第187話 作戦ナンバープランB
皆んながいる事も構わず声を上げて泣いた。俺ってこんなに母親を求めていたんだな。改めて痛感したよ。
「洋一、落ち着いた?」
蘭が優しく声をかけてくれる。
「おう悪い、もう大丈夫だ。皆んな、ごめんなさい話の途中で。母さんはなんでいきなり具合が悪くなったんだ? 確かアナスタシアが神国の話をしだしてからだと思うが」
俺はアナスタシアの方を見ると、アナスタシアは下を見ながら
『私が創造神様に聞いたのもそこよ。禁忌に触れたり、禁忌を破れば、この世界にいる全ての生き物は例外なく、悪影響が起こる。体長が悪くなるだけならまだマシなの、酷い人は気が狂うか最悪死ぬから……』
死ぬってお前そんな馬鹿でかいリスクがあるのに、母さんやリュイやアースがいる前で話したのかよ。
『精霊は大丈夫だと思ったのよ! それに六華だって貴方と同じ神気無効だからもしかしたら、大丈夫かなって……』
師匠はアナスタシアの側に立ち
「この事でアナスタシアちゃんを責めるのは筋違いだよ。君もわかっているんだろ? 神は全能でも全知でもない。とっととケリュネイに話をつけに行こう」
師匠の言う事はごもっともなんだが、納得がいかない。
大和さんが蘭を手招きしている、蘭と大和さんがなにか内緒話をしている、なんだろう?
♢
ケリュネイに話をする為俺達は、一度神殿の外に出る。
母さんやリュイやアースは神殿に残したままにした、禁忌の話をするとどんな弊害が出るかわからないからだ。
「ほら洋一君いくよ」
ぼうっとしていたら師匠に声をかけられる
「あっはい」
俺は煮え切らない返事をしながら、師匠達の後を着いていく。
「おーいケリュネイ、隠れてるなら引き摺り出すぞー」
大和さんがケリュネイを呼んでいるが、呼び出し方の後半が酷過ぎる。
「大和さん、流石にその呼び出し方はちょっと……」
「大丈夫だって、引きこもりは力強くでドアを蹴破ったり、ゲームを壊したりするのが一番なんだろ? テレビでやってたからな!」
大和さんそれは違います……。それは頭のおかしい、いかれたやり方です。ネットで炎上するパターンですよ、無理やり引き摺り出された姿は、俺も覚えがあるが悲惨だったなあ。
「出てこないなら」
やっやばい余計な事を考えていたら、大和さんが首をゴキゴキ鳴らし始めた。
「ケッケリュネイー!! 早く出てきてー! じゃないと大和さんが無茶をするから!!」
俺が必死に叫ぶと、空間が歪む。空間の歪みからケリュネイがゆっくりと出て来る。
『騒々しい……神殿の中に入ったのであろう? ならば私にはもう用は無いはずだ』
『あるのよ! 私が! 他ならぬ私が用事があるのよ! あんた神国の行き方知ってるでしょ? 世界がピンチだから案内しなさいよ!』
『……いくらアナスタシア様の頼みでも』
『なんでよ! このけちんぼ! 私と契約してるんでしょ?』
『あれは寝てる私に無理やり……』
ケリュネイは渋っている、禁忌の国だからかなのかはわからないが、この分じゃ難しいだろうな。
それにアナスタシア、ケリュネイと無理やり契約したのかよ。そんなんじゃ頼みなんか聞いて貰えないわな。ケリュネイからしたら、どの面下げてって感じだろうし。
「じゃあ俺の頼みだ!」
思わずギョッとして大和さんの顔を見てしまう。大和さん、めちゃくちゃ良い笑顔をしているな。
ただ大和さんの頼みが通る理由が、全く見当たらないよ……。ボコボコにされて脅された人が、オッケー貴方のお願いなんでも聞いてあげるよー! ってなるわけないだろ!
「なっいいだろ?」
めちゃくちゃフレンドリーにしてる! サイコパスそのものだよ!
『なっ何故、私がお前の頼みを』
ケリュネイが、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。
「いいじゃないか! 喧嘩した後は友達だろ? な!」
なにその超理論。昭和のヤンキー理論なのかな? 同世代でも全く理解できない価値観だぞ。
『いっ嫌だ! 私はあそこには行かない、なにがあろうとも、誰に言われても、通す事はない』
頑な拒否、これはもう八方塞がりだな。
「うーんわかった。ケリュネイお前さ、神国に行った事ないだろ?」
大和さんがニヤニヤしながらケリュネイを煽っているが、大和さんの意図が見えない。
『バッバカにするな! 行った事があるから案内ができるんだ!』
大和さんがビシッとケリュネイを指差す。
「今、神国を思い出して明確にイメージしたな?」
『は?』
俺もケリュネイと同じ感想だ……良かった口に出さなくて。万が一にも口に出していたら、大和さんに拳骨されるかもしれないからな。
「蘭ちゃん、神国の場所は見えたかな?」
「えっええ、転移で行けそうです。でもいいんですか? こんな騙し討ちみたいなやり方」
さっきの内緒話の正体はこれか! 蘭も良く協力したな。俺がお願いしたらお説教間違いなしのに。
「仕方ないさ。ケリュネイが素直に協力してくれたらよかったんだが。プランBって奴だな」
「プランBって……Aがさっきの交渉だとしたら、プランCは?」
プランCなんてないだろうけど、気になったから大和さんに聞いてみた。
「力ずくだな!」
「あっやっぱり」
聞いた俺がバカだった……。




