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青き炎のヴァリアント  作者: シベリウスP
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30 熱砂の回廊

今回は、ホルンたち遊撃軍のお話です。

ジュチたちの活躍をお楽しみください。

【主な登場人物】


 ♡ホルン・ファランドール…『死の槍』と『アルベドの剣』を持ち、辺境で名を上げた女槍遣い。前国王の娘で王国の現状に改革を志す。翠の瞳と銀の髪を持つ。26歳。


 ♧コドラン…シュバルツドラゴンのこどもで、生き別れになった母を探すためにホルンとともに旅をしていた。小さいが気が利く、ホルンの良き仲間である。15歳程度。


 ♤ザール・ジュエル…“東方の藩屏”トルクスタン侯国の世子で『白髪のザール』の異名を持つ。ホルンとともに王国の改革を志す。白髪に緋色の瞳を持つ。23歳。


 ♡リディア・カルディナーレ…ザールの幼馴染でジーク・オーガの王女。接近戦では無双の強さを誇る。額に角を持ち、茶色の髪に茶色の瞳をしている。21歳。


 ♤ジュチ・ボルジギン…ザールの幼馴染で『この世で最も高貴な一族』であるハイエルフの首領の息子。頭脳明晰で魔力に長けるがチャラい。金髪碧眼の美青年。23歳。


 ♡ロザリア・ロンバルディア…ザールに一目ぼれして仲間に加わった魔族の女性。冷静冷血で魔術に長けている。黒髪と黒曜石のような瞳を持つ。21歳。


 ♧ガイ・フォルクス…26年前にスケルトン軍団から国を滅ぼされたアクアロイドの王族。頭脳明晰で冷酷非情だが仇討に協力したホルンに恩義を感じている。29歳。


   ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 ファールス王国の首都は、それまでのイスファハーンから王国西方のダマ・シスカスへと遷っている。これは、現国王であるザッハークが臣下であるティラノスとパラドキシアの意見を容れたためである。

 ザッハークは、帝国西側にいる州知事のうち、近くに敵国を控えた第8・第11軍管区を除く5個軍管区に対しては、麾下の軍団をできるだけ早く編成してダマ・シスカスへと送ることを厳命していた。


「東の方面では、第4軍管区の兵団はマウルヤ王国への抑えで動かせません。第3軍管区の兵団はトリスタン侯国の軍と共にシェリルの町を攻囲中です」


 軍事参与のパラドキシアが、ザッハークに説明している。


「ティムールの軍は第2軍管区の兵団を撃破し、イスファハーンに向けて進撃中ですが、これは第5軍管区と第1軍管区の兵団で食い止められる見込みです。ザールの率いる軍団は『蒼の海』の出口にまで達しましたが、第9軍管区の兵団で食い止める予定です」


 パラドキシアの説明に、ティラノスが疑問を呈する。


「ザールの兵団を砂漠の中で叩けなかったのは残念だ。ザールはネビトダグの町にある『蒼の海』の兵站庫を押さえ、ゴルガーン地峡をも突破している。どこで彼を抑えるつもりだ?」

「第9軍団には、アルボルズ山脈で敵を抑えるように命令しています。あの山脈は3千メートル級の山々が連なる地域。第9軍管区にはまだ2個軍団がいますので、ザールの2万弱の兵では抜くことは出来ますまい」


 パラドキシアはそう言って胸を張る。ティラノスは何か言いたげだったが、ザッハークの言葉を聞いて口を閉じた。


「よい、仮にザールがアルボルズを越えても、イスファハーンにはアイラ達『七つの枝の聖騎士団』の連中が罠をしかけておる。ザールも王女も、イスファハーンもろとも消滅させてくれるわ。それより反乱軍の影響を最低限に抑えるための手立てを早急に進めよ」



 そのイスファハーンでは、『七つの枝の聖騎士団』が、まさかの『色欲のルクリア』敗死を聞いて騒いでいた。


「信じられない。ルクリア姉様がやられるなんて……」


 『強欲のアヴァリティア』が、悲痛な表情をつくる。アヴァリティアは特にルクリアと馬が合い、ルクリアを姉とも慕っていた。


「……思ったより、ホルンの陣営には腕利きが揃っているというワケだね」


 『嫉妬のインヴィディア』が、亜麻色の髪を揺らしながら言う。


「……ルクリアの姐御が出るんなら、アタシの出番はないと思っていたけれど……。面白い、アタシが姐御の仇を取ってやるよ」


 『傲慢のスーペヴィア』がその漆黒の瞳を輝かせて言うが、『嫉妬のインヴィディア』が首を横に振りながら静かに諭す。


「スーペヴィア、私が言ったことが聞こえなかったのかい? ホルンの陣営には思ったよりも腕が立つ奴が揃っている。でなけりゃ、あの凶暴なロートワイバーンたる『色欲のルクリア』姉様が負けるはずがない。自分の力を過信すると、アンタだって消滅させられちまうよ?」

「けれどインヴィディアの姐御、『怠惰のピグリティア・アーケディア』に続いてルクリアの姐御までやられちゃ、団長がどれだけお冠かアタシはひやひやするぜ」


 『傲慢のスーペヴィア』が言うと『嫉妬のインヴィディア』は、入口近くのソファに寝転がって砂糖菓子を食べている少女に訊く。


「グーラ、団長はどこだい?」


 砂糖菓子を頬張っていた『貪食のグーラ』は、少し首をかしげていたが、可愛らしい声で答えた。


「今日は、まだだんちょーさんに会ってないよー」

「団長室にはいないのかい?」


 インヴィディアが訊くと、グーラはすぐに立ちあがり、ドアの近くにあった呼び鈴のひもを引いて、現れた執事に言う。


「セバスちゃん、だんちょーさんがお部屋にいたら、ここに来るよう伝えて」


 執事はカタコトと歯車の音をさせながら団長室へと去った。



 『七つの枝の聖騎士団』の団長、『怒りのアイラ』は、団長室で時ならぬ客と話をしていた。アイラは白髪に翠の眼をしており、身長は140センチ程度だ。灰色のポロシャツに黒のショートパンツ、黒い靴に灰色のニーソが定番の格好だった。そしてその背には、彼女の身長をはるかに超える長剣を負っている。


「……だから、私を『七つの枝の聖騎士団』に戻してほしいのよねぇ」


 身長160センチくらいで赤い髪、琥珀色の瞳を持つ女性が言う。アイラは翠色の瞳を細めて訊く。


「この騎士団を勝手に抜けたのは、どこのどなた様だったっけ? 忘れてしまったのかしら、『嘆きのグリーフ』?」


 『嘆きのグリーフ』は、悪びれた様子もなく言う。


「そうねぇ、そのことについては謝るわ。でも、私も探し物で忙しかったのよぉ」

「あなたはこの騎士団にいた時からずっと『四翼の白竜』を探していたっけね? で、どうだったの?」


 アイラの細めた目の色が、翠から緋色に変わる。グリーフはそんなことに気付かないように言う。


「ふふ、やはり『四翼の白竜』はザールだったわ。凄い力だったわよ? そう、まるであなたみたいにね?」


 アイラは机の上に肘をつき、手であごを支えながら重ねて訊く。


「ホルン……だったっけ? 王女様の方はどうだったかしら?」


 グリーフは黙ったまま、くすくす笑い出した。アイラも微笑みを浮かべながらグリーフを見守っていたが、グリーフがいつまでも笑ったままで何も話さないと見て取るや、背負っていた長剣でグリーフにいきなり斬り付ける。


 ジャリン!


