第44話 発狂田舎娘
俺が目覚めてから、皆んなが会いに来てくれた。ここにピエロは、現れてないらしい。
ただ紗香さんが、見当たらない。何処だろう?
「なあ……紗香さんは?」
『えーと、あの怒らない?』
アナスタシアがめちゃくちゃきょどってるし、皆んな俺と目を合わせないな……なんでだ?
『紗香さんは……神になりました? 的な?』
「は? そりゃ紗香さんは神だが」
なにを当たり前な事を言ってんだ?
『神になったから、天界にお呼ばれしてます的な?』
「は?」
神が天界で、紗香さんが神で、天界が紗香さんで? 思考が追いつかない。なにが起きたんだ?
『私は神をリストラされて、紗香さんが、めでたく神に就任しました〜おめでとう! イエイ!』
アナスタシアめ、ヤケクソになってやがるな。
「ちょうえ!? そりゃ紗香さんは、美人だし、神々しいし、神に相応しいけどさ。なんでいきなり?」
『だから、私がリストラされたの!』
神様って会社員かよ!
「神って、リストラがあるんだな……。まあアナスタシアなら仕方ないか。だけど紗香さんは、戻って来れるのか?」
『うっうーん。異例中の異例だし多分戻って来れると思うけど』
「紗香さんは、二度と地球には帰れないってとこか?」
『そうなるかな多分……。なにかの拍子に行けたりはできるかもしれないけど……』
まあそこは紗香さんと話してみないとわからないな。
「紗香さんは、納得して━━なくても言わないか、紗香さんなら。うーむ、アナスタシア天界に乗り込む方法は?お前だって、リストラされっぱなしじゃ悔しいだろ?」
俺の言葉にアナスタシアの瞳に光りが差し込む。
『悔しいよ! だけどどうにもできないのよ! 今のなんの力も無い私じゃ! 帰りたいわよ! あっ……ごっごめんなさい大声出して……』
アナスタシアが、体育座りでうつむいてしまった。
「うっうーん。まあこっちから行く方法が無いなら仕方ないか」
「洋一、行けるよ?」
「そうか蘭……行けるのか、って行けんの!?」
「紗香に、念話石を渡してるから、それを座標軸にすれば行けるけど」
やっぱり蘭はすげえ! ゴットバードだぜ!
『ええええ!! なっなんで、教えてくれなかったの!?』
アナスタシアが発狂した。身近に帰る手段があるのを、知らずに過ごしてればそうなるか。
「聞かれてないですし、紗香が望んでないから」
聞かれてないなら、仕方ないな。でも紗香さんが望んでない?
「望んでないってなんで?」
「洋一や、私に危ない事をさせたくないのよ。無理やり神界に押し入れば、争いが生まれる可能性があるからね。そ・れ・に、紗香は洋一を、一番心配してたのよ? 自分の身体も本調子じゃないのに、ずっと洋一を看病してたし」
羽で俺の胸をツンツンされてしまった。俺が、堺さんと未知との遭遇をしている時に、心配をかけてしまっていたのか……ふむ。紗香さんに会って、御礼を言わないとな。
アナスタシアは、神界に戻れるよう、蘭に懇願している。
『おねげえしますだー! 神様ー! オラを神界に戻してけろー!』
お願いの仕方が古臭いが、ロリババアだし仕方ないのだろう。元女神が神獣に向かって神様ってギャグかよ……。
「よっし! 紗香さんを迎えに行くか。帰りたくないって本心で言うなら、諦めるし。ただ、俺は一言、御礼を言いたいんだよ。だから蘭、行こうぜ!」
「仕方ない。ただ洋一、絶対に危ない事はしない、余計な事は言わない、その2つを約束できるの?」
遠足前の御約束みたいだな、まあ俺は大人だし余裕だろ。空気も読めるナイスガイだし。
『おねげえしますだー! オラも一緒に連れてってけろお!』
アナスタシアが、田舎娘全開で喚いている。訛りがキツいしうるさい。
『頼みますだー! 靴は舐めないけど、出来る事もなにもないけど、畑仕事しか出来ないけど連れてってけろー!』
畑仕事しか出来ないって完全に田舎娘だ。そこは、靴舐めでも、なんでもしますだろ。
「蘭さん! 僕も連れてってください!」
光一も、頭を下げている。光一も、紗香さんに会いたいんだな。
『私達は……いけない』
リュイがショボンとしている。この世界の精霊だからかな?
「なんで、行けないんだ?」
リュイが答えずに下を向いていると、バーニアがめんどくさそうに教えてくれた。
『僕達精霊は、この世界と精霊界以外から離れられないんだよねー。だから、神界に行く事なんて、出来ないのさ。言わば、世界に縛られた存在なんだよ。普通、他の世界に行こうなんて思わないし出来ないけどね。僕は絶対嫌だね、窯でのんびり暮らしたいし』
こいつは火の精霊の癖に、やる気が無さすぎる。もっと熱くなれよ!
「リュイ、待ってろよ! 神界土産の神界クッキーや神界タペストリー買ってくるから!」
リュイは下を向きながら、ポツポツと喋り始めた
『ヨーイチの性格だから、きっとサヤカがいないってわかったら直ぐに迎えに行くって言うって、わかってたもん。……でもアタチだって、心配してたんだもん。アタチは一緒に行けないから、護る事もできないんだもん』
俺は、拗ねているリュイの頭を優しく指で撫でた。
「リュイ、ありがとうな。流石は俺の友達だ! ちょっと行って、紗香さんと話して来て、場合によっては連れて帰って来るだけだし。危ない事はなにもないぞ?」
俺は、精一杯リュイを安心させるよう優しく話しかけた。
『━━うん、ヨーイチは、バカでスケベなんだから蘭の言う事聞きなさいよ! 約束だかんね! お土産宜しくね!』
バカでスケベって、盛大にディスられた。解せぬ。
「ここは俺を褒めるターンだろ? なんでスケベの心配をしてるの? おかしくない?」
「リュイ様、洋一の事はお任せください。物理的に止めますから」
物理的に止めたら死んじゃうからね!? 物理的はダメ絶対だからね!?