第5話 あいつは無名!?
ゴブリンは、俺に棍棒ぶつけた憎き相手でもあり、俺を苦しめた因縁の相手。今日はゴブリンとのガチのタイマン。俺は軽装備を付けて、ショートソードを装備している。なんとか装備しながらでも、動けるようになった。
リベンジマッチの監督は、蘭とレイ先生。かっこよく倒さなければ……。
「いけるいける! 俺は出来るやれば出来る子。逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ」
呪文の様に自分に言い聞かせる。何故ならめっちゃ怖いからな! また頭を殴られるかもしれないと考えると、恐怖で身体が震えてしまう。
「(なにかあったら助けるし、私達が後ろに居るからガンバガンバ!)」
古い応援だなおい。地球なら年代がバレるぞ、だが少し緊張が解れた。ありがとう蘭!
「大丈夫だからね? 落ち着いてやれば出来るわ」
レイ先生の優しい笑顔と言葉でやる気がみなぎる。
森の奥から足音が近づいて来る。
「ぐぎゃっ!」
「でたなゴブリン」
俺は震えながら、ショートソードを持ち八相の構えをする。この野球のバッターに似た構えが1番やりやすい。
「今日もぐぎゃっ! ぐぎゃっ! って元気な奴だぜ、行くぞ!」
俺は覚悟を決めて走り出し、突きを繰り出す。頭をずらし、躱されたがそのまま横薙ぎにショートソードを振るう。ゴブリンの首にヒットし、そのままゴブリンの首を斬り飛ばす。肉を斬る感触が伝わってくる。斬り飛ばされた首と目があってしまった……。
「おう……グロい」
思わず口をあんぐり開けて惚けてしまう。切断面から出る血がグロさを増す。血は紫なんだな……。
「凄いわ! ヨーイチ初討伐ね!」
レイ先生が両手を上げての大喜びだ。蘭も喜んでくれると思い蘭を見たら、蘭は上空を見て警戒をしている。
あれは危険な奴が来る時の眼、長年共にしていた俺だからこそ、気付く事が出来る本気の眼。
「GIYAAAAA」
鼓膜が破れんばかりの大きな声量、空を見ると赤い色をした、ドラゴンが頭上を飛んでいる。大きさは象以上、翼も含めたら小型のセスナ位あるぞ。獰猛な赤い瞳、大きな爪、硬そうな赤い鱗。
「あれはードッ! ドッ! ……ドラゴン!!!」
俺は大声をあげてしまう。更にはびびって腰が抜け尻餅をついた。横を見るとレイ先生も同じ様な状態になっている。這いずりながらレイ先生の前に動く、腰抜けな俺でも肉壁位にはなれるだろう。
「(はあ。仕方ないレイには見られちゃうけど、レイ以外に人の気配は辺りに無いし、私が倒すわ)」
「待て 蘭! ダメだ、危ないって、許可出来ないよ!」
「(じゃあこのまま仲良く焼かれる? 私は━━家族が死ぬのは嫌。だから信じて待ってて! )」
俺の言葉も聞かずに空に飛び上がる蘭。俺は唇を噛み締め見送る事しか出来ない。なにもできない自分の無力さを噛みしめながら上空の蘭を見つめる。
蘭はドラゴンの真上に飛び上がる。
ガスタンクと同じ位の大きな赤い岩が出現しドラゴンの背中を連続で撃ち貫く。あれは蘭の魔法か!?
岩に当たりドラゴンが苦悶の声を上げ逃げ出そうともがく。
「GIYAAAAAA!」
ドラゴンは身をよじって、蘭の追撃を躱そうとするが甘い。そんな馬鹿でかい隙を見逃す蘭ではない。
ドラゴンよりも速い速度で蘭は飛び、逃げようとするドラゴンの翼を赤い岩で更に撃ち抜いていく。
蘭に羽を穴だらけにされ、ドラゴンは浮力を失いそのまま錐揉み回転しながら地面に落下していく。
━━ズドン!
と言う大きな音と共にドラゴンは地に落ちる。どんなに弱い生き物に対しても、蘭は獲物と決めた相手には手を抜かない。
「水刃爪! 」
蘭の爪から水の斬撃が飛び、ドラゴンの首を撥ねる。だがドラゴンは首を落とされても、暫くピクピクしている、やがてピクピクも収まる、死んだのかあれ?
