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青き炎のヴァリアント  作者: シベリウスP
69/70

サイドストーリー・青春の軌跡

ホルン・ファランドール。

ファールス王国の正当な世継ぎにして用心棒。

デューン・ファランドールと別れたあと、この物語の開始直前までの主人公・ホルンの軌跡を書いてみました。

 ファールス王国。

 それは大陸の中央部にある大国で、神話の時代を含めると千5百年の歴史を誇っている。


 その国では今から25年前、時の国王を異母弟が弑逆しいぎゃくし、王位を簒奪さんだつするという大事件が起きた。


 その時以来、この国の勢力は落ち始めた。それまでの国王、ジャー・ローム3世の時は、国内どこでも治安が良く、たとえ辺境でも人々は戸締りをすることなく、道に落ちているものをネコババする者もなく、いたって平穏に暮らしていた……と、どこの土地の古老も口をそろえて言う。


 しかし、現国王シャー・ザッハーク2世の代になると、辺境まで王の威令が行き渡らず、軍隊も辺境保護まで手が回らず、『辺境』は盗賊や魔物が跋扈ばっこする、『平和』とは無縁の地域になってしまっていた。


 たとえ『辺境』でも、そこに人々が住んでいる限り日常があり、その日常を支えるための交易などが欠かせない。手の回らない軍隊や官憲に代わって、商人や物資運搬の護衛、盗賊や魔物の退治などを請け負う商売、つまり『用心棒』たちが現れた。


 用心棒たちは、町や村の商人たちが作った『交易会館』を根城に、自分の気に入った仕事を請け負って日々を過ごしていた。



 どんな町村にも、曲がりなりにも『交易会館』らしきものはある。

 大きな都市では一つの都市の中にいくつかの交易会館がある場合もあったし、小さな村ではいくつかの村が共同で交易会館を建て、各村の役場に支所がある場合もある。テラーラームの村の場合は後者だった。


 ただ、この村はカンダハールからヘラートに向かう街道とザーヘダーンへ向かう街道の分岐点であったため、ちゃんとした交易会館が置かれて専任の職員も配置されていた。


 その交易会館のガタピシしたドアを開けて、一人の女性が入って来た。


 まず目を引くのは、背中まで伸ばした銀髪と、翠色の瞳を持つ切れ長の目であろう。そして彼女は革の胸当に腹部を守る革製の腹巻、腰から大腿部を守る白いなめし皮の直垂、膝パッドのついた底の厚い革のブーツという重装備で、背中には穂の長さが60センチはある手槍を負っていた。


 女性は、部屋の中をぐるりと見回した。

 この会館はそんなに大きくはない。目の前にはカウンターがあり、職員が二人座ってこちらを見ている。奥にも2・3人の職員が暇そうに書類をめくっていた。


 女性は、右手の奥に掲示板を見つけると、つかつかとそちらに歩み寄った。交易会館は投資の案件や通貨の為替情報、作物の出来不出来などありとあらゆる商売に関係する情報が集まる場所であるとともに、商人のための宿屋の手配や用心棒のあっせんまで行っている。


 今女性が歩み寄ったのは、用心棒への仕事依頼が張り出してある掲示板で、用心棒はそこから気に入った依頼票を取って受付に渡し、必要な情報を聞き取ったうえで納得すれば受諾の手続きをする。

 彼女は、掲示されている依頼票に気に入ったものがないのか、


「ふ~ん、人探し、畑の監視、護衛、護衛、届け物……か……。なんかパッとしたものがないわね」


 と、春のそよ風のような心地よい声でつぶやいている。


 彼女は、掲示板から離れると、今度はカウンターにやって来て、座っている職員に訊いた。


「こんにちは。この辺で魔物退治なんか依頼で出ていないかしら?」


 話しかけられた職員は、パラパラと台帳をめくっていたが、


「いや、この辺は軍団レギオンの通り道でもあるからねぇ。残念だが今のところ入っていないな」


 そう答えると、女性を上目遣いに見て訊いた。


「ところで、あんたひょっとしてホルン・ファランドールかい?」


 するとその女性は、花のような笑顔で答えた。


「ええ、そうよ。何か依頼があったら指名していただいて結構よ。また来るわね」


 そして、ホルンはさっと踵を返すと会館から出て行った。


 会館の職員は、彼女が消えたドアを見つめていたが、


「あれが3か月前、カンダハールに巣食ったグリズリ100頭を一人で討伐したホルンか。『無双の女槍遣い』とはよく言ったものだな。ここに来る用心棒たちとはどこかが違っていた」


 そうつぶやいて首を振った。



 ホルンは交易会館から出ると、とりあえずメインストリート沿いに村の中央へと歩き始めた。日は西に傾き始めている。この村に数日留まるにしても、一泊するにしても、まずは宿を探さなくてはならなかったからだ。

 そこに、


「あの、すいません」


 と、気の弱そうな男性がホルンに声をかけて来た。


「何かご用かしら?」


 ホルンはサッと振り向くと、半歩男から離れてそう訊く。顔は笑っているが、翠色の瞳は男の全体像をとらえ、少しでも怪しいそぶりがないかを鋭く観察していた。


 男はそんなホルンの様子には何も気づかず、要件を切り出した。


「あ、貴女はホルン・ファランドールさんですよね? わ、私はこの村で商売を営んでいる者です。ダインの町まで護衛を頼みたいのですが」


 男は非常におどおどしている、あるいは焦っているように見える。見たところ歳は30代のようだ。ホルンは首をかしげると男に訊いた。


「いくつか質問していいかしら?」


「え? あ、はい。どうぞ」


 男がびっくりした様子で答えると、ホルンは


「まずはあなたの名前とお歳、どんな商売をしているかを聞かせてくれないかしら?」


 そう言ってニッコリと笑う。男はホルンの笑顔につられて笑うと、


「あ、すいません。私はシモン・ガジュマルといいまして、今年35歳です。皮革を扱っています。ダインの町にお得意さんがいて、ちょっと多めの注文を受けたのです」


 そう答えた。


 ホルンはうなずくと、


「そう。じゃ、次の質問。何をどれくらい、どうやって運ぶつもりかっていうことと、いつ出発していつまで私を雇いたいかを聞きたいわね」


 そう訊いた。


 男は困った様子で、


「そんなことまでお話ししなきゃいけないんですか?」


 というが、ホルンは冷たく言い放つ。


「交易会館で依頼すると、最低限訊かれることよ。答えられないなら答えなくていいけれど、その代わり私はこの話を聞かなかったことにするわ」


 すると男は案外あっさりと答えた。


「牛の革を100枚、馬車で運びます。出発は明後日の8点(正午)で、行程は5日の予定です。途中4泊です」


 ホルンは頭の中で素早く計算した。ここからダインの町まで70マイル(この世界で約130キロ)、行程5日なら一日14マイル(25キロ)だ。牛革100枚を運ぶとなると馬車は四頭立てだろう。途中の道は山がちだが、四頭立てなら日に14マイルは妥当といえる。


