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青き炎のヴァリアント  作者: シベリウスP
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14 悪夢の反省

サマルカンドでは、人々の中に突然夢遊病となって殺戮を尽くした後、身体が爆裂するという原因不明の出来事が起こっていた。偶然に事件に遭遇したジュチは、それを『夢魔』の仕業と看破し一人で討滅に向かうが、逆に夢魔によって捕らわれてしまう。豹変したジュチを捕らえたザールだが、朝日が昇るまでに夢魔を討滅しなければ、ジュチの身体は爆散する。それを知ったホルンたちは、急ぎ夢魔の棲む『黒の森』を目指す。

 サマルカンドの城門を出て西に街道沿いに進むと、10マイルほどして砂漠との境になる。そこで身体を北に向けると、街道から少し離れた場所に、小さな小屋が見える。


 そこには、一人の老僧が住んでいた。彼の名をジュガシビリという。

 ジュガシビリは、若い頃は敬虔な僧侶で、精霊の声を聞いて人々の病気を治したり、さまざまな相談に乗って悩みを解決したりしていた。しかし、ある頃から彼は悪霊に魅入られたかのように、災いを呼ぶような祈祷を行うなど、奇矯な言動が目に付くようになってきた。


 彼の教団は、ジュガシビリを『悪魔に魂を売った者』として破門した。そのころにはすでにジュガシビリがサームの側室であるエルザの依頼を受けて、正室たるアンジェリカ夫人が子どもの産めない身体となるように呪いをかけている……という噂が広まっていたのだ。

 事実、ジュガシビリはエルザからそのような依頼を受け、呪詛も行っていた。おかげでアンジェリカ夫人はザールを生んで以降、子宝に恵まれなくなっていた。



 月のない夜であった。その日もジュガシビリは、一日かけて近くのバザールで占いなどをして小銭を稼いだ後、ゆっくりと帰路についた。ジュガシビリには敵は多かったが、彼は一向に頓着しなかった。なぜなら、悪魔と契約した自分に勝てる魔術師などいないと信じていたからである。


 だから、彼は家に帰りつくと、自分の結界が何者かに破られていることを知って眉をひそめた。この時点で回れ右して、どこかに逃げればよかったのだろうが、それは彼の魔術師としてのプライドがそうさせなかったのだろう、彼はそのまま家に入った。


「遅かったのう。待ちくたびれたぞ」


 ジュガシビリは、自分の結界を破り、のうのうと部屋にいる者が12・3歳の少女と知って驚いた。しかし、彼はすぐに闖入者の正体を見破る。


「魔族じゃな? わしに何用じゃ?」


 少女は、身体中から瘴気を立ち上らせながら、妖艶な笑いとともに言う。


「主はサーム様のご正室に要らぬことをしてくれた。よってその報いを受けてもらう」


 少女の言葉が終わらぬうちに、ジュガシビリは突然生えて来た紫色のバラの垣根に捕らえられる。その花びらからは瘴気が立ち上り、その茨には肉を腐らす毒がある。


「むっ?」


 少女は、毒薔薇の牢獄に捕らわれているのがただの木偶だと知り、サッと振り向いた。そこにはジュガシビリが剣を持って立っていて、少女が振り向いた途端、少女を左肩から右脇にかけて斜めに深く切り裂いた。


「ぐはっ!」


 しかし、噴き出す血と共に叫び声を挙げたのは、ジュガシビリの方だった。彼の左肩から右脇にかけて、剣で切り裂いた傷が深くついている。


「残念じゃのう。そなたが『現身』を使うことは想定内じゃ」


 少女は噴き出す血にまみれているジュガシビリをうっとりと恍惚の表情で見つめ、ゆっくりと白く細い腕を上げる。


「だ、誰に……頼まれた?」


 ジュガシビリが話すたび、血が口から噴き出る。少女はただ一言、


「私がそなたを殺したいだけじゃ」


 そう言うと、パチンと指を鳴らす。と、虚空から現れたたくさんのフクロウが、息も絶え絶えのジュガシビリに群がり、生きたまま貪り始めた。


「ぐっ……ぐええ……」


 部屋にはジュガシビリのくぐもった声が響いていたが、やがてその声は途絶えた。


「これで終わったの」


 少女は薄く笑ってそうつぶやくと、ゆっくりと部屋から姿を消した。



 深夜であった。ロザリアは一仕事終えた爽やかさの中で、夜風に吹かれながらサマルカンドの街を歩いていた。


 ……これで、アンジェリカ様の体調も良くなられることじゃろう。さすれば、サーム様との間も緊密になり、その分、エルザの影響力が落ちる。


 ロザリアはそう考えて闇の中でニコリと笑った。しかし、その笑顔はすぐに真顔に変わる。目の前に、一人の男が現れたからだ。男は、道沿いの家のドアを開け、ゆらりと道へと出てきた。その右手には金属の棒を持っている。棒には明らかに血と思われる液体が付着していた。そして左手には、被害者と思われる女性を、髪をひっつかんで引きずっている。


 男は、ロザリアに気が付くと、何も言わずに被害者の女性をその場にうち捨て、ニタリニタリと笑う。その目の焦点はあっておらず、口からはよだれを垂らしている。


「何の用かな?」


 ロザリアは静かに訊いた。男の返事は期待していないが、どういう反応を示すのかが知りたかったのだ。

 男は、ロザリアの問いに答えもせず、無言で棒を振り上げて殴りかかって来た。素早い動きだった。


「ふむ、ゾンビではなさそうじゃな」


 ロザリアは男の攻撃を難なくかわし、そうつぶやくと、黒曜石のような瞳を輝かせて目を細めた。そのとたん、彼女は12・3歳の少女の姿になる。『魔族の血』が呼び覚まされたのだ。


「ふん、特に魔力の暴走とか、そういったものでもなさそうじゃな」


 ロザリアはそう言うと、左手を男にサッと差し出す。『魔力の揺らぎ』を男に開放したのだ。男はそのまま身動きが取れなくなった。


「深夜の街で暴れられても迷惑じゃ。そのまま夜明けまでそこに突っ立っておれ」


 ロザリアがそう言って男に背を向けて2・3歩歩いたその時、


 ボシュッ!


