第57話 魔王と豪爺い
堺さんが、指を鳴らすと、豪爺いが俺達の前に現れた。豪爺いは突然の事にキョロキョロしている。そりゃそうだよな、いきなり連れてこられたんだし。
「豪爺い! 久々!」
「━━洋一!!」
豪爺いが凄いスピードで、俺に近寄ってくる。
「あだっ!」
豪爺いに拳骨を落とされた、文句を言おうと豪爺いの顔を見ると泣きそうな顔をしていて、俺は言葉を飲み込む。
「━━心配をかけるんじゃない!! この馬鹿者が! 無事で、無事で良かったわ」
豪爺いは、涙を流しながら、俺の頭を無骨な手で撫でてくれた。
「━━蘭よ、ここは神界だな? そこにいるのは神と地球人か? 地球人の小僧は、何故泣いている?」
「自分が地球では死んでいて、地球に戻れないと言う事実を知ったからです」
「━━ふむ。おい、魔王その事を伝えたのはお前か?」
豪爺いは、堺さんを睨んでいる。怖え!
『おー、一発で僕を見抜くなんて凄いね。流石は……御使と言った』
豪爺いが、堺さんの喉元に刀を突きつけている。
「━━子等が居る前で話す話ではない。突き殺すぞ」
『幾ら僕が今、力を一割しか使えないとは言え、君程度に遅れはとらないつもりだよ?』
やっやばい、一触即発だ!
「あっあの豪爺い! アナスタシアがそこにいるよ!」
俺は、アナスタシアを売り渡し、この場を収めようとした。
「洋一、それは一番ダメな選択肢じゃ」
蘭が深いため息をついている。だってだってなんだもん! めちゃくちゃ怖かったし!
「━━クックック魔王続きは地球でするとしようか」
『いいだろうって言いたいけど、地球に迷惑がかかる戦い方はしないからね?』
「━━ああ地球を傷つけるのは本意ではないからな」
『あっあのー私をお探しだったようですが、その私なにかしましたでしょうか?』
アナスタシアが、めちゃくちゃびびりながら豪爺いに、話しかけた。彼奴、意外と根性あるな。
「━━クックック貴様に会うのは、初めてだよ。孫はこの世界の敵と戦った。その時、孫は呪いを受けたようだな。徐々に命を蝕む呪いをな」
豪爺いは、なんで知ってるんだ? お孫さんが異世界に来た経緯はわからんが、豪爺いは、地球からどうやってきたんだ?
「豪爺い、なんで地球にいたのにお孫さんの状況がわかるんだ?」
俺の言葉に豪爺いは悲しそうな目で俺を見て一言
「━━まだ早い」
それだけ言うと、またアナスタシアを睨みつけた。早いってなんだ?
「━━孫が戦って呪いを受けた事は仕方ない。戦に出て敵を討ち、命があっただけましだ。だが貴様なら、孫の呪いを解けた筈じゃないのか? 永遠の氷を。永劫の時の中、苦しみ続け直ぐに死ぬこともできない孫を!」
『それはあの……6世代前の勇者の黒岩 悟様の事でしょうか? 邪神族と戦い、氷漬けにされた』
「━━悟を覚えていたか。そうだ悟は、誰よりも優しい奴だった。悟は敵を攻撃する事にすら、心を痛めていたはずだ。だが、こんな結果では、あまりに報われないではないか! 永遠の氷の中で閉じ込められ、1人長き時に縛られているんだぞ!」
豪爺いは刀の切っ先をアナスタシアに向けているが、刀は僅かに震えている。
アナスタシアは、豪爺いに土下座をした。
『私の力が及ばず、黒岩悟様を解放出来ず大変申し訳ございませんでした。私の力を遥かに上回る力だった為、私も方々手を尽くしたのですが……』
アナスタシアの懺悔を豪爺いは黙って聞いている、どんな心境かは推し量ることすらできない。
「━━知っていたさ! 貴様が、必死に孫の為に力を使っていた事は。だが、だが、元凶である奴等は既に死に、この怒りは何処にぶつければいい! 恨み言の1つでも言わないと気がすまなかったんだ!」
豪爺いが激昂する。
「豪爺いが探してた、回復薬って、お孫さんってこっちにいたのか……」
俺は、てっきり地球で難病にかかっているのかと思っていたんだが……。
「━━ああ言葉足らずですまん」
「いっいや俺は、別にいいんだよ! そっそうだ堺さん、蘭、2人ならなんとか出来ないか!? 」
『永遠の氷は僕には無理だな、こっちにちゃんと来て本気を出せれば、まあやれない事はないけど』
堺さんは無理か。
「私の叡智のスキルで出た答えは、創造神様の加護を得れば解呪出来るはず。……ただ、お孫さんの居場所がわからないと」
蘭! やっぱり蘭はすげえ! 半端ねえ!
「━━ッ! 蘭本当か! 孫の居場所は安心してくれ、大丈夫だ!」
豪爺いが、めちゃくちゃ喜んでるけど、事実を伝えないと。加護を得る条件を……。
「あっあの、豪爺い聞いて欲しいんだけど、蘭が、加護を得るには条件があって、創造神の神殿巡りをしなきゃいけないんだ。だから、時間がかかるかもしれないんだ……。ごめん、直ぐに助けれなくて、でも俺達旅をしてちゃんと加護貰うからだから!」
俺の言葉は、豪爺いに止められた。
「━━いや良いんだ洋一。男が、そんな情けない面をするな。希望が持てるだけでも、ありがたい」
豪爺いは俺と蘭に頭を下げた。
『あの! 私が言えた義理じゃないんだけど! どうかお願いします! 黒岩悟様をお救いください!』
今度は、アナスタシアから頭を下げられた。アナスタシアは、地面にめり込む勢いだ。
「━━洋一、危険な旅になるんじゃないのか?」
「豪爺い! 俺も男だからな、ちょっとは頑張るさ。それに邪神との戦いには強くならなきゃならないし!」
豪爺いの顔が強張る、豪爺いは優しいから俺達の心配をしているんだろうな。
「━━洋一! 邪神には近づくな。いいな? もし奴らに襲われたら必ず俺を呼べ! わかったな?」
物凄い剣幕で言われた、お孫さんの事もあるからだろうか……。
「━━そんな困った顔をするな。強くなる事や旅までは否定はしない。だが、積極的に関わろうとするな。約束だぞ? それに、神界に一時的にでも来たのは正解だ。奴等は、お前の場所を探れないからな」
「俺の居場所を探るってなんで?」
「━━お前の中にいる、邪神の因子が目当てだ。邪神の因子は、邪神の眷属に気づかれる。随分と、強固な封印をされたみたいだな。簡単に気づかれる事はないだろうが」
豪爺いは、何故か俺の中にある邪神の因子に気付いていた。その力が、封印された事も含めて。