「最後の質問よ。報酬はいくらかしら?」


 ホルンが訊くと、シモンは答えた。


「一日半デナリです。宿代と食事代はこちら持ちです」


 するとホルンは、ため息と共に訊いた。


「……はあ、あなた、用心棒を頼むのは初めてね?」


「えっ!? ええ、親父が亡くなって初めての大商いなんで」


「なぜ交易会館で募集をかけず、私に直接依頼したのかしら? 仲介料を惜しんだの?」


 ホルンが腕を組んで訊くと、シモンは汗を拭きながら答えた。図星らしい。


「えっと、依頼登録料半デナリと交渉成立料1デナリ半は高すぎると思いまして……」


「だから報酬の相場や用心棒の決まり事も知らないのね」


 用心棒は、原則として交易会館の依頼票でしか依頼を受けられない。特例として認められているのは、指名依頼を受けた用心棒から仕事を譲られる場合や、指名された用心棒が引退したり亡くなっていたりする場合である。その場合でも指名された用心棒の紹介状や交易会館の指名が必要になる。


 この制度は、用心棒側にとっても有益だった。なぜなら、直に受けた依頼が不法なものだった場合、用心棒が全責任を取らされるが、依頼票を介して受けた運搬物が例えば武器や麻薬などの違法なものだった場合、その依頼を受け付けた交易会館側の審査不十分として用心棒は免責になるからである。


「もちろん、町長や『お偉いさん』からの依頼を直接受けることもあるし、融通を利かせる場合もあるけれど、その場合ほとんどが用心棒側の『言い値』になるわよ?」


 ホルンが言うと、シモンは青い顔で訊いた。


「あなたを雇うとすると、どのくらいになるでしょうか?」


 ホルンはニコリと笑って答えた。


「難易度にもよるけれど、私は魔物退治を専門にしているから、基本一日2デナリってところね。途中で山賊とかに襲われた場合、追加料金がかかるわ。それで荷物が奪われたら、残りの半金は受け取らないけれどね」


 顔色を無くしているシモンに、ホルンは優しく諭すように言った。


「大事な所でお金を惜しんじゃいけないわ。大きな商売ならなおさらよ。交易会館で申し込めば、私でいいなら手数料2デナリを払えば追加料金無しの一日2デナリで雇えるわ。もっと安い用心棒と成約できる場合もあるから、手間とお金は惜しまないことね」



 シモンと別れたホルンは、宿探しを再開した。そんなに大きな村でもないので、宿はすぐに見つかる。宿といっても木賃宿で、食事は出ないが料金は安かった。


「さて、少し腹ごしらえでもするかな」


 ホルンは、ギシギシいう階段を登って2階にある指定された部屋に入ると、槍と図嚢をベッドに降ろしてつぶやく。そして図嚢から堅いパンとチーズを取り出し、直垂に仕込んだペティナイフでそれを二つに切る。

 それぞれの半分ずつを紙にくるんで図嚢にしまうと、ホルンはパンにかぶりついた。


「これからどうしようかな」


 ホルンはパンをかじりながらつぶやく。独り言は長い旅の間に自然に身についてしまった習慣だ。彼女はもう10年もの間、己の才覚だけを頼りに辺境を槍一筋で生き抜いてきたのだった。


(デューン・ファランドール様は最後の旅でサマルカンドを目指されていた。サマルカンドに行けば何か私の運命が変わるかもしれない)


 そう思ったホルンは、口に出して言った。


「そうね、サマルカンドに行ってみようかしら。途中、寄り道しながらでも」


 そしてパンを食べ終えたホルンは、ベッドに荷物を置き、布団をかけて自分の『身代わり』を作ったうえで、自分は槍を抱きながらドア側の壁に寄りかかり、マントにくるまった。


 『ベッドで寝ないこと』……これも10年に及ぶ無頼の暮らしで身についたことである。襲われやすく、襲われたときとっさの対応が困難だからであった。


「デューン・ファランドール様……」


 ホルンはそうつぶやきながら、浅い眠りに落ちた。


   ★ ★ ★ ★ ★


「デューン様、私はどうしたらいいんですか? 答えてください、デューン様っ!」


 ホルンは、朱に染まった男の身体を揺すぶりながら、狂ったように叫び続けた。

 けれど、男はついに目覚めず、ホルンは男の死を受け入れ茫然として辺りを見回した。


 深い森の中、夜も更けている。湿った空気が辺りによどみ、鳥や虫の声すら今はしなくなっていた。


「死んで……しまわれた……。アマルも、デューン様も」


 ホルンがぽつりとつぶやく。その翠色の瞳がみるみる潤み、その水滴は頬を伝ってとめどもなく流れ落ちた。


 思えば、5年前、10歳の時にダマ・シスカス郊外の家を捨て、デューンとアマルと三人で旅に出たことが昨日のことのように思われた。幼いホルンは、旅には必ず終わりがあり、新しい土地には三人の幸せな暮らしが待っていると信じて疑わなかった。


 けれど、母とも慕っていた優しいアマルが死んだ。そのことは、ホルンにこの旅の行く手に暗いものが待っていることを嫌でも感じさせた。


 だからホルンは、デューンに槍と剣を習った。デューンもうすうす自分の運命を感じていたのだろう、その指導の厳しさは女の子に対するそれではなかった。


 しかしホルンには天性の才能ともいえる『危機への予感』があり、天賦ともいえる戦闘センスがあった。13歳の頃にはカルロス・ニンフエールと名乗るデューンと共に、ホルン・ニンフエールの名で用心棒稼業を始めたのだ。


 ホルンは、ひとしきり泣いた後、デューンとその好敵手であった追手のシュール・エメリアルを戦士の作法通り地中深く埋め、長い間その前で黙とうをささげた。


「……デューン様、私を見守っていてください。私は強く生きていきます」


 ホルンは最後にそう言うと、『アルベドの剣』を腰に佩き、デューンの遺品となった『死の槍』を片手に森を歩き出した。ホルン・ファランドール15歳の春だった。



 最初ホルンは、アクアロイドの町として知られるシェリルを目指した。そこはデューンが生前、自分を預けると言っていた場所だからである。


(私を預けるとおっしゃったということは、シェリルにはデューン様が生前昵懇にされていた方がおられるに違いない)


 ホルンはそう考えたが、すぐに問題になったのは金である。旅を続けるには金が要る。そしてシェリルまでは武で鍛えたホルンの足でも半月はかかる。


(まずは、お金を稼がなきゃ)


 ホルンはそう考えたが、自分ができることといえば剣や槍しかない。ホルンはとりあえず用心棒稼業で食べて行くことを心に決めた。『ホルン・ニンフエール』の名はそれなりに知られているはずだった。


 ホルンは、シェリルまで海沿いの道を進むことにした。途中には比較的大きなグワダルという町があったからである。


 グワダルに着くと、ホルンは何をさておいても交易会館を訪ねた。ここまでの5日間で彼女の路銀は底をついていた。


 交易会館には、数人の用心棒たちがいた。みんな男性で、それなりに経験を積んでいるようである。

 男たちは浅葱あさぎ色ワンピースの下に同色のズボンを穿き、古びた革鎧とブーツというみすぼらしい格好の、けれどハッとするほど美貌が際立つホルンが入ってくると、物珍しそうに彼女に視線を向けた。


