第1話 毛がああああ
俺と蘭は、事故で死んでしまった。クソビッチに子供に戻され、異世界に転生させられた俺は、緑色の小人達に襲われ、死にかけていた。
正に九死に一生スペシャル、そこに神獣になった蘭が、颯爽と現れ、俺のピンチを救ってくれたのだ! 蘭まじ神! ゴットバードだ!
「蘭、本当にありがとうな。俺を見捨てないでくれて。でもさ蘭、良かったのか? あんなきみが悪い魔物がいる世界に来て、性格は糞だがクソビッチの元の方が、あんぜーー痛いっ!!」
蘭に嘴で小突かれた。痛いめちゃくちゃ痛い。穴空いてないよね!? 額に穴とか天さんになっちゃうよ?
「洋一は、馬鹿なの? あんな奴のとこにいたらこっちまで頭がおかしくなるよ。人間は見下すし……洋一の事も馬鹿にするしさ。私は、洋一の家族で相棒だよ? 洋一が行く所に私がいるのは当然じゃない」
「蘭〜!! 何て良い女なんだ!! 大好きだ!! 役に立たないかもしれないけど、俺も頑張るからこの世界で2人で面白おかしく生きよう!!」
俺は涙を流しながら蘭に抱きついた。
「勿論よ!! その為に私は強くなったんだから」
「あっそうだ蘭、さっきのなんだ? 蘭が呟いたと思ったら緑色の小人の首がチョンパされたんだけど」
「あ〜あれはね、魔法なの。神獣になったでしょ? その時にどんな魔法でも使える様になったのよ」
「ままままままままじで!? うおお!! 凄いめちゃくちゃチートじゃん。蘭は、凄いなあ。流石俺の自慢の相棒。鼻が高いぜ!」
蘭が、魔法を使うと言う夢みたいな、奇跡が起きた。更には、蘭と話せるし異世界に来て良かった! だがクソビッチ、あいつは許さねえ!
「でね、そのあのね、気を悪くしないでね? 洋一のステータスなんだけど」
蘭が、なにやら言いにくそうにしている。
「おー!! もしや蘭は鑑定が使えるのか!? 優秀過ぎてやばい……!」
「洋一、お願いだから真面目に聞いて、大事な話だから」
蘭は、申し訳なそうに俺のステータスを魔導スキルで地面に投影してくれた。
♦︎
柊洋一
男 12歳
職業 無職
称号 ーー
レベル1
「12歳ってまじかよ、12歳で無職って当たり前だろ! うわ毛がなくなってる! 蘭、大変だ! 毛がなくなってるよ! どうすりゃ良いんだちくしょー!!」
顔を真っ赤にしながら俺は吠えた。
「今、重要なのはそこじゃないでしょ!!」
蘭に怒られてしまった。中身はオッさんなんだから酒も飲みたいし、ムフフな事も期待したいのに、毛すらないガキじゃどちらも出来ないんだぞ!? カンバーック俺の毛えええええ。
「はあ。とりあえず続きを見てよ」
蘭に深い溜息を付かれてしまう。
体力10
魔力 0
攻撃力5
防御5
素早さ5
運100
スキルーー
「フッ戦闘能力5かゴミめ」
「馬鹿、そんな場合じゃないんだよ。叡智のスキルで調べたら、この世界の12歳の男の子平均はオール20、女の子はオール15。洋一は平均以下の運だけの男の子って事なんだよ? わかってる?」
某サイヤ人の真似をしていたら現実を突きつけられた。
「えっまじで!? 女の子以下!? 泣ける!」
俺はショックを受け、体育座りをしてのの字を書いていると、
「洋一、今のままじゃスライムにすら嬲り殺しにされちゃうよ。だから洋一はズルみたいって思うかもだけど、私が弱らせたり動きを封じたモンスターを倒そう? とりあえず最低限の強さは必要だしさ」
「パワーレベリングかあ、でもそうかあ。俺じゃあ鍛える間に死んじゃうもんなあ」
俺は蘭に頭を下げた。
「蘭、俺が一人前になるまで、俺を鍛えてくれ! お願いします!」
「勿論だよ。とりあえずさっき倒した魔物から魔石を集めて、死体は燃やそう」
「えっ⁉︎ あのー、それパス出来たりはしないよね?」
出来れば触りたくないし見たくない
「一人前になるんでしょ!? それに生き物を捌くのなんて慣れてるでしょ」
「いっいやあ緑色の小人は人型だし、そのあの」
「良いからやる!」
蘭はスパルタだ。鬼教官みたいだ。だけどこの世界じゃこういう事に慣れなきゃいけないんだろう。せめて魔石を取るくらいは出来ないと……おええ。
俺は吐きながら緑色の小人から魔石を抜き出した。何で魔石が心臓の位置にあるんだよ、お尻とかにしてくれよ。
蘭が魔法で出してくれた水で口をゆすぎ手を洗う。
「蘭、当面暮らす為の拠点を作りたいんだけど、良い場所ないかな?」
「うーんちょっと待ってね」
そう言うと蘭は飛び上がった。蘭が戻るまで俺はめちゃくちゃ怖くて心細いのを我慢していた。
「ただいまって……なんで体育座りで震えてるの?」
「いやだってまた魔物がまた来たらと思うとな? 怖くてたまらなくてさ」
「大丈夫だよ、今この周辺に魔物はいないから。右に進んでいくと小さな河原があるからそこを拠点にしよう。魔法で家くらい直ぐ出来るからさ」