「……『バルムンク』をすぐに抜く癖は治した方がいいわよ?」


 『嘆きのグリーフ』は、『怒りのアイラ』の長剣を『アルベドの剣』で受け止めながら言った。アイラの白い顔にどす黒くタトゥーのような文様が浮かび始める。それを見るとグリーフは微笑とともに言う。


「ホルンの弱点はザールよ。あなたとは反対の理由でね」

「黙れグリーフ、『アルベドの剣』ごと真っ二つにされたいか」


 アイラが『バルムンク』に力を込める。グリーフの頭の上で『アルベドの剣』がキキンと音を立てた。けれどもグリーフはお構いなしに言葉を継ぐ。


「あなた、わざと『色欲のルクリア』をザールに向けたでしょ? ルクリアも薄々それを知っていたから、ザールでなくてジュチにかかったみたいよ? まあ、ジュチという男があれほどの手練れと知っていたら、イチかバチかザールを襲ったでしょうけれど」

「黙れ」


 アイラがさらに力を込めた時、グリーフが


「私はホルンを倒せればいい、あなたがザールを狙うべきよ。そうでしょ? 『止翼の白竜』たるアイラ・リベリオンさん」


 と言うと、アイラは『バルムンク』を背の鞘に戻し、驚愕の表情で言う。


「なぜ、私の名前を?」

「前にもお話ししたわ、私は女神アルベドの娘だって。女神アルベドがいろいろ話してくれたのよ、あなたとザールのことを」


 グリーフは『アルベドの剣』を鞘に戻しながら言う。そしてアイラが再び背の『バルムンク』に手を伸ばしたのを見ると、


「もちろん、誰にも言わないわ。それと、私は不死身よ? 現に私は一度、ホルンから真っ二つにされているの。その意趣返しって意味もあるわね」


 そう言って笑う。アイラは緋色の瞳でグリーフを睨みつけていたが、


「分かったわ。不本意だけれど、『嘆きのグリーフ』、あなたの『七つの枝の聖騎士団』への復帰を認めます」


 そう言うとゆっくりと椅子に座る。グリーフは笑顔で言った。


「そうしてもらえると嬉しいわ。アイラ、あなたの決断を後悔させないわよ? ところでアイラ、ちょうど呼び出しのようだし、みんなに私のことを紹介して?」


 執事がドアをノックしたのは、そのすぐ後だった。


   ★ ★ ★ ★ ★


 さて、『色欲のルクリア』がジュチに倒されたころ、カブランカー地域にまで進出していたガイのアクアロイド部隊は、次の作戦を練っていた。


「ここのアクアロイドたちは小規模なコロニーを作って平和的に暮らしている。仲間として引き入れるのは難しいだろうが、我々の目的を理解してもらって、敵方に廻らないような消極的な協力でも約束してもらえればよい」


 ガイはそう考えて、自らその地域のコロニーを回り、住民たちにホルンの立場や今後の王国の行方について話をした。コロニーの指導者や住民たちは、ガイの真摯な態度や、部隊の規律の良さに感心するとともに、『レスバンジャールの悲劇』の話を覚えている長老たちもいたため、


「私たちのコロニーはガイ殿と協力して王女様の役に立てるほどの人数はいませんが、この地域に王女様の人柄や目的を広めること程度なら、いくらでもご協力いたしましょう」


 と、すべてのコロニーが協力を約束してくれた。

 また、ガイが驚いたことは、この地域で最も脅威となるとガイが恐れていたギガントブリクス族にはすでにジュチが手を回し、好意的中立を手に入れていたことだった。


「ガイ殿、アクアロイド部隊のことはジュチ殿から聞いている。また、『レスバンシャールの悲劇』のことも知っている。何か必要なものがあれば遠慮せず申し出てください」


 ガイは、ギガントブリクス族の首領であるサムソンからそんな申し出を受けて、


「さすがはジュチ殿だ。彼の辞書には『想定外』と言う言葉はないらしい」


 と感嘆するとともに、サムソンの申し出には丁重な謝意を伝えておいた。


「この方面には、まったく後顧の憂いはないな」


 そうつぶやいたガイの鋭い目は、バルカン地峡の西側にあるネビトダグの町を睨んでいた。ここはカラクム砂漠の『蒼の海』側の出入口を扼し、軍需品も集積してある。

 そこまでの距離は、大雑把に海路180マイル(この世界で約330キロ)プラス陸路40マイル(この世界で約70キロ)だった。


「この程度なら、我が軍団は2日で踏破できる。西からの攻撃は敵も予想はしていないことだろう。砂漠の北路はジュチ殿が進撃している。我らがネビトダグを取った後、敵の重囲に陥る心配はあまりない」


 そう心に決めたガイは、確信を持って出撃した。


“アクアロイド隊は本日出撃する。2日後到着の予定”


 ガイは『風の耳』を使って全部隊へとそう連絡した。



「ガイが今日、カブランカーを出発したよ」


 ガイの『風の耳』を聞いたジュチは、ダルヴェーゼの町の司令部でそう言って笑った。


「アクアロイド隊の進出は速いと仰ってましたね? どのくらいでネビトダグに進出すると思いますか?」


 副将の一人、サラーフが葡萄酒色の髪をかき上げながら訊く。ジュチはやや煩げな金の前髪に、形のいい人差し指を巻きつけながら答えた。


「だいたい2日だね。おそらく明日中には攻撃態勢に入れると思うよ?」

「カブランカーからは少なくとも350キロは離れていますよ?」


 もう一人の副将、ヌールがびっくりしたように言う。ジュチは笑って言った。


「ボクたちだって、やろうと思えば今日中にバルカン地峡の出口まで行けるじゃないか。あそこまで確か330キロはあるんじゃないか?」

「で、どうするの? こんな砂漠の真ん中の町に、いつまで軍を留めておく気なの?」


 アルテミスが、夜空の色をした豊かな髪を揺らして訊く。彼女はハイエルフの女性兵士を統括する『管理』と言う不思議な役職にある。


「そうだね、本隊やリディア隊の動きを見ていると、ボクたちはガイの部隊と同一行動を取った方が良さそうだ。ボクたちがネビトダグを取ったころ、本隊はカザンジクの町だろうけれど、敵はこの辺りに軍団を展開していないし、『七つの枝の聖騎士団』にしても、五月雨式な攻撃はないと思っていい」