「どうしたお嬢ちゃん、男を取るには場所と時間が違うぜ。夜に酒場に行かねえとな」


 男たちの中でとりわけ酷薄そうな、髭面で右頬に刀傷がある中年の人物がホルンに声をかけると、そこにいた男たちはみな笑い出した。


 ホルンは言葉の意味は分からなかったが、そのニュアンスに身体が反応し、カッと顔を赤くする。

 けれど彼女はすぐに気を落ち着けると、その言葉を無視するように掲示板へと近寄った。掲示板には数枚の依頼票が張られていた。


(ふーん、店の警護、荷物の運搬、商人の護衛、か……あれ? 魔物退治の依頼があるわね)


 その依頼票は町長からの緊急クエストとして出されたものであった。依頼されてから半月ほど経っているがまだここに残っているということは、誰も引き受けていないか、引き受けた用心棒たちが皆失敗していることを意味する。


 ホルンが意を決してその依頼票に手を伸ばした時、先ほどの男が因縁をつけて来た。


「おい、お嬢ちゃん、誰に断ってこの界隈で用心棒稼業をしているんだい? 俺はまだお嬢ちゃんから挨拶を受けていないぞ」


「……私は父と共に用心棒を始めました。ちゃんと用心棒の名簿には登録されています」


 ホルンはそう答えると、魔物退治の依頼票を取り外した。その時、


めんなこんガキ!」

 ドカッ!


 男は長剣を抜いて、ホルンが外した依頼票を掲示板に縫い留めて言った。その目は薄気味悪いほどに血走っていた。


「おい、ふざけたガキ、この『死神のエゼルレッド』を舐めんじゃねぇぜ? 俺に挨拶しねぇうちは、この界隈での仕事は受けさせねぇからな!」


 ホルンは、翠色の瞳を持つ目を細めて、辺りを見回す。他の用心棒たちは男を恐れて訊かぬふりをしているし、会館の職員まで困ったような顔でこちらを見ていた。


「……それは失礼しました。私はホルン・ニンフエール、15歳です。父のカルロス・ニンフエールとともに用心棒を始めて2年になります……これでいいでしょうか?」


 ホルンが落ち着いた声で言うと、エゼルレッドはかえって激高した。


「お前はバカか!? 挨拶ってのはな、金を払うか、金がなければ男は俺に忠誠を誓い、女なら身体で支払うってことだ。俺をバカにするのもたいがいにしろ!」


 ホルンの堪忍袋の緒は、この言葉で切れた。彼女は冷たい目でエゼルレッドを見つめると、


「その言葉、聞き捨てなりません。そもそも用心棒は誰にも従属せず、皆が対等の立場で契約によって任務を遂行する仕事です。それに、私をバカにしたのも許せません!」


 そう言うと、彼女の身体は緑青色の『魔力の揺らぎ』に覆われた。もっとも、ただの人間にはそれは見えなかったが、それでもホルンの気迫にただならぬものを感じ取れる人物もいたことであろう。


 残念なことに、エゼルレッドは『魔力の揺らぎ』を見る魔力も、ホルンの秘めた力を見抜くほどの目も持ち合わせていなかったらしい、彼は肩をゆすって笑うと、


「はっはっはっ、こりゃ面白い。お嬢ちゃんが俺と勝負するだと? おい、そこの若造、俺と嬢ちゃんの勝負の立会人をしてくれ。後から俺が罪に問われないように、これは尋常な決闘だってことを証言してもらわなきゃいけねぇからな」


 そう、会館の職員を指さして言うと、


「外に出ろ、小娘。今謝れば許してやらんこともないぞ?」


 そうホルンを脅すように言う。ホルンは顔色一つ変えずにうなずくと、


「外ですね? いいでしょう」


 そう言うと、自分から先に立って会館を出た。



 時ならぬ勝負に、グワダルの町はどよめいた。


「決闘だってよ」

「エゼルレッドがまたやらかすらしいぜ」

「相手の女の子は誰だい? 不憫だな」


 やじ馬たちはそう騒ぎながら、ホルンとエゼルレッドを遠巻きにして見守っている。身長が180センチを超え、歴戦の戦士然としているエゼルレッドに比べ、身長150センチほどの小柄なホルンは、余りにも非力ではかなく見えた。


 お互いが名乗った後、エゼルレッドは、


「……最後に訊くが、今なら許してやらんでもないぜ?」


 そう訊いてきたが、ホルンは澄ました顔で答えた。


「私もよ」


 それを聞いて、怒り心頭に発したエゼルレッドは、


「小娘、傷をつけないように手加減してやろうと思ったが、もう許せねえ! 腕の2・3本も貰うから覚悟しろよ!」


 そう言うと、長剣を抜き放った。ホルンは『死の槍』を構えると、ニコリと笑って言った。


「腕は3本もないわよ? 始めましょうか」


 観戦していたみんなは、何が起こったか理解できなかった。エゼルレッドが長剣を抜き、それに槍を構えたホルンが何か答えた……そこまでは誰もが理解していた。


 次に皆が見た光景は、両腕を肘から斬り飛ばされ、地面でのたうち回るエゼルレッドと、それに見向きもしないで槍を鞘に納めるホルンだった。


 ホルンは、悲鳴を上げるエゼルレッドを一瞥すると、


「すまないけれど、あの人をお医者に診せてあげてくれないかしら? それと、仕事の手続きをお願いするわ」


 そう、立会人である交易会館の職員に言った。


 ホルンは、この事件を境に名乗りを『ホルン・ファランドール』に替えた。あくまでエゼルレッドを懲らしめた人物はホルン・ニンフエールであり、ホルン・ファランドールとなった自分はそれとは無関係だと言い逃れる考えがあったのと、


(同じ名が知られるのなら、武名高かったデューン様の名を残したい)


 そう思ったからだ。

 もちろん、町長の依頼であったゴブリン退治のクエストをホルンが完遂したのは言うまでもない。


   ★ ★ ★ ★ ★


 一旦はシェリルを目指し東に進んだホルンだったが、グワダルの町での出来事が彼女の運命を狂わせた。

 何事もなくシェリルに行っていればリアンノンたちに迎え入れられ、その庇護のもとにトルクスタン候サーム・ジュエルの待つサマルカンドに送られ、自らの出自や運命を早くに知っていただろう。


 けれど、後にホルン自らが語ったように、旅の中で培った知識や経験がない彼女が、どんな仲間と出会い、どう心を通わせ、そして『終末預言戦争』をどう生き抜いて行けたかは分からない。


 今思うと、その時の蹉跌はホルンの軌跡を大きく迂回させることにはなったが、彼女を成長させるとともにザッハーク側の油断を誘うことにもなった。女神ホルンは敢えて自らの半身にそうした試練を与えたのかもしれない。


「ホルンさん、あんたはこの州を出て行った方がいいよ」


 町長に乞われてしばらくグワダルに留まることにしたホルンだったが、それから1週間もしないうちに彼女は交易会館の職員からそう耳打ちされた。


「どういうこと?」


 ホルンがそう聞くと、会館の職員はおおよそ次のようなことを彼女に告げた。


 ホルンが懲らしめたエゼルレッドは、町の鼻つまみ者だったことは確かだが、その叔父に州知事の側近がいて、エゼルレッドはホルンに意趣返しするためにその叔父に泣きついたらしい。


