第166話 そんなに見つめられると味がしません
堺さんは、魔眼の力が強くなったって言ってたけど実際の所、強くなった感覚がない。試しに遠くを見ようと、目に力を入れて見る。
壁しか見えない。目の力を少しずつ抜いて見ると、自分が見ていた壁が、自分のいる位置と真反対の所の物だと気づく。
「ズーム機能が付いただけやないかーい!」
俺の突っ込みが虚しく響く。魔力を見る方は勝手に発動してたからか、うんともすんとも言わないし。
魔力、魔力、もしかして魔力がある扉は外れなんじゃないのか? 物が降ったり、他の場所と繋いだり、嫌な記憶を見せたり、魔力がなかったら厳しそうな事ばかりだ。
魔力がない扉を探したいが、魔力を見る機能が機能しない。洒落でもなくマジで動かない……
「他に手がかりもないし……魔眼よ! オラに魔力を見せておくれー!」
両手を上げて元気○のポーズをすると、赤、青、黄色、緑、と様々な魔力が見えて来る。まっまさか、一々このポーズをして、叫ばないといけないのか!?
ぐう……! 頭が割れる様に痛い! なんだこれ、こんなの長く続けられないぞ!
早く、早く、早く
目を皿の様にして、ドアを見続ける。
ん? なんだあのドア、禍々しいドアだな。あんなドアあったか? 早くあのドアの元へ行かなければ!
俺はふらつく身体を根性で奮い立たせ走る。
魔力は感じないのに何故か、禍々しいドアに辿り着いた瞬間、目の力が切れる。
目の力が無くなると片方の目が見えなくなる。
「反動デカすぎだろ、片目が見えなくなるなんて……」
意を決してドアを開けると、階段が現れ無数のドアが消え、階段が出てきたがこの階段は罠じゃないだろうな?
俺は警戒しながら階段を登っていく。階段を登り切った先は明るい和室になっていた。
ん? 和室? なんで和室が?
『アユウ、ヨーイチが来たみたいだよ。お茶の準備出来てる?』
奥からソキンさんの声が聞こえてくる。
『んげ!? もう来たのかよ! まだクッキー焼けてないぞ! ソキンとりあえず話を繋いでいてくれ!』
『りょーかーい』
クッキー!? クッキーってそんなもん食べてる場合じゃないんだけどなあ。俺が頭を掻きながら和室に上がろうとするとフスマが開き、金髪で髪の長い中性的な人が入ってくる。赤渕のメガネをかけ服装は浴衣を着崩している。
『土足で入ろうとするなよ。畳が汚れる、久々の客だってのに、ヨーイチはもう異世界に染まったのか?』
睨まれた……。異世界に染まったって、地球のしかも日本人なのか?
「あっいやすいません……」
とりあえず靴を脱ぎ畳の部屋に入る。
『ふーん。いきなり怒鳴り込んだり、攻撃しようとしたりしないんだ。評価高いよー』
「ありがとうございます……」
『なにコミュ症なの? あんだけ突っ込み入れてたのに?』
「えっあっさっきはその、なんて言うか必死だったので気が抜けたって言うか」
『試練中だよ? 気を抜いちゃだめでしょ?』
「はっはい! すいません」
ごもっともな指摘だ、って言うかこの人男? 女?
「あっあのーソキンさんって女性ですか?」
『ああん? 男だよ男! 何処を見て女だって!?』
「顔が中性的だし、線が細いし、声が……」
『俺は男! 覚えといて! あーもうアユウ! クッキーまだ?』
怒らせてしまったようだ、何処を見てって言うから答えただけなんだけどなあ。
襖紙が開き、更に焼きたてであろう、クッキーを持った大柄で短髪で赤髪の男が現れた。黒い豹柄のラインが入ったジャージを着ている。ソキンさんに似ているが、彫りが深く直ぐに男だってわかる。兄弟か?
『焼けたぞー。ってソキンなに怒ってんだよ。アレだ、冷静になれよ? アミーゴ』
『それ歌詞だろ! その歌詞は危ないぞ、ってクッキーうま!』
某二人組の奴かな?
『美味いだろー? 自信作だ。ヨーイチも食えよ』
「あっはい。いただきます」
クッキーを食べる俺の顔を見つめるアユウさん。なっなんだ? なにを期待しているんだ?
「美味しいです」
正直見つめられ過ぎて、穴が開きそうで味がわからなかった!
『そーだろー! わっはははは!』
豪快に笑うアユウさん。雰囲気が大和さんに似てるな。背中をバシバシ叩かないで! クッキーが口から出る!
「すっすいません。次の試練ってなんなんですか?」
『次? ちょっちょーと待ってて』
ソキンさんとアユウさんが、わかりやすくキョドリながら奥に行く。
『おっおい。ソキン、次ってなんだよ。さっきのドア開けで、終わりじゃないのか? 俺クリア報酬にクッキーまで焼いちゃったじゃん!』
『俺だって知らねえよ! 試練って一個だけじゃないの? まさか……どっかの赤ん坊のカテキョーみたいに何個もやらせて、成長させなきゃなんないの!?』
『俺、うちに帰りたいんだけど……』
『俺も帰りたいよ、もうアユウのクッキー食べたし』
わかりやすく揉めてる! 残業したくない人達かよ! 試練一個で終わりなのか!? それならそれでいいけど、自分を見失うなとか、強くなる可能性があるとか言われたけど、これじゃなんにも変わらないぞ!?
『なっなあ。アユウ、ヨーイチも困ってるんじゃないか? とりあえずここをセーブポイント的な感じにして、後一個か二個試練考えようぜ!』
『そっそうだなソキン。お茶を濁しながら試練を考えようぜ!』