「どうしてそう言えるのよ? 『七つの枝の聖騎士団』が攻撃してこないって」


 アルテミスが言うと、ジュチは片眉を上げて言った。


「アルテミス、『色欲のルクリア』がなんて名乗ったか覚えているかい?」

「え?……たしか、『七つの枝の聖騎士団』の副団長って……あっ……」


 アルテミスはそう答えて、何かに気付いたかのように声を上げる。ジュチはうなずいて


「そう、『色欲のルクリア』は副団長だった。確かに副団長に相応しい魔力の強大さや強さ、そして狡猾さを備えていた。けれど、誰が団長かは知らないがそんな副団長が倒れた今、団員を一人ずつボクたちにかからせるような真似はすまい。ボクなら、たとえばイスファハーン辺りに罠を設けて全員で掛かる方法を取るよ。彼らにとって言えば姫様一人を討ち取れば、あとは全敗でも勝ちと言えないこともないからね」


 そう言って笑い、続けた。


「まあ、奴らがどんな手を取ってくるかは後だ。とりあえずボクたちはガイと呼応するように動く。そのためには明日ここを出発し、一日でネビトダグの町を指呼の間に望むところまで進出する。みんなの準備を進めてくれ」



 ガイのアクアロイド隊もジュチの『妖精の軍団』も、進出の素早さと移動距離の長さは完全に敵の意表に出た。特にジュチの部隊は、ジュチ自身の『調略』のためにダルヴェーゼの町に長く留まっていて、その移動能力を敵は完全に見くびっていた。

 そのため、『妖精の軍団』が突如としてバルカン地峡に姿を現すと、ネビトダグの町を守っていた敵将は完全に狼狽し、守兵5千を挙げてバルカン地峡へと出撃してしまった。その虚をガイのアクアロイド隊が見事に突き、ネビトダグの町は集積していた多量の物資と共にあっという間にガイの手に落ちた。

『ネビトダグの町が奪取された』

 その報を聞いた敵将は、前後に敵を受けたショックと、アクアロイド隊の数が2万と誤り伝えられていたこともあり、即座に投降を決めた。

 かくして、ジュチとガイはネビトダグの町で再会し、互いの健闘を讃え合った。


「さすがにガイ殿は機を見るに敏だ。それに部隊の練度も高い。並の部隊ならガイ殿の隊列を見ただけで戦意を喪失するだろう」


 ジュチがそう感嘆すれば、


「ジュチ殿こそ、私の『風の耳』の一節だけでこれだけ素晴らしい連携を取ってもらえるとは驚いた。それにさすがは『妖精の軍団』、聞きしに勝る機動力だ」


 ガイもそう正直に脱帽していた。


   ★ ★ ★ ★ ★


 さて、こちらはホルン率いる本隊である。本隊は、『嘆きのグリーフ』との戦いの後、それまでの予定を変えてカズィーの町でリディア隊と合流し、カザンジクの町まで進出していた。


「いろいろあったけれど、なんとかカラクム砂漠は越えたわね。『風の耳』の報告によれば、ジュチとガイの部隊がすでにネビトダグを取ったってことだし、後はグムダグの町で合流するだけね」


 軍議の席上、ホルンがそう明るい顔で言う。


「そこで軍を再編成して、次の隘路はゴルガーン地峡です。ここは『蒼の海』がアルボルズ山脈近くにまで迫っていますので、狭いところでは5キロほどしかありません。そこに鹿砦などを作られたら厄介なことになります」


 ザールがホルンの顔を見ながら言う。


「部隊を前衛と本隊に分けます。僕がリディアとガイ殿の部隊を率いて前衛として進みますから、王女様はジュチと『神聖生誕教団騎士団』を両翼としてロザリア、ヘパイストス隊を率いて続いてください」


 ホルンは、翠の瞳を持つ目をロザリアに向けて訊く。


「この後、『七つの枝の聖騎士団』は出てくると思う?」


 ロザリアは、漆黒の瞳でひたとホルンを見つめて言う。


「ジュチの方に『色欲のルクリア』が掛かって敗れておる。『色欲のルクリア』は副団長だったとのことじゃ。団長が普通の神経をしているのであれば、団員を五月雨式に出してくるとは思えんのう。兵力の逐次投入じゃからのう」


 そして『神聖生誕教団騎士団』のシャロンを見て、続けた。


「我らの中で最も『七つの枝の聖騎士団』に詳しいのは、恐らくシャロン殿じゃ。できれば奴らのことを教えていただければと思うのじゃが」


 ホルンはうなずいてシャロンに言う。


「それは私も知っておきたいことだわ。シャロン、知っていることを教えて?」


 シャロンは畏まっていたが、ホルンの言葉で顔を上げて言う。


「『七つの枝の聖騎士団』の起こりは、皆さんがご存じのとおりです。最初のメンバーは『怒りのアイラ』を団長とし、副団長は『嘆きのグリーフ』、それに『色欲のルクリア』『貪食のグーラ』『嫉妬のインヴィディア』『傲慢のスーペヴィア』『強欲のアヴァリティア』でした。後に『嘆きのグリーフ』が抜けて『色欲のルクリア』を副団長とし、『怠惰のピグリティア・アーケディア』が加わっています」

「……あの女、元副団長だったのね。道理で強かったはずだわ」


 ホルンは、一度手を合わせた『嘆きのグリーフ』を思い出して、そうつぶやいた。

 あいつのせいでザールは私との思い出をすっかり忘れてしまった。ホルンにとっては、いつ思い出しても苦々しい戦いだった。その時に受けた右腕の火傷は徐々に治って来つつあったが、ザールの記憶の中に自分のことが全く残っていないと知った時の哀しさや絶望感は、まだ生々しくホルンの心を抉り続けている。


 ザールは以前と変わらず自分のことを王女として奉っていてはくれるものの、そこには以前のような親しみがなく、どことなくよそよそしさも感じているホルンだった。考えすぎかもしれないが……。


「このうち、『怠惰のピグリティア・アーケディア』『嘆きのグリーフ』そして『色欲のルクリア』は倒しています。そこで、残りの5人についてですが……」


 そこでシャロンは口をつぐみ、改めてホルンとザールを見て言う。


「奴らがすぐる日『アルカディアの戦い』でどう戦ったかを説明すれば、『七つの枝の聖騎士団』がいかに手強いかが分かっていただけると思います」



 時は、王国暦1563年地に炎立つ月(8月)12日、アルカディア地方を守るファールス王国軍は苦戦に陥っていた。

 アルカディア地方は地味豊かとはいえなかったが、隣接するマケドニア地域やテッサロニカ地域と含めて、トラキア方面第11軍管区の中心都市であるコンスタンチノープルを守るに大切な所であった。

 特にここには良港が多く、ここ数年、海の支配権確立を目論むローマニア王国からの出兵が相次いでいた。


 今回も、ローマニアは10万と言う大軍で攻め寄せて来た。第11軍管区の州知事は、コンスタンチノープルに第11軍団を残し、第111、第112、第113の3個軍団・6万人を送ってそれを抑えさせたが、多勢に無勢で押し切られ、あっけなくアルカディア地方はローマニアの手に落ちた。