 叔父も甥可愛さに、事実をろくに調べもせず州知事に


『ホルン・ニンフエールという乱暴者の女傑が管内にいるそうです。山賊の頭をしているとのことで用心棒たるわが甥も手傷を負わされています。追捕する許可を』


 そう申請し、州知事は州知事でそれを確認することもなく第4軍管区司令官に命令を下したとのことだった。


「あれはお互い意趣を残さぬ尋常の立ち合いだったって、町長も裁決したじゃない」


 ホルンが言うと、職員は顔をしかめて


「それが、町長もその裁決書を盾にあんたの身柄引き渡しを拒んだそうだが、州知事命令が優先されるとの国のお達しがあったそうなんだ。あんたがカラチに連れていかれると否応なく処罰されるだろうから、先にこのことをあんたに知らせて逃亡させろって町から指示が来たんだ。

 悪いことは言わん、今からすぐこの州を出て行った方がいい」


 そう親身になって言った。

 ホルンは、釈然としないながらも、職員の親切を無にしてはいけないと考え直し、


「分かったわ、忠告してくれてありがとう。けれど私がいなくなったら、みんなに迷惑掛からない?」


 そう聞くと、職員は笑って答えた。


「なあに、書類の操作は俺たちの得意技だ。手配書は『ホルン・ニンフエール』の名で来るそうだから、あんたが関係したものはすべて『ホルン・ファランドール』名にしておくさ」


 それを聞いてホルンは、その足でグワダルを後にして西に向かった。シェリルは第4軍管区内にあるので、もうそこを目指すことはできない。こうなったら独立国の体裁でもあるトルクスタン侯国に直接向かおうと思ったのだ。


「サマルカンドは私たちの最後の旅の終着点だった町。どうせならそこに向かうのもいいわね」


 ホルンは、峠の上から遠く霞むグワダルを見つめてつぶやくと、さっさと峠を下って行った。



 5日ほど後、ホルンは第3軍管区にあるアイランシャールの町に姿を現した。そして例によって最初に交易会館に顔を出すと、そこの掲示板に『ホルン・ニンフエール』の指名手配書を見かけてびっくりする。


(なになに、この女は盗賊団の団長……ですって? 金髪碧眼で槍を得意とする。捕えた者には生死を問わず50デナリを褒美として遣わす……か。私も安く見られたものね)


 ともあれホルンは少し安心した。この手配書には人相書きもなく、身長なども書いていない。『金髪碧眼』などの間違いは係の役人間の連絡がなっていない証拠だし、何より報奨金の額がそこらのコソ泥程度なのが逆に幸いした。


(この金額じゃ、私を血眼になって探す……ってことにはならなさそうね。でも用心のためにもっと西に行った方がいいかも)


 ホルンはそう考えて、懐にまだ余裕があったのを幸いに、この町では仕事をせずにそのまま西へと向かった。


 ただ、残念だったことは、この布告を知ったリアンノンが、約束の期日に現れなかったデューンとホルンのことを案じ、


「デューン殿は以前カルロス・ニンフエール名で用心棒をされていたと聞いたことがあります。ホルン・ニンフエールの年恰好はデューン殿から聞かされていた姫と似ています。この少女が姫かもしれません。動向を調べてきなさい」


 と、ミントをグワダルに遣わしていろいろ調べさせたが、当のグワダルの町では『ホルン・ニンフエールなどという女は来ていない』の一点張りで、ついに何の成果もなくシェリルに引き返さざるを得なかったことである。

 この後、手掛かりを失ったリアンノンは、デューンと姫の行方を案じつつ、ガイからホルンの話を聞くまでの間、手をこまねいているだけの状態となる。


   ★ ★ ★ ★ ★


 それから3年、ホルンは主に国の西側で用心棒としての日々を送った。


 もちろん、その間には若さゆえの失敗や経験不足による失態がいくつもあった。

 寝込みを襲われて剣と槍を除く装備や所持金すべてを失ったこともあったし、水浴びしていたところを狙われて命からがら逃げ出したこともあった。


 それでも、それらの失敗で命を落とすことがなかったのは、彼女の幸運と同じ失敗を繰り返さない彼女の努力ゆえだったろう。


 18歳の春、ホルンはジョージア伯領のゴリという町にいた。ジョージア伯領はファールス王国の藩屏国の一つで、王国の北辺に位置する。ここから山脈を一つ越えれば、ウラル帝国との緩衝地帯であるステップ地帯が広がっている。


 ジョージア伯領でも、ホルン・ファランドールの名は少しずつ高くなってきていた。昨年の秋から、彼女はこの国を根城とする大盗賊団の討伐戦に数人の仲間と共に参加していたのだ。


 ホルンがパーティーを組むのは珍しい。たいてい彼女は一人で魔物討伐などの難易度が高い仕事を請け負っていた。集団行動を取ったことがあるのは、数人で行う護衛を気が向いた時に請け負った数回である。


 ジョージア伯はその盗賊団に何度も煮え湯を飲まされていたため、破格の報酬で腕利きの用心棒たちを集め、一気に盗賊たちを討伐しようと企んだようだった。


 その報酬目当てに、以前一緒に仕事をしたことがある用心棒たちがホルンを誘いに来た。

 ホルンはその頃、王国の『北の動脈』と呼ばれるアッシリア街道沿いのダブリーズという大都市を根拠地としていた。ここなら仕事にあぶれる可能性が限りなく低いからだ。


「よお、()()()()。近ごろどうだい?」


 ホルンがいつものように交易会館で掲示板を見ていると、1・2度、護衛の仕事を共にした若い用心棒が声をかけて来た。金髪をうざったく伸ばし、長めの皮のコートを着て、肩には長弓をかけている。


「あら、サベージじゃない。このところさっぱりね。やっぱりここら辺は冬になると街道が雪に閉ざされるからかしら」


 ホルンは、このサベージという男が少し苦手だった。25という歳の割にはチャラくて、ホルンに色目を使ってきたこともあったからだ。

 けれど、ホルンがあからさまに嫌悪感を示すと、それからはそんなことはしなくなったし、剣などはからきしダメだったが弓の腕は確かで物事の裏や状況を読むことも得意だったため、用心棒としては頼れる相手だと評価してもいた。


「そうか、そりゃお互い様だな。ところでちょっと耳寄りな話があるんだ。一枚加わってくれないか?」


 ホルンは、また護衛の話か何かだと思い、静かに断った。


「残念だけれど、私はソロで仕事するのが好きなの。前回は護衛対象が塩を運ぶキャラバンだって言うから参加したけれど、もうこれっきりってあの時言ったでしょ?」


 するとサベージは、ニコニコしながら言った。


「いや、今度は盗賊団の討滅だ。ホルン姫にぴったりの仕事だと思わないかい? 他にはハヴォックやエミちゃんにも声をかけているが」


 それを聞いて、ホルンの気が変わった。どうせ今から来年の雪解けまでは拠点としている宿に閉じ籠らざるを得ない。のんびりするのもいいが、盗賊団の討伐というなら、たまには集団行動をしてもいいかなと思ったのだ。


