第3話 家族の証
蘭のアイテムボックスから、魚を出して焼いていく。魚は見た事がない種類だがまあ、焼けば食えるだろ。
蘭が狩ってきてくれた、角の生えたウサギをだす。毛皮を剥ぎ、ついでに焼く。捌いたことがあってよかった、血抜きもお手の物だぜ。
「角が生えたウサギなんて、初めて見たなあ。こいつにも、魔石があるな。魔石って、解体の邪魔なんだよなあ」
蘭が、作った石のナイフで解体していく。解体が終わったウサギの魔石と角を、蘭が出しているアイテムボックスにしまう。
「ちょっと、ヨーイチ! 今の角ウサギでしょ!? それにアイテムボックスのスキルって貴方……」
レイ先生が、あたふたしてる。なにかまずかったのかな?
「レイ先生? どうかしましたか?」
「ヨーイチ、良く聞きなさい。アイテムボックスは他言無用、人に知られてはダメ! バレたら奴隷にされて使い潰されるわよ。アイテムボックスは非常に貴重なスキルなの。1万人に1人のレアスキルなの。上手くいけば一財を稼げるわ。だけど大半は国に囚われ死ぬまで奴隷にされるわ。奴隷なんて嫌でしょ?」
額に冷や汗を掻きながら、早口で話すレイ先生。マシンガンレイ! 新しいアニメのタイトルになりそうだな。
いかん、思考が逸れた……。レイ先生が言うには、アイテムボックス持ちは、強制労働パターンか。異世界怖えよ、奴隷まであるのかよ。俺、出来ればひっそりと蘭とここで過ごしたいな。強制労働なんて落ちは避けたいし。
「それに、角ウサギは滅多に狩れないのよ。警戒心が強すぎて、出会える事すら稀だわ。肉は最上級に美味くて、さらにその角は金貨1枚になるのよ! 魔石に関しては値がつけられない程の価値よ!」
レイ先生、もしかして怒っているのかな? さっきから、怒鳴りまくりだし。金貨1枚が如何程の価値か、俺にはわからないけど、価値があるならレイ先生に角を上げて、好感度を上げて怒りを鎮めよう。
蘭がいつのまにか沢山狩ってきてくれたから、まだまだ角ウサギの在庫はあるし。
「レイ先生、これ授業料です。こんな物しかあげれなくて申し訳ないんですけど」
アイテムボックスから角を出して、レイ先生に渡す。レイ先生の表情は、氷の様に固まっていた。
そう言えば、アイテムボックスって便利だよなあ。腐らないし、取り出したい物が直ぐ分かるし。
「ちょちょちょちょちょっちょちょっちょちょっちょちょっ」
レイ先生が、不思議なポーズで変顔をしながらちょっちょって連呼してる。異世界流の御礼だろうか? それとも受け渡しの時に言うのかな、よし俺も真似しよう。
「ちょちょっちょちょっちょちょっ」
俺のはラッパーのポーズ付きだ。チェケラッチョ! YO YO
「真似しない!」
怒られた、何故だ? げせぬ。後ろで蘭が、ため息をついてるのがわかる。
「金貨1枚って、私今言ったよね?」
「ええ、聞きました」
「金貨1枚よ? 何処の世界に金貨1枚を会ったばかりの人にぽんと渡す人がいるの!」
「ここに?」
「ここにじゃなああああい!」
レイ先生は、情緒不安定なのかな? 男にはわからないストレスがあるのかな? 女の人は色々大変だなあ。
女の神秘について考えてたら、急にお金の授業が始まった。
銅貨が一番安く、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚らしい。金貨を稼げるのは高ランクの探索者や一流の傭兵か貴族、後は一部の商人だけらしい。普通の人はだいたい月に銀貨10枚稼いでたら高収入。ちなみに1ヶ月暮らすのに宿代を入れて銀貨5枚で飯も付くらしい。
異世界の金銭感覚はよくわからんな。ん?って事は今ある角ウサギの在庫は20羽、あれ俺お大臣様じゃね? ウサギ大臣見参!
