第232話 死刑囚だったの!?
毘沙門天の主人? どう言う事だ? 神に主人? 上位の神を敬うと言うのはわかるんだが……。創造神とアナナスタシアの様に上下関係はあっても主従って、まるで神を創造したような感じがするな。
師匠や豪爺いは大丈夫なのか? 助けに行きたいが、蘭も魔法が使えずにいるし……。
「色々悩んでるみたいだね」
星冥は俺を見て、クスクスと笑っている。
『あの人間は我が加護を与えた、信徒じゃないか! 信徒よ、我を解放する様に主に言ってくれ』
ヴァイシュラヴァナが、芋虫の様に転がりながら、ぎゃーぎゃー喚いている。
「待てヴァイシュラヴァナ、お前を助けたら俺に協力するのか?」
俺の質問にニヤリと笑う。
『協力とは何を指す』
「アンラマンユを潰して、この世界の核にする」
『ふむ……アンラマンユを世界の核に。主よ信徒の発言は真か?』
「真だよ。さっきそう言う話してたしね。聞いてたんじゃないの?」
『ハハハ。主が現れたら壁が出来まして、そこの女神が現れるまで我には全く無理。なーんにも聞こえませんでした。どうにか覗こうとしたんですけどね』
なんか言い方がやだな、覗き犯の失敗談を聞いてるみたいで。
星冥はニコニコしながら俺達の様子を見ている。不穏だな。
『良いだろう協力する。神夜もジャングル男も使えなかったしな』
ヴァイシュラヴァナは、亜空間から神夜と太一の首を取り出し放りなげる。
「太一!」
思わず声をかけるが、首だけの太一は当然反応しない。光が指さない、空虚な瞳、凍りついた表情のままだ。
『存外使えなかったから、斬り捨てたんだが。何故その様な目を我に向ける? 協力するんじゃなかったのか?』
「お前! なんで殺したんだ!」
転がるヴァイシュラヴァナを睨み付ける。
『何故睨む? 所詮どちらも、元の世界では死刑になっている様な囚人だぞ?』
太一が死刑囚!? 馬鹿で抜けてるけど、優しい奴だったはすだぞ? 過剰に動物が好きなだけで、人を殺すとは思えないんだが。
「太一は死刑囚なんかじゃないはずだ!」
『ハハハ、なにを言っている。動物を護ると言って、他人を傷つけ、警察や政治家まで殺したんだから死刑にならぬ方がおかしいだろう? 本人に人を殺した記憶はないがな。悪の素養の部分は、転移時に我が取り除いたからな! 正義に不用だしな』
太一は、警察と戦ったと言っていたが……。そもそもそんなニュースやってたか? 政府要人を殺していたら、少なくともニュースになるはずだが、俺には全く覚えがない。
「そんなニュースやってた覚えがないぞ?」
『ニュース?』
「新聞とかなら毘沙門天でもわかるでしょ? 柊洋一は情報が出てないと不審に思ってるんだよ」
『あの主これ言っても大丈夫な情報なんですか? 我が後で処罰されるとかは……』
「今はしないよ」
後で処罰はするつもりなんだな。
『ハハハ! 処罰されないなら怖い物はない! 彼奴がこちらに渡った時点で、大衆の記憶から消えるからな』
それはおかしい。俺には、生前の神夜の記憶がある。
「神夜の記憶はあったぞ?」
俺の問いに、ヴァイシュラヴァナは高笑いをしながら。
『ハハハ! 奴は死後時間が経ってから、こちらに来たからな。太一とは別件だ』
こいつの話で言えば、俺もこちらに来た時点で記憶から消える筈じゃないのか?
「アルテミスが消さなかったから、記憶はそのままだよ。そこの女神は転移させた人や、転生者の記憶をそのままにしていたけどね」
アナスタシアは星冥を睨んでいる。
『いつか、帰れた時に誰も彼もが、忘れていたら可哀想じゃない。二度も死なせる必要はないわ』
「まあどちらでもいいけどね。さあどうする? 毘沙門天を使うなら使えばいい。ただアンラマンユとの戦いの時間は迫っているよ? こんなところにいてもいいのかな? 別れの時間はあまりないよ?」
戦いの時間は迫ってるって具体的に奴がどっから出てくるかもわからないんだよな。
「ならリュイや、豪爺いや、師匠の治療をさせろ。俺達が戦わなきゃいけないなら、無駄に戦力を削る必要はないだろ?」
「言い得て妙だね」
星冥が御幣を軽く振るうと、豪爺いと師匠の傷が綺麗になくなり、リュイもこちらに引き寄せられる。
「これで戦力の不足は無いわけだ。アンラマンユがこちらに聖獣がいないと気付き、こちらを破壊しに来るまで後1か月。頑張って見るといい」
そう言うと星冥はその場から消えた。
『ハハハ! 戦力か! だがこの世界の人間は戦えんぞ! 1人加護を与えたが、ダメだったからな!』
「誰に与えたんだ?」
『女みたいな名前をした男だ、お前達に簡単に負けていたがな!』
簡単に負けた……女みたいな名前……誰だ? 思い当たらないな。
『とりあえず我の拘束を解いてもらえないか? これでは戦力にならないぞ?』
良い事思いついたぞ!
「なあ蘭、こいつをこの世界の核にしようぜ。それで丸く収まるんじゃ無いか? コイツも神だしそれなりの力があるだろ?」
「えっいやそれは……」
蘭とアナスタシアが、ヴァイシュラヴァナを見つめると挙動不審になり
『我、このままでも良いから生贄はやだなあ……』
「洋一君、ヴァイシュラヴァナ様じゃ活性のスキルも無いし、神格が足りないのよ。どちらかが、足りていれば世界の核になれたのだけど……」
『そっそうであろう! 新しき女神は話がわかるな!』
紗香さんの言葉にホッとしてやがるな。