「分かったわ。それなら話を聞いてみる」



 それから一月後、ホルンたち4人はジョージア伯の居城があるテビリシの町にいた。もう雪がちらつく季節になっていた。


 テビリシには報酬目当ての用心棒たちが詰めかけていた。先にここに来ていたパーティーの話では、ジョージア伯領で治安維持を受け持っている補佐官たちが手分けして用心棒たちのグループの実力を審査し、『不合格』『拠点防御』『地域巡回』『討伐隊』へと振り分けているらしい。


「不合格になったら目も当てられないが、地域巡回担当以上になれば報酬額が違うぜ」


 そう言う話を聞いたサベージは、


「まあ、ウチには姫がいるからな。当然討伐隊参加だろうさ」


 と笑っていた。


 サベージの言葉どおり、ホルンたちは討伐隊への参加を言い渡された。

 検査官は最も若いホルンが18歳、年長のサベージですら25歳というこのパーティーを見て、最初は懐疑的な目を向けていたが、サベージが100ヤード先の直径15センチの的に24本の矢を皆中させる手練れの早業を見せると態度が一変し、真面目に審査し始めた。


 24歳のハヴォックは大剣を自在に使いこなし、あるいは矢を盾として受け、あるいは敵兵に擬した人形を一撃で薙ぎ払い、そして固い城門の扉すら粉砕して見せた。


 21歳のエミリアも華麗なレイピア捌きを見せ、周囲から一斉に放たれた矢を一本残らず切り落としてみせたり、不規則に並べられた人形の首を疾走しながらすべて斬り落としてみせたりした。


 そしてホルンは、検査官の眼前で鋼鉄の鎧を両断し、青銅の楯を突き通してみせた。全員、文句なく合格だった。


 そんなホルンたちの初出撃は、盗賊団の前進基地ともいえる鹿砦の攻略だった。その鹿砦には50人ほどの盗賊が詰めていて、弓もあれば弩もあり、立地も険峻な尾根筋とあってなかなかの苦戦が予想された。対するジョージア伯側は武装警官20人と用心棒6パーティー30人であった。


 戦いは、ジョージア伯配下の武装警官の指揮のもと行われた。

 指揮官は、総勢を二手に分け、尾根の東西から挟み撃ちする形での強襲を主張した。

 それに対して戦い慣れた用心棒たち、とりわけサベージはその方針に反対し、


「敵と同数の味方を二手に分けるなんて、各個撃破してくれと言っているようなものだ。それに足場が悪い尾根の上で、遠く離れて戦ったら互いが援護できなくなる。拠点を潰すのなら東西どちらかに力点を入れて火攻めすればいい」


 そう、強く主張した。

 けれど、指揮官は自説に固執し、ホルンたちのパーティーを外してまで攻撃をかけ、その結果警官の戦死5人、用心棒は全滅という大敗北を喫した。


「……サベージ、言いにくいけれど、今回の仕事、降りたらどうかしら?」


 敗北の報を聞いたホルンは、面白くなさそうな顔をしているサベージに言う。その言葉に、エミリアもうなずいた。


「そうだね。サベージの言うことを聞かずに敗北したのはいい気味だけど、問題は警官が5人しか死んでないのに、用心棒は26人全滅ってところだよ。奴ら、あたしたちを()()()()()()って考えている。こんな所にいたら、命がいくつあっても足りないよ」


 けれど、サベージは首を振って答えた。


「二人の言うことは分かるよ。けれど、死んだ26人の中にボクの友だちがいた。お互いにこの道を志したころ、ハヴォックと共に3年ほどパーティーを組んでいたヤツだ。ヤツの仇を取ったら、こんな所からはすぐに出て行くよ。君たちが出て行きたいというなら止めはしないが、ボクとハヴォックはここに残る」


「……そうだな、ルビーの仇を取ったら出て行くよ」


 ハヴォックも自慢の大剣を手入れしながら言う。ホルンとエミリアは困ったように顔を見合わせると、エミリアが言った。


「仕方ないね、それならあたしたちも残るよ。ホルン姫、それでいいよね?」


「私は異存ないわ」


 ホルンもうなずいた。



 サベージが言う『敵討ち』ができる機会は、すぐに訪れた。前回の軍議で特に目立ったためか、武装警察の『お偉いさん』がサベージたちを名指しで出撃要請をしてきたのだ。

 しかしサベージはその内容を見て激怒した。同時に出撃するのは警官隊がわずかに20人だったからだ。


「お前たちのお偉いさんは何を考えているんだ!? 前回と警官隊は同数、用心棒は俺たちだけだなんて。敵は数をたのんで出撃して来るぞ。その時あんたらが50人の敵を受け止められるか? 警官隊は少なくとも50人出せ! 一人も戦わなくていいから50人出せ! そしたらこの仕事、受けてやる」


 サベージは使いの警官に叩きつけるように言うと、その警官はすごすごと引き返して行った。


 次の日、またその警官がやって来て、警官隊から50人が出撃すると言ってきた。それを聞いてサベージはうなずくと、


「分かった。そちらがそのように手配してくれたんなら、この仕事引き受けるぜ。警官隊の隊長さんには、西側から近づいて敵の弩が届くギリギリのところで陣を張ってくれと頼んでくれ。それから先は俺たちがやる。下手なことは何もしなくていいと伝えてくれ」



「警官隊はどうしている?」


 サベージがそう小声で訊く。ここは尾根の上で、ホルンたちは敵の鹿砦の東側に出ていた。雪が降り止んだため辺りはしんとして、ちょっとでも大声を出したら敵に届きそうな気がしていたのだ。


「ちゃんと西側で陣を敷いているよ。かがり火も焚いているから、敵は西側に注意を向けていると思うよ」


 エミリアも小声でしゃべる。サベージはうなずくと、


「よし、敵の弩と弓はボクに任せろ。ハヴォックが敵の扉をぶち破る。エミちゃんと姫はそれを援護してくれ。ドアを開いたらハヴォックと姫は西側のドアをお利口さんにしていた警官たちのために開いてやってくれ。ボクはエミちゃんと共に敵将を探す」


 そう言うと、弓弦を張りながら小声で命令を下した。


「では、行ってくれ。君たちが取りついたら、ボクは射撃を始める」


 ホルンとエミリア、そしてハヴォックは隠密に敵の鹿砦へと近づき始めた。


(できれば、壁下に取りつくまで見つからないでほしいものだわね)


 ホルンはそう考えながら、静かに雪をかき分けて進む。尾根は狭く、三人が並んで進むには少し両端が心もとない。下手をしたら足を滑らせて崖下に真っ逆さまだ。


 自然と、ハヴォックが右側をラッセルしながら進み、その後ろにエミリアが続き、ホルンはやや左側を進むことになった。


 月は雲に隠れている。鹿砦まであと50ヤードほどだ。これは奇襲ができるな……ハヴォックがそう考えた時、


 ガランガランっ!


 大きな音が尾根に鳴り響く。敵のトラップに引っ掛かったのだ。月が隠れたために見えなくなっていたものだった。


「敵が来るぞ!」


 鹿砦でそう言う声がして、こちら側にも松明が増えて来た。奇襲は失敗である。しかも、意地悪なことに、このタイミングで雲が晴れた。月が明るく雪を照らし、近づく3人を浮かび上がらせる。


「敵は少数だ、弓で射て取れ!」


 鹿砦で隊長らしき男が叫ぶと、シュンッ、シュンッという弦鳴りが響き、たちまち矢が襲ってきた。


「三人とも、散開しろっ!」

 ビュンッ!


