第217話 新しい女の子は血が大好き
リーさんに引きづられて、到達した場所にあったのは大きな穴だった。なんだこれは? 穴の底が見えないぞ?
『この中で試練を行う。さあ旦那様行けい!!』
いや、リーさんドヤ顔プラス決めポーズと決め台詞をしているところ申し訳ないんだが、俺飛べないよ? 穴に落ちたら即死だよ?
「リーさん、あの穴に入るんだよね? 俺飛べないから試練を受ける前にさ、落ちたら確実に死ぬよ?」
『旦那様は飛べんのか?』
「飛べないね、なんで飛べると思ったのか逆に知りたいくらいだよ。尻尾が弱点なだけの元人間だよ? 無理に決まってるでしょ?」
『まあ飛べなくても大丈夫だ、うん旦那様ならいける、いける』
目が虚だ! これはあかんタイプの奴だ!
「らああああん! 助けてええええ! 穴に落とされるうう!」
俺はあらん限りの声で、蘭に助けを求める。すると、蘭は直ぐに飛んで来てくれた。
「はあ。リーさん、洋一に飛行魔法をかけたり、下まで連れて行くのはだめなの? それがだめならロープとか」
『うっう〜ん、道具や魔法はだめだが妾が下まで連れて行くなら、問題ないか? 多分?』
「じゃあそれで行きましょう。洋一もいいよね?」
「ありがとう蘭! マジで助かった!」
『では龍化したら、妾の背に乗ってくれ、試験会場の門前まで連れて行く』
「おう」
俺の返事と共にリーさんは巨大な龍へと変身をする。リーさんの龍の姿を改めて見るとデカイ。日本風の龍で、角は一本、腹は白く、鱗は紫で、美を体現している。
「洋一どうしたの?」
「いや改めて見ると、リーさんの龍の姿って綺麗だよな。出発前はバタバタしてて、更にはハイスピードな空の旅で、ゆっくり見れなかったしな」
「日本の神話に出てきそうな感じよね」
リーさんがピクピク悶えている。
「リーさん、頼むからその姿で興奮して暴れないでね? 俺プチってなっちゃうから。地面の染みになっちゃうからね?」
『わっわかている! それに興奮していない! 早く乗れ!』
こっ声がでかい! 鼓膜がいかれる……。リーさんの背中に俺がよじ登ると、蘭が俺の前に座る。
「私がいないと、洋一風圧防げないでしょ? 後重力も。龍化したリーさんも細かい調整は、苦手みたいだし」
『うっそんな事は……』
「風圧と重量を調整しないと、洋一が落っこちて結果、穴に落ちるのと変わらなくなるよ? それでもいいの?」
『頼む……』
小さい声でリーさんは蘭に答え、飛び上がる。
「蘭、サンキューな。なあなあ、龍化したら俺も空を飛べるのかな? そしたら蘭と空中散歩もしてみたいな。ツーリングみたいな感じで」
「そうね」
蘭は素っ気なく答えたが、これは喜んでるな。そっぽ向いてるし。
『行くぞ!』
リーさんの掛け声で穴の中に突入する。穴に入ると光が一切ない漆黒の闇が広がっていた。俺はリーさんの背にしがみつき、目を瞑る。開けていても暗闇だから仕方ないしな。
30分程経つと
『そろそろ下に着くぞ! 舌を噛むなよ!』
リーさんの言葉が聞こえて直ぐ、身体が浮く程の衝撃が走る。浮いた瞬間、蘭が重力魔法で俺を押さえつけ
「洋一しっかり捕まってなさいよ!」
「ひゃい!」
声が裏返ってしまったが、この飛び上がりそうになると上から押さえつけられまくる状態で、まともな返事なんて出来るわけがない。
やがて、シェイク状態が収まりリーさんに声をかけられる。
『旦那様、目を開けよ。あの建物の中に入るんじゃ』
目を開けてみると、光が広がっていて、石造りの大きな神殿の様な建物がある。入り口には、ピンク色のネオン看板の様な物がぶら下がっている。
看板には”試験のお部屋”と書かれていた。
「神殿の厳かな雰囲気が、あのピンクの看板せいで台無しだよ……」
『? あれがないと試験の場所がわからんだろ? ただでさえ暗闇だったんだから』
「ああ、うん。大丈夫、2人ともここまでありがとう。頑張ってくるよ」
「洋一頑張ってね!」
『旦那様の帰還を待っている』
俺は2人にお辞儀をしてから、ゆっくりと神殿の方へ歩いて行く。ドラゴンサイズだからか、階段が異様にでかい。1段、1段よじ登っていく。
「にっ人間に優しい設計にしてほしい……」
息も絶え絶えで、なんとか神殿のドアの前に立つが、ドアがデカ過ぎる。カッコつけた手前2人に助けてとは言えない。
とりあえず俺はノックをしてみた。
「すっすいませーん! 精龍人に成り立てほやほやなんですが、成龍の試験を受けにきましたー! 開けてくださーい!」
ドアの奥からドタドタと音がする。
『いっ今、人化してから行きまーす! ドア開けますからー!』
声と同時にドアが開くと、オレンジ色の髪、黄金の瞳、赤色の花柄の着物を着た、巨乳眼鏡のちびっ子が現れる。
『やっやっぱり、人化してて良かったあああ。初めまして、私、メチル・クリアって言います。試験受けるんですよね?』
「どうも、精龍人に成り立ての柊洋一と言います。素晴らしい物をお持ちですね。是非仲良くしてください」
『ひゃっ! 何処見てるんですか! この石板に名前を書いてください、龍化が満足に出来ない人用の物なので、この石ペンに血を付けて書いてくださいね!』
「血?」
『貴方の血を使って書いてください!』
新しく現れた女の子は、どうやらサイコパスだったようだ……。




