第242話 勇者VS蘭
次の日待っていると、真っ黒の仮面に紺色のタキシードを着た男が現れた。蘭達はあれから結界を強化したのに、さらっと入って来る辺りコイツも相当な実力……ん? あれ? 緑色の髪だし身長145cm位だし……。
「お前アンラマンユだろ?」
『ワッワタスハ、そんな素敵な名前じゃございませえん!』
「あっあんなところにジャンプが!」
『えっ! こっちにジャンプあるの!?』
「やっぱりアンラマンユじゃねえか!」
後ろを向き仮面を捨てる、アンラマンユ。どう仕切り直すつもりなんだ? こっからの挽回とか俺なら無理だぞ。
『ワッハハハ! 結界硬くし過ぎだよ! 僕の部下が何匹も消滅したじゃないか! なんなのあれ触れた瞬間に消滅とか!』
「いや俺はわからん。親父とヴァイシュラヴァナがなんかやってた位の認識しかない。だから文句はあっちで、弁当の取り合いしてる2人に言ってくれ」
弁当の取り合いをしている2人に混じり、何故自分の弁当が無いのかと揉め始めるアンラマンユ。彼奴なにしに来たんだ?
『くうう! 先ずは弁当に関してはこちらの負けだ! とりあえず会場に行くよ』
アンラマンユが何処からかマジシャンが良く使うステッキを取り出し振るうと景色が変わると、コロシアムの客席の様な場所に移る。
俺達の視線は、円状になった舞台の中心に釘付けになる。何故ならそこに磔にされたアルテミスがいたから。
「蘭、こっから魔法で糞ビッチを狙撃できないか?」
「嫌だよ。動けない人を狙うなんてしたくないし」
『なあヴァイシュラヴァナ、ここからお前の神槍でクソアマを狙撃できないか? 手足をじわりじわり嬲る感じで』
『貴様は馬鹿か! 武神である我が何故にそんな真似をせねばならないのだ!』
「『チッ』」
俺と親父はとりあえず手近にある石を投げつける。
『会場に石やゴミを投げないでくださーい! 親子揃ってフーリガンかよ!』
アンラマンユが文句を言ってくるが、無視だ。こっちは狙撃に忙しいんだ。
「洋一君、みっともないからやめなよ」
「痛ったたたたたたあ!」
師匠にいきなりアイアンクローをされた。
『ノーデンスもやめろ』
『ちょっと! ヴァイシュラヴァナ痛いよ!』
あれ? おかしいな糞ビッチなら俺達の行動に文句の一言でも言ってくるかと思ったが、なにも言わないな。死んでるのかな?
アンラマンユが糞ビッチに近付き、顔の側にマイクを持っていくと
『アンラマンユコロス、絶対に許さない、お風呂に入りたい、髪が軋む、アンラマンユコロス、金玉を削りとってやる……呪ってやる……』
怖っ! マイク近づけたアンラマンユがびびって距離を取ってるぞ。涙目だし、金玉押さえて震えてるし。って言うか彼奴が悪神なんじゃないのか?
『だだだだだ! こっれかっらダイイチ試合いいはじめまっしゅ! 選手は来て! 早く! 1人にしないで!』
ビビり過ぎだろ。まあ金玉を狙われる恐怖は俺にもわかるけど。
「蘭、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。軽く倒してくるよ」
『うちちの選手は、勇者さと〜る!』
蘭が飛び出そうとした瞬間に、馬鹿でかい氷の塊が落ちてくる。
「━━悟!」
黒髪黒目で銀色の鎧を着た、豪爺いに似た勇者黒岩悟が現れた。
『解氷! 勇者さと〜るよ! 降りて来た相手と闘い勝つんだよ』
氷が溶け、悟さんはアンラマンユの言葉に頷く。そこに意思は感じられない。瞳には一切の光が無く、漆黒に染まっている。
『神獣蘭よ! 舞台へ!』
蘭が明らかに迷っている、蘭が豪爺いの方を見ると
「━━蘭よ頼む……孫を……」
「わかりました!」
強く頷き蘭が舞台へ飛び降りる。
蘭が舞台へ降りた瞬間、悟さんが物凄いスピードで蘭に肉薄するが、蘭はそれを危なげなく躱す。
「貴方に意思があったなら、今の一撃で私はやられていました。悪神の呪縛から私が貴方を救います!」
蘭の身体から金色の光が溢れ出す。悟さんがなにか呟くと、火、水、氷、土の形をした龍が形成され、蘭に向かっていく。
「はあっ!」
蘭はそれを気合いで掻き消し
「呪縛解放!」
悟さんの足元に魔法陣が浮かび上がり、金色の鎖が絡み付いていく。悟さんは鎖に絡みつかれその場に膝を付く。
「これで終わりです! 神十字!」
蘭が放った、金色の十字架が悟さんを貫く。
悟さんはその場に倒れ伏し動かなくなる。
「アンラマンユ! これで試合は終わりです!」
蘭が怒鳴り、アンラマンユを睨み付けるとアンラマンユは肩を竦めて笑う。
『いやー負けた負けた』
アンラマンユが黒い塊を悟さんに投げた瞬間、豪爺いが黒い塊を斬りさく。
「━━悪神よ貴様は必ず殺す」
豪爺いが小さくなにか呟くと、悟さんを抱えて俺達の方に戻ってくる。
紗香さんとアナスタシアが、悟さんに回復呪文をかけると、青白かった悟さんの顔色が血色を帯びていく。
「よーし次は俺か、多分相手は宗二だろうなあ」
大和さんが首をゴキゴキと鳴らしながら、舞台にいるアンラマンユを睨み付け。
「俺に姑息な手段は効かねえぞ。誰が相手でも斬るからな。蘭は優しかったが、俺は優しくねえからな」
大和さんから、冷たい殺気が溢れ出ている。まるで死が隣にいるような感じだ。