 そんな湿った炸裂音とともに、背中にべっとりと生暖かいものが降りかかる。ロザリアが驚いて振り返ると、そこにはバラバラに飛び散った男の残骸が散らばっていた。


          ★ ★ ★ ★ ★


「……と、いうことが昨夜あったのじゃ。おかげで私のお気に入りの服が台無しじゃ」


 サマルカンドの内城城壁の上で、三人の男女が話をしていた。

 話し手の黒髪で黒い瞳の美女はロザリアといい、話を聞いているハッとするほどの美貌を持つ金髪碧眼のハイエルフがジュチ、身長は2.5メートルにもなり、額に一本の角を持ち、茶髪で茶色の瞳をした気の良い女性がジーク・オーガのリディアという。


「ふむ、話を聞いている限りでは、その男が誰かに呪われていたか、何かに精神を操られていたかのようだね。しかし、最後に炸裂するとは……なんとも生々しくていやだな」


 ジュチが癖のある金髪を形のいい人差し指でいじりながら、おぞましそうに眉を顰める。


「ロザリア、よくそんな冷静でいられたね? アタシだったら怖くて遮二無二ぶちかましちゃうよ」


 リディアもそう言って目を細めて、身体を震わせる。

 そんな話をしている時、金髪で小麦色の肌をした溌溂とした女の子が現れてロザリアに話しかけた。


「あっ、ロザ、こんなところにいたの? はりゃ、ジュッチーとリディも一緒か。ちょうどよかった。お兄様が皆さんをお呼びです。すぐに王女様の部屋に来てって」

「おお、オリザ殿か。何のご用事じゃろうか?」


 ロザリアが訊くと、オリザは首を振って言う。


「分からないけれど、いい話じゃなさそうね」



 四人が部屋に入ると、肩まで伸ばした白髪で緋色の瞳をした精悍な青年が真面目な顔をして、サラサラとした銀髪に翠の瞳を持つ女性と何かを相談しているところだった。


「ホルン王女様、ザール、入っていいかい?」


 ジュチが言うと、ホルンと言われた女性がにこやかに答える。


「呼び立ててすまないわね。四人とも入ってちょうだい」


 その声を聞いて、四人は部屋の中に準備してあった椅子に座る。何の話だろうかと緊張しているようだ。それを見て、ホルンは優しい声で言った。


「ちょっとみんなの意見が訊きたいことがあるのよ。ザール、説明して」


 すると、白髪の青年がみんなの顔を見回して静かに説明を始めた。


「このところサマルカンドの街で怪しい出来事が頻発しているんだ。普段おとなしい人が突然、凶暴になって人を殺戮して回った後、最後は自身が爆裂するということだ。僕自身はまだお目にかかったことはないが、かなり城下では噂になっている」


 ザールの話を聞いて、ロザリアたちは顔を見合わせた。


「私は昨日、その面妖な出来事に出くわしたぞ?」


 ロザリアがそう言って、城壁の上で話したことをザールに話す。ザールとホルンはその話を注意深く聞いていた。


「王女様は長らくこの国の辺境で用心棒をされておられましたが、似たような話を聞いたことがありますか?」


 ザールがホルンに訊く。ホルンは、このファールス王国で25年前に起こったクーデターの時、前国王の娘として産まれたが、国王の特殊部隊である『王の牙』の筆頭であったデューン・ファランドールのもとで成長し、デューンの死後は『用心棒』として辺境で転戦してきた女性である。


「いえ、私も今回のような事件は聞いたことがないわ。誰か、似たような事例を知らないかしら?」


 ホルンが訊くと、ジュチが


「一つ一つの事例を詳しく精査しないと何とも言いかねるけれど、精神を操られていたか呪いをかけられていたかだと思うよ?」


 そう言う。ザールも頷いた。


「そうだな。今夜辺りから僕も城下を回ってみよう」



 その夜、ホルン、ザール、ジュチ、リディア、ロザリアの五人は、それぞれ自分の受け持ちとした区画を歩いてみることにした。オリザはこの決定に不服で、


「私とお兄様、王女様とリディ、ジュッチーとロザの二人一組で回った方が、何かあった時には便利です」


 と提案していたが、事態は緊急を要するというホルンの判断で、危険を承知で怪異と出くわす可能性が高くなる方を選んだのだった。


 最初の夜、会敵したのはザールだった。時間は深夜4点(午前2時)ごろ。相手は女性で、やはり焦点が合わない目やニヤニヤ笑いなど、ロザリアが出くわしたものと酷似していた。ザールは剣で斬りつけたが、相手はどれだけ斬り刻まれても声一つ上げず地面に転がった。動かなくなった相手をしばらく監視していたザールは、時刻が5点(午前4時)を回ったころ、そいつの身体が確かに爆裂するのを確認した。


 次の日の夜に会敵したのはリディアだった。リディアも4点半(午前3時)ごろ出くわし、相手は男だった。持っていたトマホークで滅多打ちにして息の根を確かに止めたが、それでも時刻が5点を回ったころにそいつの身体は爆散した。


 さらに次の日にはホルンが会敵した。時刻は4点半で、女性だった。『死の槍』で殺さないように地面に縫い付けて監視していたが、時刻が5点を回ったころ、やはりそいつは爆散した。


 もちろん、それぞれの事例で爆散した人物のことは詳しく調べられたが、性格も温厚で真面目、仕事も職人や寺子屋の先生や針子などまちまち、年齢も10代後半から50代までと幅広く、およそ共通項というものが見いだせなかった。


 ただ、ホルンの事例で、女性が襲おうとしていた相手から、女性が凶暴化するときの様子が聞けたのが大きな収穫だった。


「その人の話では、凶暴化した女性は急に身もだえしながら耳をふさぎ、何か呪文のような言葉を発していたというの」


 ホルンがみんなにそう話すと、


「呪文のような言葉か……その人はちゃんと聞き取れなかったのかの?」


 ロザリアが訊く。ホルンは首を振って言った。


「残念だけれど、どんな言葉だったのかは分からないそうよ。ただ、聞きなれない外国の言葉のように聞こえたとは言っていたわね」

「ふーん」


 ロザリアも腕をこまねいている。それを見て、ザールが言った。


「とにかく、地道に調査すれば、この怪異の正体が分かるはずだ。みんな、もう少し頑張ろう」



 ただ、ジュチは『怪異があった場所』ではなく『怪異によって爆散した人物が住んでいたところ』を特定することで、この怪異の規則性をある程度推察していた。


 ……爆散した人物は、全部人間で、その家はボクたちが把握しているだけでも明らかに螺旋を描いていることが分かる。その他にも聞き取った事例を加えると、明らかに螺旋の中心はこの城を目指している。つまり、相手の最終的な狙いは、サーム様かアンジェリカ様、あるいはザールだ。


 そしてジュチは自らの推察に従って、その日は『ここの住人が凶暴化するはずだ』として目星をつけた家の前で待っていた。


「ふむ、別に家や土地自体には怪しいところは見受けられないな」


 ジュチはそうつぶやくと、この家に誰かが侵入するかもしれないという想定のもと、自分の姿を隠した。しかし、人通りが絶えても何事も起こらない。


「人や物などの物理的なものが家に入るわけでもないのか……すると、やはり魔法ということになるな」


 すると、時刻にして3点(午前0時)を回ったころ、不意にその家の住人が苦しみ始めた。ジュチはすぐさまその家の中に、アゲハチョウを放って様子をうかがう。


「ぐっ、くぁっ……いゃっ! くぁぁっ!」


 家の中では、20代後半と思われる女性が、耳をふさいでのたうち回っている。さらりとした栗色の髪を持つ清楚な雰囲気の女性だが、その目は何かにとりつかれたように輝き、乱れた髪はじっとりと脂汗をにじませた額に張り付いている。


「……ce pas saquva el l’es rule non pas……」


 ジュチの耳に、そんな苦しげなつぶやきが聞こえた。それを聞いた途端、ジュチは目を輝かせてつぶやく。


「そうか! この怪異の正体はあいつだったのか」


 そして、ジュチは手のひらからオオミズアオを出して命令した。


「この家の住人を、悪夢から解き放て」


 オオミズアオの大群がジュチの手のひらから飛び立ち、家の中に入り込む。そして苦しんでいる女性の回りに鱗粉をまき散らし始めた。その時、


 ボシュッ!


