第31話 神を狙う最強の男
アナスタシアの身体は震え顔は青ざめている。その人がそんなに怖いのか?
『(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ! あいつはやばい。本気で、私を殺そうとしてる。しかもあいつのスキルは神殺し私の命を確実に狩れる! どうにかしないと! 考えろ、考えるのよ私! ピンク色の脳細胞をフル活用よ!)』
ガタガタ震えながら爪を噛んで体育座りしてる。薬物の禁断症状みたいだ。
「多分、赤髪幼女がここにいるって分かれば、直ぐに現れると思うでござるよ。あのお爺いちゃんが、今何処にいるのかはわからんでござる。たまに国に来ては、目についたアナスタシア教の修道施設を焼きはらって行くでござるからなあ」
普通に犯罪者だ!
「想像以上にやばい老人じゃんか! それに放火犯じゃん……ん待てよ? 桜さん放火だろ? 人的被害はあったんじゃないの?」
「お爺いさんがやらかした行動では、人的被害は不思議といつも0でござる。ただ神官やシスターは軒並み心を折られて、二度とアナスタシア教を名乗らないらしいでござる」
人的被害は無くても心をバキバキに折るのかよ。恐怖の爺いだな。
「怖っ! なんだよその爺いさん。アナスタシアお前なにしたんだよ」
『いっいやーあのそのえーと言いにくいんですがちょっとあの』
歯切れの悪いアナスタシアは、身体中から冷や汗をだらだら流している。脇汗すげえな。
「その様子じゃ、どうせまた適当な事したんだろ? アナスタシア、白状するなら今だ。聞いてやるから話せよ」
『いやー転移した瞬間が、あのお〜なんというかすご〜く間が悪くて……』
歯切れが悪いな早く説明してほしいんだが。
「アナスタシア様、間が悪いとは?」
『あのお爺ちゃんが、交通事故からお孫さんを救う瞬間に転移させちゃったんですよ。で救えなかったお孫さんは後遺症が残る大怪我をしちゃいまして……でもわざとじゃないのよ?』
全員の冷たい視線がアナスタシアに降り注ぐ、なんて事をしたんだコイツ。
「なんでまたそんな絶妙なタイミングで」
蘭が引いている。
「酷いでござる」
桜さんも冷たい視線をアナスタシアに向けている。
「お前、本当に最低だな」
そのお爺いちゃん悲惨過ぎるだろ。孫を助けだすタイミングってどんだけだよ……。後遺症が残る大怪我とか、復讐されても仕方ないわ。
「お前のせいで、人生狂わされたんだろ。お孫さん、めちゃくちゃ可哀想だわ」
『でもでもね。あのまま、お爺いちゃんが地球にいても、お孫さんを轢いた交通事故の相手に、逆恨みされちゃうの。それで、お孫さんがその人に殺されちゃうのよ。あのお爺いちゃん、復讐の鬼になっちゃうから』
「それはあくまで仮定で有り、未来の話だろ? その爺いさんに、お孫さんの怪我の事は?」
『映像付きで伝えました……』
こいつとことんアホだな、伝えるなよ。オーブラートに包むとかしろよ、映像付きって酷過ぎるわ!
『正直に言わないと殺すって言われたから……しかもあの人地球で剣の神って言われてた人だから、めちゃくちゃ強くて。しかもステータスが尋常じゃなくて』
「どんなステータスだよ」
『これです』
アナスタシアは、空に爺さんのステータスを映し出す。なになに? やばっ! なんだこれ!
玄同 勝正
年齢 92
レベル 1
職業 剣術師範
称号 復讐者 戦乱を生きた者
レベル1
体力 5000
魔力 3200
攻撃力 9999
防御 9999
素早さ 2000
運 100
スキル
神殺し (神を一撃で殺せる、同族は殺せない)
加護
装備
神滅刀 神に対し絶大な力を誇る
見せられたステータスは、チートとかそんなチャチな物を遥かに超越した物だった。
「強っ! やべえ光一もチートだったけどそんな次元じゃねえな。運だけなら勝てるけど」
「多分今じゃこのステータスより強くなってるはずですよね、アナスタシア様自首したらどうですか?」
『いや! 確実に死ぬ! 私、死にたくない!』
こいつ本当に神かよ……罪を認める気も無いし、我が身が第一だしこんなんが神じゃこの世界も終わりだな。
『私が死んだら、この世界は混沌に包まれるわよ!』
混沌? はったりか?
「それはないでござる、そもそもアナスタシア教は大陸でも少数派でござろう?」
うわあー直ぐにバレたよ。なんかアナスタシアがいたたまれないな。
『違うもん違うもん! 世界の終わりなんだもん! 本当に混沌に包まれるんだもん! 瘴気が溢れちゃうんだもん!』
だもんだもん、うるさいんだもん!
「思ったんだけどお前、神気無いんだからどっちみち混沌とやらに世界は包まれるんじゃないのか?」
『あっ……』
あってお前忘れてたのかよ、とんでもねえ神様だな。しかし、混沌ってなんだ? カオス? クトゥルフとかか?
「まあいいや。どの道爺いさんが来たらアナスタシアを差し出す。今なら神界に逃げ帰れないし、爺いさんも復讐ができる。俺たちも厄介払いが出来る、一石二鳥じゃないか」
「それでいいでござるな。蘭ちゃんや洋一君はアスベルク王国に来ないでござるか?」
「行く予定はないなー、俺弱いから多分旅の途中で死ぬし」
「なら私が連れてくでござるよ、3人までなら同伴できるでござる。アスベルク王国に攻め込まないって約束してくれるならでござるが」
転移でいける⁉︎ まじか! 夢の異世界の国に行けるのか! やったぜ! でも出来れば自分の足で行きたいなあ。
「国に攻め込んだら俺が死ぬ。それに蘭は、そんな無意味な事はしないよ」
「理由もないしね。アスベルク王国には、差別もないって聞くし」
「とりあえずアナスタシアは放置して、一回家に行こうぜ、桜さんにも紹介したい仲間が沢山いるし」
「お邪魔するでござる!!」
アナスタシアを放置して、蘭と俺と桜さんは家路に着いた。
『ちょっと待ちなさいよー!!』