「ふう。洋一、終わったよ。まだ成体になってなくて良かったよ……成体のドラゴンだったら、こんなに簡単には倒せなかったしね」
蘭は少し気怠そうにしているが、蘭が戻って来たという事は、きちんと仕留めたんだろう。
腰が抜けて動けない俺に出来るのは、この場を盛り上げる事しかない!
「ナイース! イェーイ! 蘭あんたが大将ー! でも俺腰が抜けてるから、ヒールをプリプリーズ。レイ先生にもあっ」
気づいてしまう、レイ先生の股間の部分から発する聖なる水が、大きな水溜りを作っている事実を。だが俺は、こんな時どうすれば良いかを知っている。そう過去の経験から学んでいるのだ。俺はレイ先生の肩を叩きアルカイックスマイルで
「雑巾と紙どちらにします? あべし!」
レイ先生にグーで頬を殴られる。レイ先生は、涙目で顔を真っ赤にしている。
ってか痛い! 痛過ぎる、酷いよ。過去の反省を踏まえた上で俺頑張ったのに!
「なんでどうして? 何故何故WHY? 昔は大量のトイレットペーパーを皆んなの前で渡すと言う、羞恥プレイをしたからあの子は怒ったんでしょ? でも今は誰も見てないし俺もちびったし、選択肢も与えたよ?」
蘭がため息をつく。
「そう言う問題じゃないってば。洋一……なんか臭いと思ったら洋一も漏らしてたの!?」
「ちびっとね、ちびっとだけよ」
俺はいやんいやんした。冷たい眼で見られた。ちょっと涙が出た。何とか場の雰囲気を流して有耶無耶にしようとしてるのに! 全く!
「ああああの、ヨーイチ。ねえ蘭ちゃんはいったい何者なの? 喋ってるし……」
レイ先生が恐る恐る聞いてきた。
「あーなんて言うか、元神の使い、いや神獣的な? 俺の家族ですよ? みたいな?」
「しっしっし神獣!?」
レイ先生が、めちゃくちゃびっくりしてる。
俺と蘭はレイ先生に全て話した。蘭と俺は地球から来た事や、女神が如何に糞で最低で、蘭が如何に優しくて強くて、可愛くて愛らしいかを。
転生とかスキルの話は、ややこしくなりそうなので説明を省く。
「洋一のバカ! 恥ずかしいよ!」
「べぶらっ! 」
蘭は俺の頭に突撃してきた。ステータスの差だろうか、俺は吹き飛び、後ろにあった木にめり込んだ。めちゃくちゃ痛かったけどこれも蘭の照れ隠しと思うと可愛くて萌え死ぬ。
「なっなんと言うか、2人の愛が素晴らしい事はわかりました。だから、ヨーイチは黒髪黒目なのね」
遠い眼をしながらレイ先生が、言ってくれた。黒髪黒目に含みがある様な言い方が気になるけど……。
「ねえところで、ヨーイチ達の話に出て来た女神様は、なんて名前なの?」
はて? 名前? あんな奴に名前何かあったのか? いやいや名前何てないでしょう。あったとしても、ウンコマン? いや流石にそれはないか。クソビッチ、あっそうだクソビッチだ!
「確かクソビッチですよ」
俺ははっきりと言い切った。
「えっと蘭ちゃん、クソビッチって神様なの? 神様に相応しくない感じなんだけど……」
レイ先生は蘭に質問をしている。あいつは神様じゃないむしろ悪魔、いや鬼畜外道かな。
「いや、全然違う。アルテミスだよ、洋一覚えてないの?」
「うーん、痴女でドMで露出狂の変態って認識はしてる」
レイ先生の頬は赤くなっていく。レイ先生は、ウブなんだな。
「アルテミス様? そんな変態チックな神様いたかしら、聞いた事無いんだけど。私も神様に特別詳しい訳じゃないけど、そんな名前の神様は居ないはずよ?」
レイ先生の言葉で、俺の心が晴れ渡る思いになる。
「あっあいつ無名⁉︎ 偉そうにしやがって無名じゃねえか! ひーっうける、おい蘭聞いたかよ」
「(無名、あの神が? そんな事は有り得るの? 転生させたり子供に戻したり、スキルを与えられるのに? 何か嫌な予感がするなあ)」
蘭は何か深く考えていたみたいだが、俺はその時真剣に考えもせずに地面を転がりながら、爆笑していた。