スキル≪再転生≫
目を覚ますとそこは、見渡す限り何もない、ただただ白い空間だった。
(これは、あれか、俺はあのまま死んで天国に来たってことか。)
「まぁ、地獄に落ちるようなことはしてこなかったしな」
何も無い空間で優は一人呟いた。
それにしても、天国にしては本当に何も無いな。それに他にも死んだ人がいてもいいはずだ。もしかしてここはまだ天国ではないのか?だとしたら案内人のようなものが来て天国へ連れて行ってくれるのだろうか。
そんなことを考えていると後ろから、
「ここは天国でも地獄でもないですよ」
と、優しそうな女性の声がした。
振り返ってみるとそこには、声の通り優しそうな、真っ白な服に身を包んだ女性が立っていた。
「失礼ですが、あなたは?」
「そうですね、神様、ですかね?」
「ですかね?って。疑問形なんですね」
「確かにおかしいですね。はい、私神様です」
そう言って神様(?)は微笑んだ。
「その神様が僕に何の用ですか?それにここは天国でも地獄でもないって。それならここはどこなんですか?僕は死んだんですか?」
「後ろから順番にお答えしていきますね。まずあなたは死んでいます、間違いなく。」
「あー、やっぱりそうなんですね。さすがにあれで生きてはいないか。」
「残念ながら。そして次に、ここは天国でも地獄でもない、『転生の間』という場所です。」
「『転生の間』?転生って、よくラノベとかである、あの?」
生きていたときに、勉強の息抜きとしてたまにそういった内容の小説は読んだことがある。
「そうですね、あなたの想像しているものと大体同じだと思って頂いて結構です。そしてその転生が、私があなたのもとへ来た理由に大きく関わっています。」
これはあれか、転生する世界を選ぶとか、もしくは何か特別な力を与えられるとか、そういった展開か。
「何か良いことでもして貰えるんですかね?」
「とても察しがいいですね。そうです、良いことしてあげます♪」
「その言い方は誤解を招くのでやめた方がいいですよ」
「確かにそうですね、気を付けます」
この神様、どこか抜けている気がするが、大丈夫だろうか。
「では、その良いことについて詳しく説明させて頂きますね。まず、あなたには1つだけ、特別な力、スキルを与えます」
おー、先程思っていたように、良いこととは、特別な力を与えられる、だったらしい。
「スキルは無数にある中から1つだけ選んで頂きます。戦闘向きなものからや生活を豊かにするもの、商売に向いているものなど、その能力は多種多様です。」
「あの、質問いいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「僕がこれから転生する世界っていうのは、どういった世界なんですか?」
「そうですね、一言で言うと、剣と魔法の世界。THE・ラノベって感じですね♪」
やっぱりこの神様、ちょっと抜けてるな。
それはさておき、
「そうするとやはり、戦闘系の方がいいんですかね?」
もしモンスターとかがいるなら、戦闘系のスキルでないとあっさり死んでしまいそうだ。
「いえ、そんなこともないですよ。戦闘能力はあなたの努力次第で成長していきますからね」
「なるほど、とりあえずそのスキルを全て見てみてもいいですか?」
「いいですよ、こちらです」
そう言い神様は指を鳴らした。
すると、何もなかった空間に突然、とてつもない数の文字が浮かび上がった。
(さすがに、多すぎないか?)
あまりのスキルの数に優は圧倒されていた。
だが、
「ん?あれは?」
1つのスキルに目が止まった。
「あぁ、あれは≪再転生≫です。このスキルは少し特殊で、今回転生し、人生を全うした後、このスキルを使用することで記憶を持ったまま、もう一度転生することができます」
(てことは今回の人生では全く役に立たないということか)
「ただそれだけではないんです!!なんとこのスキル、10回まで使用可能なんです!!」
「え、それは、10回記憶を持ったまま転生を繰り返すことができるということですか?」
なんだそのスキルは。ヤバすぎるだろう。10回転生できるということは、今回転生した人生から数えて人の11倍、色々なことを学び、経験できるということだ。
(このスキル、直接的な力を手に入れられるわけではないが、実は一番チートスキルなんじゃないか?)
「どうします?これに決めちゃいます?」
こっちは真剣に悩んでいるというのに、またこの神様は軽そうにそんなことを聞いてくる。
だが、元々ゲームのレベリングや勉強など、反復して行うことが嫌いではない優にとってこのスキルは、他のどのスキルよりも性に合っているかもしれない。
(よし。)
「決めました、僕はこの≪再転生≫のスキルを頂きます」
「ですよね!!やっぱりそれですよね!!私もきっとあなたならそのスキルを選ぶと思ってたんですよ~」
「では、失礼しますね」
そう言って神様が優の頭の上に手をかざすと、その手が青白く光り、何か温かいものが体に流れ込んできた気がした。
「はい、これで大丈夫です。じゃあ、このまますぐに転生して頂きますね♪」
「え!?ちょ!!そんないきなり!!」
だいじょーぶ、あなたならきっと良い人生を送れるから、ね♪」
まったく、最後までお気楽な神様だな。
けど、
「そうですね、とりあえず定番通り、最強でも目指してみますよ。なんせ人の11倍もの時間がありあすからね」
そうだ、どうせやるならとことん上を目指そう。
まぁ、とりあえずいじめられないくらいにはならないとな。
あれだけコミュニケーション能力がないからといじめられていたはずの優も、なぜかこの神様の前では心を開き、普通に会話ができていた。
「さっき会ったばかりですけど、色々、ありがとうございました。僕なりに頑張ってみますね」
「うんうん!私も応援してるよ!それじゃ、いってらっしゃーーーい!!」
満面の笑みで大きく手を振る神様の姿が、段々とぼやけて遠のいていった。
その記憶を最後に、優はまた意識を手放した。