第15話 お通し×日本酒
私の地元、小さな港町の外れにある小料理屋で、男女3人による宴会が始まった。
仕込み中の大将の代わりに給仕を買って出てくれたのは、モッチーこと望月さん。
彼が調理場から持ってきたのは、徳利に入った日本酒だった。
――トクトクトク。
清流のように澄んだ液体が、小気味の好いリズムで各々のお猪口に流れ込む。
そして不思議と手に馴染む陶器製のお猪口の中で、芳醇な香りをさせながら静かに水面を湛えている。
……とまぁ慣れない詩的な表現をしてみたけれど、私が言いたいのは情緒があるなぁってこと!
早く早く、と急かすような目で男性陣を見やれば、ニッコリと笑い返してくる。
どうやらここは、年長のモッチーが乾杯の音頭をしてくれるようだ。
「それでは。しーちゃんとの再会と、本日の釣果を祝しまして。乾杯!」
「「かんぱ~い!!」」
三者三様の飲み方とペースで程よく冷えた日本酒を呷る。
キリっとした飲み口で、喉越しも良いからスルスルと胃へ入っていく。
最初の一杯で、暑さで火照っていた身体を気持ちよくリフレッシュさせてくれた。
大吟醸だとか精米歩合とか詳しいことは分からないし、そんな上等な舌も持ち合わせてはいないけれど、恐らく最初にこのチョイスをしたのはナイスだと思う。
そしてこのお酒を選んだ人物であるモッチーをチラッと見ると、ニヤリとした笑顔でこちらを見返してきた。
――くそぅ。やはりこの男、やりおる。
今までにもモッチーには何回かご飯に誘われて色んなお店に行ったことはあるけど、オススメしてくれた料理は毎回めっちゃ美味しかったんだよねー。
良い所のお坊ちゃまみたいだし、小さい頃からイイモノ食べて舌が肥えてるんじゃないかな。
……イケメンで裕福とか、神に祝福され過ぎでしょう!?
その生まれ持った強運を私にも分けて欲しい。
片や獅童の方はと言えば……あんまり味は気にしてないのかな?
カパカパと杯を空けては、お代わりを注いでグイグイ飲んでいる。
ちょっと勿体無い飲み方に見えちゃうけど、私は他人に迷惑をかけなければ別にわざわざ口煩くケチをつけたりはしないよ。
好きな飲み方なんて人それぞれだし、料理に対して冒涜的な飲み食いをしなければ別にいいんじゃないかな~。
……面倒臭い酔い方をしてきたらそいつとは二度と行かないけど。
「さて、それではお通しをいただきましょうか……!」
「おっ、さっきしーちゃんが大将と話してたアレか」
「これは……豆腐~? なんだか緑がかってる気がしますけど」
そう、目の前で食べられたくてプルプルに震えてるコイツは豆腐だ。
だけど、ただの豆腐ではない。
パッと見はピスタチオのように優しいパステルカラーの薄緑色。
少し青臭いような匂いがするけど、むしろ優しい香りでお酒にも合う気がする。
「まぁまぁ、取り敢えず食べてみましょうよ。まずはそのまま一口。いただきまーす!」
「うん……? あぁ、これはアレかな? たぶん美味しいと思うよ……ということで俺も、いただきます」
「うーん? 僕は良く分からないっすけど、美味しいならいただきます!」
箸ですうっと掬うと、ホロリと豆腐の角が取れた。
そのまま優しくキスをするように口元へ近付けて……ひと思いに口内へ。
ふあぁあ……美味しい。
ざらつきを少し感じつつ、柔らかな豆腐がアイスの様に舌の上で溶けていく。
まったりと舌を覆う感触を味わっていると、この豆腐の原料である《《とある食材》》の甘みがふわっと広がった。
スイカに塩をまぶすように、豆腐本来の苦みが更に甘さを際立たせてくれている。
「んんん!? なんっすかコレ!? フツーの豆腐より甘いし、なんだか和菓子みたいなカンジ? 旨いっすね!!」
「うん、美味しい~!! やっぱり夏の風物詩を使った料理をこの暑い日に食べるのは、格別に美味しい気がするわ!」
「そうだな。やっぱり時季の物は美味しいよ。……コレ、枝豆の豆腐だろ?」
おおっ。さすが、味覚まで筋肉で鍛えられた男。
一発で当ててきたね。
「え? 枝豆っすか!? たしか豆腐って、大豆で作るんですよね!?」
「うん、そうだよ。普通の豆腐は大豆でできてる」
「おー? 獅童のボウズは枝豆豆腐を知らんかったのか?」
そう言ってお酒のお代わりを持って来てくれた大将。
たしかに獅童の言う通り、変わり種の豆腐好きじゃないとあまり見ることはないかも。
「ウチの枝豆豆腐は知り合いの農家に貰った朝採れの枝豆と、豆腐屋から買った豆乳を使って作るんだ。これが結構イケるだろ?」
「はい! とっても美味しいです!!」
「へぇ~。初めて食べたっすけど、僕はこの優しい甘みが気に入りました!!」
「これ、結構作るだけで手間だよなぁ。……大将、さすがです」
一品目から絶賛の嵐である。
私も初めて来たお店だからちょっとだけ警戒していたけれど、これはもう手放しで称賛するしかないね!!
二口目からは大将が持ってきた粗塩を乗せて食べたり、醤油を垂らしてみたりしたけれど、どの食べ方でも美味しいんだもん。
そしてお酒に合う!!
「へへっ、朝から苦労して作った甲斐があるってモンよ。ホレ、次の料理も出すぞ? 望月の兄ちゃん、悪ぃけどまた手伝ってくれ」
嬉しそうに照れながら、次の料理を取りに戻る大将。
口は悪いけど、可愛い所があって思わずニンマリしちゃう。
最初のお通しは一品目として最高だった。
こうなったら当然、二品目も期待しちゃうよね!!
なんだろう、なんだろうと年甲斐もなくはワクワクしちゃう私。
獅童もワンコみたいに目をキラキラさせてステイしているし。
私と獅童が待てのポーズでソワソワと待機していると、大将とモッチーは新しい料理を持って来てくれた。
ふふふ、さぁ次の料理も食いしん坊な私たちを満足させられるかなぁ~!?