 突然女性は爆裂した。それを目の当たりにしたジュチは、悔しそうにつぶやいた。


「くそっ! ただの『操作術式』だけでなく、『拡散術式』と『爆裂術式』も併用していたか。味な真似を……」


 しかし、ジュチはいつものチャラい顔とは似ても似つかない鋭い目つきで、闇の中を透かしてつぶやく。


「ボクの術式を台無しにしてくれるなんて、ハイエルフの誇りにかけても貴様をやっつけてやるぞ」


 そう言うと、ジュチはオオミズアオを虚空に飛ばして、


「このことをロザリアに伝えておくれ」


 そう命令し、一人闇の中に消えていった。



 サマルカンドの北側に、低いが多くの木々に包まれた丘陵がある。その丘陵の中腹にある洞窟に、いつしか一匹のサキュバスが棲み付いていた。サキュバスは人の頭と上半身を持ち、下半身はヤギである。また、その頭にはねじくれたヤギの角が生えていた。


 だいたいは人にいたずらをして楽しむ程度であり、害を与えることはめったにないのだが、このサキュバスは違っていた。彼女は、もともとジュガシビリの孫娘だったのだ。ジュガシビリから悪魔との契約の方法を学んだ彼女は、人の良かった祖父をいいように利用して、祖父には何もお礼をしなかった人々を憎んだ。そして、強大な魔力を持つ祖父を尊敬していた彼女は、祖父が教団から破門を言い渡されたとき、悪魔を呼び出し契約を結んだ。


 そして今、彼女は祖父と共にサームを呪うべく、毎夜毎夜術式を行っていたのだった。

 サキュバスは、数日前に祖父の死を知った。自身で現場を見分した結果、恐るべき魔力を感じ、この相手が容易ならぬ人物であることを知った。しかし、彼女はすぐに行動を起こそうとはしなかった。これだけの魔力を持つ人物であれば、恐らくサームの関係者に違いなく、だとすれば自分が進めている計画をかぎつけて姿を現すに違いないと思っていたからである。


「うむ、誰かの邪魔が入ったね」


 水晶玉を見つめて呪文を唱えていたサキュバスはそう言うと、別の呪文を唱えだす。水晶玉に、今日の生贄になるはずだった女性の部屋が映った。


「ほう、『風』のエレメントの魔法か。これならエルフだね。おじいさまをやっつけたヤツの魔力は『闇』のエレメントだったから、これとは違う奴かな」


 そうつぶやきながら、彼女はしげしげと水晶玉の中を覗き込む。


「……けれど、この相手も凄いヤツだね。あたいの魔力をすっかり振り払っている。『爆散術式』を併用していなければ、この女は正気に戻っていたね、危ない危ない」


 そうつぶやく彼女の耳に、爽やかな声が聞こえた。


「なかなか剣呑な術式を使いますね」

「だれっ?」


 サキュバスは、突然、洞穴の入り口から聞こえた声にサッと振り向く。そこには、ハッとするほど美しい顔をしたエルフが立っていた。その金髪は夜目にも鮮やかに、外の月明りを反射して輝き、白い顔もまるでそれ自体が光を放っているかのように、闇の中に浮き上がっていた。


「お初にお目にかかります、お嬢さん。ボクはジュチ・ボルジギンというハイエルフの中のハイエルフです。毎夜サマルカンドを騒がせていたのはお嬢さんですね?」


 丁寧にそう言うジュチの顔は優しげに笑っていた。サキュバスはそんなジュチを見て、笑って答える。


「あら、誰かと思えばすっごいイケメンじゃない。あなたがあたいの術式をあんなに見事に破ったの? 顔だけじゃなくて術も凄いのね?」


 その言葉に、ジュチは嬉しそうに言う。


「お褒めにあずかって光栄です。お嬢さんもなかなか魅力的ですよ?」


 その言葉にサキュバスは明らかに嫌な顔をした。


「あたいはお世辞は嫌いだよ。こんな姿のどこが魅力的だい?」


 ジュチは形のいい人差し指を立てて、顔の前で振って見せた。


「ボクが言っているのは姿かたちではなく、素の姿ですよ? あなたは人間であったときは、かなりお美しく、そして優しい娘さんだったようですね?」


 それを聞くと、サキュバスは目を丸くして言う。


「エルフって、そんなことまで分かるのかい?」


 ジュチはうなずいて、微笑んで言う。


「分かっていただけましたか? で、お嬢さんにご相談がありますが」

「何かしら? あたいと()()()?」


 サキュバスは身体をくねらせながら言う。もともとサキュバスが人間に仕掛けるイタズラとは、淫夢を見せるというものである。その時に出す人間の男性の精気が、彼女たちのエネルギーとなる。

 しかしジュチはあくまで丁寧にかぶりを振って答えた。


「魅力的なお誘いですね。けれど残念ですが、その暇はありません。ボクと一緒にサマルカンドまでご同行願いたいのです」


 サキュバスは目をキラリとさせて言う。


「あたいを始末したいということね?」


 ジュチはあくまで冷静だ。


「始末というより、公平な裁判と言った方が当たっていますよ? お嬢さん」


 するとサキュバスは、身体中から禍々しい『魔力の揺らぎ』を放ちながら叫んだ。


「嘘ッ! そうやっていつも人間はあたいらを騙すんだ!」


 サキュバスは『魔力の揺らぎ』を放つとともにジュチにつかみかかろうとする。しかし、ジュチはその攻撃をオオミズアオの大群による防御で凌いだ。


「落ち着いてください。これだけのことをするのはそれなりの理由があるはず。それをサマルカンドで明らかにすればいいではないですか?」


 ジュチは冷静にサキュバスに話しかける。けれど、いったん頭に血が上ったサキュバスの耳には届かないようだ。


「あたいたちはいつも人間に利用されてばかりだったんだ! その仕返しをして何が悪い!」


 サキュバスはわめき散らしながら、ひっきりなしに『魔力の揺らぎ』を叩きつける。しかし、それくらいではジュチの防御はびくともしなかった。


「無駄なことです。諦めてボクと共にサマルカンドへおいでなさい。悪くは致しませんから」


 ジュチの余裕の言葉を聞き、サキュバスはさらにいきり立っていう。


「アンタらはあたいたちを虫けらのように思っているんだ! でも、悪魔と契約した虫けらの力を見せてあげるよ」


 サキュバスは水晶玉を引っ掴むと、両手でそれを差し上げ、ニタリと笑って


「あたいに名乗るなんて、アンタもバカなことをしたものさ。アンタの名はあたいのモノだよ。愛しいジュチ・ボルジギン、アンタの名をもってあたいの中に取り込んであげるよ。()()()()()()()()()? 早くおいでよジュチ・ボルジギン」


