第229話 集められた神獣
俺は急いで蘭と天虎を呼びに戻る。
「蘭! 天虎! ピンチだ!」
「洋一? 後ろの人は誰? 狩衣を着てるけど……」
なっ! 俺は慌てて後ろを振り返ると、先程の男が俺の後ろにいた。ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべながら。
「師匠や、豪爺いや、リーさんは!?」
戦闘音すら聞こえなかったし、それに俺がここに入るまで数秒しか経ってないぞ!?
「ちょっと話が通じないから、寝かしてきたよ」
俺が急いで、師匠達の元へ戻ろうとすると、勢いよくドアが閉まる。
「なんで急にドアが!」
「話も聞かずにちょろちょろしようとするからだよ。この結界は誰にも抜けない。君は神呼び、魔王も呼べるからその繋がりも絶たせて貰ったよ。人の身に余る力は必要ないからね」
なら大和さんを! 俺が笛を取り出そうとした瞬間、笛が砕け散る。
「話を聞くのはそうだなあ、女神の君と、鷹の神獣と天虎だけで良いね。精霊の君は退場だ」
御幣をリュイに向けると、リュイは部屋から弾き出されてしまう。
「リュイいいい! てめえ! なにしやがんだ!」
「黙ってね。精霊には、外にいて貰うだけさ。朕の話が終わるまでは寝たままだけど」
リュイの安全を確かめなければ!
男の言葉一つで、俺は喋れなくなる。俺の称号はこんな時に使えるんじゃないのか!?
「称号も機能しないよ。封じたからね、先も言ったけど人の身に余る力は全て使えない。何度も同じ事を言わせないでほしいな」
「あの貴方は、なに者なんですか? なんの目的で」
男は蘭の言葉を手で遮る。
「ラスボス降臨って言ったらどうする?」
その言葉に天虎は、アナスタシアを咥えて飛び退く。
『言霊も彼には効かない、盾にしかなれないけど、契約したアナスタシア様は護るよ』
男が御幣をアナスタシアと天虎に向けると、天虎は白目を向いて崩れ落ちる。なにしやがった!?
『天虎! ちょっと! そこのあんたなんなのよ!』
「まあ僕の事はそうだなあ、陰陽師とでも覚えといてよ。この世界はもう終わりに近づいてるんだよ、せっかく僕の神使達を神獣に昇華して、創造神に貸してあげたのに、いつの世も、いつの世界も争いばかりで実に下らない」
世界が終わり? 創造神に神獣を貸した?
「だからさ神獣達を連れて帰ろうかなって。君達が浄化した神獣は例外だけど、残った神獣に関しては僕が連れて行くよ。世界と心中をさせる意味がないからね」
『フーシェンやビャクダやケリュネイや天虎も連れて行くって言うの? 契約者がいるのに?』
倒れた天虎の前に立ち、アナスタシアが男を睨む。
「契約者? ああ成る程」
━━パンッ!
男が御幣を腰に指し、優雅に手拍子を一回打つ。すると、3つの球体が現れる。
その球体の中には、フーシェン、ビャクダ、ケリュネイ、ガギュウが入っていた。
「天虎もこちらにおいで」
男がそう言うと天虎も玉になり、男の元へ。玉の中の神獣達は、まるで眠っている様な、顔をしている。
「この国の神獣達もおいで」
更に見た事がない神獣達が4匹、玉に入っている。
ホルケウ、イヌイ、ハヌマ、ズイジ、俺達が倒してきた神獣達も玉に入っている。鰻の神獣は見た事がないが、きっとアスベルクの神獣だ。
「さっ後は君だけなんだけど、君は元々この世界の神獣でもないんだよねえ、狩猟の神に認められ神の力も有して入るんだけど」
『ちょっと! 神獣を一度にこの場所に集めたりしたら、世界のバランスが崩れちゃうじゃない! 私達が浄化してきた意味が……』
男は顎に手を添え、ぽんと手を叩く。なんだ? 今度はなにするつもりなんだ?
「オーン・マニ・パドメー・フーン」
男が印を結び、何かを唱える。
「これでもう瘴気はこの世界に現れない、ほら問題解決だね」
『えっ? どう言う事? なにが』
「真言?」
蘭も気付いたみたいだ、この男は一体なんなんだ? 真言を唱えた男が言う事が事実なら、本当に世界中の瘴気を払ったのか?
「中々疑り深いね、ノーデンスの子は。まあ良いけど、このままはいさよならじゃ、君達も納得できないんだよね? この世界の成り立ちと何故この世界が崩壊するのか、異世界人が何故この世界に流れ着くのか教えようじゃないか」
コイツは全てを知っているのか? 色々規格外過ぎて理解が追いつかない。実は悪神なんじゃないのか?
男は俺達の目の前で、椅子があるかの如く空中に腰かけた、なんなんだ? 魔力の流れもないし……。
「魔眼だね? 魔力じゃないから見えないと思うよ? 女神ならわかるんじゃないかな? 僕の神力が」
神力? それならアナスタシアにも見えるのか? アナスタシアの方を見ると、男を睨みつけている。
「ああ、力が戻っていないのか……理に反するけど、サービスだよ。力を戻してあげるよ」
御幣をアナスタシアに向け、振るとアナスタシアの身体が薄く光る。
アナスタシアは、顔を青くし尻餅をつく。
『バッ化け物……創造神様よりも、次元が……』
俺は蘭とアナスタシアの前に立つ。声が出なくても、盾になる位なら出来るはずだ。
『あっあんた! ダメよはむかったら!』
「洋一……」
蘭、声が出ないからカッコつかないんだけど、代わりにアナスタシアに伝えてくれ。大丈夫、俺が2人を護るからって。
「アナスタシア様、゛洋一が大丈夫俺が2人を護るって゛……」
『バカじゃないの! 力の差が違いすぎるのよ! なんで平気なのよ! あんたわかってんでしょ!?』
俺はアナスタシアの言葉に笑顔を向け、サムズアップする。
『キモい顔して、親指立ててる場合じゃないのよ!』