「家出来るのかあって家⁉︎ 家ってあの家だよな!? 蘭の魔法すげええええ、まじチートだな!」
俺はひたすら関心しながら頷いていた。
「さあ行くよ洋一」
蘭が示した方向に歩き始めた。程なくして開けた場所にある河原に到着する。
「でも私の魔法は内緒だよ。私に鑑定は効かないけど、洋一がペラペラ自慢したらバレちゃうからね」
「あー力は隠した方が良いもんな。バレたら厄介事に巻き込まれるし」
「そー言う事。厄介事なんて楽しく無いからね。とりあえず着いたから洋一はちょっと河原の端の方に居て。うんその辺土魔法 土の道」
蘭が唱えると河原の前の地面が綺麗になった。建築家も驚きのスピードで整地が完了する。
「創生魔法造形魔法 家作り」
蘭が次に魔法の呪文を唱えると、光の中から木製の純和風の家が出てくる。
「すげえ蘭家が出来た、中見るぞ? おおー! あそこは蘭の見張り台かな? 木製の風呂まである! あり? 蛇口は何処だ?」
俺は、はしゃぎながら蘭が作ってくれた家の中を探検していく。
「蛇口は無いよ。お風呂に入りたかったら魔法で湯を張るから言ってね。洋一先ずは食材集めだよ。川に魚を捕りに行こう」
「魚かあ、釣りなら任せろ。釣りは超得意だぜ、で竿は何処だ?」
「はあ。釣り竿なんてあるわけ無いでしょ。魔法で感電死させたのを洋一が集めるんだよ」
「ニュースで見た事あるぞ! 外来種駆除してたやり方だな。よーしいくぞ蘭!」
「洋一はのんきだなあ」
蘭は洋一の左手に停まる。
「むっ? 蘭重くなった?」
蘭に羽で頭を叩かれた、何故だ!?
「洋一はデリカシーが無いから番が出来なかったんだよ、わかってるの!?」
蘭にまで童貞をいじられるなんて、なんて日だ!
そういえば小学生の頃。女の子がお漏らしして困っていたから、トイレットペーパーを大量に渡したら何故か叩かれたな。トイレットペーパーじゃなくて、雑巾の方が良かったのかな?
「洋一、アホな事を考えてないで、川から少し離れて。近距離で感電したら最悪死ぬからね」
蘭に注意され、俺は川から離れる。
「雷魔法 電撃」
川に紫色の雷が走る。数秒もしない内に川に大量の魚が浮かび上がる。
「洋一もういいよ! 魚が流される前に回収して。横にアイテムボックスを出すからそこに入れて。洋一が間違えて入らないように、魚が入るだけの大きさで出すからね」
むむむ、確かにアイテムボックスの中には入ってみたいが、俺だって中身はオッさんだ。入るなって言われたら入らないのに。
「ほら早く早く、流れていったらもったいないよ。私が掴んだら爪で傷だらけになっちゃうからさ」
「はーい」
俺は蘭の指示通り魚を集める。
「なあ蘭、上流からどんぶらこどんぶらこと流れて来るのは何だ?」
「えっ桃太郎? 魔物の気配はないけど……あっらあ」
「あっらあっておい。あれ? 俺には人に見えるんだけど」
「人だね。多分上流に居たから感電しちゃったのかな? テヘッ」
「そうか、そうか感電なら仕方ないなハッハッハッハ」
2人は笑い合っていたが、流されながらどんどんこちらに近づいて来る。
「っておいダメだろ! 助けなきゃ! 第一異世界人が感電死はまずいって! バッドコミュニケーションだよ」
どうにか俺は流れて来る人をキャッチし、何とか川から上げる事に成功する。
流されて来たのは、金髪で小柄な女の子。明るい金色の髪の毛は鎖骨まで伸びている。水で濡れていてもわかる綺麗な髪。髪の横から覗かせる耳は、一般的な人の倍はある長さで尖った形をしている。耳には傷一つ無く綺麗な形をしている。人間とは違う種族なのかな?
顔も小さく、二重なのか緑の瞳は大きく見える。綺麗な鼻と小さな口、めちゃくちゃ顔が整ってるなあ。ビスクドールみたいだ。
凄く可愛いな。瞳も翡翠色でクリクリだし、日本にいたアイドルと比べても遜色ないし。
服は緑色を基調としていて、肩と臍と胸の露出が激しい……むっ胸がでかい! これはマウント富士だ!
腰に武器も下げてるし冒険者って奴かな?
「おーい、もしもーし!」
頬を叩いてみるが反応が無い。これは人命救助をしなければ!
「じっ人工呼吸しちゃうか⁉︎ 心臓マッサージもか!?」
落ち着け、落ち着け、ビークールだ俺。
「洋一、いやらしい」
蘭にジト目で見られた。けっけしていやらしい目的じゃなく救助目的なのに
「回復魔法 全体回復」
蘭が魔法をかけると、女の子全体が光に包まれる。
「洋一、家まで運んで。いやらしい事しちゃだめだからね? わかってる?」
「わっわかってるよ!」
だが俺の貧弱な力では背負うのは無理。引き摺る事しか出来ず、金髪お嬢様には本当に悪い事をした。服が擦り切れたり汚れたりで、けしからん事になったのは言うまでも無い。