 そう言うと、水晶玉に呪文を唱えた。すると水晶玉の光は暗く沈み、底知れぬ闇がぽっかりと宙に浮かぶ。ジュチを防御しているオオミズアオの大群は、次々とそれに吸い込まれるようにして消えていく。


「しまったっ! 転移術式か」


 ジュチは慌てた。彼女の魔力はジュチの想定を超えていたし、その技術もかなりのものだった。あくまで話し合いでことを済まそうとしていたジュチの優しさが裏目に出たと言える。また、ジュチは自分の魔力を信じ過ぎていたともいえる。


「さあ、あんたもあたいの想念の中で()()続けなさい」

「く、くそっ。ボクとしたことが……」


 ジュチは、自分の精神を深みに落とそうとする圧倒的な力と戦い続けていたが、そこに現れてくる想念に抗い続けることは困難だった。何しろ、その者が最も好ましく思う形となってそのものを快楽へと誘うのだから。やがてさしものジュチも、サキュバスの生み出す快楽の波に、頭から飲み込まれてしまった。


          ★ ★ ★ ★ ★


「何としたことじゃ! ジュチのバカエルフが勝手に動きおって!」


 ロザリアは、ジュチからの伝言オオミズアオにより事件の真相を知ると、青くなってホルンやザールのもとに駆け付けた。


「この一連の事件は夢魔の仕業? ジュチがそう言ったのか?」


 ザールは、ロザリアの話を聞くと、部屋に引っ込んだホルンに代わって確認のためにもう一度訊く。ロザリアはうなずいて


「御意、ジュチはどうやらその夢魔を退治しに、一人でそ奴のもとに行っておるらしい。まったくあ奴は、これからザール様たちの戦いが始まるっていうのに、軍師が突出して何か間違いがあったらどうするつもりじゃ!」


 そう言って唇をかむ。普段冷静なロザリアがこれだけ感情を露にするのも珍しい。


「一人で動くなんてジュチらしくないな。とにかく助けに行こう、ザール」


 リディアがそう言って真っ先に立ち上がる。ロザリアも重ねて言う。


「私も連れて行っていただきたい。こ奴の魔力は侮れんからのう」


 ザールは両方の意見にうなずいた。


「相手がどんな能力を持っているかも分からない。ジュチのことだから抜かりはあるまいが、それでも援護が多いに越したことはない。行くぞ」


 そこに、軍装を整えたホルンが『死の槍』を携えて現れる。


「では、北の丘陵に参りましょう」


 ザールは、それを見て何か言いかけたが、すぐに首を振って


「はい、参りましょう」


 そう言った。



 ザールとリディアを先頭に、ホルンとロザリアが続く隊形で一行はサマルカンドの街に出た。しかしそこで、彼らは信じられないような光景を目にした。


「あれは、ジュチ……」


 ザールがその光景を見て絶句する。ジュチはへらへらとした笑いを浮かべ、手当たり次第に『魔力の揺らぎ』を放っている。幸運なことに時間が時間であり、引き続く事件の影響で深夜に歩く人がいなかったので犠牲者はいなかったが、場合によっては大惨事になっていただろう。


「ジュチ! アンタ、何やっているんだい? このクズエルフ!」


 見ていられない惨状に、リディアが拳を振り上げてジュチに突進する。しかし、ジュチは『魔力の揺らぎ』を放ってリディアを一蹴した。リディアは5メートルほど吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる。


「イタタタタ……ジュチ、幼馴染をよくも突き飛ばしてくれたね? 覚悟しな!」


 リディアは本気モードを出して、トマホークを虚空から呼び出す。ジュチはそれに呼応するように、ゆっくりと右手を上げて、パッと拳を開いた。それだけでリディアは動けなくなる。


「くッ! ザール、ジュチは正気じゃないよ。早くコイツの術を解いてやらないと」


 リディアが身体中から『魔力の揺らぎ』を放出しながら言う。ジュチの『バインド』を自らの魔力で断ち切ろうというのだ。


「ジュチ、そなた、少しおとなしくしておれ!」


 ショックのあまり動けないザールに代わって、ロザリアが前に出て、ジュチに強力な呪縛をかける。それでジュチは動かなくなった。


「……5点(午前4時)までに魔法を解かなければ……」


 ザールはそうつぶやくと、それ以上は言いたくないというように首を振る。


「今、3点半(午前1時)。まだ1時半(3時間)あるわ」


 ホルンはそうつぶやき、ザールたちを見回した。

 ジュチはへらへら笑ってロザリアの呪縛を振りほどこうともがいているが、ロザリアの魔力がよっぽど強いのか、しばらくは呪縛は解けそうにない。


 一方、ジュチの『バインド』で自由を奪われているリディアだが、その強烈な『魔力の揺らぎ』の放出により、もう少しで呪縛は解けそうであった。しかし、かなりの魔力を使うはずなので、彼女とロザリアはこのままジュチのもとに留めておいた方が良いとホルンは判断した。


「ロザリア、リディアが呪縛を解いたら、彼女と共にジュチを見張っていて」


 ホルンの言葉に、ロザリアはうなずく。


「ザール、私についてきて。相手はサキュバス、あなたも男だから付け込まれるかもしれないけれど、そうなったら私は容赦しないわよ」


 ザールは、ジュチの姿を見て悲壮な顔をしていたが、ホルンの言葉に我に返った。


「心配いりません。僕のこの手でやっつけてやります」


 ホルンは、ザールの顔色が平常に戻っているのを見てうなずいた。



 サキュバスは、水晶玉を覗き込みながら悦に入っていた。


「うん、このエルフの魔力と生命力は大したものだわ。コイツは爆裂させるには惜しいわね。身も心もあたいのモノになってくれるんなら、生かしておいても損はしないわ」


 サキュバスはそう言いながら、水晶玉が放つ光をうっとりと見つめていた。その光を受けると、サキュバスはヤギとの合いの子のような姿から見目麗しい女性へと変化する。それがたまらなく嬉しいらしく、サキュバスは何度も姿を変えては楽しんでいるようだった。


「あたいも昔はこんな姿だったけれどなあ。男の子ともいっぱい遊んだけれど、今じゃこんな様だから誰も相手にしちゃくれない。あ~あ、契約なんてしなきゃよかったな」


 そう寂しげにつぶやいたが、すぐに頭を振って自分に言い聞かせるように言う。


「いや、あたいをこんな姿にしたのは人間じゃないか。じいちゃんだってひどい目にあわされて……だからあたいはもっともっと人間に仕返ししなきゃいけないんだ」


 彼女がふと水晶玉の端を見ると、そこには彼女の洞窟を目指す銀色の髪と翠の瞳を持つ美女と、白髪に緋色の瞳を持つ精悍な青年の姿が映った。


「おや、この男は『白髪の英傑』と言われているザールじゃないか? とすると、こちらの女が噂の王女様かい? おや、ドラゴンのこどもも連れているね」


 サキュバスは、水晶玉に映るザールとホルンとコドランを見てつぶやいていたが、やがてニタリと笑うと、


「うん、どうせあたいのことをやっつけに来るんだろうから、この二人とちょっと遊んであげようっと。白髪のザールがどれほどの男か、見てあげようかな。まずは、このチビドラゴンが邪魔だね」


