第19話 土葬or火葬?
忘れ茸を探しながら魔獣の森を散策する。全然見つからない。この森そもそも茸類が少ない。何故だか笑い茸や毒茸は見つかるんだが……。
「リュイ、全然見つからないんだけど、群生地とかないの?」
精霊なんだからきっと知ってるはずだ。自然の精だもんな。
『アタチだって、場所までは知らないよ。凄く珍しい事と形位しか』
知らないんかい! あーリュイはまだ若い精霊だから知識もあんまりないのかな。
「俺は、あんまり奥まで行けないしなあ。行商人も居ないしうーん」
手詰まりかなあ。エレン爺いなら知ってるかな? 後は精霊王か? 俺が頭を悩ませていると、
「洋一、光一はあの子とは違うんだよ? 虐待されてる訳じゃないし」
━━蘭の言葉が、心の奥底に刺さり騒つかせる。
「そんな事はわかってるよ。地球じゃねえんだし、けど忘れられるなら忘れた方がいい事もあんだろ?」
蘭の言っている意味はわかっているんだが、それでも俺は……。
『ヨーイチ? どうしたの? 顔怖いよ? お腹痛いの?』
いかん、表情に出てたか。リュイが心配そうに俺の顔を見ている。
「んにゃ大丈夫だよ! さっもうちょっとこの辺りを探そ!」
努めていつも通りな感じを出し、俺は歩き出す。
『ヨーイチ大丈夫なの?』
「ああ! 見つからなくても、なにか果物とか食べれる奴だけでも探そう」
俺はリュイから顔が見えないようにし、辺りをキョロキョロ見ながら先行して歩く。
蘭は俺の肩にとまりそれ以上なにも言わなかった。相変わらず優しいな。
♢
結局俺達は忘れ茸を見つける事は出来なかった。お荷物な俺がいるのであまり、森の奥までは探索できていないから仕方ないっちゃ仕方ないんだが。
「ヨーイチお帰り! もう、急に森に入るんだから! 蘭ちゃんやリュイ様がいても、一言言わなきゃだめよ?」
レイ先生が、俺達を出迎えてくれる。プリプリ怒るエプロン姿のレイ先生はエロ可愛い。バインバインだし。
「ヨーイチ、あんまり女性の胸ばかり見ちゃだめよ?」
胸を隠されてしまった。視線がバレバレゆかいだったか……。
「いっいやあのエプロン姿がエロいなあなんて思ってませんよ!」
「こらっ! 子供のくせに変な事言わない!」
顔を真っ赤にして怒られた。あれその振り上げた拳はまっまさか!
ゴチン
「痛ああああああ!」
ゲンコツされた、めちゃくちゃ痛い。叔父さんからうけたゲンコツの10倍くらい痛い。
『ヨーイチはバカチンだね。ねえレイ、奥から変な臭いがするんだけど?』
リュイに言われて気付いたが家の中から何か変な臭いがするな。卵が腐ったような、なんだ? なんの臭いだ? これは、エレン爺いが変な事してるんだな? 注意しなきゃ! 異臭騒ぎは隣人トラブルの元だからな!
「レイ先生、エレン爺いは? 異臭騒ぎの原因はエレン爺いだろ? 文句言わなきゃ」
「しっ師匠はその、寝てるわ!」
ん? エレン爺い寝てるのか? 早過ぎないか? まだ夕方だが。あれ? 倒れたままピクリとも動かないな、大丈夫かあれ?
「蘭、あそこに倒れてるのって? あれ? 蘭何処行った?」
蘭が気付けば屋根の上にいる。あいつ臭くて逃げたな。……とりあえずエレン爺いの方に行くか。
「あっヨーイチだめ!」
レイ先生が止めてきたが、俺は真っ直ぐエレン爺いを目指す。するとそこには紫色の顔色をして、白目を剥き泡を吹いて倒れるエレン爺が居る。顔の横には、なにか付いてるし、吐いた様な痕まである。
「死因は毒殺かな?」
『エレンはドワーフ、エレンもイチコロとなると……うーん、あっキッチンから臭いがするわ!』
リュイがキッチンを指す。キッチンは爆撃を受けたかの様に荒れていた、すげえ臭いだな、鼻が曲がるぞ。
「光一に元気を出して貰う為に、ヨーイチに前に聞いたケーキを作ってみようとしたんだけど……」
おっおう、成る程。材料も無く聞いた話だけで再現しようとした、レイ先生のチャレンジ精神は認めるけど
「それを摘まみ食いしたエレン爺いが死んだのか……。南無三」
手を合わせて祈っておこう。エレン爺いが安らかに眠れるように。あれ? 異世界って土葬、火葬どっちだ?
「レイ先生、この世界では土葬、火葬どちらですか?」
「火葬だけど……アンデットになったら困るから。って師匠は死んでないわよ!」
生きてるのか、でも顔色はやばそうだ。アンデット、実に嫌な響きだ。あっリュイが蘭の方に飛んでった、蘭臭いの嫌いだから多分降りてこないぞ?
『蘭、臭いが嫌なのはわかるけど、エレンを治して!』
「はあ、わかりました。ついでに臭いの原因となる物とこの辺りの臭いは浄化しときますね」
蘭が、レイ先生の後始末をしてくれている。凄く嫌そうだ、まあ蘭は人間より鼻がいいからな。
「ごめんね、蘭ちゃん」
レイ先生が申し訳なさそうにしている。
「失敗は誰にでもありますよ。レイ先生の優しさから出た事ですし、自分を責める必要は無いですよ。エレン爺いは意地汚いからバチが当たったんです」
だけどありがとうエレン爺い。食わなくて良かったよ、食ってたら死んでたかもしれんし
「ありがとうヨーイチ。でもバチってなに?」
「天罰的な? 俺の居た世界では、悪い事をした人に悪い事が起こる、それをバチが当たったって言うんです。後は神様や仏様が居る場所に悪戯したら、バチが当たるぞって脅かされもしましたね」
「こっちでの、悪さしてるとオークの餌場に放り込むぞ! 的な感じの話かしらね」
「こっちのは嫌に具体的ですね、レイ先生、因みにどう言った意味が?」
「オークに犯され散々遊ばれて食われるって事よ。オークは男でも尻に突き刺さしてくるのよ」
まっじかよ。女騎士のくっ殺とかは分かるけど、男の尻まで、無理矢理狙うなんてツナギ姿の良い男の彼より酷いじゃないか。最後食われるし。やっぱりこの世界はおかしい。
「怖っ! エレン爺いなら忘れ茸持ってるかなと思ったがこの分じゃ今日は聞けないか」
「忘れ茸、忘れ茸ねえ……うーん。なにか引っかかってるんだけどなあ」
この後レイ先生が思い出した事により思わぬ方向に話が進んでいくのを俺はまだ知らなかった。




