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お姫様との出会い

ぱちっ、ぱちっ、と火の粉が踊り、夜の闇を少しだけ押し返す。静寂の中、火の粉が爆ぜて踊り出す音だけが響いていた。


火から発せられる熱の心地よさをじんわりと感じながら、アークスは少しずつ意識を覚醒させた。


「ここは、、、」


「良かった、目をお覚ましになった様ですね。心配しました。」


目を開けると少女から大人の女性に変わり始めた年頃だろうか、将来は大変な美人になるであろう、美しい少女が心配そうに此方を覗き込んでいる。その目はエメラルドブルーの色を称えていた。


「あなたは、、僕は、どうして、、?」


「貴方は、砂漠で倒れていたのです。魔力の揺らぎを感じて、駆けつけたのですが、間に合って良かった。」


体を自力で起こして、美しい少女に向けお礼を述べる。


「そうでしたか、、ありがとうございます。」


「当然の事をしただけです。困っている人がいたら助けるのは、当たり前の事でしょう。」


「それでもあなたが僕を助けてくれなければ、死んでいました。」


一人称を“僕”と変えるのは、気恥ずかしい。


「本当にありがとうございました」


真っ直ぐ此方の顔を見る少女は、アークスの顔の一点に気付く。


「貴方は貴族なのですか?」


「貴方の持っている指輪。それはこの国の貴族が王に忠誠を誓った証。いわば貴族の証です。なぜあなたが、、、」


(あ、しまった。外すのを忘れていた。んーどうしようか。)


「貴方が我が帝国貴族の子弟であれば、私が顔を知らない訳も無いのですが」


〝ぐぎゅーーーーーー〟


物凄い腹の音であった。


「ごめんなさい、食べ物と飲み物を恵んで下さい。もう限界で、 、」


涙目で訴えかける。

このような状況だと小さい少年の身なりは役に立つ。


「くすっ」


「そうでしたね、お話の前にお食事にしましょう」



少女が指示を出すと周りで控えていた5人の従者らしき人物がその言葉で立ち上がり、食事の準備が始まった。と言っても、砂漠のど真ん中である事は変わらず、用意されたのは乾燥した肉と固いパン。後はスープが少しであった。それでも3日も飲まず食わずであったアークスにとっては、最高のご馳走であった。


「そんなに急いで食べなくても、食べ物は逃げていきませんよ」


少し笑いながら、その女性は話しかけて来た。火を囲んで食べる食事は楽しく、アークスにとって、実に10年ぶりの人間との会話であった。


「早速ですが、貴方の事を教えてくれますか?」


「貴方は見た目頃10歳を少し過ぎた位にしか見えません。そんな子供がこんな砂漠のど真ん中で倒れてるなんて、どんな事情がおありなんですか?それにその指輪も、、、」


「僕は、、」


さて、どう応えたものかと思案しながらも、


「僕は、アークスと言います。」

「先ずは助けて頂けて頂き有難う御座いました。本当に死ぬかと思いました。」


先ずは彼女らの素性も見極めねばならない。もっとも薄々と身分は分かっているが、


「姫様。あまり不用意に近づくのはやめて下さい。こんな所に一人でいる子供なんて怪しいですぞ」


控えていた内の一人、顔に傷のある初老が声を荒げた。


「控えなさい、シュタイナー男爵」

「相手は子供ですよ、それに持ち物に抜けない剣以外に怪しい物は無かったのでしょう?」


「失礼しました、、」


周りを見れば他の従者達は此方を警戒している様だ。この少女の事を心配しているのか、何か不測の事態が起きれば即応出来る様に身構えている。よく訓練されている証拠だ。


「アークス君でいいかしら?私はグリムランド帝国第7代皇女クリスティナ・セリス・グリムランドルです。」


やはり、、皇女だったか、、

エメラルドブルーの瞳は皇族の女性に発現し易い色である。それに、胸に掛けている輝石、セイント石のペンダント。これは皇族しか持つ事を許されていない。薄々とは気付いていたが、地上におりて早々に皇室の人間に会うとは、もしや彼女が母さんの言っていた?


「失礼致しました。皇女殿下とは知らず無礼な真似を致しました。命を救って頂きながら申し訳御座いません。」


「そのままアークスとお呼び下さい。」


「ずっと山奥で世捨て人の様な祖父と暮らしており、些か世情に疎く存じます。何卒お許しを。」


グリムランドルの皇族と此処で出会えるなんて幸運だ。母に感謝すべきだろう。かつての家族の、そして妹の情報も手に入るかもしれない。あわよくば俺を殺そうとした相手の事も。この機会を逃す訳にはいかない、何としてでも、この少女に取り入る必要がある。


「怒ってなどいませんよ、顔をお上げ下さい」


とても優しい声色であった。

柔和な微笑みと優しい雰囲気を持ち、ドレスを着ていれば、さぞ美しい姫君であろう。今は砂漠なので肌を隠した機能的だが地味な服装なのが残念である。


「ありがとうございます。」


「山奥で暮らしていたとの事ですが、何故こんな砂漠の真ん中に?」


「名は申せませんが、祖父は元帝国の貴族です。その祖父が亡くなったので、外の世界に出ようと思ったのです。そして飛行艇に乗ったら、事故にあって砂漠の真ん中で目が覚めました。」


「食べ物も尽きて、もうダメだと思っていたら、皇女殿下に助けて頂けました。本当にありがとうございました。」


よくもまあこんな作り話がスラスラと出て来るもんだ、自分でも驚いている。みたところ訝しげに考えている様だが、ある程度は納得はしてくれている様だ。


山奥で暮らしていた天涯孤独の身で世情に疎い、そして事故にあって死にそうだったというだけで、ある程度の同情は引き出せるだろう。しかもどこかの貴族の血脈ともなれば、連れ帰って調べねばなるまい。


内心悪どい笑いを必死で堪えていた。


それにしてもセリスか、、皇族はミドルネームを持ち、母体となる貴族家の家名が使われるセリスだとセリス辺境伯家だ。


因みに俺の本名、アークス・レイセシア・トレイル。この名前を言えば、確実に命を狙われる。俺が生きていたなんて世に知られる訳にはいかないだろう。


それにセリス辺境伯は、トレイル公爵家の派閥で、両家は仲が良かったハズだ。セリスであれば、トレイルに何があったのか分かるかもしれない。


そんな事を考えているとクリスティナ皇女がこちらを覗き込んでいる。この子皇族とは思えない位、危機感が無いな。


「クリスティナ皇女殿下、殿下は何故こんな砂漠に、、?」


「ここには遺跡調査と魔物退治で訪れました。私は隊長を務めているので、ここで待機してます」

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