「なに、ニヤニヤしてるの! こんな高価な物は頂けません!」
また怒られた……。レイ先生、怒り過ぎだってばよ。
「いっいや……授業料ですし、あっそうだ! 生活用品が無いんですよ。レイ先生が、暮らすにしても、何も無いと困るでしょ? だからそのお金使ってください。布団も何も無いので苦労かけちゃいますし」
レイ先生は腕を組み、考え始めた。考え事を始めると途端に無言になるから、レイ先生はわかりやすい。
「わかったわ。これは、2人で暮らす日用品の費用として預かっておくわね。私は、1度宿に戻り、引き払って日用品を買いに行って来るわ。私には、アイテムボックスのスキルが無いから、魔道具のアイテムボックスを使うわ。それ程大きな物は入らないけど、布団と日用品と、ヨーイチの服位は入るからね。その間、ヨーイチは良い子に待ってるのよ?」
レイ先生は、納得はしてないが、諦めたんだろう。眉間に険しいシワを作っているのが、納得してない証拠だ。
魚と肉を焼くか。ウサギ肉めちゃくちゃ良い匂いだな。血抜きもしてくれてるし、蘭は気がきくなあ。
「とりあえず焼いただけだけど、魚焼いたのと角ウサギのステーキです」
蘭は、焼かない方がいいと言うので生肉と生魚をあげた。お腹壊さないよな? 木で作った、簡易的なお皿と箸をレイ先生に渡した。レイ先生は、箸を不思議そうに眺めていた。
「頂くわ」
言葉と同時に、箸を肉にぶっ刺して食べている。中々に豪快だ。異世界には箸の文化は無いんだろうな。
レイ先生を、観察していると
「そんなに、女性が食べてるところを見つめちゃダメよ? 恥ずかしいからね 」
顔を赤らめたレイ先生は、凄く可愛かった。おかずになるな! 子供ボディじゃ、なにもできないけどな!
肉と魚を食べた先生は、立ち上がり
「ヨーイチ、私は2、3日中には戻るから蘭ちゃんと仲良くね?」
レイ先生は、こちらが見えなくなるまで笑顔で手を振ってくれた。後ろ向きで歩くのは危ないんだぜ?
「いってらっしゃーい!!」
レイ先生の笑顔は、破壊力がヤバ過ぎるな。
「蘭、ラッキーだよな良い先生で。やっぱり運だけは良いみたいだぜ!」
「洋一、今のうちに私と契約をしておこう。契約すれば私達は、チームだ。私が倒したモンスターの経験値も多少だけど、洋一にも分配される。私を契約した使い魔って事にしておけば、意思疎通が出来ても不思議じゃないし」
「おおー! ゲームみたいだな! でも使い魔って言いかたとか……契約は、俺はやだなあ。だってさ……蘭は俺の家族じゃん? この世界で2人きりのさ」
俺は、使い魔の契約は形だけでも嫌なんだ……。蘭は家族だし、ずっと一緒に居た最高で、最愛のパートナーだから。
「ありがとう洋一。呼び名が嫌ならそうだなあ、家族の証にしよう、洋一と私2人だけの地球家族だ」
何て素晴らしい造語だ!
「地球家族! 良いね良いね! 誰に聞かれても俺は、蘭を家族だって、誇りを持って言うからな!」
「私も! 洋一手を出して」
洋一は左手を出す。何時も蘭を据える左手を。
「これが家族の証、私達家族の紋章だよ」
洋一の左手に黒い鷹の絵が描かれ、蘭の額にも同じ黒い鷹の絵が描かれている。
「改めてよろしくな! 蘭!」
「よろしくね、洋一」
俺は喜びまくって、家の中でローリングしまくっていた。