 そう言って、水晶玉を見つめて呪文を唱えだした。



 北の丘陵に向かったホルンたち三人だが、丘陵の登り口に差し掛かった時、


『ホルン、何かが来るよ。空気が変に震えている』


 コドランが真っ先に異変に気付く。ホルンはうなずくとコドランに言った。


「肩に止まっていいわよ? 飛んでいたら危ないかもしれないし」

『大丈夫だよ。ぼくが上にいれば、ホルンたちも相手の陣形が分かりやすいんでしょ?』


 コドランがそう言った刹那、コドランの近くにぱっくりと空間の『ひずみ』が口を開け、


『わわっ!』


 コドランは、空間の『ひずみ』に引き込まれてしまう。


「コドラン!」


 コドランの異変を感じたホルンがそう叫ぶが、『ひずみ』は口を閉じてしまっていた。


「コドラン! 返事して!」

「王女様、コドランはこどもでもシュバルツドラゴンです。このくらいで参りはしません。今できることは、一刻も早く奴を倒すことです」


 ザールがホルンに言うと、ホルンは唇をかんでうつむく。ややあって顔を上げて言う。


「……そうね、行くわよザール」

「はい」


 ホルンはザールの先に立って歩きだす。


「! ザール、来るわよ」


 ホルンは周囲の空気が微妙に変化したことに気付いた。ザールもうなずいて言う。


「サキュバスでしょう。『魔力の波動』を感じます」


 すると、周りの空気がざわめき、虚空から100体ほどの髑髏が姿を現した。髑髏の兵士は、手に剣を持っている。


「王女様、下がってください!」


 ザールは『糸杉の剣』を抜くとそう叫んで髑髏に斬りかかる。しかし、髑髏を確かに捉えたと思われる『糸杉の剣』は、ザールの手に手ごたえを残さなかった。


「斬れない?」


 ザールは『糸杉の剣』を振り回すが、その剣は空気を斬る音を空しく響かせるだけで、相手にはかすり傷一つ与えられない。


「やっ!」


 ホルンも『死の槍』で加勢するが、槍はまるで煙か幻影を相手にしているように、一向に手ごたえを感じない。

 と言って、相手の攻撃が届かないわけではない。現に、ザールは相手の剣を弾いているので、剣だけは実体であるようだ。


 ……これは厄介ね。と言ってコドランまでいなくなった今、いつまでもこいつらと遊んでいる時間はないし。


 ホルンがそう焦れて来た時、


「はっ!」


 同じような考えだったのだろう、ザールは『糸杉の剣』に自分の『魔力の揺らぎ』を込めて振り払う。今度は相手に届いたようだ。髑髏が手に持った剣と共に消し飛ぶ。


「王女様、『魔力の揺らぎ』を込めてください!」

「そうね、私も真似させてもらうわ」


 ホルンは、ザールの笑顔にうなずき返すとそう言って『死の槍』に『魔力の揺らぎ』を込めて、


「わが主たる風よ。何物をも吹き払うその力をもちて、ここに蝟集する魔道の者たちに『Memento Mori(死を思い出さ)』せよ!」


 そう叫びつつ『死の槍』をぶうんと振り回す。その圧倒的な魔力の開放に、髑髏たちは一体残らず消し飛んだ。


「……序盤としてはまずまずね。もっとえげつない攻撃が来るかと思っていたけれど」


 ホルンが言うと、ザールは首を振って


「相手の魔力がまだ漂っています。直ぐに次の攻撃が来るでしょう」


 そう言った。


 水晶玉でその様子を観察していたサキュバスは、鼻を鳴らして


「ふん、思ったよりやるじゃないか。では、次はこうしてやる。王女がどんな顔するか、楽しみだねぇ」


 と、新たな呪文を唱えだした。



「魔力の密度が濃くなってきました。来ますよ、注意してください!」


 サキュバスの次の攻撃を感知したザールが叫ぶ。少し後ろを歩いていたホルンは、うなずいて言った。


「あなたもね、ザール」


 ザールは身体から『魔力の揺らぎ』を放出しながら進んでいたが、突然、目の前が暗くなり、深い穴に墜落するような浮遊感を感じて、思わず身を沈めた。目を見開くが何も見えず、音を奪い去られたかのように何も聞こえない。


「これは『拡散術式』の変化形だな。五感を奪う魔法か……」


 ザールはつぶやいて目を閉じる。この手の魔法なら、何度か相手にしたことはある。見えていて、聞こえていて、感じられているからこそ、突然その感覚を遮断されるとパニックになるのだということを、ザールは経験を通して知っていたのである。


 ……ならば、僕は赤ん坊になればいい。


 ザールはそう考えて、心を落ち着かせた。そして、まったく平らになった湖の水面に、わずかに波紋が広がるように、自分を包む静寂の中の、ほんのわずかな“揺らぎ”を感じ取った。


「はっ!」


 ザールは、反射的にその“揺らぎ”を『糸杉の剣』で斬り払う。すると、さっきまでの静寂が嘘だったかのように、辺りが明るくなり、物音も聞こえだした。


「いやっ! やめてザールっ! 何するのっ?」


 不意に、すぐ後ろに続いているはずのホルンの叫び声が響いた。かなり距離が離れている。ザールは驚いて、『糸杉の剣』を持ったまま走り出す。


 ……くそっ、あの魔法はただ五感を奪う『拡散術式』だけではなく、場所も移動させる『転移術式』も一緒になっていたのか。


 ザールが息せき切ってホルンのもとに駆け付けると、そこには名状しがたい光景が広がっていた。ホルンの回りを、数十人のザールが取り囲んでいる。ただ取り囲んでいるのではなく、その“幻影のザール”は素っ裸だった。それらが次々にホルンに卑猥な仕草をしつつ抱き着こうとしている。


 ホルンの方は男の裸などに免疫がないのだろう、憮然として『死の槍』を抱きしめながら、目に涙をためてただ震えている。


「王女様、それは幻影ですっ!」


 ザールは自らの『魔力の揺らぎ』を込めて、『糸杉の剣』で“幻影のザール”をただ一打ちに斬り払った。“幻影のザール”たちは、叫び声一つ上げずに消え去り、そこにはただ震えているホルンが残る。


「王女様、離れてしまい申し訳ありませんでした……王女様?」


 ザールは『糸杉の剣』を鞘に納め、まだ震えているホルンに優しく声をかけながら近寄った。そのとたん、


「いやっ!」


 ホルンは『死の槍』を近寄ってくるザールの胸に叩き込んだ。



「へー、あたいの『拡散術式』を破るなんて、さすがは『白髪の英傑』だねぇ。けれどこの王女様って幾つだい? ザールの裸くらいでパニクっちゃってさ、ウケる~。まさかまだ処女? 引くわぁ~」