 ローマニアの軍指揮官は、続けざまにマケドニア、テッサロニカと軍を進め、勝ち戦の波に乗ってコンスタンチノープルまで占領しようと企んだようだ。ローマニア軍10万は敗走するファールス王国軍の追撃を始めた。


 この危機に、『七つの枝の聖騎士団』が投入された。

 『七つの枝の聖騎士団』は、コリント地峡で敵を迎え撃った。ここに来たのは『怒りのアイラ』『色欲のルクリア』『貪食のグーラ』『嫉妬のインヴィディア』『傲慢のスーペヴィア』『強欲のアヴァリティア』『怠惰のピグリティア・アーケディア』であった。

 そして、結果としてローマニアの10万人は壊滅。特に『怒りのアイラ』と『強欲のアヴァリティア』のコンビが仕掛けた罠にはまった2個軍団4万人は、誘い込まれた島もろとも跡形もなく吹き飛ばされてしまっていた。

 また、『貪食のグーラ』は巨大な自動人形を巧みに操り、『嫉妬のインヴィディア』は幻術に秀で、『傲慢のスーペヴィア』は非常に優秀なアサシンであり、それぞれが1個軍団を完全に手玉に取っていた。

 この戦いで、『七つの枝の聖騎士団』には『一人で百万人に匹敵する』という噂が生まれ、パラドキシアの切り札として全国的にその名を轟かせることになったのである。



「……と言う奴らです。アイラは頭も切れる戦士。おそらく彼女は私たちを罠にかけられる場所で、残りの全員による奇襲をもって決着をつける気でいると思います」


 シャロンがそう話を締めくくった。


「彼女たちは、人間なのかしら?」


 ホルンが言うと、ロザリアは首を振って言う。


「『怠惰のピグリティア・アーケディア』はダークエルフじゃった。全員、『人間』ではなかろうな。獣人だったり、魔族だったり、あるいはドラゴンの一族も混じっていよう。ジュチの話によると、『色欲のルクリア』はワイバーンだったと言うからのう」

「……どのような相手であろうと、王女様の行く手に立ち塞がるものは敵だ。あくまで敵として立ち塞がるならば、僕らはそれを蹴散らし、叩き潰すだけだ」


 ザールがそう言う。けれどロザリアやシャロンには、そんなザールを頼もしげに、そして寂しげに見るホルンの顔が心に残っていた。



「まったく、何とかできればどうにかしてやりたいものじゃがのう」


 ロザリアは、自分の部隊に戻ると開口一番そう言った。


「でもロザリア様、ザール様が王女様のことを忘れてしまわれているのなら、ロザリア様にとって大きなチャンスじゃありませんか?」


 副将のマルガリータが言うが、ロザリアは顔を赤らめながらも首を振って答える。


「確かにそう思う。この隙にザール様の心を奪いたいのは確かじゃ。けれどのう、私はザール様だけでなく、姫様のことも好きじゃ。姫様がザール様と屈託なく話をしておられたとき、どんな素敵な顔をしておられたかを知っているだけに、今回のことは不憫さの方が先に立つ。じゃから、できれば何とかして差し上げたいのじゃ」


 ロザリアたちがそんな話をしていると、幕舎からどう見ても14・5歳の少女が出てくる。少女はロザリアを見るとクスリと笑って言った。


「おやおや、ロザリアが殊勝なことを言うておるのう。ちょっと前のそなたからは想像できんのう」

「お、お師匠。盗み聞きとはお人が悪いですぞ」


 ロザリアが慌てて言う。この少女は、見た目こそ少女であるが、トリスタン侯国きっての魔族の女性で、ロザリアの魔術の師匠だ。名をゾフィーと言い、歳は分からない。しかし、トリスタン侯国で最も長命な人間によると、


「わしがガキの頃と見た目はちっとも変わっておらん。その頃すでにゾフィー殿は100歳を超えていると言われておった」


 とのことである。


 ゾフィーはその幼い顔に老成した表情を浮かべて言う。


「ひとの記憶というものは、完全に消去などできはせぬ。忘却の彼方に押しやることは出来ても、そのこと自体を『なかった』ことにはできぬのじゃ。我らの想念は、宇宙の高いところですべてつながっているのじゃからな」

「では、お師匠にはザール様の記憶を取り戻すことができますか?」


 ロザリアが訊くと、ゾフィーは首を振った。


「いや、忘却の彼方に押しやられた記憶を呼び戻すことができるのは当人だけじゃ。周りの我々は、そのきっかけになることしかできぬ。何がきっかけになるかは分からぬが」

「……とにかく、ザール様が姫様のことをいつか思い出すという望みはあるのですね?」


 マルガリータが言うと、ゾフィーはその言葉には強くうなずいた。


「うむ、諦めてしまえばそこまでじゃが、それでも何かの拍子に思い出すということすらある。諦めねば思い出す確率は高くはなるじゃろうな」


 ロザリアは、ふっと優しい顔をして言った。


「姫様にとって、『望みがある』ということだけでも心強いものではないかな? 何せ姫様にとって最も頼れる人物がザール様じゃ。そのザール様から忘れられているという状況は、姫様にとって居心地が悪いものじゃろうからな」



「はぁ……」


 ホルンは、誰もいない天幕で沈み込んでいた。自ら『運命を受け入れる』とは言ったものの、こればかりは叫びだしたいほどの理不尽さを抱えていたのだ。

 今日も、ザールは軍議を見事に取り仕切ってくれた。こと作戦面については、ジュチやロザリアがいて、ザールがティムール軍との連絡を取りながら進めてくれるので、ホルンとしては何の心配もない。


 けれど、以前とは違い、明らかにザールはホルンに対して遠慮が見えていた。よそよそしいというか、『王女だから大事にされる』という面が見えていた。そこがホルンにとって一番悲しいところだった。


「ふぅ……」

『ねえホルン、ため息ばかりついていたら、幸せが逃げちゃうよ?』


 机に突っ伏してため息ばかりついているホルンを見かねて、コドランがそう声をかける。そう言うコドランだって、ホルンの気持ちはよく分かる。


『まあ、ザールさんがあんな調子じゃ、ホルンの気持ちも分かるけれどね』


 ぼそりとコドランが言うと、ホルンはゆっくりと顔を上げて言う。


「そうなのよ。シャロンからザールの記憶が消去されたって聞いて、『じゃあ最初から二人の関係を作り直していくだけだわ』って思ったんだけれど、やっぱりザールが別人みたいに思えてやるせないの」

