第29話 孫娘は宝物
甲賀桜視点です
赤髪幼女の、言葉を皮切りにレベル上げと、忍術訓練に励んだ。魔王を倒しに行かないのかって? 行くわけがない。魔獣の森は、難度Sクラスの禁足地。ベテランの探索者でも避けている地域。
だから私は、ひたすら修行をした。生前? 地球でのトレーニングが好きな私には、この世界が向いていると思う。ステータスと言う指標があり、レベルもある。努力が目に見えた形で報われるって言う素晴らしい特典付き。
「そろそろ、魔獣の森にチャレンジしてみよっかなー」
「魔王が魔獣の森にいると言うのは本当なのか? 桜殿」
話しかけて来たのは最早顔馴染みになった脱糞王様だ。
「お爺いちゃん、いくら城の中でも1人でうろちょろしちゃだめでござるよ! この世界にはオムツが無いんでござるから」
「オムツがなにかわからんが御主位だぞ。ワシを小馬鹿にしとるのは」
お爺いちゃんに、怒られたでござる。
「お爺いちゃんには感謝してるよ? 初対面があれだったから、脱糞のイメージが強過ぎるだけで……」
「いきなり、兵士もろとも全裸にされてみろ! しかも信じられないレベルの殺気を向けられたし、怖かったんじゃよ!」
王様がこれで、この国は大丈夫なんでござるかなー。
「最初隠れている私の居場所を、直ぐに見つけたお爺いちゃんとは思えんでござるな」
「ははは、それを言うな。緊張せずに気兼ねなく話せるのは桜殿位何じゃよ」
そう言ったお爺いちゃんには、哀愁が漂っていた。
「魔獣の森に行っても私はここに帰って来るよ。この世界で、私に居場所をくれたのはお爺いちゃんだからさ」
「泣かせるのおー!! 儂も桜殿いや桜を孫と思っておる! だからいくら神託であろうと、魔王討伐なんて危険な事はして欲しくないんじゃよ!」
お爺いちゃんは、早くに孫娘を流行病で無くしている。私を見る目はきっと孫娘を重ねているのだろう。くすぐったいが悪い気はしないでござる。
「神託だから仕方ないでござるよ、もう1人の人は言う事聞かないだろから」
お爺いちゃんは、涙を流していた。
「わかっておる……。わかっておるんじゃがのう。魔族と戦うために、呼び出した我が国が言えた義理ではないのじゃが……」
「その話は何度も謝られたし、もう気にしてないでござるよ! そうだ明日出発だから、晩ご飯は一緒に食べるでござる」
「そうじゃなあ、今日は盛大にパーティじゃ!」
その後、王国の皆んなとどんちゃん騒ぎをした。
♢出発の朝
「装備は? 薬は? 武器は? 食料は? 水は? ハンカチは? 忘れ物は無いか?」
「ニシシシお爺いちゃん、お母さんみたい。大丈夫だよ! 無理はしないし、神様から貰った力もあるから。何かあったら直ぐに帰って来るでござるよ」
「ほんとじゃな? ほんとじゃな?」
「ニシシシお爺いちゃん小指だすでござる」
「ん? こうか?」
「ニシシシ、指切りゲンマン嘘ついたら針千本のーます! 指輪切った!」
私はお爺いちゃんと、指切りをした。
「ひいいい、なんじゃ呪いか! 針千本飲ますとは!」
お爺いちゃんが、めちゃくちゃ怯えてしまったでござる。
「ニシシシ違う違う、私の国の約束でござる。約束を破らないよーにって」
「なんじゃ、心臓に悪いわい……」
「それじゃ行って来るでござる!」
兵士や王様達に見送られ、私は出発した。
♢魔獣の森
「うーん魔獣の森の何処に居るかわからんでござるからなあ。赤髪幼女も倒して欲しいなら、ちゃんと場所を言えば良いのに」
とりあえず先ずは高い木の上から偵察してみるでござるかな。
「ニシシシ、適当に真っ直ぐ進むでござる」
木の上からモンスターを鑑定して見ると明らかにレベルが上がっている。
「モンスター強くなり過ぎでござる。私が間引いていたモンスター達よりも、平均すると40以上は高いでござる」
明らかな異常事態。とりあえずスキルで忍鳥を作り飛ばすでござる。王国に連絡するでござる。
「お爺いちゃんに伝えるでござる」
下手したら王国に被害も出るでござる。
「とりあえずトラップを撒きまくるしかないでござる。トラップだけで対処出来るとは思えないでござる、原因はやはり魔王でござるか? ヒイラギヨーイチさんが関わってるのでござるか? ありえないと思うけど」
とりあえず調査するでござる、隠遁で姿を消して調べるしかないでござる。
王国に連絡しながら森の調査を続行した。
「こんなに大変だとは思わなかったでござる、お爺いちゃんも心配してるしなあ。困ったでござる」
『ーーーーーーーだよおー!!』
「声? あの声は赤髪幼女? 近くにいるでござるか?」
私は声がする方に歩みを進めようとして、悪寒が走って私は足を止めた。
「なんでござる? この誰かに見られているような」
圧倒的な強者の気配、これがヒイラギヨーイチさん?
「こんなの勝てる訳ないでござる……。王国に攻め込まれたらお爺いちゃんや城の皆んなが……。私が、私がなんとか穏便に事を運ばないと……」
私は恐怖を押し殺しながら、強烈な気配の元へ歩いて行く。凄く怖いけど……なんとかしなきゃ。
死を覚悟する兵士はこんな心境なんだろうなあ。
だけど、私の目に飛び込んできた事実は、私の覚悟や理解を大きく超えていた。




