第63話 貴方の名前は?
俺の尻を舐めてくるが、こいつしか乗れるラプダが居ない現状でば、こいつに決めるしか無い。暴れラプダだし……安くなるように交渉してみよう。
「そいつを引き取ってくれんなら、銀貨3枚でいいが? どうする?」
銀貨3枚かあ、地味に高いなあ。もっと安くならないかな、
「高くない? 俺にしか懐いてないんだから、銅貨1枚で良いだろ?」
「それじゃあ、おまんまの食い上げだ! せめて……銀貨2枚!」
「えー! じゃあ銀貨1枚! 引き取り量や餌代込みなんだから、良いだろ?」
「ぐっまあ良い! なにがあっても、オラに文句言うなよ!」
「言わないよ。これで契約成立だ!」
その言葉を聞いたガイナスが、何故かニヤリと笑う。
ガイナスは、ラプダの背に鞍を付けてくれた。ラプダ触り心地は、ワニ皮の様な感触だった。
「この鞍はサービスだ。お古だが無いよりはマシだろう。ラプダは頭が良いから、まあ後はなんとかなるだろ」
「サンキュー!」
俺達は、ガイナスの牧場を後にした。ラプダに乗って街道を進み始めた。現代の日本の様に、道の舗装はされていなく、路面はめちゃくちゃ荒れている。
「なあ蘭、道ってどこもかしこも、こんなにデコボコなのか?」
「そりゃそうだよ。アスファルトなんてないんだから、自分で歩かないだけマシだと思いなよ」
「ふーんそうか」
『ねえ、ヨーイチ。そのラプダ……多分銅貨1枚の価値もないよ?』
「えっ?」
リュイの言葉に思わずギョッとする。
『だって、あのおじさんヨーイチが離れた後、厄介払いが出来て金が儲かったって、小躍りしながら喜んでたし』
「ガイナアアアアス!」
あの野郎騙しやがった! ピュアな俺を、騙しやがって舐めやがって、絶対に許さんぞ! 次に会ったらジワジワとお前の毛を毟ってやる!
「まあその子、洋一にある意味懐いてるから良いんじゃない?」
『ほんとある意味よね、ちょっとアタチにはわからない価値観だけど』
ラプダが捨て犬のような目で、俺を見ている。
「あーガイナスにはいつか復讐するが、今更お前を捨てたりしねえから安心しろ」
俺の言葉を聞くと、ラプダが嬉しいのかクルクルと喉を鳴らす。
「洋一そろそろ速度を上げないと、日暮れまでに街に着かないよ」
「オーライ! ハイヨー! ラプダー!」
ラプダは物凄いスピードで、走り始めた。
「あぶぶぶふ!」
速過ぎて喋れない! 風圧で目も開けられない! 俺は、必死にしがみついた。まじで、吹き飛ばされちまうっ!
「もう少し速度を落とさないと、洋一が落っこちるわよ……あっ」
ラプダが、急ブレーキをした。俺の様な非力な人間が、急激なスピードの変化に耐えられる訳もなく、ラプダの背から吹き飛ばされ、頭から大木に激突した。
「痛ええええ!! 頭から血が! ひえええ!」
この世界で初めての大怪我を負った。原因はラプダカーの急ブレーキ。それはまるで、シートベルト無しでカースタントをこなした様な物だ。良い子は真似するなよ?
「はあ、ヒール。ラプダもわかった? 無茶しちゃダメよ?」
蘭のヒールが出来ない日本だったら、救急車で入院コースだ。そんな俺を見てラプダが頭を下げて「クゥーンクゥーン」鳴いている。多分謝罪かな?
「あーびっくりした。スピードの上げ過ぎに注意しろよ? 後、急に止まるな。俺が、危ないからな」
『ちょっと! ラプダ! アタチにも謝りなさいよ! 怖かったんだからね! 凄いスピードで空に飛ばされたし!』
ラプダはリュイを無視していた。
「コラ! ラプダ、リュイとも仲良くしなきゃだめだぞ?」
ラプダは、軽く頭を下げたが、どうもリュイとは相性が悪いみたいだな。
「蘭の言う事は直ぐに聞くのに、なんでリュイにだけ? 謎だな」
『むー! 次の街着いたらヨーイチは甘いもの買ってよね!』
そんな事を話しながら、街道をラプダカーで爆走した。
ラプダカーに揺られ半日程立つと、新しい街の門前に辿り着いた。
大きな石造りの門と、その門から街の中に入るべく、人や馬車が行列を作っていた。人種は様々で、背の低い人や高い人、獣人ぽい人やエルフみたいな人もいた。
「最後尾は……あそこかあー。結構並ぶけど仕方ないか」
「(リュイ様は、洋一のポケットから間違っても出ないで下さいね?)」
『(わかってるわよ。騒ぎを起こしたくないしね!)』
「ラプダ、良い子にしろよ?」
「ウホッ」
「お前、鳴き声がゴリラみたいだぞ?」
ゴリラがわからなかったのか、不思議そうな眼で俺を見ている。
「まあいいか。初めて自分で来た街だし、楽しみだな」
ラプダから降り、行列の最後尾に並んでいると、後ろから声をかけられた。
「坊主、珍しい色のラプダを連れてるな?」
「ん? おっさん誰だ?」
赤髪、左目に眼帯、身長は170位か? 背中には大剣を装備して、黒い革鎧を付けた、いかにもハンターなおっさん。ちょっと汗臭いから近寄らないで欲しいんだが……。
「ああ、すまねえ。俺は、探索者ギルドのアリアってもんだ、見慣れない色のラプダだったから気になってな」
「嘘だ!」
「えっ? アリアって名前にも探索者って身分にも偽りはねえぞ……? ほら俺の探索者カードだ」
何故だ、神よ! アリアって名前なら素敵な女の子だろ! しかも初めて声かけられたのが、綺麗なお姉さんじゃなくて、おっさんだなんて……!
「なにをショック受けてんのか知らねえが、そろそろ坊主の番だぞ」
「あっああ」
受付の兵士ぽい男に声をかけられる。
「この街に来た目的は?」
「観光」
兵士の目付きが鋭くなる。
「そんな装備でか?」
「装備してたらまずいのか?」
俺と兵士に険悪な空気が流れる。
「あー。ジョゼさん、こいつは、俺の連れだ。探索者ギルドに入れようと思ってな」
アリアは兵士に金を渡していたのを俺は見逃さなかった。
「なんだそう言う事か……。全く不審者かと思ったぜ。ようこそ、商業都市アリスラへ」




