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第52話 薄い本はいつも、河原や山にある

洋一の過去編です


 俺は、子供の頃虐められていた。


 虐められていた理由は単純で、母子家庭で貧乏だったから。鞄や靴は汚され、隠され、時には捨てられた。それが虐めだと俺は、認識(・・)していなかった。過激なスキンシップだと思っていたからな。


 その頃、教師や母親が凄く心配して、何度も学校で話し合いをしていたのを覚えている。


 俺は、母親に心配をかけてはいけないと思った。だから過激なスキンシップをやり返してみた。これで平等、皆んな平和な気持ちになるはずだと。


 靴は、自分のもの以外全てドブに捨て、下駄箱に犬や猫の糞を一人に一つずつ入れてあげた。当然、俺の下駄箱以外に。ウンコの回収作業が、一番辛かった。臭かったし。


 体育の授業中に、順番に鞄と机に悪戯書きをした。河原で拾った薄い本に書いてあった言葉、当時は全く意味のわからなかった、言葉を机と鞄と黒板に書き連ねた。


 その頃から、誰も近寄らなくなった。教師は俺に、なにも言わなかったが、悲しげな顔をしていたのを覚えている。


 母親は狂った様に、毎日泣いていた。


 教師に対して、平等にやらなかったからだと思った俺は、教師の靴も平等にドブに捨てた。「私の新品のエアーマックソがああああ」と嘆いてた教師もいたっけな。


 何故か、俺は学校から放校と言う出入り禁止をくらった。……解せぬ。



『ちょ、ちょっと柊君? 『いたっけな?』じゃなくてあの、ごめんね、話の途中。君のやり過ぎた話は、これから重要なんだよね? それと放校処分は当たり前だからからね?』


「いえ全く。友達がいなくて、母子家庭だった事を覚えておいて、貰えれば大丈夫です。それに俺は、過激なスキンシップのお返しをしただけですよ?」


『えっ重要じゃないの!? 歪んだ君の価値観が重要なワードじゃないの!?』


 歪んだって失礼だな。


「歪んだ? 俺は、皆んな平等にしただけですけど……。師匠のとこにいた時に、お前が、やらかした事はやり返しの範疇を超えている。お前が受けたものは確かに虐めだったが、やり過ぎだって何度も言うから、虐められてたんだって気付いた位ですし」


 とりあえず、話を続けるか。


「俺は、学校に行けなくなり、母さんは、面会謝絶付きの病院に入院したとさ」


『とさじゃなくてね、ってかまた唐突にまた語り出すんだね?』


「んもー! 堺さん俺喋ってますからね! 映画館じゃマナー違反ですよ! 最近じゃスマホを弄る、クソ野郎もいるんですよ! 話すのやめちゃいますよ!」


『いやうん、そうだよね。スマホが弄りたいなら外に行けって話だよね、ごめんね。ここぞとばかりにボケ倒してるのはどうしてなのかな?』


 堺さんもわかってくれたみたいだ。ファンキー爺いさんは、俺の話に飽きたのかTVに向かい話しかけている。蘭がそれを冷めた目で見ている。



 母さんが入院し、俺は鷹匠を営む叔父さんの家に、預けられた。


「叔父さん! 今日から宜しくお願いします!」


 俺は、手ぶらじゃいけないと思い、河原で集めた宝物の薄い本を差し出した。苦渋の決断だったが、お世話になるんだし仕方ない。


「馬鹿野郎があああああああああ!!」


 叔父さんに全力で、ぶん殴られた。


「好みのジャンルじゃ有りませんブベラあるあああああ」


 どうやら、本当に好みじゃなかったらしい。


 叔父さんは、俺がした事で母がおかしくなったと言った。原因は俺の奇行だと、俺を咎めてきた。


 何故だろう、俺は過激なスキンシップをやり返しただけなのに。


 俺は、叔父さんに「学校に通いながら、精神を鍛えなさい」と。それから、学校に行きながら、鷹匠になる為の修行が始まった。鷹匠の仕事は、俺を虜にした。鷹と共に生き、鷹と共に戦うその姿に惚れ込んだ。


 友達は出来なかったが、変わりに俺は山で遊ぶ事が増えた。山は楽しかった、たまに薄い本も落ちてるし。


 山で遊ぶ事が、叔父さんにバレると何故か怒られるし、薄い本も盗られる。秘密基地を作る内緒の遊びが、また俺を山に惹きつけた。


 そこの頃俺に、学校で初めての友達が出来た。名前は佐藤香奈(さとうかな)、いつも学校で1人でいる俺に、話しかけてくれた優しい女。毒舌だが綺麗な長い黒髪。長さは腰まである。夏でも長袖を着ている変わった奴、身体も細く服もほつれが目立つ。


「ねえ、よーちゃん。よーちゃんは鷹匠になるの?」


「ああ! なるよ! 俺、叔父さんみたいになりたいし」


「よーちゃんのお母さんは?」


「よくわからんけど、俺のせいで入院したらしい。だから早く一人前になって、叔父さんに入院費返さないといけないんだ」


「よーちゃん馬鹿だもんね」


 ストレートな女の子だった、歯に絹着せぬ物言いだが、同年代で話し相手になってくれたのは香奈だけだった。


「よーちゃん、修行がない日はなにしてんの?」


「山で遊んでる!」


「今度一緒に、山に行っていい?」


「えっ? ああダメかな? 叔父さんに怒られるし」


「何で!? よーちゃん、私達友達でしょ? それともなーに? 1人でいやらしい事でもしてんの?」


「ちちちちちちち、違う! 山は、あの危ないし……」


 まずい、ついてこられたら薄い本がバレてしまう。あれはきっと、女性に見せてはいけない禁書だ。叔父さんが新しい禁書を持っていると、奥さんに、焼き払われていたし。


「よーちゃんで平気なら、よーちゃんより頭の良い私なら、大丈夫でしょ!」


「うっう〜ん。浅い場所ならなんとかなるかな?」


 この時の決断は、今でも俺は深く後悔している。


 この日この時に戻れるなら、俺は俺をぶち殺したい。


 俺の愚かな選択のせいで、初めての友人である香奈に、会えなくなったんだから。

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