第22話 記憶の重み
「ヒイラギってヨーイチと同じよね?」
レイ先生は疑問視しているが、同じ日本だし、同姓同名何てざらにある話だからな……。うーん謎だな、俺の灰色の脳細胞じゃ解決できない。
「蘭? どうなんだろ?」
「現時点じゃわからないね。情報が少ないし」
「なあ、住んでた場所覚えている?」
”神奈川県の鶴見って場所わかりますか?”
鶴見かよっ! 俺と同じじゃねえか。
「俺が、昔住んでた場所だわ」
一同言葉が出ずにシーンとしてしまう。
『難しい話はわからないけど、ヨーイチの家族なんでしょ? 魂の波長が似てるし。とりあえず一緒に暮らしたらいいじゃない』
リュイからのナイスな提案、御先祖様でも家族は家族だしな。
「まあそうだな!」
”いいんですか?”
「ああ、なにが出来るかわからんが一緒に暮らそうぜ」
”ありがとうございます”
紗香は、何故か俯いてしまう。
”私の力役に立ちますかね”
「どんな力なの?」
蘭が優しく聞いている。俺にも優しくしてくれてもいいんだよ?
”記憶操作と魔力大活性です。普通に暮らしていた時は気づかなかったんですが、死にかけた時に力が発現したとアルテミスさんはそう言ってました”
おお! すげえ力だな。記憶操作が出来れば超強いじゃん、魔力大活性がなにかはわからん。まあ魔力0な俺には関係ない話だしな、活性化する魔力がないし。
「記憶操作ってすげえな!」
チートな力だな、羨ましい。
「記憶操作!? 忘れ茸いらないじゃん!」
レイ先生が突然大声を上げた。忘れ茸? なんだっけ?
「蘭、忘れ茸ってなんだっけ?」
「はあ。光一のトラウマを消してあげる為に探しに来たんでしょ?」
あー! そうだった、そうだった。
「これで光一は安心だな」
『ヨーイチ忘れてたでしょ』
「リュっリュイ、忘れてる訳ないだろ?」
まあ俺が忘れていた事は置いとくとして、光一に聞いてみるか。レイ先生はお茶を入れに行った。
♢
光一の部屋は相変わらず締め切っている。
「おいおい、陽の光は入れろって話をしたろ? 身体によくないんだぞー」
「あっ洋一君、ごめん。まだ気持ちの整理はついてないんだ」
「ああ、そこは心配しないでも良いぞ? トラウマ部分だけを消せる、俺達と同じ転移? 転生? した人を見つけて保護したからさ」
光一の目が見開かれ
「皆さんとの記憶は消えないんですか!?」
俺に詰め寄って来る。顔が近い、鼻息が凄いぞ。
「近い近い、どうやら消えないらしいぞ。だから悩みの部分だけ取り除ける感じだ」
光一が、力なく縋り付いてくる、目には涙を流しながら。
「お願いします! レイさんやエレンさんともちゃんと話がしてみたいんです! 気にかけて頂いてるのに、僕は失礼な態度しか出来なくて……」
光一は優しいから、2人の優しさにも気付いて気にしていたんだな。
「ああ、大丈夫だよ」
光一は涙を流しながら俺に何度も頭を下げた。光一が泣き止んだのを見計らい、紗香さんを部屋に呼ぶ。紗香さんには、木版と炭を渡している。紙とペンなんてないから、代用品だ。
”この方のこちらの世界に来てからの記憶を消すんですか?”
「正確に言えば、お偉いさんを助けてから逃げ出す迄かな」
”はい、では光一さん頭をこちらに。記憶を見ますが宜しいですか?”
「はい、お願いします、どうかお願いです、皆さんとの記憶だけはどうか消さないで下さい……」
”大丈夫ですよ”
紗香の両手から暖かいオレンジ色の光が出る。光は光一の頭にあたり、光一の頭を包む。
力を使い始めて直ぐに、紗香の顔色が悪くなっていく。
「おっおい大丈夫なの?」
紗香は洋一の言葉に答えず、魔法を続けていく。やがてオレンジ色の光が消え、紗香はその場に崩れ落ちる。
「蘭! 来てくれ! 紗香さんが倒れた!」
蘭は直ぐに飛んで来て、紗香さんに回復魔法をかけるが弾かれてしまう。下級回復薬を口に流し込む、頼む飲んでくれ!
紗香さんの喉がゴクっとなる。紗香さんを光一のベッドに寝かすと
「よっ洋一君と蘭さんだよね?」
光一が恐る恐る声をかけてくる。
「おっおう、俺がわかるか? どこまで覚えてる?」
「はい、確か人助けをして、その後こちらにお世話になってるんですよね?」
どうやら成功したみたいだ、レイ先生を先ず会わせてみようか、いやその前に紗香さんの現状だ。魔法を使ってぶっ倒れるなんて異常事態だろうし。
「蘭、紗香さんは?」
「魔力枯渇では無いね、魔法を行使した時になにかあったんじゃないかな? リスクがあるのかもしれない」
「ぼっ僕のせいですよね、僕が看病します!」
光一は、責任感が強いんだな。
「おっおう。取り敢えず女の子だし、レイ先生呼んでくるな! 後は紗香さんが起きてから話を聞かなくちゃ……」
俺はレイ先生を呼びに急いで自宅に戻る。
レイ先生と会った光一は怯える事も無く普通に接している。レイ先生に会うなり、土下座をしていたが。
半日程すると、紗香さんが目を覚ます。
”すみません、私”
「紗香さん、力を使ったら顔色が悪くなって倒れたんだけど何でかわかる?」
”はい、原因はわかっています。記憶消去は光一さんの中から記憶を取り出し、私が受け皿になる魔法です。消す期間が長ければ長い程、私が昏睡する時間は増えます”
下手をしたら紗香さんは目を覚まさない可能性があった事実を俺達は知らなかった。
「えっなんでそれを言わなかったんだよ!」
”聞けば、優しい貴方達は力を使わせなかったでしょ?”
「「当たり前だよ!」」
光一と俺の声が重なる。
”未来がある若い人の力になりたかったのよ、どうやら私は過去の人間らしいしね”
「おっ俺が歴史の話をしたからか?」
紗香は優しく笑い、俺の頭を撫でる。
”顔をくしゃくしゃにして、小さい身体でなんでも背負う必要は無いのよ? 大丈夫、大丈夫”
俺は下を向き涙を堪える。
「僕の為にすみませんでした!! 命の危険がある真似をさせてしまい、すみませんでした!」
光一は土下座をし涙を流しながら紗香さんに謝っている。
「光一違うよ、こういう時はありがとうでしょ?」
蘭が優しく光一に語りかける。
「ありがとうございます……本当にありがとうございます!! この御恩は一生忘れません!」
紗香は優しく笑っていた。