『なまじ二人とも仲が良かったからね。でも、きっとザールさんはホルンのこと思い出してくれるよ。ぼくはそう信じているよ』

「……記憶がなくなっているのよ? 思い出してくれるはずがないわ」


 ホルンがそう言った時、副将のピールが来客を告げた。


「王女様、ゾフィー殿がお見えですが」

「えっ? 通してちょうだい」


 ホルンが言うと、見た目は14・5歳の少女がニコニコして入ってくる。ホルンは慌てて立ち上がり、椅子を勧めた。ゾフィーは勧められた椅子にちょこんと座った。

 ゾフィーは足をぶらぶらさせながら椅子に座り、ホルンを優しい目で見つめている。


「ゾフィー様、わざわざおいでいただくとは珍しいですね。ロザリアに何か起こったのでしょうか?」


 ホルンが訊くと、ゾフィーは可愛らしい声で笑って答える。


「くくっ……おお、すみません笑ってしもうて。けれど、姫様もなかなか可愛いところがおありだなと思ってのう」

「な、何のことでしょう?」


 理由もなくホルンの顔が赤くなる。ゾフィーの眼で見つめられると、心の中が見透かされているような気がしたのだ。


「姫様は、『アカシック・レコード』という言葉をご存知かの?」


 ホルンは少し考えて首を振る。


「いいえ、聞いたことがありません」


 するとゾフィーは、その幼い顔を急に引き締める。ホルンにはその顔がまるで大人の女性のように艶めかしく見えた。


「この世に存在するすべてのものには意思があり、それは植物や動物を問いませぬ。そしてその意識は、宇宙の高いところでつながっておる。そこには物質が生まれてから今までのすべての時の流れと共に、意識が記録されておるのじゃ」


 ゾフィーはそう言うと、一つうなずいて


「もちろん、宇宙はさまざまな形で宇宙自身の意思を表明する。それが天候であったり、星の動きだったりの。魔術・魔法すらその法則に逆らうことは出来ぬので、我ら魔導士は、それらを使って魔法を使うことになる」


 そしてゾフィーは、ホルンの眼を覗き込むようにして言う。


「ザール様の意識も、その『アカシック・レコード』につながっておるわけじゃ。そのことを考えると、ザール様の記憶は『消去された』のではなく、『忘却の彼方に追いやられた』というのが正しい理解じゃと思いまする」


 ホルンは、ゾフィーが言いたいことが分かって来た。


「追いやられた記憶は、ザール様ご自身で呼び戻すことは困難かも知れぬ。けれど、何らかのきっかけでその記憶の鍵が手に入る、あるいは記憶が浮かび上がってくることは十分にあり得るのじゃ」


 ホルンの顔が明るくなった。


「では、私は諦めなくてもよいということですね?」


 ホルンのすがるような言葉に、ゾフィーは力強くうなずいて言った。


「私はそのことを伝えに来たのじゃ。ロザリアが気にしていたからのう」

「そうですか、ロザリアが。ゾフィー様、ロザリアにもお礼を言っておいてください。そして本当に心が軽くなるようなことを教えていただき感謝します」


 ホルンが言うと、ゾフィーはいたずらっぽい目で笑って言った。


「ふふ、人を好きになる気持ちは大切なもの、私も若い時分に戻りたいのう」


   ★ ★ ★ ★ ★


 2日後、ホルン率いる本隊とジュチ・ガイ隊はグムダグの町で合流し、久しぶりに『遊撃軍』が勢揃いした。


「ガイ殿、敵の拠点であるネビトダグの町の攻略、さすがです。またジュチも各地の調略やガイ隊との連携は見事でした。さらには『色欲のルクリア』まで討ち取ったとか。わが遊撃軍も、ティムール軍に負けず劣らずの戦果だと思います」


 ホルンがジュチとガイをそう讃えると、二人は笑って答えた。


「このくらいは肩慣らしです。私はザッハークの首をこの手で挙げるまでは軍を止めるつもりはありません」

「この世で最も麗しく有能なハイエルフにとって、これくらいの戦果は当たり前ですよ。姫様がこの国を『どのような種族もそれぞれを尊重できる世の中』に変えるまで、ボクたちハイエルフは姫様を見守っていますからね。今後の作戦のために、あとでザールの幕舎においでください」


 ジュチはロザリアからの『風の耳』によって、ザールの記憶喪失の経緯を知っていた。そのためジュチはホルンの幕舎を下がった後、その足でザールの下を訪ねた。


「やあ、ザール、久しぶりだね。中央戦線では活躍したそうじゃないか」


 ザールはジュチの訪問を喜んだ。すぐに椅子を勧める。


「そうでもないさ。『嘆きのグリーフ』との戦いでは王女様にご心配をおかけしたらしいからね。けれどジュチ、ディアナ殿のことは気の毒だった。何と言っていいか言葉にならない」


 ザールはディアナの遭難のことをアルテミスから聞いて知っていた。ジュチは肩をすくめて言う。


「そうだね。おかげで『七つの枝の聖騎士団』の奴らをどうやって仕留めるか、ボクにとって最高の宿題ができたよ。けれど、ボク個人的には別に心配事がある」

「別の心配事?」


 ザールがオウム返しに訊くと、ジュチはうなずいて


「キミと王女様のことさ。ボクが観るところ、キミと王女様はこの戦いの勝敗を分けるカギだ。なぜならキミたちは二人ともドラゴニュート氏族であり、『竜の力』を扱える存在だ。その二人が心を合わせれば、この戦いに前途に心配する要素はない。けれど、今のように王女様がキミによって悲しんでいる状態は、あまり良くないと思うよ」


 という、ザールは困ったような顔をして聞いていたが、『王女様がキミによって悲しんでいる』と聞いた時、びっくりしたような顔になった。


「僕が王女様を悲しませている?……それは、僕が失った記憶に関することだね? 教えてくれジュチ、ホルンとは誰だ? 王女様と何の関係がある? そしてホルンは僕の何なんだ?」


 ジュチは悲しそうに顔をゆがめると、


「ボクが教えることじゃない。キミが思い出すことなんだ」


 そう言うと、右手の人差し指をボウッと光らせて


「ドラゴニュート氏族の里に行ってみるのもいい。ローエン様やグリン様がどうにかしてくれるかもしれない……何なら、『転移魔法陣』を描いて上げようか?」


 という。ザールは考えていたが、ポツリと言った。


「戦いの最中に、僕がここを離れていいものだろうか?」


 ジュチは一笑に付す。


「今のうちなら傷は小さい。ゴルガーン地峡を固められるとうるさいから、そこまで軍を進めて、キミたちの帰りを待っているよ」

「キミたちって?」


 不思議そうに訊くザールに、ジュチはこともなげに言った。


「決まっているさ、キミと王女様だ。二人で二人の軌跡をたどってくるがいい」


 そしてジュチは、幕舎の入口に向かって笑って言う。


「お待たせしました王女様、中にお進みください。そしてザールと一緒に二人の軌跡をたどって来てください」


 するとホルンが顔を赤らめて幕舎に入って来て訊く。


「今、私たちがいなくても大丈夫ですか?」


 ジュチは笑って答えた。


「今しかありません。これを逃したら、ボクたちは非常に不利なまま『七つの枝の聖騎士団』との決戦に臨むことになりますからね」

「分かったわジュチ、こちらのことはみんなに任せるわね。ザール、行きましょう、警護をお願いね?」

「えっ!?……ええ」


 屈託のないホルンの声に、ザールは一瞬、脳裏に何かがよぎってたじろいだ。この懐かしい感じは何だろう?

