第18話 トラウマが疼き出す
畑仕事も終わり俺とレイ先生は装備を付け庭に出ている。あれから光一は部屋に引きこもったままだし、かなり心配だが今は俺の力を見てもらわないと!
「さっ、ヨーイチ素振りをして見せて!」
「はい!」
「へあっ! やっ! ほわちゃ!」
レイ先生に教わった型をひたすら繰り替えす。
「掛け声はともかく、やっぱりヨーイチは強くなってるよ。剣速が上がってるし、剣を振った後の身体のブレも少なくなってる」
レイ先生が褒めてくれている。よっしゃもっと気合い入れるか!
「あちょ! あちゃ!」
「短期間になにかあったのかな? 蘭ちゃーん! ヨーイチのステータス見たいんだけどー!」
蘭が屋根から、レイ先生の近くに降りてくる。なんだ? 俺のステータスがどうとか聞こえたけど。
「ステータス? 見る? 本当に?」
珍しく歯切れの悪い蘭。俺のステータスに拙い内容でもあるのかな?
「えっと、見ちゃマズイかな? 訓練内容を改善するのに参考にしたくて」
柊洋一
12歳
職業 引きこもり笑
称号 権力者にだけ強い (神威無効、精霊王覇気無効)
レベル10
体力100
魔力 0
攻撃力40
防御40
素早さ35
運501
スキル
雷耐性小 精霊視
加護
雷精霊の加護 女神アナスタシアの加護
「あれ? あまり伸びてない? レベルは10になってるのに。アナスタシアの加護ってなんだよ」
アナスタシアの加護っていつ付けられたんだ? 新しい呪いか? うーむなんなんだ? わからん。
♢
なんでステータスが伸びないんだ? 結構頑張っているんだけどなあ。
「これは、洋一の魂に根付いた呪いのせいなんだ。本人は気づいてないけどね。こっちに来てから、精神的にも安定しなくなっているの。それでも、称号だけはかなり良い筈なのよ。でも……腕が立つ人やゴブリンより強い魔物には今のままじゃ勝てないんだよ」
「じゃあヨーイチは、どんなにレベル上げても、ダメって事?」
「根本の呪いを消さなきゃね。アナスタシア様の加護で、呪いが少しだけ、薄まりはしたけどね」
「ヨーイチいいい! 」
おわっ! いきなりレイ先生に名前を叫ばれ抱きつかれた! 考え事してて蘭とレイ先生の話を聞いてなかった!
「えっ! ちょ嬉し恥ずかしハプニング! ってレイ先生泣いてるし、なんだなんだ?」
抱きしめられたのは嬉しいんだけど理由がわからん。なんでレイ先生は、泣いてるんだ? 泣いてるせいか力加減がされてない! 痛い! だが我慢!
「洋一、しばらく慰めてあげな」
「まあそりゃ慰めるけど、鎧がガチャガチャして、めちゃくちゃ痛いんだけど」
くそお! 鎧が邪魔だ! 鎧を脱ぎたい、でも脱げない。泣いてる人を引き剥がして、ちょっと鎧を脱ぎますね! なんて言えないしいいい、ちっくしょおお! パージ! って叫んだら俺とレイ先生の装備が脱げないかな? 鎧よ、どきやがれええ!
『ありゃレイ、なんで泣いてんの? ヨーイチは変な顔してるし』
「レイは優しいから、洋一を思って泣いてるんですよ。因みにリュイ様、洋一は多分ろくな事考えてないと思います」
『あーきっと鎧を脱ぎたいんだね、さっきからもぞもぞしてるし』
リュイと蘭がなにやら呟いているが、それどころじゃない! 装備よ外れてくれえ! 俺が心で血の涙を流していると、レイ先生が急に泣き止み決意を込めた瞳で俺を見てくる。まっまさか告白か!?
「ヨーイチ、技術を鍛錬しよう。ひたすら技術を極めるのよ! 力は無くとも技で相手を圧倒するのよ!」
カッコいい事言ってるけど、鼻水は出てるし目は涙でウサギみたいに真っ赤。告白だなんて淡い期待はしてなかったんだからね ? ほんとだよ?
