第186話 神の眼すら通さない神国
股間を蹴り上げられても意識を失えない……無駄に体力が上がったせいかはわからないが、痛みだけが延々と残る拷問、痛い痛過ぎる。
「ふああああああああ!」
股間の痛みが尋常じゃない!
「あちゃーアナスタシアあんたねえ。うちの子の玉が使えなくなったらどうするんだい? 責任取ってくれるのかい?」
『せっ責任てなによ!』
母さんが俺の肩を掴み、アナスタシアの前に突き出す。そっとしておいてくれえ! 衝撃を与えないでえ!
「結婚だよ、結婚。洋一とアナスタシアなら背格好も似てるし、お似合いなんやない?」
俺とアナスタシアが結婚!?
『バッバカじゃないの! 私は女神よ!?』
「なら大丈夫やな。うちの洋一だって神の血を引いている、ほら問題ないやろ?」
かっ母さんやめてくれ! なに急に縁談を纏めようとしてんだよ! 俺はレイ先生や桜さんみたいにボインボインが好きなんだよ! べっ別にアナスタシアが可愛いとか思ってないんだからね!
『えっちょえ? 私とこいつが結婚!? あっありえないの! 私の好みはイケメンで背が高くて、あれでそれなの!』
「あはは、まあ考えときや。洋一! 式には呼んでくれるんだろ?」
「えっ式って母さん! 気が早すぎるよ!」
母さんは満足げに頷くと、皆んなを呼びに行ってしまう。残された俺とアナスタシアだが、凄く気まずい……。
「あっアナスタシア? その母さんの言う事は気にしなくて良いからな?」
俺が声をかけるとアナスタシアが、びくりと肩を震わせ。
『べっ別に気にしてないわよ! それよりあんた! 残りの神殿は何処にあるか分かっているんでしょうね?』
残りの神殿? 神殿ってまだあるのか?
「え? ここがラストじゃないの?」
『違うわよ!』
言い切られてしまった。
「違うのかあ……残りの神殿って何処にあるんだ? アナスタシアなら知ってるんじゃないのか?」
『……わかるわよ。皆んなが来たら話すわよ』
なんだ? 今言えばいい話じゃないのか?
「今言えよ」
アナスタシアにキッと睨まれる。
『……そんな簡単な場所じゃないのよ』
アナスタシアが小声で呟き、下を向いて沈黙してしまう。はあ……なんなんだよこの空気。
♢
入って来るなり、師匠は直ぐにアナスタシアに駆け寄る。
「アナスタシアちゃんどうしたの? 落ち込んでるみたいだけど? 洋一君になにかされたのかい!?」
なんで俺がやらかした前提なんだろう。
『違うわよ……次に行く国についてよ』
アナスタシアの口が重々しく開く。
「アナスタシア様、次に行く国って」
蘭がアナスタシアに催促するように聞く。
『神国ルグドレイア。ここは五つの神殿に囲まれている国なの……国の形は五角形で成り立っているの。神の眼すら通さない結界、そこが瘴気に堕ちていたらこの世界は終わるわよ。ルグドレイアに行くためには、ケリュネイに案内させなきゃいけないのよ』
神の眼すら通さない場所って逆に言えば何をされていてもわからないって事か。それにケリュネイに案内させなきゃって……ケリュネイ、案内人してくれるかなあ。最後めちゃくちゃ不機嫌だったからなあ、無理やり神殿に入っちゃったし。
『神国はね、この世界に住む人間なら皆んな知っているのよ。禁忌として扱っていて、口に出す事すら阻まれている国。私の前にこの世界を管理していたのは創造神様なんだけど……なんで禁忌なのか、私が聞いても教えてくれなかったのよ』
「うーん」
「どうしたの洋一?」
蘭が俺の顔を覗き込む。
「レイ先生も確か……禁忌だからその国の名前は言ってはいけないって言ってたしなあ」
「洋一、うちはちょっと休んでくるよ」
母さんの顔色が悪い、なにか身体に触る事があったんだろうか。
「あっうん……母さん具合悪いの? 具合が悪いなら蘭にヒールをかけて貰った方が」
母さんは俺の頭を軽く撫で
「ちょっと休んでくるだけやから、心配しなくても大丈夫や。精霊のチビ達も一緒においで、お菓子あげるから」
母さんはリュイとアースを抱き抱えながら、出て行ってしまう。
「母さん大丈夫かな……」
「洋一、さっきから六華さんの事母さんって」
「あっああ。説明してなかったな。実は……」
大和さんや師匠や蘭やアナスタシアに、事情を説明する。
蘭は匂いが似ていたからきっと血縁だと思っていたらしい。
母さんのスキルや力を知っていたアナスタシアは、特に驚いてはいなかった。
「だから似てたんだ! あの空気の読めなさ! 痛ッ! 直ぐ殴るのやめてよ!」
師匠が大和さんに殴られている。俺、母さん並みに空気読めてないのかな? 母さんの場合は読んだ上の行動だと思うけど。
「柊君、良かったじゃないか。分け御霊とは言え、彼女が君のお母さんな事に間違いない。天涯孤独って訳じゃない訳だ」
天涯孤独か……。俺は、蘭をそっと抱き締める。
「ははは。俺には蘭がいますから、天涯孤独って訳じゃないですよ。蘭が俺の家族ですから! 複雑な感じだけど、母さんに生きて会えたのは嬉しかったです。もう死んでるって思っていたので……」
大和さんは俺の肩を掴み。
「感情を殺さなくて良い、親が生きていて嬉しくない人間なんていないんだからな。嬉しいなら嬉しいでいいんだよ。特に君の場合はさ」
感情を抑える?
「洋一、よかったね。お母さんに会えて」
蘭の言葉で、自分が我慢していた事に気付き、涙が溢れ出す。




