第53話 復活のH(ひきこもり体質)
香奈が、これから家に来て、一緒に遊びに行くと叔父さんに伝えたら。
「相手は妖か? 獣か? どちらだ!」
何故か、肩をガクガク揺さぶられた。人間の女の子だと伝えると
「ああああああ、精神修行が足りなかった! ついに犯罪者に! こいつを殺して俺も死んで世間に詫びるしかない! 誘拐なんてしおってええ!!」
頭を、思いっきりぶん殴られた。香奈が来て、俺と友達だと叔父さんに説明してくれたが、中々信じてもらえなかった。そもそも、歩いて遊びに来てるのに誘拐も糞もないだろ。
「洋一、絶対に身体に触れるんじゃないぞ? わかっているな?」
「えっうん、香奈も嫌だろうし触らないよ。普通に遊ぶだけだよ」
「それと洋一、裏山には近づくなよ? 最近猪が増えていて危険だからな」
「わかってるよ!」
俺達は、叔父さんに見つからない様に、裏山に少し近づいてみようとしたら、直ぐに見つかり怒られた。
「よーちゃん、猪って見た事あるの?」
「死んでるやつしかないなー」
「猪って怖いのかな?」
「わかんないなー」
そんな事を話しながら、2人で歩いた。流石に叔父さんの見張りは掻い潜れないから、俺達は仕方なく、裏山の下に流れる沢に来た。
「わー! 私、こんなに綺麗な場所があるなんて知らなかった!」
「まあここらは叔父さんの土地らしいから、無暗に人は立ち入れないしね。逆に香奈が、来てたらびっくりだよ」
「もう! よーちゃんは、デリカシーのかけらもないんだから!」
香奈はプリプリしていたっけな。
「ごめんって、あそこで魚でも捕まえようぜ!」
沢から流れる小川で、小魚を二人で捕まえようとチャレンジしたが、網も竿も無いから捕まえられる訳もなかったが。
この時、気付くべきだった、小川には水を飲みに動物が降りて来る可能性があると言う事。周りの木々が不自然に倒れ、獣道が出来ていた事に。
━━━━ガサガサガサガサ
「よーちゃん、なにか音がしない?」
「えっ聞こえなかったけど」
━━ガサガサガサガサガサガサ
「おっ俺にも、聞こえひっ!」
俺達の前に現れたのは、目に傷を負った猪だった。俺達よりもデカく黒い身体、猪は酷く興奮している。
「よっよーちゃん、どっどうしよ」
香奈が俺の服を掴む、掴まれた腕は、ガクガクと震えていた。
「おっおっ俺が、やっつけつける!」
俺の身体も恐怖で震えていたが、香奈を護る為に俺は前に出た。
「こっこの野郎! こっちくんな!」
牙をカチカチと擦り合わせて音を鳴らす猪。猪は、後ずさりしながら前足で地面をガリガリ擦ったりしている。
「香奈! 先に逃げて!」
手負いの獣が目の前にいるのに、俺は大声を出してしまった。
香奈が、後ろを向き来た道を走りだした。だが……香奈が走り出しだ瞬間、猪は香奈に狙いを定めた。
「来るなあああ!」
俺は、辺りにある石を投げまくったが、猪は俺を無視して香奈を追う。
猪が、自分に近付いて来る恐怖心に負け、俺は腰を抜かしその場に尻餅をついてしまう。
「いやあああああああ! 来ないでえええ!」
ドンッ
鈍い音がした。俺は、なんとか身体を動かし香奈が逃げた方を見た。
香奈が猪に突き飛ばされ、転んでいた。猪は動かない香奈に追撃をしようとしている。
「やっやめろおおおお!」
俺は、力一杯叫んだが猪は俺の方を一切見なかった。狙いは香奈
━━バンッ
聞き慣れない音がした。猪はその音に気付き、香奈から離れ、山の方へ逃げて行った。
猪が居なくなった事に安堵したが……。俺は、香奈の方へ行かなければ。だけど足は動かない、俺は這いずりながら香奈の方へ進んだ、助けなければ……。
香奈は動かない、何度名前を呼んでも、香奈は返事をしてくれない。
「かなああああ!!」
俺が、香奈に辿り着く前に、叔父さんが仲間の猟師さんと一緒に助けに来てくれた。
「叔父さん! 香奈を! 香奈を助けて!」
「あー柊さん、警察と救急隊呼んだから。ここは任せるよ」
「あっああすまない。洋一、自分で立てないのか……。背負ってやろう」
「叔父さん、香奈は!? 香奈!?」
叔父さんは何も言わなかった。その後警察と救急隊が到着し、香奈は動かないまま、救急車に乗せられていく。
叔父さんは、俺がいかに間違った行動をしたのか、丁寧に説明してくれたのを覚えている。
俺達を見つけたのは、叔父さんのところにいたクマタカの蓮華だった。手負いの猪を駆除する為に猟師の人と叔父さんは、蓮華と一緒に猪を探していたらしい。
香奈は猪に吹っ飛ばされた時、頭を強く打ったらしく、打ちどころが悪く、そのまま亡くなってしまった。
当たり前だが、香奈のご家族に人殺しと罵られた。葬儀に参加する事も、墓参りも俺には許されなかった。俺はそれから、叔父さん以外と今まで以上に関わらなくなった。失う事が怖かったから……。
友達を作る事も、恋人を作る事もなくなった……。
俺が護れなかった友人の話。
♢
『あー。それはなんと言うか』
「その時の映像を、そこでTVに話しかけてるファンキー爺に何度も何度も繰り返し脳内に流されたんですよ、殴ってる最中もご丁寧に」
ファンキー爺いは、某テレビアニメのじゃんけんに負けて本気で悔しがっている。
「私は、その時まだ洋一と知り合っていませんでした。知り合ったばかりの洋一は、鷹匠になるんだと、鬼気迫る勢いでした。私にずっと話しかけていましたし」
「蘭しか、喋る相手がいなかったからな」
「この世界では、洋一と同じ人間の友達を作ってほしいんですが……」
『ピエロの件で、引きこもりが再発したと』
「そうなんですよ」
蘭と堺さんが、可哀想な者を見る目で俺を見ている。
解せぬ。