 サキュバスは、水晶玉の中に映るホルンの取り乱し方に、腹を抱えて笑った。そして、ザールがホルンを助け出して近寄っていくのを、ワクワクしながら見守っていた。


「へへっ、幻影を始末されるまでは予定どおりだよ。だいたい、こんな反応をする女って、パニクって何しだすか分かんないからね。ザールもうかうかと近づくと……やったっ!」


 サキュバスは、ホルンがザールの胸に『死の槍』を突き出すのを見て、目を輝かせて身を乗り出す。しかし、それはすぐに落胆の表情に変わった。


「ちっ、運の良いヤツめ。まあいいわ、次の攻撃よ。イチャコラしている場合じゃないからね、お二人さん?」


 サキュバスはそう言って、次の呪文を唱えだした。



「いやっ!」


 ホルンは『死の槍』を、近寄ってくるザールの胸に叩き込んだ。


「……王女様、気を鎮めてください」


 ザールの声に、ホルンはハッと我に返った。そして突き出した『死の槍』の穂先を見て息をのみ、『死の槍』を手放す。


「……ザール、大丈夫?」


 やっとそれだけ言うホルンを優しく見つめて、ザールは左腕に突き刺さった『死の槍』を抜いてホルンに手渡しながら言う。その左腕には『竜の鱗』が浮かんでいた。


「大事ありません。それより王女様こそ大丈夫ですか?」

「え、ええ……あんなの、初めてだったから。取り乱してしまってごめんなさい」


 ホルンが顔を赤くして『死の槍』を受け取りながら言う。ザールの目をまともに見られないようだ。ただでさえ厄介な相手と戦っているのに、ここでホルンに『オンナノコ』になってもらっては困る。このままではいけないと思ったザールは、緋色の瞳を持つ目を細めて、力強く言う。


「王女様、僕の目を見てください」

「え、ええ?」


 ホルンは目を泳がせている。先ほどの幻影のせいですっかり動揺してしまっているようだ。そんなホルンの両肩をつかみながら、ザールはもう一度さっきより強く言う。


「ホルン、僕の目を見ろ!」

「え?……は、はい……」


 ホルンはびっくりして、それでも恥じらうようにザールの目を見た。ザールの瞳は、紅蓮の炎を映したようだったが、よく見るとその瞳孔は丸ではなく縦長で、


 ……これって、『竜の瞳』?


 ホルンは戸惑いながら思った。その戸惑いが態度に出たのであろう、ザールはうなずいて言う。


「はい、僕は『竜眼』です。そして同じドラゴニュート氏族であるあなたを守るためにここにいます。僕を信じてください。僕は、さっきの幻影とは違います」


 その声を聞いて、ホルンの目から恥じらいや戸惑いが消えた。ホルンはうなずいて


「分かったわ、ザール。あなたを信じているわ」


 そう毅然とした態度で言うと、少し小さな声で付け加えた。


「だから、もう手を放して?」

「す、すみません」


 ザールも顔を赤くして、ホルンからサッと離れる。そこに、サキュバスの次の攻撃が来た。



「……サキュバスめ、えげつない手を使いやがって」


 ザールは思わず呻いた。次の攻撃の相手は、ジュチだった。何十人ものジュチが、あの秀麗な顔に人懐こい笑顔を浮かべて、二人の周りを取り囲む。そしてサキュバスの策略はそれだけではなかった。


『イチャコラしているところすまないけれど、お二人さん。イチャつくのは家に帰ってベッドの上でしてくれないかなあ? あたいも暇じゃないしぃ、遊んであげるのはこれで最後だよ? 言っとくけれど、このエルフは幻影じゃないよ。エルフの生命力と魔力を使って造った、あたいの“人形”だから、アンタたちが人形を壊せば壊すほど、エルフの生命力は下がっていくよ。そしてある程度下がったら、本体が爆裂って寸法だよ。あたい、この“人形”は結構気に入っているから、ここから帰ってくれたら助かるけれどなあ。その代わり、本体は爆裂させないって約束するからさ』


 そういうサキュバスの声が聞こえてきた。


「……確かに、このジュチたちには物質の波動があります」


 ホルンにしか聞こえないように、ザールがつぶやく。ホルンはそれにかすかにうなずくと、周りを取り囲んだジュチたちを油断なく見張りながら大声で言った。


「ジュチは私たちのかけがえのない仲間です。あなたのオモチャにしておくわけにはいきません。ジュチをもとに戻してください。そうすれば、私たちはここからサマルカンドに戻りましょう」

『……そいつは嫌だね。だってエルフをもとに戻したら、アンタたちはすぐあたいを征伐するだろう?』


 サキュバスの答える声が聞こえた。ということは、サキュバスはここを見ることができ、こちらの声を聞いてあちらの声も届けることができるということだ。どこかに、二つの空間をつなぐ何かがあるはずだ……ザールは、竜眼を細めて油断なく周りを見続けている。ホルンがさらに声を張り上げる。


「もう一度頼みます。ジュチは私たちの仲間で、彼がしなければならないことは多いのです。ジュチを元に戻してくれれば、私たちはここからサマルカンドに帰ります」


 ジュチたちは動かない。そのことが、ジュチたちが実体であることと、サキュバスがジュチを気に入っていることを示していた。壊されて惜しくないジュチなら、遮二無二攻撃を仕掛けさせるだろう。


 ……サキュバスもジュチのことを気に入っているのは確かね。そのことが私たちに利している。何とか、話し合いで戦線を膠着させなければ。そうすれば、ザールが何とかしてくれる。


 ホルンはさらに続けて言う。


「ジュチは、とても優しいハイエルフです。そして何でも見通します。私たちは彼のその人柄や能力をかけがえのないものとしています。親友である彼を、あなた一人のオモチャにされては困るのです。重ねて頼みます。ジュチをもとに戻してください。そうすれば、何度も言うようにここから私たちは帰ります。私は王女です、嘘は言いません」


 それを聞いて、サキュバスはジュチの言葉を思い出した。


 ……そう言えば、ジュチは“素の”あたいを『魅力的』って言ってくれたなあ。あんなこと言ってくれたヤツは初めてだったから舞い上がっちゃったけれど、あれってコイツの本心だったのか。そんなヤツを手放すのも惜しいなあ。


 サキュバスは、ホルンの言葉に共感しながらも、と言ってジュチを自分のコレクションから外すのも惜しいと思っていた。それほどの男なら、誰だって独り占めしたいと思う方が正常だ——サキュバスはそうも思った。


『あたいは確かにこのエルフが好きだよ。このエルフはあたいのことを魅力的だって言ってくれたし、あたいの本当の姿も見通してくれた。でもさあ、王女様。そんな男だからこそ、独り占めしたいじゃないかい? アンタだってザールは独り占めしたいだろう?』