 ザールはそんなことを考えながら、ホルンから導かれるままに『転移魔法陣』をくぐりドラゴニュート氏族の里へと足を踏み出した。


   ★ ★ ★ ★ ★


「というワケで、今ここに王女様もザールもいない。けれど、第9軍管区の奴らがこちらに軍団を向けてきていることが分かった。第91軍団と第92軍団だ。そいつらがゴルガーン地峡を固めたら厄介だから、兵団を二つに分けて対処する。敵軍に当たるのはリディアとガイ殿、そしてロザリアとヘパイストス殿だ。ボクは『神聖生誕教団騎士団』とともにここに残る。王女様たちがご帰還次第、先鋒兵団の後を追うよ」


 その日の午後、ジュチは緊急に全員を集めてそう切り出した。ここにいる全員がザールの記憶喪失を知っているか、知らなくてもここしばらくホルンとの間がぎくしゃくしていることを知っていたため、ジュチの措置に苦言を呈するものはいなかった。


「むしろザールが元通りになる方がいいね。でないと姫様が見てられなかったもん」


 リディアが言うと、


「まあ、ザール様と姫様が戦の鍵を握っていることについては同感じゃからの」


 とロザリアも言い、


「お兄さまが姫様のことを思い出したとしても、お兄さまはワタシのものだもん」


 とオリザも笑っていた。


「では、とりあえず相手は4万だ。リディアとガイ殿には苦労をおかけするが、存分に暴れてもらいたい。できれば敵陣を叩き潰して、山脈の向こう側まで追っ払ってほしい」


 ジュチが言うと、リディアもガイもうなずいた。



 『遊撃軍』は再び動き始めた。先鋒はガイとリディアで、中軍がロザリア、そして殿がヘパイストス、合わせて8千である。

 進路上にいるのは2個軍団・4万人というから、兵力の比で言えば5分の1で問題にならない。けれど、こちらはジーク・オーガやアクアロイドの兵団であるという点を考慮に入れると、戦闘力としてはほぼ拮抗していた。


 一方、王国軍は最初からごたごたしていた。第91と第92の軍団長たちの見解が分かれていたのだ。

 第91軍団長は、


「我らが受けた命令は、『アルボルズ山脈で敵を食い止めよ』というものだ。こちらの兵数が多いのは幸い。ゴルガーン地峡を押さえておけば、敵がジーク・オーガやアクアロイドだといっても攻略されることはあるまい」


 と陣地戦・持久戦を主張したが、兵力の多さに安心していた第92軍団長は


「相手にジーク・オーガやアクアロイドがいるといっても、こちらには3倍近い兵数がある。ホルンやザールを野戦で討ち取れば、そこで我らの勝利は決まる。ここは討って出るべきだ」


 と、機動戦・速戦を主張していたのである。


 そうこうするうちに、前方に出していた斥候から、遊撃軍前衛部隊の出発が知らされてきた。


「ただ陣地を固めるだけではいけない。敵は熱砂の回廊を越えてくるのだ。進撃するだけで損害を出すだろう。わが軍団が敵の出端を挫けば、兵士たちにも自信がつき、その後の守りが有利になる」


 第92軍団長はそう言って、第91軍団長が止めるのも聞かずに陣地から出撃した。

 ゴルガーン地峡の陣地とグムダグの町は約300キロ離れている。第92軍団は一日に25キロとかなりの強行軍を行ったが、リディアたちの前衛は一日に100キロを進んでいた。つまり、第92軍団出撃2日後には、両軍はたった50キロしか離れていなかったのである。


「ザールたちの軍と出会うのは、明後日かな」


 第92軍団長は、ザールの行軍速度を自軍の2倍と考えていた。これは、砂漠を越える日数から割り出したものだったが、それにしても楽観的に過ぎたと言える。

 もちろん、王国軍も途中途中に斥候を配置して遊撃軍の動向を把握するよう努めていたが、前衛のあまりに速さに斥候自体の移動が追い付かず、置き去りにされるという事態が各所で起きていたのである。

 よって、次の日の会敵は王国軍にとっては奇襲となった。


「前方50キロに、敵がいる。兵力は約2万だ」


 会敵前夜、前衛部隊ではガイがそう言って全軍に注意を喚起した。


「ありゃ、出てきたんだ。こっちは陣地戦を覚悟していたんだけれどな」


 リディアがそう言いながら笑う。ロザリアが不気味な笑顔を向けて


「せっかくのお越しじゃ。おもてなししてやらんとのう」


 と、くぐもった笑いと共に言った。ヘパイストスがリディアに訊く。


「俺は何をすればいい?」


 リディアはロザリアを見る。ロザリアはうなずいて言った。


「この後、陣地戦になる。陣地を攻める用具などを準備しておいてもらえればありがたいのう。それと、明日は私が最初に敵に当たる。敵は恐らく私の部隊を包み込むじゃろうから、リディアとガイ殿には外から存分に叩いてほしい」

「分かったわ」

「承知した」


 リディアとガイは、笑顔でそう言った。



 次の日、進撃を開始した第92軍団は、遠くにロザリア隊を発見して狼狽した。会敵は明日だと勝手に思い込んでいたからである。

 しかし、目に映るのがわずかに2千程度なので、軍団長は


「ははあ、ザール隊の偵察部隊だな。熱砂の回廊を急いで進出してきた奴らだ、疲れ切っているに違いない。包み込んで殲滅すれば、緒戦の弾みになる。あの部隊を始末したらゴルガーン地峡の陣地に戻るぞ」


 そう決断し、戦闘隊形を作ってロザリア隊に襲い掛かって来た。


「来たの。魔弾攻撃で敵の左右への展開を邪魔するのじゃ」


 ロザリアの号令で、魔導士たちは次々と魔弾を発射する。これは炸裂弾で、人間に当たらなくてもある程度の効果は期待できた。


「げっ」

「うわっ」


 第92軍団では、魔弾によっての損害が続出する。すぐさま軍団長は


「中央に弓隊を集め、敵陣を射撃せよ」


 と号令を出した。弓の方が魔弾よりも射程が長かったため、第92軍団はロザリア隊と少し距離を開け、中央から弓で魔導士たちを牽制する。


「やりおるのう。みんなシールドを張って少しずつ後退じゃ。左右をよく見張って、射程内まで近づいてくる敵には遠慮なく魔弾をお見舞いするのじゃ」


 じりじりと後退するロザリア隊を追って、第92軍団はその左右に広げた部隊をさらに前進させた。そのことは、ゾフィーの『天空の眼』でよく見えていた。


“ロザリア、敵の両翼が真横に来たぞ!”