 サベージはトラップの音が響くと同時に、矢を放ち始めていた。次々と矢を放ち、それは次々と敵に命中するが、多勢に無勢である。彼自身も矢に狙われ始めると、位置を頻繁に変更する必要がある。


「くそっ、エミリア、ホルン、死ぬなよっ!」


 ハヴォックは大剣を盾にして矢を弾いている。エミリアもレイピアを抜いて矢を斬り落とし始めた。

 けれど二人とも雪の中である。なかなか動きが取りづらい、このままでは全滅するかも……ホルンはそう考えると、『死の槍』を握って立ち上がった。その身体からは緑青色の『魔力の揺らぎ』が噴き出ている。


「おい、ホルンッ、死ぬ気かっ? 下がれっ!」


 突然のホルンの行動に驚いたサベージが叫ぶ。しかしホルンは『死の槍』を構え、ゆっくりと呪文を唱え始めた。雨あられと降る矢は、ホルンの『魔力の揺らぎ』に阻まれて一筋たりともその身体には届かなかった。


「わが友たる風よ、その力を我に貸し、無辜の人々を苦しめる不逞の輩に『Memento Mori(死を思い出さ)』せよ!」


 呪文が進むとともに、緑青色の『魔力の揺らぎ』が『死の槍』を包み込み、そこにすごい勢いで風が集まり始めた。風圧がホルンの銀色の髪を激しく波打たせている。


 やがて、十分に魔力が集まったと見て取るや、ホルンは『死の槍』を振り上げ、振り下ろした。


 ズドバン!


 ホルンの魔力は緑青色の斬撃波となって雪を吹き飛ばし、鹿砦まで一直線に道を作り上げた。そしてその斬撃波は鹿砦を直撃し、壁を斬り裂き、そこにいた敵を弾き飛ばした。


「行くわよっ!」


 ホルンは『風の翼』に乗り、50ヤードを跳躍して鹿砦の壁に取りつくと、当たるを幸い敵兵をなぎ倒し始める。


「……すげえ、姫は何をやったんだ?」


 一時呆然としていたサベージたちも、ホルンの奮戦を見てハッと我に返り、


「ようし、あの鹿砦はいただくぜ!」


 三人とも猛気を取り戻して敵陣へと突っ込んだ。



 この戦いで、サベージは旧友の仇を取り、ダブリーズへと引き上げていった。


 けれど、ホルンだけはその場に留まった。正確にはジョージア伯が彼女を気に入り、ぜひ家臣に迎えたいときかなかったのだ。


「ホルン姫、ボクがこう言ったら負け惜しみに聞こえるかもしれないが、君の才能はジョージア伯のような人物が使うにはもったいないと思うな。できればボクたちと共に戻ってほしいのだが……」


 サベージが言うと、ホルンはニコリと笑って答えた。


「安心して、私もジョージア伯の器量は大したことはないと思っているから、この国に留まるつもりはさらさらないわ。でも、私があなたたちと一緒にここを出たら、きっとジョージア伯の追手が来ると思うの。そんなことで戦うのはお互い不幸だわ。だからほとぼりが冷めるまで私はここにいることにしたの」


 ホルンの言葉に、エミリアが笑って言う。


「そうだね。あの部下の体たらくを見たら、ジョージア伯もそのくらいのことはやりそうだよね。

 あたしたちは往路のアルメニア経由ではなく、直接ファールス王国のカルス方面へと出るから、1週間ほどしたら帰っておいでよ。また姫と一緒に仕事がしたいからさ」


 結局ホルンはジョージア伯の誘いを断り続けたが、その代わりにしばらくゴリに留まって付近の魔物や盗賊たちの退治に力を尽くしたのである。


   ★ ★ ★ ★ ★


 それからまた3年の時が流れた。21歳になったホルンは、今や押しも押されもせぬ『無双の女槍遣い』として、その名を知られ始めていた。


 相変わらずソロとしての活動が多かったが、サベージやハヴォック、エミリアたちとはその後も交流があり、それぞれとも何度か一緒に仕事もしていた。


 その頃のホルンは、拠点をダブリーズからダマ・シスカスに移していた。

 ここは彼女が物心ついた時から10歳になるまで暮らしていた町である。いつの間にか彼女は戦いながら国の西半分を反時計回りに踏破し、旅の出発点まで戻って来たのだ。11年、デューン・ファランドールを失ってからは6年の長い旅だった。


 ホルンは、昔自分がデューンやアマルたちと暮らしていた家を訪ねた。そのたたずまいは変わらなかったが、今では若い農家の夫婦が子どもと共に暮らしていた。


「あの、何かご用事ですか?」


 ずっと家を眺めていたから不審に思ったのか、人の良さそうな女性が声をかけてくる。


「え? いえ、ここからカタナーはどのくらいかなと思って」


 ホルンが言うと、女性はニコリと笑って、


「そうねぇ、あと10マイル(この世界で約18・5キロ)ってところかしら?」


 そう答える。ホルンも笑い返して、


「それじゃ、今夜はダマ・シスカスに泊まった方が良さそうね。ありがとうございます」


 そう言って南の方に歩き出したが、親子の姿があの頃の自分たちに重なって、切ない気分になったホルンだった。


(私は何故、何のために旅をしているんだろう。いつまでこの仕事を続けるんだろう?)


 不意にホルンの心に、いつも漠然と感じていた疑問が浮かび上がる。


 用心棒は厳しい商売だ。常に危険にさらされ、他人を警戒し、そして知らぬ間に恨みも買う。確かに報酬は大きいが、それには『死の危険』が付きまとう。自分の命の対価として、他人の命や生活を奪う……これでは悪党と何ら変わらない。


(たとえそれが頼まれたもので、依頼者から感謝されたとしても、この仕事しょうばいは長く続けるものじゃないわね)


 ホルンはそう思いながら、ダマ・シスカス郊外に求めた粗末な家に足を向けた。



 ホルンがサベージとエミリアの訪問を受けたのは、ダマ・シスカスに定住し始めて3年目、23歳の時だった。


 ホルンほどの人物でも、人間を倒し続けることに疲れてきていたのかもしれない。ここ2年間、ホルンは仕事を魔物退治と辺境への商人護衛に限り、指名依頼だけを扱っていた。それなら相手は人間でない可能性が高いからだ。


 それでも年に十数件は依頼があり、その報酬は暮らしていくには十分すぎるほどだった。


 サベージとエミリアが、ホルンの家を訪ねてきたのは、ホルンがタドムルという町の依頼で街道に出没するサンドワームの群れを討伐した後のことだった。


「よお、ホルン姫。相変わらず別嬪だな」

「ホルン姫、お久しぶり。元気だった?」


 突然現れた二人は、以前のままの笑顔でホルンに挨拶をする。


「あら、サベージとエミリア。久しぶりね、2年ぶりかしら?」


 ホルンは二人の来訪を驚きながらも、喜んで家に迎え入れた。


「今日は何の用? また何か仕事のお誘い?」


 ホルンが訊くと、サベージは急に疲れたような表情になって、首を振ると言った。


「いや、ボクは用心棒を引退することにしたんだ。交易会館で調べればいずれは判ることだが、姫にはぜひとも直接お知らせしたくてね? 今まで一緒に仕事をしてくれてありがとう。姫がいたからうまくいった仕事も多かったよ」


