第23話 世界の国々からこんにちわ
光一のトラウマも無事消え、エレン爺いやレイ先生とも話せるようになってきた。まあエレン爺いは顔が厳ついし口調が荒いから、光一は未だにびびっているけど。
「なあ蘭、糞ビッチが俺や紗香さんをこちらに送ったのは何でだと思う? 光一はアナスタシアが連れてきたから別件としてさ」
「意味は有るとは思う、だけど情報が少ない中、決め付けて行動するのは危険だよ」
まあ、あの糞ビッチなら気紛れでやりそうだしな……。どうにも引っかかるんだよなあ。
「もしかしたら、俺と同じような被害者は他にもいるのかも知れないな。探す方法は無いけど、今回はたまたま見つかったから良かったかもしれないけどさ」
「紗香さんの場合は地球で使うには危険過ぎる力を持っていて、輪廻転生の枠から外れたみたいだから、正確に言えば私達と同じでは無いけどね」
「うーん、でもこれで時代は違えど地球人が3人か。多くね?」
「洋一が読んでる本にクラス丸ごととかあったじゃない、それに比べたら少ないんじゃない?」
「クラス転移なあ、こうなって来るとありえそうで怖いわ」
魔王はまだ復活してないらしいから呼び出される理由としたら戦争か?
「この世界戦争とかあるんかなー。レイ先生に聞いてみるか」
戦争には関わりたくないな。俺は蘭と楽しく暮らしたいだけだし。
♢
「レイ先生、この世界の情勢的なのを教えて!」
『ヨーイチが勉強なんて明日は槍かな?』
リュイがニヤニヤしながらからかってくる。
「リュイちゃかさないでくれよ……俺が珍しく真面目なんだからさ」
少し真面目にしたらこれだ、やれやれだぜ。
「良いわ、教えてあげる。師匠が地図持ってたから借りてくるわ」
レイ先生は、工房に行きエレン爺いから地図を借りてきてくれた。地図を広げ、木の棒で1つの形を指す。台形みたいな形がこれが国なのかな?
「先ずは私が暮らしていた国、アスベルク王国。現国王はアスベル・オダが統治し他種族が暮らしてるわ、
次にエアリ皇国、ここはエルフ至上主義です。皇帝の名前はエアリー・クレシア、代々女性が統治しているわ。
次にゴリア王国、ここはドワーフの国です。現国王の名はカイザー・シルビです。鍛治が盛んです、種族的な差別は無いと聞いています。
次にアバドン獣国、ここは獣族が暮らす国です。現国王の名前はゲイル・セトリア。強さこそが正義の国です。
この4つの国が有るこの大陸の名前をアスモデウス大陸と言うのよ」
「4つしか無いの?」
「小国を含めるともっと沢山あるわよ? ヨーイチに全部覚えられるかな?」
悪戯っぽい笑いをするレイ先生、スーツを着て眼鏡をかけてほしいな。女教師コスさせたい。
「多分無理、他の大陸や魔族とかは?」
「魔族の国は別の大陸に有ると言われています、地図には載ってないの、どんな国でどんな魔族がいるかはわからないのよ。それこそ100年前にいた勇者様なら知ってるかもだけどね?」
ふむ、魔族の大陸は不明かあ。そう言えば、ファンタジーとかだと神国や聖都みたいな宗教的な国の名前が出てないよな? そう言うのは無いのかな?
「レイ先生、宗教色が強い国は無いの? 神国みたいな?」
レイ先生が驚いた表情を一瞬したが、直ぐにいつもの笑顔に戻った。だけど顔色が悪いし、少し震えている。
「無いわ。ヨーイチここには師匠と私しかいない。神国の話は他の人にしてはだめよ?」
「なんで?」
「禁忌だからとしか私は言えないの」
レイ先生は力無く笑っている。
「禁忌? うーんまあいっか。じゃあ別の大陸に行く方法は無いの?」
禁忌って言っちゃだめって奴か? なんでだ? だけどレイ先生は話したくなさそうだしなあ。無理やり聞いて嫌われたくないし、やめとくか。
「うーん船はあるだろうけど、そもそも他の大陸に行ったって話は、あまり聞かないわねえ」
「ドラゴンとかに乗れたらすぐに行けそうじゃない? 騎竜とかいないの? ドラゴンは無理でもワイバーンとかさ」
「実験の為にワイバーンを飼い慣らしてるみたいだけど、成果は上がってないみたい。先ずワイバーンが懐かないの、それに仮に飛べても他の魔物に襲われたら危ないでしょ?」
あーワイバーンって爬虫類と同じかな? 爬虫類と同じなら、人慣れはするけど懐かないって言うしな。
「戦争とかは無いの?」
「小さい争いは有るけど戦争は無いわ。各国の武術を競う、武闘祭はあるけどね」
戦争は無いのか、その辺は地球より良いな。武闘祭ってオリンピック的な奴かな?
「武闘祭で勝った国が有利になるとかないの?」
「あるわよ、有力な探索者や傭兵の育成に忙しいの。だから戦争なんて無いのよ、そんな暇があったら鍛錬しないとだからね」
なんと言う脳筋のための世界、脳筋やチート持ちには楽園なんだろうけど、ひ弱な俺からしたら迷惑な世界だ……。
「レイ先生、俺もっと強くなりたい。もしかしたら紗香さんや光一みたいに困っている転移者や転生者がいるかもしれない。助けてやりたいんだ」
「なら毎日ちゃんと修行しないとね?」
「もちろん!」
何だかんだ俺は修行が好きだからな。前の世界でも修行漬けの毎日だったし。
♢
俺達はいつも通り畑仕事をしながら談笑していた。
「光一、女神の装備はどうしたんだ?」
「エレンさんに預けました」
光一が苦笑いをしている。何かあったのか?
「エレン爺いになにされたのか?」
「ドアの前で泣きながら装備を貸してくれって言われました、ちょっと怖かったです」
厳つい顔の爺さんが、泣きながらドアの前にいるとか、ホラーだな。怖すぎる、夜トイレ行けなくなるわ。
「それは怖いな。あんな顔した奴が、ドアの前で泣き喚くとか嫌すぎる」
「はははは。なので装備はエレンさんに預けました。破壊不能属性だから壊す事は出来ない筈ですからね」
「エレン爺いなら無理を通して破壊しそうだけどな、新しい素材だ! って言いながら」
━━バキーン!!
あーエレン爺いめ、フラグ回収しやがったな
「すげえ音がしたな」
「ええ凄い音でしたね」
「エレン爺いさんの工房からだよな?」
「そうですね、凄く嫌な予感がします」
「奇遇だな俺もめちゃくちゃ嫌な予感がする」
俺達は冷や汗をだらたらとかき、顔を見合わせ、畑仕事を放り出しエレン爺いの工房へ走った。