 ゾフィーからの『風の耳』が届く。その瞬間ロザリアは漆黒の瞳を輝かせて


「待っておったぞ! 全軍止まれ!」


 そう号令するとともに、両腕をさっと挙げる。途端にロザリア隊を『毒薔薇の牢獄』が取り囲んだ。


「おおっ!」

「何だあれは?」


 第92軍団の兵士たちは、突如自分たちと敵を隔てるようにそそり立った毒薔薇の垣根を見て叫ぶ。その薔薇は紫色をして、見るからに毒々しかったため、大半の兵士たちは本能的に立ち止まった。


「たかがバラの垣根だ。叩き斬って中に突入しろ!」


 隊長がそう命令すると、その部下たちは仕方なくバラの垣根を剣や槍で斬り払おうと近づく。そこを狙って魔弾が襲い掛かって来た。


「怯むなっ! 進め!」


 魔弾に押されている部下を励ますため、隊長自ら剣を揮ってバラの垣根に斬りかかった部隊もあった。隊長の奮戦を見て部下も武器を執り直して突っ込んでくる。しかし、


「ぶふぁっ! 息が……」

「ぐおっ! 手が?」


 バラの垣根は、斬られた瞬間に兵士に対して瘴気を噴きつけ、毒の棘を伸ばして襲い掛かって来た。兵士たちは瘴気に胸を焼かれて血を噴き出し、毒の針で身体中が壊疽のようになって息絶えていく。恐るべき狡猾な罠だった。


「くそっ! 隊列を整えろ。火矢で焼き払え!」


 軍団長がそう命令を発した時、後方からガイとリディアの部隊が襲い掛かって来た。


「さて、仕上げじゃの」


 ロザリアは目の前で第92軍団の兵士たちが毒薔薇の餌食になっていく様をうっとりとした表情で眺めていたが、リディア隊の吶喊の声を聞くと、そう言って右腕を前から後ろへと動かした。その途端、敵も包み込むように『毒薔薇の牢獄』がそそり立った。第92軍団は完全にロザリアの罠にはまった。


「ジーク・オーガのリディア・カルディナーレ参上。みんな、抵抗する奴は容赦するんじゃないよ!」


 リディアが身体中から真紅の『魔力の揺らぎ』を噴き出しながら、重さ82キッカル(この世界で約2・78トン)もある青龍偃月刀『レーエン』を揮う。


「アクアロイドのガイ・フォルクスとは私のことだ。者ども、敵に情けは無用だ!」


 ガイも、海の色をした豊かな髪をなびかせて突撃してくる。その手には姉のリアンノンから譲られた蛇矛『オンデュール』が握られている。


「ひっ!」

「もう駄目だ!」


 それでなくてもロザリアの『毒薔薇の牢獄』でひどい目に遭っていた兵士たちは、地獄の業火のような『魔力の揺らぎ』を背に負ったリディアや、俊敏で矢や槍も弾く冷たい目をしたガイの姿を見て、完全に戦意を失った。

 そうなるともう戦闘ではない、屠殺である。第92軍団長がガイから一番に討ち果たされていたことが、損害を多くした。誰も投降を命令するものがいなかったためだ。

 ロザリアは、リディアとガイに蹂躙される敵兵たちを感情のない目で眺めていたが、地面に転がる敵兵の数が立っている敵兵の数の3倍ほどに達した時、突如外側の『毒薔薇の牢獄』を解いた。


「おっ」

「えっ」


 敵兵は、突如として現れた『逃げ道』を見逃さず、三々五々平野へと散っていった。もはやそこには統率もなく命令もなかった。


“ガイ殿、リディア、もうよい。逃げる敵は見逃してやるとよい”


 ガイとリディアは、ロザリアの『風の耳』を聞いて追撃を停止した。


「もう少し痛めつけた方が良かったと思うが?」


 部隊を整列させたガイがロザリアにそう言うと、ロザリアは周りを見回して言う。


「ここに1万5千ほどの死傷者がおる。無事に逃げられたのは5千内外で、ゴルガーン地峡の陣地に戻れるのは多くて2千というところじゃろう。そいつらは我らの勇猛さを身に染みて知っている奴らじゃ。そんな奴らが敵陣内にいてくれる方が、こちらとしてはありがたい。何にせよガイ殿とリディアの活躍は見事じゃったぞ」


 事実、この戦いで紅蓮の炎と共に大青龍偃月刀を揮うリディアは、“乙女形態”で戦っていたこともあり、以降敵から『炎の告死天使』との異名で呼ばれ、青く冷たい瞳で敵兵を薙ぎ払い続けていたガイは『紺碧の死神』との異名で呼ばれることになる。



「ヘパイストス殿、次は活躍してもらうからの」


 野戦で第92軍団を撃破したロザリアは、攻城用具が揃うまで2日間、部隊を留めた。そして狙いはもう一つ、野戦で生き残った敵兵が陣地に戻る時間を与えることだった。

 もちろん、野戦での勝負が決したのが正午近くだったため、そのまま進撃しても良かったが、その場合敵陣にかかるのは夕方近くになる。攻城用具も不足する中、偵察も満足にできずに敵陣にかかれば下手をすると失敗して敵の士気を上げることになる。ロザリアはそれを嫌ったのだ。


「急進してもよいが、敵さんには恐怖を感じてもらいたいからのう」


 ロザリアの言葉どおり、敵陣に逃げ帰った兵士たちは、陣内で『炎の告死天使』や『紺碧の死神』の話を広め、守備している第91軍団の兵士たちにザール軍への恐怖を植え付けていた。


「さて、行こうか」


 ロザリアは全軍を率いてゴルガーン地峡の陣地に近づくと、まずは防御陣地を構築し、続いて攻城用具を進めるとともに接敵用の塹壕を伸ばし始めた。


「……ロザリア、敵陣は三重になっておるぞ。土塁と逆茂木で固めた最前線、その後ろに落とし穴と柵を備えた第二線、ここに飛び道具を備えておる。そして塹壕と土塁で囲まれた最終防御線じゃ。背後には柵を設けているに過ぎん」


 ゾフィーが『天空の眼』で眺めた結果をロザリアに告げる。ロザリアはニコリと笑って師匠に言った。


「そうか、背後を疎かにしておるのか。それならこちらにあまり損害を出さずに攻略できるかもしれないのう」


 そして、ゾフィーが見通した敵陣の防御線の様子を図面にすると、ロザリアはマルガリータに言いつけた。


「この図面をヘパイストス殿に預けて、こちらの投石器オナゲル大型弩弓バリスタに防御設備を破壊するに足る威力があるかどうかを聞いて参れ」



 次の日、ロザリアは軍議を開いた。ヘパイストスからは攻城用具で敵陣の防御施設を完全に破壊可能との返事をもらっていた。


「明日、敵陣の攻略にかかる」


 ロザリアは開口一番そう言って、リディアやガイ、ヘパイストスを見回す。みんながうなずくのを見ると、ロザリアは


「まず、ヘパイストス殿の攻城兵器で敵陣の防御施設を完全に破壊し、敵を丸裸にする。6点(午前6時)から攻撃準備射撃にかかり、射撃時間は2時(4時間)与える。この段階で敵が降伏してくれたらしめたものじゃ」


 全員がうなずく。4時間も矢や石の雨を食らったら、敵陣は耕された畑のようになるだろう。その段階で敵が白旗を掲げれば、こちらには何の損害もない。ただし、そううまく行くとも限らない。


