第212話 秘儀アナスタシアバリアー!
リュイは堺さんから貰ったネックレスを首にかけている。因みに、蘭と師匠に入念に鑑定をさせた後にだが。
魔王の呪いやら加護が、ついていないかと念入りに確認していた。
豪爺いの体調も回復し、俺達は龍に戻ったリーさんの背に乗る。蘭、師匠、豪爺い、リュイ、アナスタシア、俺の布陣だ。桜さん、エレン爺い、レイ先生、精霊達はお留守番。桜さんは、精霊の加護を貰えたが、禁忌の国の話をしたら体調が悪くなった為連れて行けない。
桜さん曰く、桜さんの中のディアナがアレルギー反応みたいな感じになったと言っていた。
「リーさんよろしく頼むよ」
『しっかりと捕まっておいてくれよ? 旦那様を振り落としたくないからな。蘭よ魔法を頼む。空中は風圧と気温が一気に下がるからな』
空は確かに地上より寒いって言うしな。俺半袖だけど大丈夫なのかな? 凍死しないかな?
「アナスタシア落ちるなよ? フリじゃないからな?」
『落ちるならあんたでしょ! 私は絶対に落ちないからね! 葵、私を落ちないように支えてて!』
「ハッ! お任せを!」
師匠がアナスタシアの後ろに座り肩を抑える。
『これで私が落ちる心配はなくなったわ!』
「リュイ、俺のポケットから出るんじゃないぞ?」
『もちろん!』
うんうん、リュイは良い子だなあ。
『ちょっと私を無視するんじゃないわよ!』
「うんうん。アナスタシアはどうしようもない、悪い子だなあ」
『あんた女神に向かって失礼なのよ!!』
「━━蘭よ、いつもこんな感じで賑やかなのか?』
「はい……洋一だけでも賑やかなのに、アナスタシア様が揃うといつもこんな感じです」
「━━ふむ。洋一、アナスタシアと結婚するのか?」
豪爺いが優しい眼差しを向けて俺を見ている。
「『はっ!?』」
「━━違うのか? まあ洋一には神じゃなく普通の人間と結ばれて欲しいが……」
「豪さん、洋一は種族が変わった影響で、異種族としか番になれないんです」
「━━なんとまあ……洋一も数奇な運命だな」
「ちょっと蘭! なに余計な事言ってんだよ! リーさんGO GO!」
『旦那様は愉快じゃな。では行くぞ!』
リーさんが空に飛び上がり、グングンと進んで行く。街が点にしか見えないぞ……って言うかめちゃくちゃ怖い。ションベンちびりそうだ。
「うおっすげえ! これが蘭がいつも見てる景色か! ちんたまがヒュッてなるぜ」
『ちんたまヒュッヒュッ!』
「リュリュイ、それは女の子が言っちゃダメな台詞だからな?」
リュイが俺を見上げながらニマニマしている。
『ちんたまヒュッヒュッヒュッヒュッ!』
「リュイやめろ!」
『妾の背中で珍妙な掛け声を出すな! そろそろ神国の結界を抜けるぞ、しっかり捕まっておけ!』
紫色の薄い膜を突き抜けると、色とりどりの光りに満ち溢れた世界が視界に映る。
「めちゃくちゃ綺麗だな。魔力に満ち溢れている? なんだここ?」
ん? 光の中になんかいるぞ? 蘭や師匠も警戒しているし。
『ここが、禁忌の国だが……やっと来たな。我がなヴァイシュラヴァナ、いや貴様には毘沙門天と名乗った方がわかりやすいか? 我が魔獣は主の傀儡になったか。まあいい』
右手には赤い棒、多分如意棒か? 左手には宝塔、背中には火焔、顔は厳つい、昔の武将みたいだな。如意棒を俺に向けてくるヴァイシュラヴァナ。
「なんのようだよ。虎次郎はやらねえぞ、魔獣の森に置いてきたしな。って言うかお前! 神夜って言うキチガイをこっちの世界に放り込んだろ!?」
『かみや……? 知らん!』
なに歌舞伎の見え切りみたいなポーズしてんだよ!
「知らんじゃねえよ! 来てんだよ! お前が召喚したのはバレてんだよ! 後ジャングルの王者、太一を転移させてきたろ?」
『ジャングル? ジャングル? あー!! 裸の馬鹿男か! 我が転移させてやったぞ! 力も分けてやったからな』
「なんで太一の事は覚えてんだよ……」
『あっアンタ! なんでこっちの世界にいるのよ、どうやって入ってきたのよ!』
アナスタシアがヴァイシュラヴァナに向けて、怒鳴り散らす。
『それは言えん! 秘密だと約束したからな』
『くっ、この馬鹿! 頑固者! じゃあなにしにきたのよ!』
確かになにしに来たんだこいつ?
『我は、神々が気にかける男の顔を見に来ただけだ! 良い面構えと、淀みの無い魂、人間じゃないのが惜しいが……我の加護を喰らえ!』
「アナスタシアバリアー!」
俺はヴァイシュラヴァナが、なにかしようとした瞬間にアナスタシアの背後に隠れる。
『うぎゃっ!』
「ふう。危なかった……」
『危なかったじゃないのよ! 私に思いっきり当たってるじゃないのよ! なんにもなかったから良かったけど』
「得体の知れない相手の加護なんていらないだろ? お前なら平気だろ? ほぎゃ!」
師匠に頭をぶん殴られた。
「洋一君、アナスタシアちゃんに、変な虫がついたらどうするつもりなんだよ。もし加護のせいで、アナスタシアちゃんが筋肉ムキムキになったら……僕は君を殺すかも知れない」
やっやばい、あの目はマジで俺を殺す目だ……。
「おい! 大丈夫だよな?」
縋るようにヴァイシュラヴァナを見ると
『知らん!』
「お前そればかりだな!」




