第222話 黒い鬼と鬼を斬る者
この牛野郎、絶対に許さねえ。いつか復讐してやる、とか考えている内に何故か、周りはなごやかムードになっていた。
「おい、牛野郎! お前に質問がある、瘴気とかは大丈夫なのか?」
『瘴気? ここに瘴気は出ないよ。そう言う風に出来た土地だから』
そう言う風に出来た土地ってなんだ? 魔術的な意味でもあるのか?
「なあ蘭、師匠、豪爺いそう言う事ってあるのか?」
「無い訳じゃないよ。ここには龍達がいるからね、今はふざけているけど一体一体が一騎当千の龍達だよ。邪神の眷属も入り込むのは厳しいんじゃないかな? あの家族はかなり強いよ?」
恥ずかしくなりうずくまっているリーさんを見ながら笑う師匠。
「なるほど……。師匠、この牛野郎は弱いよね?」
「弱い、めちゃくちゃ弱い。なんで神獣やってんのか不思議な位にね。だから焼肉にしようと思ったんだけど」
師匠がガギュウをニヤリと笑いながら見つめると
『ヒッ! 神獣を食おうなんて、いかれてるぞ! 女神! お前なんとか言えよ!』
『なんで私が……むしろあんたと初対面なんだけど? 助ける義理はないわね』
おお、アナスタシア強気だな。蘭を盾にしてる部分は認められないが。
『ぐっ! 神獣を盾にしてる癖に……!』
ガギュウが、地団駄を踏んでいる。
「はあ。とりあえずリーさん達ご家族には邪神の事は説明したし、次の国に行く?」
「まあここが安全なら」
「安全じゃないよ? ほらもう来た」
師匠が見ている方向の空間が割れ、そこから黒い翼を持つ異形の化け物が無数に現れる。
「おわっなんじゃこりゃ!」
さっきまで股間を眺めていた龍達が、一斉にブレスを放つ。ブレスが異形の化け物に当たり、数を減らして……減ってない!?
「あれ? 俺の見間違いか? 数増えてない?」
「増えてるわね……ブレスで消滅する数より多くで出来ているみたい」
「よーし行くぞー!」
師匠が剣を横なぎに振るう。
━━ギチギチギチギチ
不快な音が響く、まるで世界が悲鳴をあげている様だ。
「よーし。片付いたっと」
異形の化け物達は、細切れになって消えて行く。
「ラスボス出てくるかなあー。割と気合いいれたから、空間の中まで届いた筈なんだけどなあ」
「━━クックック望み通りの展開のようだぞ」
師匠が斬り裂いた場所から、上半身だけの黒い鬼が現れる。
「痛えなああああ。俺の下半身と手下を斬り裂きやがってええ。ゲヒャヒャヒャ」
鬼はゲラゲラと大声で笑う。
「堕天使ぽい、化け物の親玉が鬼って……違うだろ! そこはもっと高位の天使だろーが!」
「━━クックック俺がやろうか?」
「はっ! 彼奴は僕の獲物だよ!」
俺のツッコミを無視して、豪爺いと師匠が、俺が俺がと言い合いをしている。
『龍族の誇りを見せてやる! 皆行くぞ!』
そうこうしている内に血気盛んな若い龍達が、鬼に向けて突撃して行く。
「餌がきたなああ」
鬼は下びた笑いを浮かべ、飛んで来る龍達を掴み、食い始める。
『彼奴! 同胞を!』
リーさんが飛び出そうとするのを、ゴロウマリさんとケスディア婦人を押さえ付ける。
『娘よ! 落ち着け! 同胞よ無闇に近づくな!』
ゴロウマリさんの怒号が響く。
鬼の身体が再生して行く、再生した鬼の姿には鱗と翼、それに尻尾が生えていた。
「食べた種族の特性を吸収してる」
「どっどうしたら、リュイ! 雷砲を撃つぞ!」
『うっうん!』
━━バチチチチチチチチ
俺は雷砲を取り出し、リュイは雷砲に魔力を貯める。
「めいいっぱいで行くぞ!」
『ヨーイチ! いつでも撃てるよ!』
「くらえっ!」
雷砲を鬼に向けて放つ。
「ああん? ゲヒャヒャヒャ!」
鬼は息を吸い込む動作をし、次の瞬間黒色のブレスを放ってきた。
雷砲の力と、鬼のブレスがぶつかる。
「くらいやがれええ!」
『いけえええ!!』
強烈な閃光が走る。
「ゲヒャヒャヒャ、俺のブレスと互角とはやるなあ。喰ってやるから待ってろ」
鬼が穴から飛び出してきた。鬼が地面に着地すると、地面はヒビ割れ、鬼の身体からは黒い煙が吹き出す。
「━━的がおりてきたぞ」
「そうだね」
2人は獰猛な笑みを浮かべ、その場から動かず同時に剣を振るう。
「━━聖破魔斬」
「見様見真似亜空狼」
豪爺いの剣閃は銀色、師匠のは大和さんの技を模している様だった。2人の技が黒い鬼に当たる瞬間、鬼は龍鱗を立たせ、身体を固くし身を守る様な動作をする。
「ゲヒャヒャヒャ効くかあああ!! あ」
黒い鬼は、斬撃が当たると同時に塵となり消えた。
「師匠今の技って」
師匠に声をかけると、不機嫌な顔をし腕を組む。
「だめだー上手くいかない。不知火は神刀じゃないから無理だよなあ」
「━━クックック。敵は倒したんだからもういいだろ?」
「ちょっと練習に付き合ってよ」
「━━やれやれ」
師匠と豪爺いは物凄いスピードで剣を打ち合っている。
「なあ蘭、俺いらなくないか?」
「それを言うなら私だってなにもしてないよ」
俺達がため息をついていると
『アタチの雷砲が負けたあああ! あーん! あーん!』
リュイがギャン泣きしていた。
「いやリュイ、あれは仕方ないだろ……龍族より強かったんだぞ? 師匠と豪爺いが特殊なだけで」




