第189話 ヤンキー漫画直伝 拳を合わせて伝わる想い
精霊を探す、精霊を探すねえ。堺さんならわかるかな? でもゲームだと魔王と敵対関係だしなあ。うーむ困ったな。
リュイが、俺を目掛けてスーパーマンよろしくなポーズで、勢いよく飛んでくる。後ろにはアースを従えて。
『ヨーイチ、話終わったの? ヨーイチのお母さんの具合落ち着いたよ』
『僕とリュイで、加護に加えて魔力譲渡までしたんだからバッチリさ。今はお腹の子のためにも寝てるけどね』
母さんは寝てるのか、一安心だな。とりあえず二人なら同じ精霊だし残りの精霊について知ってるかな?
「二人は、水の精霊と闇の精霊の居場所知ってる? 出来れば保護したいんだけど」
『アクアとメアの居場所? アタチ知らなーい』
おうふ、マジかよ……いきなり幸先悪いな。
『うーん、アクアならルイアスの滝の側にいるんじゃないかな? お気に入りの場所だって前に聞いたし、まあ前って言っても20年位昔だけど』
アースの情報古っ! 20年ってめちゃくちゃビンテージもんな情報じゃないか。あてになるのかなあ
『ルイアスの滝ってまだあったかしら、確か地殻変動の折に無くなったような』
更にアナスタシアから嫌な情報が入る。ルイアス大丈夫かよ……とりあえず行ってみるしかないか。
『僕場所はわかるし、行ってみよーよ。久々にアクアに会いたいし』
アースとアクアは仲良しなのかな?
「じゃあアース様の記憶を元に転移しますね。洋一、お母さんに挨拶してきなよ」
俺は蘭に促され、神殿に戻る。母さんは、祭壇の右奥の部屋にいるって話だ。
石のドアの前に着きノックをする。なんとなく緊張するな。
━━コンコン
「母さん寝ているとこ悪いんだけど、あの、俺なんだけど入っていい?」
「俺なんて息子は、うちにはいないなあ」
ドア越しに聞こえる母さんの声。
「貴方の息子の柊洋一だよ!」
なんでオレオレ詐欺の対応マニュアルみたいになってんだよ!
「入ってき、話があるんやろ?」
ドアが開き母さんが招き入れてくれる。部屋の中はでかいベッドにちゃぶ台、本棚しかない簡素な部屋。本棚には本がギッシリ詰まっている。
「精霊を探しに行くんかあ。成る程、大冒険やなあ。でも死ぬんやないで?」
「死ぬつもりはないよ、精霊を探しに行くだけだし」
「洋一、ちょっとこっちおいで」
母さんに手招きされ、頬を撫でられる。
「あんたは、やっと会えたうちの可愛い息子や。あんたはうちに似て強情やし、泣き虫やし、意地っ張りやし、他人の為に命を使ってしまう、うちはそれが心配なんよ……あんたはあんたを大事にしーひんから」
母さんの手が少し震えている、俺はその手を握り
「大丈夫だよ、俺には強い味方がいっぱいるから! だから母さんも泣かないでよ。出来れば笑って送り出してほしいな、また会いに来るし」
俺は笑って母さんに言った。母さんは俺を抱きしめ
「うちより先に死んだら許さないからね。うちより先に死んだら、地獄まで引っ叩きにいくからね! 覚えときい!」
そう言って泣きながら笑う母さんの表情は、とても美しかった。
♢
母さんの部屋を後にし、皆んなの場所へ戻ると
「洋一君! 聞いてくれよ! このオヤジがうるさいんだよ、君に会わせろって」
霧雨さんがうずくまっている。
「うるさいから殴ったらさ、あんまり手加減できなくて、ちょーっとやばかったけど、蘭ちゃんが回復してくれたのさ! それなのに皆んなして僕がやり過ぎだって責めるんだよ!」
経緯はよくわからないが、多分霧雨さんは俺に会いたい的な事を師匠に言って、制限がなくなった師匠にぶっ飛ばされたんだな。うん、師匠が理不尽過ぎる。
それで蘭が回復して、アナスタシアとリュイ辺りが責めたのかな?
「わっわかりました! 師匠、俺が霧雨さんの話を聞きますので、少し待って貰ってもいいですか? 一応母さんの旦那さんだし、俺の義理の父になるかもしれないんで」
「うーん、手短にね!」
手短にしろって、まああんまり話す事もないからいいけど。
「霧雨さーん、貴方のお探しの柊洋一が来ましたよ。一応母さんの息子なんで、母さんと結婚してる貴方はお義父さんになるのかな? よろしくお願いします」
相手の意見を封殺する素晴らしい必殺技、先手必勝マンだぜ!
「痛つつつつ。よーよー。矢継ぎ早に言ってくれるじゃねえか、六華の子かあ。ならまあ、義父ちゃんだ、よろしくな。とりあえずあれだ、口で語るのは好きじゃねえんだ、拳だしてみろ」
拳をだぜ? とりあえず言われた通りに両手でグーを作り、霧雨さんに向けて突き出す。ため息をつかれたぞ!?
「よーよー片手でいいんだよ」
片手!? 最初に言ってくれよ。俺そう言うの知らないんだから、恥かいちゃったんじゃんか。
俺の拳と霧雨さんの拳がマッスルドッキングする。なんだろうこの感じ、ヤンキー漫画みたいだ! 不良とか、怖いから近づいた事ないけど!
「よーよーなるほどなあ、だいたい分かったわ。まあ六華も言ったように、親より早死にはすんなよ。ここもお前の家だからな。六華をあんまり泣かすんじゃねえぞ」
それだけ言うと、手をひらひらと振りながら神殿の中に霧雨さんは戻って言った。
「しっ師匠、話は終わりました! これで精霊探しに行けます!」
「ヤンキー漫画みたいで面白かったから、許そうじゃないか」
なにがなんだか、わからないけど、師匠が許してくれて良かった。
「じゃあ皆んな、転移で飛ぶから一箇所に集まって。洋一は真ん中ね、いつも勝手にいなくなるから」
いや勝手にいなくなった事はないぞ? いつも誰かに巻き込まれてるだけだからな?




