第82話 べっべつに怖くないんだからね!
ファンキー爺いは、蘭になにかを伝えて去っていく。俺はその間もずっと、身を裂かれるような激しい痛みと闘っていた。手は震え、視界もブレる。
やがて痛みが治る。
「━━ッ! はあはあ、糞ファンキー爺いめ、いつか……いつかぶん殴る!」
「洋一、もう痛みは大丈夫なの?」
「あっああ。なんとかな……」
『創造神様怖過ぎ……!』
リュイは、俺のポケットから顔を出し震えていた。
「ヨーイチ君も大丈夫そうだし、僕達もそろそろ戻るとするよ」
ケルトさんから、声をかけられた。
「神殿が建て替わってる件と、謎の砲撃の件とケイナの尻を触った件はいつか、ゆっくりと話そう。そう━━牢屋の中でね」
ウホニアさんが、笑えない冗談を真顔で言ってきたぞ。いや冗談だよな? 不敬罪で縛り首とかやだぞ? しばらくアバドンには、近付かない様にしよう。
2人は一度、頭を下げ、神殿からゆっくりと出て行く。
「アーレイは大丈夫か? ごめんな。ファンキー爺いは、頭がいかれてるから加減ができなくてさ」
「━━大丈夫なのじゃ」
抑揚の無い声で返事をするアーレイ。
「━━粗チンは、魔王の事をどう思ってるのじゃ?」
不意に投げかけれた疑問、魔王いや堺さんの事か、この世界の人からは良い印象が無くても、堺さんは恩人で、地球ではいつも優しくしてくれた。こっちに来てからも探し出して、俺を助けてくれた。
「なんだろなー。一言で言うなら恩人。でもそれだけじゃなくて、上手く言えないんだけど……ピンチの時に現れて助けてくれる俺のヒーローかな」
「━━ヒーローとはなんじゃ?」
あーヒーローじゃ伝わらないのか。うーんと
「こっちの世界でわかるように言うなら、救世主かな? 俺、何回も死にかけたんだけどその度、助けてくれてたんだよ。地球でもこっちでもな」
俺の言葉を聞くと、アーレイは俯き黙ってしまう。
「魔王なのに変な話だよな。戦うのも面倒って言ってたし、それに地球のが楽しいって言ってたし」
「━━魔王の口から真実を聞きたいのじゃ」
俺の言葉を遮るアーレイ。
「真実って、さっきのファンキー爺いの話か?」
アーレイはコクリと頷く。そりゃそうだよな。当事者が生きていて、伝手があるなら話を聞きたくもなるよな。自分の両親の死が絡んだ話なんだし。と言う訳で堺さーん! 現場の堺さーん! 応答してくださーい!
『現場って、なに言ってんのさ柊君は。直接話すって言ってもなーうーん。僕はそっちじゃ力使えないからね。ばれちゃうし、後気軽に呼びかけ過ぎね。本来魔王って魔王城にしかいないからね? フレンドリーな魔王なんて、僕だけだからね?』
堺さんは、誰にバレたくないんだ? まあ聞いても教えてくれないから聞かないけど。それに、フレンドリーな魔王は最近じゃ沢山居るのを堺さんは、知らないんだな。
それにしてもどうしたもんかなあ、俺はなにもできないしなー。
『はあ。仕方ない、アーレイちゃんの頭に直接、邪神の加護が降り注ぎ、僕や勇者がテューポーンにブチ切れられるシーンを見せてあげよう。柊君、彼女の頭に手を置いて』
おっ! 映像で見せるのか! 口で説明するより早いね! 流石魔王様だぜ! そこに痺れる憧れるう!
「アーレイ、今から堺さんが見た、邪神との戦いの記憶を見せてくれるってよ。良かったな」
ぽんぽんと頭を撫でてあげる。
「━━頼むのじゃ」
小さな声で、アーレイが頼んできた。俺は、アーレイの頭に手を乗せる。
『柊君、呪文を言うから正確に唱えてね?』
呪文? そんなのが必要なのか、良し堺さん任せてくれ! 早口言葉は得意だから、噛まない自信があるぜ!
『テクマクマヤコ、テクマクマヤコ、あの日あの時あの場所の……記憶をプレゼンツ!』
「テクマクマヤコ、テクマクマヤコ、あの日あの時あの場所の記憶をプレゼンツ!」
大丈夫かな? 色々な所からクーレムが来るんじゃないかこの呪文。主にカスラックとか魔女っ子辺りから……。
俺の手が、黒く光り出す
時間にして20分程立っただろうか、アーレイの瞳から涙が溢れ出す。
「アーレイ? 大丈夫か?」
「━━ありがとう」
アーレイはそう言うと、顔を隠しながら布団の中に潜ってしまった。堺さんありがとな、きっとアーレイは前を向いて歩ける気がするよ。あのふざけた呪文は絶対に必要ないと思うけど。
「なんか色々あり過ぎて疲れたなー。蘭、次の街はどうする? アバドンの国にはもう神殿無いと思うんだよなあ、レーダーの反応的に」
「んー。少しゆっくりしてからでも良いんじゃない? エルフの国へ行くなら、1回レイを連れに行かなきゃだし」
『アーレイの国にも神殿はあるんじゃないの?』
アーレイの国かあ、妖族って名前がちょっと何かホラーな臭いがするから出来ればパスしたいんだけどなあ。
「洋一、怖いんでしょ? 妖怪やらお化けが出るかもって」
うぐっ図星だがばらさないでくれよ……。
「顔の悪い坊ちゃんにも可愛らしい一面があったんですね! ワテクシ失笑でございます」
顔は悪くないし、失笑もすんな!
『なんでヨーイチは、そんなに幽霊やらが怖いの?』
「ここここ……! こっ怖くねえし! 余裕だし! タイマンはれるし!」
「『はあ……』」
二人そろってため息つくな!




