第4話 俺にだけハードモードな世界
俺は、未だにゴブリン1匹1人で倒せない。レイ先生が、帰るまでに少しは強くなろうと努力をしていたが、道のりは中々に険しい。
蘭が弱らせたゴブリンを石で殴り倒す。瀕死のゴブリンの体力を削り切るのにも俺の力では時間がかなりかかる。
「蘭、いつもすまないねえ」
「ジジくさいよ洋一。頑張って! 後10体石で殴りまくるんだ!」
動けないゴブリンを、大量に撲殺し帰路に着く。死際の彼奴らの濁った眼を思い出すと嫌な気分になる…。
蘭に、お湯を張って貰い風呂に入った。蘭は家周辺の魔物をいつのまにか倒し、アイテムボックスに入れてくれている。こっちに来てから割と自由に狩りしてるな、喋れるようになり、意思疎通がしやすくなった事が大きくでているな。
蘭と契約したおかげで、アイテムボックスの出し入れは蘭が離れていても、1人で出来るようになった。
1度アイテムボックスの中に入ろうとして、蘭にしばかれたのはご愛嬌。
「洋一は、目を離すとろくな事をしないんだから!」
プリプリ怒る蘭。
「悪い悪い、ついな? ほら猫型ロボット的な事が出来るかなって思ってさ」
「それで死にかけても助けてあげないからね」
怖い事を言う蘭。恐ろしい子!
ゴブリン狩をしたり、家を改築したり壁を作ったりしてたら、あっと言う間に3日が過ぎていた。
「ヨーイチ! 帰ってきたよ!」
レイ先生が、ステキな笑顔を振りまきながら帰ってきてくれる。今すぐ抱きついてくれないかな? むしろ抱きつくか? いやでも恥ずかしいな……。
「蘭! レイ先生が帰ってきた! ひゃっほーい調味料に布団、布団!」
「洋一そんな喜ばれ方嬉しく無いからね? わかってるよね?」
蘭が若干だが、呆れている。
ちなみに家はリフォームした。平屋の3LDKに進化だ。レイ先生の部屋に俺の部屋、蘭は寝る時は俺の側に居る。台所には棚もつけ木皿とコップを置いた。
「ヨーイチ、あの私の見間違いじゃなければ……家が広くなってない?」
レイ先生が、辺りを見ながら質問をしてきた。
「えっ? もっ元からですよ」
詮索されるのは面倒だから、元からで誤魔化してみた。だけど……防犯用に分厚い石の壁で家の周りを囲った事は何故か直ぐにバレた。何故だ?
「じゃあこの壁は?」
「こっこれはそう……蘭が、土魔法使えてそれであの」
ここは、誤魔化すしかない! 唸れ俺の話術!
「蘭ちゃんの魔法なのね? それを余り知られたくないんでしょ? 蘭ちゃんに危害が及ぶかもしれないから」
レイ先生の目が鋭くなる。察しが良過ぎだよ……。
「うっそれはそのあの」
ついどもってしまう。
「良いのよ。いつか教えてね? そうだ布団とヨーイチの着替えと調味料とか買ってきたから見てみて!」
レイ先生はそれ以上深く聞く事なく、話題を変えてくれる。優しい、こういう人を女神と言うんだ。だからあいつは絶対に女神じゃない。絶対にな!
「これは……ペロッ青酸カリ!?」
「セイサンカリ? なにそれ? ただのお塩よ」
奇妙な生き物を見る目で見られた。やはり異世界、地球の鉄板ネタは通じない。
「(当たり前でしょ洋一。だから石壁はバレるって言ったのにさ。案の定バレてるし、それに洋一は、元々嘘付けないんだから)」
蘭からもお小言を頂いてしまった。俺の弱点は昔から嘘が下手で、嘘をつくと何故か必ずどもってしまうから直ぐに嘘がバレる。これ治らないかな? 異世界じゃかなり不利な気がするぞ。
「ヨーイチ、この装備を付けて剣を持ってみなさい」
レイ先生が笑顔で渡してくれた、茶色の革鎧を試しに着てみる。意外に造りがしっかりしてるな。既製品かな?
「これは軽鎧、背の低いドワーフや小さい子達が1番初めにつける防具よ。ねっ凄く軽いでしょ?」
期待に満ちた眼差しを俺に向けないで!
「かっかかか軽いですね」
重い重過ぎる、洒落にならん動けない、この世界のガキは化け物か!? 冷や汗がどんどん出て来る。
「早く動いてみて」
レイ先生、急かすのだめよ! 倒れちゃうから! あっ触らないで、押さないで、やっやばい倒れ━━━
ズシャッ俺は無様に後ろに倒れた。甲羅をひっくり返された亀の如く全く動けない、誰か起こして……
情けなさ過ぎるな俺。
「ヨーイチ! 大丈夫!?」
焦った顔をしながら、鎧を着ている俺を軽々と起こすレイ先生。奴は筋力お化けか!
「(違うよ、洋一が弱いだけだよ)」
家族の悲しい声を聞いてしまった。ロングソードは勿論、ショートソードも満足に振るえない、だって重いんだもの。唯一振えたのはナイフだった。
「俺は、今日からナイフマスターになる!」
レイ先生が、明らかに引いてるが仕方ない。使えない武器より使える武器を極めなければ!
「なっナイフマスター……まっ先ずは筋力をつけなきゃね。ヨーイチは、体力作りもしないと!」
ぐぬぬ、気を遣われてしまった。あのクソビッチのせいで飛んだハードモード、だけど俺はめげない挫けない。何故なら俺は蘭のパートナーだからな!
腕立て50回、腹筋50回、背筋50回、スクワット50回 朝と夕にランニング。その間にレイ先生の授業や戦闘訓練をして過ごしていく。
♢
修行を始めて、あっという間に30日が過ぎる。
「ヨーイチは凄いね、普通こんなに出来ないよ?私だったらへこたれちゃう」
「レイ先生、俺は蘭の家族です。守られてばかりじゃダメなんです、俺が守らないと……」
「蘭ちゃんは幸せね、こんな優しい家族がいて」
「(ヨーイチカッコつけてるけど、毎日筋肉痛でゴブリンみたいな声出すのやめてよね)」
「ぐぬぬもっと頑張らないと! 目先の目標は装備を付けてショートソードを振り回す事!」
30日間の訓練でなんとかショートソードは使える様になった、あくまで装備無しでだが。
訓練を始めて180日が過ぎた頃には装備付きでショートソードが振れるようになった。きっと蘭が修行しているうちに地道にモンスターハントをしてくれているからだろう。
チートがない俺は地道に努力するしかない。
明日はいつもの弱り切ったゴブリンではなく、ハンデ無しのゴブリンとのタイマンだ。
これだけ訓練していれば、普通は負けないはずだと、レイ先生に太鼓判を押して貰った!
オラワクワクすっぞ!