第40話 **の申し子
ピエロ野郎が来てから、勝利君の顔面真っ青になり、身体が、小刻みに震えている。多分、ピエロ野郎に虐待されてるんだろう。そんな奴のところに、帰すわけにはいかない。
「なんでしょうか? 私、今争うつもりは、無いんですけど?」
ピエロ野郎は、ニヤニヤしながら俺を見ている。
「その子を置いてけよ。怖がってんだろ? 名前からして同郷の人間だろうしな。大方召喚して、無理やりこき使ってんだろ? 見過ごせる訳ねえよなあ!」
俺は、ブチ切れ寸前だ。目の前に怯えて泣きそうな子供がいる、目の前に子供を怯えさせて笑うクソ野郎がいる。許せる訳がない!
「はてはて、なんのお、事でしょうか?」
男が、笑いながら手をあげると、ライルさんと桜さんが、その場に倒れてしまう。精霊教の2人も白目を剥き気絶している。
「てめえ、2人になにしやがった!」
「そこの、神獣と同じ様にいい、威圧しただけですがなにか? 私は、された事を返しただけですよ? 私は悪くないじゃないですか? 私はこの子の保護者ですよ? 怖いなあ」
身体を抱き、怯える真似をして、煽ってきやがる。
「うるせえ! てめえみたいな保護者がいるかよ!」
「洋一、こいつはコポォちゃんより強いから落ち着いて。一瞬でも気を抜いたら、皆んな殺されるよ」
蘭が、闘争心を剥き出しにし、ピエロ野郎を睨みながら言う。
「リュイ、バーニア、2人は……俺の後ろにいろ!」
『でっでも』
「良いから! 言う通りにしろ!」
リュイに怒鳴ってしまったが、2人は俺の後ろに隠れてくれた。精霊が狙いの奴等に、近づけるわけにはいかないからな。
「イヒヒヒヒヒ、面白い、実に愉快だ! 今日はなあああんて、素晴らしい日だ! 実験体が増えた! こんなに素敵な日は無い! あああああ! 邪神様に感謝しなければ!」
狂った様にピエロ野郎は、笑い、その場で踊り出す。
「━━でも今日はああ、ここまでです。力を出し過ぎてしまい、こわーい、こわーい、ダークエルフも近づいて来てますからね、また会いましょう。邪神の申し子さん」
パンッ
紙吹雪と風船を撒き散らし、ピエロと勝利はその場から消え失せる。
「蘭、街中だから戦わなかったんだろ? 街中以外なら倒せるか?」
蘭が、攻撃しなかったのは街中に被害を出さないためだ。蘭は優しいからな。
「鑑定も過去視も弾かれたから、正確な強さまではわからないけど、周りの被害を気にしないで良いなら多分勝てる。逃げ回られたら、厄介だけど」
「そっかなら良い、これからは街中に近寄るのはよそう。あの手の奴は、こっちが嫌でも関わってくるからな。あっ蘭2人を回復してあげてくれ」
蘭は、二人にヒールをかけると徐々に2人の顔色が良くなってくる。
「リュイ、バーニア大丈夫か?」
『僕は大丈夫だよ』
『あたちも大丈夫よ! だけどヨーイチ、その邪神の申し子って』
リュイが、心配そうにしている。
「わからん。俺に、邪神の知り合いはいないしな。クソビッチが、邪神だとしても、申し子って表現はおかしいからな。まっ! 街も楽しめたし、買い物して帰ろう」
『僕も、一緒に行くよ。ここにいたらライルに迷惑がかかっちゃうしね』
バーニアはライルの頬を優しく撫でている。
「良いのか? 友達なんだろ?」
『僕のせいで、ライルが傷つくのは嫌だからね! たまに遊びに来たらいいだけだしね』
「そっか。じゃあバーニア、これからよろしくな」
『よろしくはしないよ。君の監視も兼ねているんだから』
冷たい返事だが、そりゃそうか。あのクソ野郎が最後に言った言葉が事実なら、俺は邪神の関係者なんだし、当然監視しときたいわな。
「ああ、それでもいいさ。でも、リュイとは仲良くしてやってくれよ?」
『当たり前だよ』
『ヨーイチは悪くないよ! 悪いのはピエロと邪神なんだから、だからそんな顔しないで……』
リュイは俺のポケットに入り、服にしがみつきながら、泣いてしまった。本当にリュイは優しいな……。
「ごめん、大丈夫だからな」
リュイの頭を指で、そっと撫でる。
「街を出るのはわかったし、当面街に近づかないのもわかった。でも洋一、皆んなと暮らしている拠点はどうするの?」
「とりあえずは、魔獣の森で暮らすよ。生活用品買って皆んなの所に帰る。一度でもあいつが近づいてきたら、そん時はまあそん時だ」
「(1人で行かせないからね、行く時は一緒だから)」
蘭、ありがとう。俺が、1人で出て行く覚悟をしたのもお見通しなんだな。
「豪爺いにも連絡しとこう。やばいピエロがいて、多分地球人の子供を連れてるって」
「そうだね、警戒しておくように連絡しておくよ」
豪爺いなら、倒せそうな気もするけど街中じゃ難しいかもな。
「はー、せっかくの異世界なのになあ。殺伐としちゃったぜ。とりあえずの目標は、クソピエロより強くならなきゃだ! 次は勝利君を助けて見せる」
俺は拳を固く握った。
♢
「ごめん! 私、なにも出来なかった……」
桜さんは目を覚ますなり、俺と蘭に頭を下げた。
「それは私もよん、桜のせいだけじゃないわ」
「私、あの子を助けられなかった……。悔しいよ」
桜さんは、勝利君の事を思い涙を流していた。桜さんの肩をライルがそっと抱き慰めている。
「ロザリアには、私から念話で状況を説明しといたわ。あのピエロは精霊を捕獲して、悪い事に利用しようと、してるみたいだし」
「ありがとう蘭」
やっぱり気が効くな蘭は。
「ねえ、なんで鳥である貴女が喋れるの?」
今更な疑問を、ライルがぶつけてきた
「神獣だから?」
俺の言葉にライルの瞳孔が開く。
「しっ神獣!? えっ嘘!? 私、大変な失礼を!」
ライルが急に土下座し、蘭を敬いはじめる。
「あー。ライルやめて? 普通にして」
蘭が珍しく狼狽えている。そりゃそうだろう、オカマがいきなり土下座してきたら誰だって狼狽える。俺だって狼狽える。
「とりあえず俺達は、買い物したら森に帰るよ。桜さん悪いけど送ってくれる? 後爺いちゃんに、しばらくは来ないけど気にしないでくれって……伝えてほしいんだ」
「街から離れるでござるか?」
「いらん事が、街で起こらないように森にいるよ。ここじゃ、蘭も本気出せないしね」
そう言った俺の顔を、桜さんとライルは悲しそうに見つめていた。




