第174話 ソフビ人形の運搬はポケットで
触手が爆発した? って言うか今の声ってまさか。いや向こうの戦闘音は続いてるぞ?
「大丈夫洋一? 怪我してない?」
凛とした中に優しさがある蘭の声、蘭の羽音。
蘭が空から降りてくる。触手の化け物を倒した効果か水滴が降り注ぎ、蘭の後ろに虹が差す。
「蘭! お前どうして! 向こうの戦闘は!?」
「あっちは大和が来たから大丈夫よ。ただケリュネイが、大和の話を聞かなくて戦闘が続いてるのよ。大和もかなり手加減してるしね」
大和さんが手加減? なんでだ? 問答無用でぶっ飛ばすのかと思ったが。
「なあ蘭、大和さんなら一撃で終わったんじゃないのか?」
「アナスタシア様が殺さないでって、大和に泣きついたからね」
「泣きついたかあ……リュイや師匠は大丈夫なのか?」
「葵は大和が来るまでケリュネイを一人で抑えてたよ。今は大和と交代して、リュイ様と一緒に休んでるよ。葵もアナスタシア様に殺さないでって言われたから、本気でやれなかったみたいだけど」
アナスタシア何気にすげえな、大和さんと師匠の行動を一時的に制限させたのか。
「とりあえず向こうに行くか」
蘭がその場から動かずに、俺のズボンのポケットを見つめている、ん? アースの足だけがポケットから出ている。
昔ウルトラマ○のソフビをポケットに入れてたなあ。こんな風にポケットからはみ出てたっけ。
「洋一、ポケットから出ているのって精霊様?」
「ああ、アースだよ。さっき助けて貰ったんだが、魔力切れで今はバテバテなんだ」
喋りながら俺はアースの向きを直してやる。
「えっ? 試練は大丈夫だったの? 確か一人で受けなきゃって……」
蘭が、心配そうな表情をしている、あっそう言えば試練クリアしたって言ってなかったな。
「試練はクリアしたよ。アースは、試練の終わりの方まで寝てたからバレなかったんだけど、最後は試験管と仲良くなって一緒に試練を出す側に回ってたよ」
俺が笑いながら蘭に告げると
「はあ。洋一はなんだかもう……私の心配を返してほしいよ」
蘭にため息をつかれるのもなんだか久々だな。ちょっと嬉しいぞ。
「ニヤニヤしてないで行くよ」
蘭にせっつかれ、ポケットで寝てるアースと共に転移をする。
♢
目を開くと大和さんがケリュネイの顎をアッパーで打ち上げていた。ケリュネイは激しい音を立てながら後ろに倒れて動かなくなる。あれ? 死んだんじゃないかな? かなり良いの入らなかったか?
『ヨーイチ!』
リュイが俺に向けて突っ込んでくる、リュイは泣きそうな顔をしている……心配かけ過ぎたかな。
『雷砲が見えたし……試練の塔には着いて行けなかったし、心配したんだからね!』
「悪い悪い、試練は無事に終わったから安心してくれ。それでアナスタシアは?」
リュイの頭を指で撫でると
『あっち』
リュイが指差した場所には、口を大きく開けて固まっているアナスタシアがいた。
「あーアナスタシア? 大丈夫か?」
アナスタシアに声をかけてみると
『ちょちょ! なんなのよ! 殺さないでって言ったのに! ケリュネイ、ボコボコになってるじゃない!』
アナスタシアが俺の胸倉を掴んで揺さぶってくる。シャツが伸びるからやめて欲しいんだが……。
『聞いてんの!? 葵もあの人にはなにも言わないし!』
吠えるアナスタシアを他所に師匠はこっちを見ながら手を振っている。ん? 口が動いてる? なになに? 後は任せた?
ええー! ブチ切れてるアナスタシアを俺に任せて木の上に寝転びはじめたぞ! 師匠! 大和さんは貴方の師匠でしょ!
「ふー殺さないように戦うのって、やたらめんどくせえのな。危うく殺すところだっだぜ」
大和さんがめちゃくちゃ良い笑顔で、額の汗を拭いながらこちらに歩いてくる。
「やっ大和さん! 一応聞きますがケリュネイって生きてる?」
俺が恐る恐る大和さんに確認すると
「おうよ! ギリギリだったが大丈夫だろ。まあ暫くは戦えないんじゃねえか?」
『あっあんた……貴方……手加減してくれたのよね?』
アナスタシアは俺の背に隠れながら、大和さんに質問してる。大和さんが怖いなら言わなきゃいいのに。
「おう! 女神の嬢ちゃんの頼みを聞いてやったぜ。まあそろそろ御使が出張ってくる頃なんだが……そっちは始末するからな?」
そう言えば変な触手は出てきたが、御使様は出てきてないな。
『みっ御使? 誰の御使なの?』
「アルテミスって奴だな。まあ今は操られてるから、邪神の御使ってところかな?」
『またその名前? 私その名前の女神知らないんだけど、ほんとに女神なの?』
「まーその辺は御使が来たら聞いてみようや。俺も興味あるしな」
大和さんもアルテミスに詳しくないのか……って言うか一番知ってそうなケリュネイは、舌を出して白目を剥いて倒れちゃってるしなあ。
「ケリュネイに聞いたらよかったんじゃ?」
「彼奴は主神を売るような半端な神獣じゃねえよ。戦った俺が一番わかるぜ。あっそういやこの男なんなんだ? とりあえず気絶させたが」
『あー! 霧雨! そいつは死んでもよかったのに』
「こいつ子供いるんだろ? 多分神殿の奥に身重の嫁さんもいんだろ?」
大和さんなんでわかったんだ?
『知り合いなの?』
「いや知らねえ。多分身重の嫁さんの方がコイツより強いだろ? 嫁さんの中に別の小さな魂が入ってたからな。身重じゃ戦えないなって思ったんだよ。それに依頼にない相手をわざわざ殺さねえよ、子から親を奪いたくないしな」
大和さん自分と重ねてるのかな……