 そう、寂しく笑うサベージだった。良く見ると彼のトレード・マークだった革の長いコートはあちこちが破れ、擦れている。その傷み方がそのまま、サベージという男の苛烈な戦いの日々を物語っていた。


 サベージに続いて、エミリアも


「あたしも、サベージと結婚して用心棒稼業から足を洗うことにしたよ。今日はその報告にやって来たのさ」


 そう言うと、やつれた頬を少し赤らめた。


 ホルンは、いきなりのことだったので少しの間言葉を探したが、やがてニコリとして二人に言った。


「そう、それはおめでとう。お似合いだわ。あなたたちがいなくなると少し寂しいけれど、誰もがいつかは決断することだから仕方ないわね」


 そして、ふとサベージが一月ほど前に知らせてきたことを思い出した。サベージはアッシリア地方で猛威を振るっている盗賊団討伐への参加を呼び掛けて来たのだ。


 ちょうどその時、ホルンはサンドワームの群れ退治の指名依頼が入っていたので参加を断ったが、二人の決断がそのことと関係がある気がしたホルンは、悪い予感と共に訊いてみた。


「一つ訊いていい? ハヴォックはどうしているの?」


 サベージの答えは、ホルンの予想通りだった。


「奴は、前回のクエストで死んだ……」


 大剣のハヴォックは、盗賊団首領が立て籠もる古城を強襲した時に、流れ矢に当たって命を落とした。首領を討ち取って気が緩んでいたのかもしれない。


 サベージは、がっくりと肩を落として、


「ルビー、ハヴォック、そしてボクの弟のローもいなくなった。みんなボクのいい仲間だった。そして特にハヴォックの死を見て、この商売は長く続けるもんじゃないと悟った。ボクも今年で30だ。潮時だと思ってね?」


 そう言うと、ホルンを見つめて笑った。哀しいような、嬉しいような不思議な笑いだった。


「姫は強い。けれどそんな姫だからこそボクと同じような気持ちを早くから感じていたと思っている。君が魔物討伐と辺境護衛だけに仕事を絞っているのも、指名依頼しか受けないのも、その表れだ、違うかな?」


 ホルンはうなずいた。

 そのうなずきにうなずきで返したサベージは、肩の荷を下ろしたような顔でホルンに言った。


「……そうだと思った。姫に限って仕事で死ぬことはないと思うが、十分注意してくれ。そしていつか、姫が用心棒を引退したら、ボクらの所に訪ねて来てくれ。思い出話でもしようじゃないか」


「あたしたち、あたしの故郷のカンダハールで商売するつもりなんだ。姫が立ち寄ってくれたら、郷土料理で歓迎するよ」


 エミリアもそう言って笑い、二人は少し昔のことを話した後、ホルンの家を出て行った。


 二人がトリスタン侯国へと旅立つのを見送ったホルンは、家の中でぽつりとつぶやいた。


「私は、いつまでこうしているんだろう……」



 それから1年ほど経ったある日、ホルンはダマ・シスカスの交易会館から自分あての指名依頼があると通知され、交易会館に出かけて行った。


「グリズリ退治?」


 ホルンが訊くと、会館の担当職員は依頼票をホルンに手渡しながら手早く説明した。


「はい、三月ほど前からカンダハールの東にある山の中腹にグリズリの群れが住み着いて、旅人を襲っているようです。最初は街道筋だけだったみたいですが、町の警備隊が討伐に失敗してからは町の中まで暴れこんでくるようになっているとのことで、困っているみたいですね」


 ホルンはふと思い出したことを訊いてみた。


「確かカンダハールには、希代の魔女っていわれるゾフィーさんがいたんじゃなかったかしら? 彼女の手には負えないの?」


 会館の職員は、うなずいて答えた。


「こちらも不思議でしたので、カンダハールの交易会館に問い合わせたところ、ゾフィー・マールさんは半年ほど前からお弟子さんと共に旅に出ているらしいのです。彼女がいるのなら、トリスタン侯は彼女に依頼したことでしょうね」


「グリズリはどれくらいいるのかしら?」


「約100頭らしいです。特に図体がでかいヤツが群れのリーダーみたいですね」


 その答えに、ホルンは真剣な顔でうなずいた。


「それは大変ね。私はこの依頼を受諾しますので、手続きをお願いします」



 ホルンは『グリズリ討伐』を受諾した後、その足でトリスタン侯国の首府カンダハールへと旅立った。


 ファールス王国の西の端にあるダマ・シスカスから東の端であるカンダハールまで直線距離で約千4百マイル(この世界で約2千6百キロ)。通常なら半年はかかる道をホルンは『風の翼』を使ってわずか3週間足らずで踏破した。一日に2百キロ以上を進む超強行軍だった。


 交易会館で到着を告げ、最新の状況を聞き取ったホルンだったが、相変わらずグリズリたちは猛威を振るい、それまでは夜間だけ町に姿を見せていたのが今では夕方から町に出没すると聞いて、


(状況は一刻を争うみたいね)


 そう考えると、到着したのがまだ閏7点(午前10時)だったことを幸いに、そのままグリズリの巣に突入することにした。いつもは綿密に偵察し、周到な準備をしてから攻撃にかかる彼女にしては珍しいことである。


「グリズリは鼻も利くし耳もいい。索敵能力に優れているうえに個体としての戦闘能力も高い。それが100頭もいるのなら、並大抵のやり方では倒せないわね」


 ホルンはそうつぶやくと、山の入口から『魔力の揺らぎ』を発動して自分の気配を消した。魔力を使い続けることはかなりの気力と体力を要求するが、10歳の時からデューン・ファランドールの厳しい指導を受けていたホルンにとっては、そう困難なことではなかった。


 ホルンは、最初の話を聞いた時から、このグリズリたちは統制が取れた行動をしていると考えていた。旅人を襲うものと町を襲撃するもの、少なくとも二つのグループに分かれ、片方が活動している時にはもう片方は巣にいて身体を休めていると思われた。


「……思ったとおりね」


 ホルンは、山からグリズリが5頭ほどのグループで下りてくるのを見てそうつぶやく。あのようなグループが10もあるのなら、いかに護衛がついても無傷で撃退するのは困難だろう。


「速戦即決。グループ間での援護をさせないためには、それしかない」


 ホルンはそう言うと、『魔力の揺らぎ』を沸き立たせながら『風の翼』に乗り、第一グループのど真ん中に躍り込んだ。


「やあっ!」

 ぶうんっ!


 ホルンが『死の槍』を振り回すと、その『魔力の揺らぎ』による圧力もあり、5頭のグリズリは一撃で胴体を叩き斬られて地面に転がった。恐ろしいことには、上半身と下半身が離れ離れになっても、幾頭かのグリズリは牙をむいてホルンに襲い掛かろうとしたことだ。


 けれど、ホルンはそんなグリズリには見向きもせずに、次のグループに躍りかかり、また一撃で5頭を叩き斬る。

 その時には、異変を感知したグリズリたちは残りのグループで連携を取ってホルンに立ち向かってきた。


「はああっ!」

 ドムッ!