 ホルンはその言葉に顔を赤くした。そして、ちらっとザールを見る。ザールはサキュバスの言葉など耳に入れていないようだ。ただ真剣に何かを探すことに没頭している。


「“好き”という感情、私にはよく分かりません。まだ男性を好きになった経験がないから……でも、“大事にしたい”という気持ちなら分かります。ザールやジュチは私にとってその“大事にしたい”仲間です。ですから、ジュチをもとに戻してください。そうすれば……」


 そう言いかけているホルンの言葉におっかぶせるように、サキュバスの言葉が響く。


『おためごかしはやめなっ! 経験がないのはアンタの勝手だよ。あたいにとってはこのエルフは王女様の言う“大事にしたい”男だよ。それとも何かい? そこのザールととっかえっこするっていうんなら、ジュチをもとに戻してやってもいいよ?』


 サキュバスも少し焦れているようだ。ホルンはサキュバスの提案に言葉を失った。ザールと交換? それも嫌だけれど、ジュチがこのままでは困ると思う気持ちと少し違う、この心の痛みは何だろう?


『……どうする、王女様。ジュチをこのままにしてサマルカンドに帰れば、ジュチの本体は見苦しく吹っ飛ばしたりはせずにそのままにしておいてやるよ。それか、ザールをここに置いていきな。ジュチと交換さ。どっちがいい?』


 黙っているホルンに迫るように、サキュバスの声が響く。ホルンは眉を寄せて考えている。ジュチとザール、どちらかを選ぶとしたら、私は……。


「王女様、『次元のひずみ』を見つけました。攻撃します」


 ホルンの耳に、ザールの低い声が聞こえた。とともに、ザールは目に留まらぬほど素早く動き、ジュチたちの向こう側までジャンプすると、小さな、本当によく目を凝らさないと見逃してしまうほど小さな『ひずみ』に左腕を突っ込んだ。


「くっ!」


 ゴゴゴゴゴ……


 空間が震える。ひずみには恐るべき魔力が込められているのだろう、ザールの左腕が突っ込まれた空間から、何本もの稲妻が光り、ものすごい暴風が吹き出してくる。


『何するんだい! やめなよ!』


 サキュバスの慌てた声が響く。


「サキュバス、お前の思いどおりにはさせないぞ!」


 ザールは暴風に吹き飛ばされそうになりながらも、そう叫んだ。そしてその時、ザールの左腕が青白く光りだし、


 キーン!


 耳をつんざくような甲高い金属音とともに、空間の『ひずみ』は『竜の腕』に無残に引き裂かれる。それとともに、ジュチたちは糸が切れた人形のように、全員がその場に崩れ落ちた。


『何てことするんだい! あっ、いやっ、やめてっ!』


 心なしかサキュバスの声が弱々しい。


「おおーっ!」


 ザールの雄たけびとともに、『竜の腕』は『ひずみ』から引き抜かれる。その手には、サキュバスが引きずられていた。


「な、なんだい。ザール、アンタ人間かい?」


 肝をつぶしたようにサキュバスが震え声で言う。ザールは緋色に輝く竜眼でサキュバスを睨みつけながら、右手で『糸杉の剣』を抜き放った。


「わっ!」


 サキュバスが『糸杉の剣』の刃風に目を閉じて首を縮める。しかし、


 パキン!


 『糸杉の剣』が断ち切ったのは水晶玉だった。間髪を入れずにザールはその二つになった水晶玉を『竜の腕』でつかみ、粉々に握りつぶす。


 パキ、パキ、パキ、シャキ、シャキ、シャリ、シャリ……


 水晶玉が細かく砕けるごとに、『竜の腕』の光が増していく。しかし、その光は透き通った緑色だった。


「そなたが閉じ込めた魔力は、元の持ち主に返してもらう」


 ザールはそう言うと、『竜の腕』を倒れているジュチたちに向けて拳を開いた。そこからは数えきれないほどのオオミズアオが飛び立ち、ジュチたちにまとわりついた。ジュチたちはオオミズアオが放つ透き通った緑色の光に包まれていたが、最後の一匹がジュチに止まった瞬間、光は消え、そこにはもうジュチたちの影も形もなくなっていた。



「ザール……」


 ホルンがザールのもとに駆け寄ってくる。ザールはホルンを見つめて笑うと、もう一度引き裂かれた『ひずみ』に『竜の腕』を入れて、何かをそこから取り出した。


「コドラン……よかった」


 ホルンは、ザールからコドランを受け取って優しく頭をなでる。どこにも怪我はなさそうだ。次元のひずみに引き込まれた瞬間、気を失ったのだろう。


「さて、サキュバス。君をどうするか決めねばならない」


 ザールは『糸杉の剣』を鞘に納めながら言う。その言葉に、ホルンもハッとしてサキュバスを見つめた。サキュバスは観念しておとなしく地面に座っている。


「ふん、あたいのなにもかもを台無しにしてくれたね。さすがは『白髪の英傑』だよ。あとは煮るなり焼くなり好きにしな!」


 サキュバスはそう言うと、地面に唾を吐いてプイッと横を向いた。


「ザール、どうしよう?」


 ホルンは迷っていた。確かにこいつのやったことは許されることではない。何人も人が死んでいる。けれど、どことなくこのサキュバスには、本当は素直なくせに無理に強がって、自棄になっている部分が見えた。そこがホルンを迷わせていたのだ。


「……お前、悪魔と契約したのか?」


 ザールが言う。サキュバスはねじくれた角を持つ頭をこちらに向けて言った。


「そうさせたのはアンタら人間さ! あたいはじいちゃんと平和に過ごしていたんだ。じいちゃんだって人のためになることを喜んでいた。だけどじいちゃんが破門になってから、あたいたちはみんなから爪はじきにされて、その日を暮らすことも難しくなったんだよ!」

「そなたの祖父はジュガシビリか……噂ではあるが、あまり良くない話も聞いているぞ。特に僕の母上に対してのな。その点は申し開きができるか?」


 ザールは緋色の瞳に批判の色を込めて言う。サキュバスはかぶりを振った。


「その点は噂どおりさ。何も弁解しないよ。弁解するとしたら、あたいはそんなことしていないってことさ」

「……その言葉は信じよう」


 ザールが言うと、サキュバスは驚いた顔でザールを見上げて訊いた。


「へ? あたいみたいな魔物の言うことを信じるのかい?」

「魔物だろうと人間だろうと、その言葉が真実なら信じねばならない。僕はそなたの言葉に真実を見た、だから信じる。それだけのことだ」


 ザールは力強く言って、続ける。


「そなたの悪魔との契約はどんな契約だ。契約書はあるか?」

「あ、ああ。コイツがなければあたいは死んじまうからね」


 サキュバスは着ていた服の内ポケットから、古びた羊皮紙を取り出してザールに渡した。ザールはそれをざっと見て、厳しい目でサキュバスを見据えて訊く。


「……この契約が破棄されれば、そなたがしてきたことは契約の時にすべて遡る。そなたの魔法で害を被ったものは元通りになる。ただし、そのためにはそなたはサキュバスの姿のままでいなければならない。罪をそのままにして元の姿に戻るか、罪なき世界にサキュバスの姿で飛び込むか、どちらを選ぶ?」


