大将! 美味しくて貴重なお酒が出るなら文句は無いよ!

 なんなら私も手伝いますから!! お酒ちょうだい!!



「どうせ他の客も今日は来ないだろ。もし来てもまとめて宴会だ!」と言って、大将は本当に入り口の暖簾を片付けてしまった。

 これから来るかもしれないお客さんに「一品(おご)るから許してね!」と心の中で謝りながら、私は大将と一緒に秘蔵のお酒を奪い――もとい、分かち合うためにウキウキで調理場へと入っていくのであった。



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