「閏7点(午前10時)に、リディアの部隊が接敵塹壕の先端から突撃を開始する。私の部隊が直接援護を行う。恐らく、敵陣内を席巻できると思う」


 敵陣内に恐怖が蔓延していたら、眦を決したジーク・オーガの突撃を見て戦意を失う敵が必ず出てくるはずである。ただ、その多寡は事前に判断できないし、敵将の統率が上回ればリディア隊に思わぬ被害が出る可能性はある。リディアもそれを心配しているようだったが、さらにロザリアが


「席巻できると思うが、敵将の能力が不明じゃ。そのため、ガイ殿にお願いがある」


 そう言うと、ガイは笑ってうなずき、言った。


「敵陣の左翼を託している『蒼の海』を越えて、敵の最終防御線の後ろに上陸すればよいのだろう?」


 ロザリアは莞爾としてうなずく。


「さすがガイ殿じゃ。上陸時刻は閏7点1刻越え(午前10時15分)辺りで調整してもらいたい」

「敵陣横の海域はすでに偵察した。敵は海までは防御をしていないし、海側にも堡塁を築いていない。敵が崩れたら、そのまま突っ込むが?」


 ガイが鋭い目をして訊くと、ロザリアは漆黒の瞳を輝かせて答えた。


「構わんが、今回は敵味方の被害を最小限にしたい。姫様の威徳を損ねたくないのじゃ」


 ガイは笑って答えた。


「分かった。では敵将を生け捕りにしよう」



 一方、第91軍団長は陣内を見回り、配下の兵士たちの中に流れる委縮した雰囲気を感じ取っていた。陣地前面2ケーブル(この世界では約370メートル)に布陣している敵は、数的には1万内外と思われた。こちらには2万2千の兵がいる。俗にいう『攻者3倍の原則』から言えば、敵は6万6千以上の兵数があって初めてこの陣地に手が出せる。


 しかし、野戦の様子を聞くと、敵はたかだか5・6千でこちらの2万をほぼ殲滅している。その戦闘能力の高さを考えると、油断はできなかった。


「まずいな。このまま戦闘に入ったら、何が起きるか分かったものじゃないぞ」


 第91軍団長は切れる男であった。彼はすぐに配下の指揮官を集めて


「兵が委縮している。各隊長は兵士一人一人を安心させて、士気の向上に留意せよ。勝手に兵が指揮を離脱しないように気を付けておいてくれ」


 そう指示を出した。各級指揮官はすぐに配下の兵士たちの持ち場を見回り、一人一人を励ました。

 やがて東の空が白み始めた頃、突然ザール軍の陣地から、バシーン、ズバーンという音が聞こえ始めた。


「オナゲルとバリスタの攻撃だ!」


 第91軍団長はその音を聞くと、すぐに指揮所を飛び出して東の空を眺めた。白み始めた空に一列に線を引いて、巨大な岩が飛んでくる。やがてそれらは第二線陣地に着弾し、防御施設やオナゲルなどを破壊し始めた。


「くそっ! 物量攻撃か。こちらも撃ち返せ!」


 軍団長はそう叫んだが、次々と飛んでくる石弾にオナゲルは無為に壊されて行く。


「敵は何故、こちらの配置を知っているのだ?」


 軍団長は戦慄と共にそう思った。通常ならば第一線を攻撃するはずのオナゲルが、第二線の、それもオナゲル陣地を真っ先に攻撃してきたことで、軍団長は


 ――敵に配置を漏らした奴がいるのか。


 そう考えたのだ。


 兵士たちは何とかオナゲルを使って反撃しようとしているが、何しろ飛んでくる石弾の数が尋常ではない。たちまち潰されて血だるまとなる兵が続出した。

 第一線も無事だったわけではない。こちらには主にバリスタが向けられた。ザール軍のバリスタの矢は先端に石が取り付けられて重く、柵や逆茂木に当たればそれを粉砕した。さらに通常の矢は易々と土塁を貫通する。どうにか無事だったのは塹壕に隠れた兵士たちだけだった。それらの兵たちも、頭上を雨あられと飛ぶ矢に妨げられて、移動することはおろか頭を上げることすら危険だった。


「オナゲル部隊は全滅しました」

「第二線の柵はほぼ全壊です」


 そう言った報告がひっきりなしに入っている。幸いなことにオナゲル隊の兵士以外はこれといって大きな被害はまだ出ていない。

 そこに、オナゲルの攻撃目標が第一線に変わり、この最終防御線までバリスタが撃ち込まれ始めた。第一線から第二線の間隔は半ケーブル(約90メートル)、第二線から最終防御線までまた半ケーブル、敵陣から軍団長がいる場所までは3ケーブル(約550メートル)だった。


「楯だ! 楯で防げ!」


 軍団長は自らも楯でバリスタの矢を防ぎながらそう叫んだ。指揮所にいる者たちはすぐにまねをする。


「しかししつこいくらいの攻撃だな」


 敵陣から飛び道具での攻撃が始まってもう1時が過ぎた。前線からの報告では第一線、第二線とも防御施設のほとんどを破壊され、兵士の損害も増してきていた。

 第91軍団長は、指揮所にいる者たちの顔色が真っ青になっているのを見て、決断を下した。


「各級指揮官に伝えよ。指揮下の兵を掌握し、すぐに指揮所まで集合せよ」


 すぐさま伝令が第一線と第二線の陣地に走った。これは実質的に防御を放棄する命令だった。彼は指揮下の兵たちの戦意などを考慮して、この陣地の放棄を決めたのだ。

 やがて各部隊が集まった時、軍団長は断固として命令した。


「これからサーリーの町まで転進する。各級指揮官は部下の掌握に務め、各隊連携してサーリーの町まで退けっ」


 この命令は、攻撃準備射撃がまだ半分しか終わっていないときに下されたため、第91軍団は大きな混乱もなく陣地を離脱した。重い決断だったが、かなりの人員が救われた。


 リディア隊とガイ隊が敵陣に突入した時、当然敵陣は空であり、実質的に無血占領といえた。けれど、第91軍団はほぼ2万が無傷で転進したため、敵主力の殲滅は果たせなかった。


「退却するとは想定外じゃったのう、ちと敵の肝を冷やし過ぎたか……退却の仕方が綺麗じゃったのう。敵はよっぽど度胸のあるいい指揮官が率いていたのじゃな」


 ロザリアはガイやリディアに迎えられると、悔しそうにそう吐き捨てた。そして、


「ここからアルボルズ山脈を越えてもよいが、第91軍団が健在じゃから後ろから襲われてもつまらんのう。サーリーで敵軍を捉えてアルボルズを越えるか迷うところじゃな」


 ロザリアは、占領した陣地の指揮所で西の空を睨みながらつぶやいていた。


(30 熱砂の回廊 完)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

『七つの枝の聖騎士団』も動き始めました。

次回は来週、日曜日の9時〜10時に『31 天命の歯車』をアップします。

お楽しみに。

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