第228話 苔だけらけの神殿
湖の中にある神殿は、ボロボロで苔生していたが、何処か荘厳な感じがする。神殿の入り口には右と左に兵士の像が佇んでいる。右の兵士は剣先、左の兵士は盾を持ちコロシアムの様な感じがする。
「すげえなこれ、湖の中に長い事あったのに苔以外は劣化もしてないし」
俺が神殿の中に入ろうとすると、天虎に遮られ止められる。
『先に入らせて欲しい……初めてなんだ、頼む』
天虎が俺に頭を下げ頼む。まあ俺は何番目でも良いんだが、師匠や豪爺いも先に入る気はないみたいだ。アナスタシアとリュイは真っ先に入ろうとして、蘭に止められている。
俺達は天虎の後ろを歩く、途中何度もアナスタシアが苔に滑り転びかけ、最終的に師匠が背負って歩く事になる。師匠、終始ご機嫌だ。
『ヨーイチ、アタチも頭に乗せて!』
リュイが頭に飛び乗ってくる。
「ん? ああ良いけどどうしたんだ?」
『良いから!』
まあ良いか、リュイは軽いしな。天虎が扉の前で、急に止まる。
『あれ? この奥が祭壇なんだろうけど入れないな。なんでだ?』
天虎は扉を身体で押したり、爪で引っ掻いたりしているが開く気配が一向にない。
「蘭、これ開かないのか?」
「結界かなあ、下手に開けたら危ない気がするんだよねえ」
豪爺いは壁をコツコツと叩いている。
「━━頑強な建物だな。劣化がしてない、材質はこの世界で1番硬い、アダマンタイトか?」
「豪爺いアダマンタイトって?」
「━━ああ、この世界で1番硬い鉱石だ。この世界の古い神殿に良く使われているが、希少な鉱石で中々手に入らないんだが……削ってもいいか?」
豪爺いが神殿を削ろうとしているが、止めた方がいいのかな? でもまあ別にいいか、創造神の神殿だし。
『やめてください!』
天虎がすかさず、豪爺いを止める。まあ天虎にとっては大事な場所なのか。
「━━仕方ないな。で扉は開くのか? 開かないなら言霊を使ったらどうだ?」
豪爺いに言われて、天虎は目を赤くし扉を見つめ
『扉よ、開け!』
天虎が扉に向けて言霊を使うが、扉に変化は訪れない。あれ不発か?
『これ言霊じゃ開かないわよ? 封印がかけられてるし、創造神様の封印だから私にも解けないわ。物理的干渉も、魔術的干渉でも開かないわよ』
天虎が項垂れてしまった……なんだか可哀想だな。
俺が力を入れて、扉を押してみると扉は簡単に開き、勢いをつけた反動でつんのめってしまう。
「おわっ! なんだよ開くじゃねえか! 皆んなして開かない雰囲気を出しまくりやがって、簡単に開くじゃねえかよ!」
「洋一……封印壊しちゃったのね」
『あんた、封印壊しちゃってんじゃないのよ!』
蘭とアナスタシアから、怒られてしまった。えっこれ? 俺が悪いの? だって皆んなして開かないって言うからちょっと押してみただけだよ?
『ヨーイチ凄いじゃん!』
「そっそうだろ? これで祭壇に入れるぞ! 天虎も良かったな!」
天虎に声をかけると、天虎は戸惑いの表情を浮かべている。
『良かったのかな? でも封印が……』
「とりあえず中に入れよ! 汚い処だけどさ気楽に行こうぜ!」
『う……うん』
天虎が中に入り、祭壇の後ろに聳え立つ創造神の像を見て涙を流す。
『創造神様あああああ!!!』
「そんなに会いたかったのか……まあ契約者に会えないってのはキツイよなあ」
しばらく泣き続けた天虎は強い瞳に戻り、アナスタシアと蘭に向き直り、何も言わずに見つめる。
『任せなさい。リュイちゃんも力を貸して。ガギュウの神殿を鎮めたばかりで、魔力が不足だからさ』
『はーい』
俺が扉の外に出ると、リーさんと豪爺いと師匠は、俺達が来た方を見ている。
「どうしたんですか? また敵ですか?」
「━━まあどうだろうな。敵とは言えないかもしれないが……」
「酷く曖昧な存在が近づいてくるんだよね、洋一君魔王と話せるかい?」
「堺さん? 呼びかけてみますけど、禁忌の国に入ってから全然話してないから……」
堺さん、堺さん、こちら洋一! 聞こえますか?
何度呼びかけても堺さんからの反応はない。
「反応ないですね」
「━━愛の神はどうだ?」
エロス? 嫌だなあ彼奴に話しかけるの……でもなあ断れる雰囲気じゃないし。エロス、聞こえるか? エロス?
━━ザッザー
ノイズ音が走るだけで、エロスの声は聞こえない。
「なんだ? ノイズ音?」
「やっぱり邪魔されてるか。でも敵意が全くないんだよねえ」
『グルルル』
リーさんが唸り声を上げ、瞳は獲物を狙う獣の様になっている。
「リーさん?」
俺がリーさんに声をかけようとした瞬間、そいつは宙に浮かびながら現れた。
「警戒させちゃったかな? ちょっとお邪魔するよ」
黒髪で両眼に六芒星が描かれた、痩せ型の男。服は白の狩衣、黒い烏帽子を被り、手には御幣を持っている。歳は15、16位か? なんでこの異世界に陰陽師がいるんだ?
「君は神職に詳しいみたいだね。成る程鷹匠か、懐かしいなあ」
「えっ? なんで?」
師匠と豪爺いとリーさんが俺の前に立つ。
「洋一君、守りきれなかったらごめん」
「━━葵と俺で攻める。龍の女は洋一を護れ。狙いは洋一だ」
「どう言う事?」
『旦那様は下がれ! 蘭と天虎の所に行け!』