 サキュバスはしばらく考えていた。しかし、案外とすっきりした表情で答えた。


「あたいはこのままの姿でいいや。あたいの魔法で害を被った人たちを元通りにしておくれよ」


 ザールはうなずくと、目を閉じた。また左腕が青白く光りだす。ザールはその『竜の腕』で契約書をつかんだ。悪魔の契約書はザールの『竜の腕』の上で燃えだし、やがて燃え尽きて灰になり、折からの風で吹き飛ばされた。


「……これで終わりました」


 ザールが、ホルンを振り向いて報告する。ホルンは今までのやり取りを見て、うなずいて言った。


「ご苦労でした、ザール。これで何もかも元通りですね?」

「はい、このサキュバスを除いては、ね?」


 ザールがサキュバスを見て言う。ホルンはうなずくとサキュバスに問いかけた。


「あなた、名前は?」


 サキュバスはホッとしたように答える。


「シャロン」

「そう。シャロン、あなたは元の姿に戻ることを諦めて、みんなのことを大切にしてくれたのね。それがあなたの“素の姿”だとしたら、ジュチがあなたのことを『魅力的』と言った意味が分かります。私たちはあなたに何をする権利もないわ。これから好きにしなさい」


 そう言うと、ポカンとしているシャロンに背を向けて、


「ザール、帰ります。警護をお願い」


 そう言って歩き出す。

 ザールは、まだ座っているシャロンに優しい顔で


「そなたの『悪魔の契約書』には、まだ続きがある。そなたのその姿は、元の姿に戻ることを諦めた場合、すべてを元通りにする代わりに悪魔がかけた呪いだ。だから、術式さえ判明すればそなたは元の姿に戻れる可能性はある。そのことをそなたのために教えておこう」


 そう言うと、ホルンの後を追って走り出した。


          ★ ★ ★ ★ ★


 次の日、みんなはザールの部屋で『ジュチ生還のお祝い』をしていた。


「この度は面目ない。このハイエルフの中のハイエルフたるボクが、あの程度の術式に引っ掛かってしまうなんて」


 ジュチが恥ずかしそうに頭をかく。それに辛辣な意見を述べたのがリディアとロザリアだ。


「まったく、アタシたちがどれだけ心配したと思う? それに時間が時間だったからよかったけれど、一つ間違えば大惨事だったよ?」

「ほんに、そなたは不本意だが他に替えられぬ軍師なのじゃから、自分の力にうぬぼれて勝手な行動をしてもらっては困る。あのまま身体がバラバラになっていたらどうするつもりだったのじゃ?」


 ジュチは面目なさげに頭をかいている。いつもどおり、ザールがそれをとりなした。


「まあ、ジュチとしてはあのシャロンとか言うサキュバスを説得できる自信があったんだろう? 聞かせてくれ、どうやって説得する予定だったんだ?」


 するとジュチは、笑って言った。


「そんなものはなかったさ。ただ、ボクの術式を裏をかいて破った奴だから、興味がわいたんだよ」

「えっ? そんな理由で勝手な行動をとって、アタシたちにあれだけ心配かけたって言うのかい? ふざけんじゃないよ! アンタ、やっぱりトマホークでバラバラにたたっ斬ってやる!」


 リディアが右手を上げてトマホークの召還準備を始める。しかしジュチは笑って続けた。


「でも、あいつの想念の中で見ていたが、ザール、もうちょっとで姫様といい感じになれるところだったのに、惜しかったな?」


 それに、リディアとロザリアが反応する。


「何々? どーいうこと? ザール、どういうことなの?」

「これは聞き捨てならぬ言葉じゃ。ザール様、姫様とどこまで行ったのじゃ? 答えによっては私も色々考えさせてもらわねばならぬ」


 二人に詰め寄られても、訳が分からずポカンとしているザールを横目に、ジュチは


「ホルン、僕の目を見ろ!」


 と、ザールの声色をまねて言う。


「あっ、あれはそんなんじゃなくて」


 それで何を言われているのか分かったザールは、顔を赤くして慌てて言い訳しようとする。そこに、


「あら、みんなもう集まっているのね? 何か私の名前も聞こえたけど」


 そう言いながら、ホルンがコドランと共に部屋に入って来た。ザールたちは慌てて口をつぐむ。そのさまを見て、ホルンは可愛らしく首をかしげて訊く。


「何、ザール? 何の話をしていたの?」

「い、いえ、何でもありません」

『ホルンの悪口言ってたんじゃないだろうね? それとかイヤラシイ話とか?』


 コドランがジト目でザールを見て訊く。


「めめめ滅相もない!」


 ザールが汗たらたらで言うと、ホルンは目をぱちくりさせて


「そう……ま、いいわ。それよりザール、どうしてジュチのお祝いをするって私に話してくれなかったの?」


 そう、すねたように訊く。その様がとても可愛らしくて、リディアもロザリアも思わず身悶えしそうになった。


「いえ、なんとな~く『お祝いをしよう』ってことになったんで、つい……」


 しどろもどろに言うザールに、ホルンは微笑みながら畳みかける。


「つい、忘れたってわけね。私って、ザールにとってそれだけの存在ってことかしら?」

「い、いえ。王女様をないがしろにしたわけではなくて……」


 ザールは必死に言い訳している。それを横目に見ながら、


「やれやれ、ザールは尻に敷かれるタイプのようだな」


 ジュチが小さな声で言うと、ロザリアとリディアがうなずく。


「そだね。アタシならザールを立てるけどね?」

「それを言うなら私もそうじゃ。しかしザール様もまったくだらしない。見るに堪えんわ」

「あっ、ザールの悪口は言いっこナシだよ、ロザリア。相手は王女様だよ?」

「ま、そう言うことにしといてやるか」

「そうだよ。それより早くご飯食べよう。コドランちゃんもおいで」

『うわ~い、お肉だぁ~』


 あっけらかんとしているリディアに比べて、ロザリアの方は心中穏やかではなかった。


「ジュチ殿、姫様のザール様に対する態度がやけに馴れ馴れしくなったと思わんか?」


 ロザリアは小さな声でジュチに訊く。ジュチは片目をつぶって笑って言った。


「そうだね、馴れ馴れしい……と言うより、絆が生まれた、ってことかな? ロザリアが心配しているような『ドロドロで爛れた男女関係』ってものじゃないよ」

「誰が爛れた関係じゃ? いちいち気に障るバカエルフじゃのう」


 ロザリアがお冠でそっぽを向くが、ジュチはまだ何か言い合っているホルンとザールの間に流れる『温かな空気』を静かに見守って笑っていた。


   (14 悪夢の反省 完)

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

日曜に投稿予定でしたが、急遽こちらをアップすることにしました。

日曜は『15 不在の鉄壁』をアップします。お楽しみに。

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