第239話 悪役にはカンペが必要
アルテミスが俺達の真上にいるだと? 確かに俺が落とされたのは魔獣の森の真上だけど……まさか彼奴上からずっと覗いていたのか? 性癖モンスターの彼奴ならやりかねないぞ。
「真上ってまじで真上なのか?」
クソ親父が、顔を顰めながら空を指差す。
『ああ、こっからじゃ見えないけどな。マジで糞アマのところに行くの? 行くなら俺は此処に残ろうかなー』
「なんでだよ」
クソ親父はその場に座り、胡座をかき頭をボリボリと掻きながら。
『いやーマジな話、糞アマと仲違いして殺しあった仲だからなあ。なあ息子、対した理由も無くあの糞アマの事心底嫌いじゃないか?』
「は!? 対した理由がないだと? 俺が子供にされて、邪神の因子を混ぜられて、魔獣の森に叩き落とされたんだぞ!?」
俺の怒りの言葉を聞き、親父は肩を竦めて笑う。俺の胸を指で軽くつき
『暴力を受けたか? 肉親が殺されたか? 違うだろ? お前の中の憎しみは、クソアマに対する俺の怒りや憎しみの影響なんだよ。悪かったな』
俺は親父の胸ぐらを掴み怒鳴りつける。
「じゃあなんだよ! 今までの俺の気持ちは全部親父の憎しみだって言うのかよ! ふざけんなよ!」
『まあそう怒るなよ。憎み過ぎた部分があるって話だよ。それを今取り除いてやる』
「なっ! やめろ!」
親父は俺の頭を右手で鷲掴みにする、力が強い訳じゃないのに引き剥がせない。
クソ親父の手が黒く光り、俺の中からなにかが吸われていく。
身体の力が抜けて、その場に膝をつく。
『はい、終わり。神獣のお嬢さん、そんなに警戒しなくても大丈夫だぞ? 君だって息子が、クソアマに必要以上に拘るのはおかしいって思わなかったか?』
「それは、その……」
『これで万事オッケー! 身体におかしいところとかあるか?』
クソ親父は俺に手を差し出し笑っている。仕返しをするなら今だ!
俺はクソ親父の手を思いっきり引き、その反動を利用し顔面に膝を入れてやる。
『へぶっ!』
「いきなり、変な事された仕返しだ。糞ヴィッチのところには行きたくないが、アンラマンユもこっちに来てるんだよな?」
『ああ、アンラ? アンラマンユならそこにいるじゃん』
「は!?」
クソ親父の視線の先にいたのは、緑色の髪に白いローブ、身長145cmくらいの二重で睫毛が長い、可愛い系の男が、空中に浮いた煌びやかな椅子に座っている。
『やっ!』
「やっじゃねえよ! なんでラスボスがもう来てんだよ!」
俺のツッコミに小首を傾げるアンラマンユ。
『ラスボス? 僕がラスボス……あっああ! ちょっと待って』
懐からメモを取り出し読み始めるアンラマンユ。誰もが何故か動けないでいる。唯一動けているのは、俺と糞親父と蘭だけ。蘭は俺達の前で護るようにしながら飛んでいる。
『ひゅははははは! あっちょっと待って、今のなし!』
笑い声の部分で、盛大に噛んでる。彼奴なんなんだ? 今なら倒せるんじゃないか?
『息子よ、やめとけー』
クソ親父からやんわりと注意される。
『ふうははははははは! 良くぞ試練に打ち勝ち、我の前に現れたな真なる勇者よ!』
「いや俺、勇者じゃねーし精龍人だし」
俺の言葉にアンラマンユの眼が泳ぎまくる。
『ふははははは! 良くぞ試練に打ち勝ち、我の前に現れたな真なる精龍人よ!』
「真なる精龍人ってなんだよ。そもそも俺達の住居に現れたのはお前だろ。やり直すメンタルはすげえけどさ」
『ぐっ! 貴様中々やるな!』
胸を押さえながら、口から血を出し、顔面蒼白になり震えるアンラマンユ。
「いや……なんもしてねえんだけど。なにしに来たんだ?」
『斬れ味抜群のツッコミ……貴様関西人だな! 吉○の刺客か! 闇魔法だな!』
ドヤ顔で人を指差すんじゃねえよ!
「吉○の闇魔法とか、古くて危ないネタぶち込んでくんじゃねえよ! なんでラスボスがツッコミで大ダメージうけてんだよ!」
『あっあー! ノーデンスなんでここにいるんだよ! 裏切りなの? サス○なの? 君はナル○派じゃないの!?』
クソ親父を見つけるなり、訳の分からない事を言いやがって。
「うるせえよ! 話が進まないだろ!」
『ふははははは! 闇の力を見せに来たのさ!』
「闇の力って俺のツッコミじゃなかったのか?」
『うっ! もう本題を言うね! 宣戦布告にきたんだよ! 三対三のバトル! 商品はなんとおおおお! アルテミスだ!』
「いらない」
『えっ? じゃあ……世界の半分をあげよう!』
「いらない」
凄い速さでメモ帳をめくり始めるアンラマンユ。
『ふははは! 世界をかけた戦いだ! 人類対僕! 戦いは避けられないのさ!』
「えー。じゃあさこっちが勝ったら糞ヴィッチをしばく権利、そっちが勝ったら糞ヴィッチをブン殴る権利を俺にくれるってのどうだ?」
『えっ? まあいいか……! よしそうと決まったら選手を決めようか! 大将戦は君と僕! 後はまあ適当で! 会場とか決めたらまた連絡するねー!』
手を振り消え去るアンラマンユ。
「おう! それまで糞ヴィッチを痛めつけといてくれよな!」
蘭とクソ親父が呆れた顔をして俺を見ている。
『息子よ……お前とんでもないな。アンラマンユを自分のペースに巻き込み、景品を世界からクソアマをブン殴る権利にするなんて……』
「ふふふふ! 俺の作戦勝ちだな!」
「はあ……私の緊張感を返してほしい……」