「やああっ!」

 ザシュッ!


 ホルンは、緑青色の『魔力の揺らぎ』の尾を引いてあちこちに飛び回りながら、グリズリの鋭い爪と牙の攻撃をかわし、いなしながら『死の槍』を心臓に叩き込み、あるいは頭蓋を叩き割って、次々とグリズリを仕留めて行った。

 そしてホルンが、最後の1頭を仕留めた時、


 グオオオオン!


 中腹から轟くような低い雄たけびが聞こえ、続いて尾根筋を越えて50頭ものグリズリが突進してくるのが見えた。その中央にいる1頭は、体長が5メートルをはるかに超えていた。こいつがこの群れのリーダーだろう。


「全力攻撃ってわけね。受けて立つわ」


 ホルンは、中央のリーダーに突進すると見せかけて、途中で右に進路を変えて右端のグリズリに躍りかかった。こういう場合は周りを囲まれるリスクを避けるため、端の方から叩いて行くのがセオリーだ。


 けれど、グリズリたちはホルンが予想していたより数段小賢しかった。彼らはリーダーの前面に獲物が来るように、あるいは威嚇し、あるいは攻撃し、あるいは退いていた。その動きは人間でもここまでの連携は取れないと感じたほどだ。


「なかなかやるわね」


 ホルンは、グリズリたちの行動パターンを見抜くと、最初にリーダーを倒すことに決めた。


「やああっ!」

 ガイン!


 ホルンが突き出した槍の石突は、リーダーの右手で外に払われた。ホルンはその力を利用して『死の槍』を旋回させ、『魔力の揺らぎ』が乗った穂先をグリズリの胸元に叩き込んだ。


 ブシュッ!

「ガアッ!」


 しかし、致命傷を受けたはずのグリズリは、左手でホルンの頭を狙って鋭い爪を走らせる。


 ザシュッ!

「ゴオオ!」


 ホルンは、右回りに身体をひねりながら、左手で腰の後ろに佩いた『アルベドの剣』を抜き打ちにした。ホルンの『魔力の揺らぎ』をまとって緑青色に輝く『アルベドの剣』は、見事にグリズリの右腕を切断した。


「これで止めよっ!」

 ガバンッ!


 体勢を立て直したホルンは、思い切り跳び上がってグリズリの頭に『アルベドの剣』を振り下ろす。骨を断ち肉を斬り裂く鈍い音が、深い山中に響いた。


「ゴ……ガ……」


 グリズリは頭から胸元までを真っ二つにされ、地響きを立てて転がった。


「あとは、アンタたちよっ!」


 ホルンは両手に『死の槍』と『アルベドの剣』を構えると、浮足立ったグリズリたちの群れに突っ込んでいった。



 ほぼ一瞬でグリズリの群れを壊滅させたホルンは、カンダハールの英雄になった。

 町長からは特別に謝辞を言われ面はゆい思いをしたホルンだったが、約束の報酬を貰うとそそくさと庁舎を立ち去り、カンダハールの東側に足を向けた。約束どおりサベージとエミリアの店に立ち寄ろうと考えたのだ。


「ここね」


 ホルンは、以前届いたエミリアの手紙に記された住所まで来ると、白く可愛らしい店の前で立ち止まってそう言った。看板を確認すると、たしかにここが二人の店らしい。

 ホルンが一つ深呼吸して、店に入ろうとドアに手を伸ばした時、


「誰だい? そこの店は一月ほど前から誰もいないよ」


 そう、近所にいるらしい女性が声をかけて来た。

 ホルンはびっくりして、その女性に向き直り訊いた。


「私は、ここのサベージさんやエミリアさんが用心棒だった時、一緒に仕事をしたものです。誰もいないってどういうことですか?」


 すると女性は、気の毒そうな顔をして言った。


「サベージさんとエミリアさんは、グリズリ討伐に出てやられてしまったんだ。みんなで止めたけれど、二人とも子どもさんの仇を討つって聞かなかったんだよ」


 それを聞いて、ホルンは頭の中が真っ白になった。


 茫然としているホルンに、女性は優しく言った。


「三人のお墓は、町の西側にあるよ。静かな所だから、きっと三人で仲良くしていると思うよ」



 ホルンは、町の西側にある町の墓地に来ていた。女性の言葉どおりそこは静かで、三人を邪魔するものは何もない感じがした。


「私は、知らず知らずのうちにサベージさんたちの仇を討ったってことね」


 ホルンは、つくづく運命というものが分からなくなった。静かな暮らしを夢見て戦いの人生から離れた二人が戦いに倒れ、そしてこんな形でしかその夢を実現できなかったことに、運命の不条理を感じていた。


「それが運命? 私はそんなこと信じたくない。けれどどう抗っても襲って来る運命なら、受け入れて力の限り生きていくだけだわ」


 ホルンは三人のお墓の前で、そうつぶやきながらいつまでも佇んでいた。


   ★ ★ ★ ★ ★


 朝目覚めて、ホルンはいつもより肩が凝っていることに気付いた。


(あんな夢見たからかな。私もずいぶんと疲れているのかもしれないな……)


 ホルンはそう思いながら顔を洗うと、固いパンとチーズで軽い朝食を取る。十年一日、ホルンの食事は簡単なもので、時には非常識なほど質素だった。


 交易会館に出向いたホルンは、自分あての指名依頼を見つけて微笑んだ。


『牛革100枚の輸送護衛。ダインの町まで5日間の予定。報酬は一日2デナリ(食事と宿泊の費用は依頼者持ち)。ホルン・ファランドール指名/依頼者シモン・ガジュマル』


「ふふ、ちゃんと勉強したようね」


 ホルンは笑ってそう言うと、依頼票を外して会館の職員のもとに歩み寄った。依頼受諾の手続きのためである。


 次の日、依頼者が指定した場所まで歩きながら、ホルンは今までの自分を思い返していた。


(なぜ旅をしているのか、なぜ用心棒を続けているのか、ううん、そもそも私は何者なのかを、まだ私は知らない……サマルカンドに行ってそれを知らねばならない。運命が私をサマルカンドに呼んでいる……そんな気がするわ)


 そう考えながら、ホルンは『死の槍』を背負うと、通りの向こうからやって来た馬車の前で立ち止まった。御者台には御者と、浅黒い顔をした小心そうな商人が座っている。シモンであった。


 ホルンはシモンに笑いかけ、この物語の発端へと続く依頼の受諾を宣言した。


「あなたが依頼主ね? 私はホルン・ファランドール。依頼であるダインの町までの護衛、確かに引き受けるわ」


(サイドストーリー・青春の軌跡 完)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

ホルンは、多感な青春時代を孤独の中で過ごしました。

別れと出会いに、運命の不条理や非情さを感じることも多かったと思います。

そんな彼女は物語の中でも出会いと別れを経験し、晩年はまた孤独の中にひっそりと暮らして亡くなりました。

けれど、青春時代の孤独と、晩年の孤独は少し性質が違うように思います。

次回は、『青き炎のヴァリアント』の完結編として、『悠久の王国』を投稿します。

トゥルーエンド的なものとなりますので、最後までお付き合いください。

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