この日から俺の訓練は何故かめちゃくちゃハードになる、このままじゃ訓練で死んでしまう。
♢
「光一やーい、ご飯持ってきたぞー」
光一は、部屋の隅に隠れている。
「…………洋一君」
生気の抜けた声を出す光一。
「うおっ! なにしてんだよ。レイ先生もエレン爺いも戦わせる気無いって言ってたろ? だから大丈夫だぞ? エレン爺いは此処に住むらしいし、レイ先生は口が堅いから秘密が漏れる心配は無いしさ」
「頭では分かってはいるんです。だけど思い出してしまうんです。戦え戦えって言う異世界の人達の目や声が蘇ってきてしまって……」
光一がまた俯いてしまう。
「あーなんだ、とりあえず飯食って日の光くらいは浴びろよー」
まいったなー、重症だ。とりあえず飯は食ってるみたいだけどトラウマの治療なんて俺にはわからんし、精神科も無いから薬もないしなあ。
「蘭やーい、光一の奴どうしたら良いんだろうな」
「記憶を消してみる?」
「部分的に消せるのか?」
部分的に消せるならそれもありだな。
「いやマルッと消えるけど」
「マルッとかあ……それならって、マルッとはダメだよ! 日本の記憶まで消したら! なにもできくなくなって介護が必要になっちゃうよ!」
俺に介護知識なんて無いし無理だ!
「後は封印かなあ?」
「どうせマルッと封印なんだろ?」
「もちろん」
「だめだー、封印と記憶消去は無しだ! なにかないかなあ」
細かい調整が出来ないならどちらもだめだな。俺が悩んでいるとリュイが横から話しかけてくる。
『忘れ茸ならここ最近の記憶だけ消せるよ? ここ最近だからアタチ達の事も忘れちゃうけど』
忘れ茸なら、なんとかなるか、ただ俺達の事は忘れちゃうのは、切ないけど仕方ないな。
「うっ〜ん。本人に聞いてみるかあ」
とりあえず光一に聞いてみよう。意思確認は大事だしな
♢
相変わらず部屋の隅で小さくなっている光一。子供がしていい表情じゃないだろ……。目に光がないし、表情は今にも死にそうな感じだし。
「その忘れ茸を使うと、洋一君や皆さんの事も忘れちゃうんですよね?」
「だけどさ光一、正直今のままじゃ辛くないか? 元の世界に帰れたら一番なんだが、それは直ぐには無理そうだからさ。せめて召喚前に立ち戻って、一から俺たちが今の現状を説明する的な感じでさ」
「少し考えさせてください……」
光一は下を向いてそれっきり黙ってしまう。
光一は悩んでくれている。出会って日が浅い俺達の事を思って。俺は光一がどんな答えを出しても良いようにしてやろう。それが大人の役目だから。
♢
「蘭、リュイ、今から我々は忘れ茸を探します! 蘭とリュイは、俺をゴブリンより強い魔物から守ってください! 俺はシャカシャカ探すから!」
「洋一元気だけは良いね」
なにやら蘭に落胆されてしまったが、オークとか出てきたら死んでしまうしな。
『でもヨーイチ、もし忘れ茸を使うなら、アタチ達の事忘れちゃうけど良いの?』
それは悲しいが、今の現状よりはましな筈。
「リュイ、それは仕方ないさ。嫌な記憶のせいで若い人が精神的に潰れるのは見たくないし、レイ先生やエレン爺いとも仲良くして欲しいからな」
「洋一、ほんとは悲しいんじゃないの?」
蘭は本当に優しいな。俺の気持ちをよくわかってる。
「そりゃ嫌だよ、せっかく友達になれたしね。だけど見てらんないんだよ。異世界っていう、ある種憧れの世界に来てさ、トラウマ抱えてたら生きづらいだろ? 大人の俺がなんとかしなきゃ!」
『あっ貴方ほんとにヨーイチなの?』
「むきー! 蘭、リュイが凄く失礼なんだけど!」
俺達は森へと忘れ茸を探しに向かった。