第14話 コポオちゃん
女神アナスタシアに会った後、俺達は何時もの畑仕事をしている。 ん? 身体の動きが前より良いな。特段成長した感じはしないがなんでだ?
「光一、俺成長したかな?」
「えっ? してないと思うけど」
嘘でもしてるって言えよ! 気を遣えないとモテないぞ。
「じゃあ気のせいかあ。うーんなんか、身体のキレが前より良いんだよなあ」
アナスタシアと話している蘭に水を撒いてもらわないと。
「蘭ー! 水魔法頼むよー。野菜に満遍なく水やりしたいからさあ」
ポケットの中のリュイが、もぞもぞと起き出し
『ねえヨーイチ、さっきはなんで女神様の尻叩いてたの?』
「躾のなってないガキが嫌いなのと、いくら神だろうと初対面の人間に死ねだなんて言う奴は、普通に考えて頭おかしいだろ? 周りが甘やかしたツケだろうが、俺には通じない。この地に来たなら、最低限の常識は覚えて貰う」
教えてくれる人がいなかったのかは知らんが、礼儀は弁えてもらわないと困るからな。
『ヨーイチって変なところ堅物よね。ん? ヨーイチなんか来るわ!! 光一も早く装備をつけなさい!』
突然のリュイの警鐘。なんだ? なんかくんのか? 魔物か? 光一は、直ぐに部屋に戻り装備をつけ出てくる。だが物凄く腰が引けていて頼りない。
「敵の狙いがなにかわからんな……とりあえず畑と家から離れるぞ!」
「うっうん! 僕達の畑を護らないと!」
『護るのが、畑ってのがカッコつかないけど来たわよ!
私が先に仕掛けるわ! 雷撃』
リュイが頭上に現れた黒い靄の方に攻撃を放つ。
『貴様、精霊か』
雷撃は掻き消され、辺りに低く暗い声が響く。
『蘭! 私だけじゃ時間稼ぎしかできないわ! こいつ魔王の眷属よ!』
魔王の眷属? あれ魔王居るのか? 黒い靄が徐々に形を作っていく。黒い首なしの馬、競馬の馬よりでかいぞあれ。黒い鎧を身にとまう首なしの騎士が馬上に現れる。あの剣かっけえ! 柄も刺々しているし、刃も黒い! 厨二装備だ!
『クックックッ我が名はケーニッヒ・ロウ。魔王軍四天王のデュラハンだ。此処に魔王様復活の妨げになっている、女神アナスタシアが居るのはわかって居る。大人しく差し出せ女神アナスタシアの信徒達よ』
まさかの答えをくれた、優しいなケー何とかさん。デュラハンって本当に首無いんだな、どうやって声を出しているんだ? アナスタシアが狙いなのか?
「ん? 四天王さんはクソガキが所望と。クソガキ出せば良いのか? ちょっと待ってろよ!」
『逃げ出したか……臆病な奴め』
臆病だと? お前の為にわざわざアナスタシアを迎えに行ってやるのに失礼な奴だな。
『あっヨーイチ! あんたまさか!』
俺がなにするかを瞬時に察知したリュイが止めようとしてくる。だが俺は止まらんぞ!
『一体なんなんだ? そこの男よ、わかるか?』
「たっ多分女神様を連れに行ったのかな」
『主ら信徒では無いのか?』
「信徒では無いかな。多分僕以外は……」
『ん? そっそうなのか?』
2人で信徒がどうのとか話しているが信徒な訳ないだろ。ほぼ初対面だ! とりあえずロープで簀巻きにしたアナスタシアを目の前に転がしてやる。
「洋一なにしてんのさ……」
簀巻きにされたアナスタシアを見て、蘭が呆れている。
「こいつら喧嘩してんだろ? 更にこいつ、自分は隠れてコソコソ信徒に戦わせてたんだろ? だから先ずは謝らせる」
悪い事したら謝るのは当然だ!
「はあ。まあ洋一の言う事にも一理あるんだけどさ、その人? この状況に困ってるみたいだよ?」
デュラハンが落馬した、鎧着てるから痛くないのかな?
『くらあ! 離せ! 私は女神よ! 何なのこの仕打ち!』
諸悪の根源の癖に生意気に吠えてやがる。こいつは自分のせいだってわかってないのか?
「直ぐに謝らないと、8ビートから16ビードに変えるからな」
俺は棍棒を構え、アナスタシアにチラチラと見せる。
『すみませんでした、デュラハンのケーニッヒ・ロウさん許してください! 8ビートでも辛いのに……その倍なんて私のお尻が耐えられないのよおおお』
芋虫のようにデュラハンに懇願する女神、ふっ悪に屈したか。
『うっ何故か我、まだなにもしてないのに凄く罪悪感が』
ケーニッヒ・ロウは冷や汗を流し狼狽している。
『お願いします! 許してください! お願いします!』
涙と鼻水を垂らしながら蠢くアナスタシア
「なあ蘭、四天王の人困ってるな」
「洋一のせいでね」
「今攻撃したら、一撃なんじゃないの?」
「それは流石に嫌だよ」
嫌か、まあ確かに嫌だよな。流石に気の毒過ぎるもんな。
『糞っ! 今日は日が悪い! 出直すとしよう!』
ケーニッヒ・ロウはそそくさと帰り支度をしている。
「えっ? また来るの?」
「なんの用事で?」
『うっうるさい! 来るったら来るんだ! わかったな!』
駄々っ子みたいだな。でもまあ来てもいいんだが、なにしに来るんだろ? その時こいつ多分いないぞ。
「はあ。また来られたら迷惑だしね聖なる槍」
蘭から放たれた、長さ2m位の光の槍が容赦なくケーニッヒ・ロウの腹を貫く。光の槍の形……エヴ○の槍に似てるな。
「首もなくて腹に穴が開いたこの状態って、某スタイリッシュ漫画の敵みたいだな」
卍○とかできないかなあ。日本刀とか無いかなあ、まああっても使えないけど。
「死にはしないけど弱体化も入ってるから、力が戻るのに30年はかかるはずだよ」
蘭、地味にイラついてたのかな? まあアポ無しで遊びに来て、更にはアポを取らずにまた来るとか言ってきたから当然か。
『グポオ、コポオ! コポオ』
あれ? 喋れなくなったのか? さっきまで我、我言ってたのに。
「コポオコポオ言ってるぞ! ケーニなんとかさあああん!」
『ヨーイチ、ケーなんとかさんって、凄ーく長いからコポオちゃんにしましょ』
ナイスな提案だ。コポオちゃんも身体を震わせながら喜んでいる様だ。
「オッケー! コポオちゃん、またな! 元気出せよ! 30年したらまた遊ぼうな」
『バイバイコポオちゃん!』
全員が去って行くコポオちゃんの背を見守っていた。
「なんでここまで来れたのかな? 私一応結界を貼ったんだけどな」
蘭の呟きに、俺と光一はアナスタシアを視る。
『通れなかったから、ちょっと力を使ってバキーンってテヘペロ』
「「『お前のせいかああああああ』」」
「女神様流石に酷すぎますよ……」
簀巻きの女神を十字架に磔にして結界の外に放り出す。
「それにしても、蘭さん凄いですね。コポオさんを一撃で貫くなんて。しかも結界まで作れるなんて」
光一が、蘭の凄さに感心している。
「そういや蘭、なんで倒さなかったんだ?」
「コポオさん、過去視をしたら正々堂々とした戦いしかしてないし、強い人ととしか戦ってないからそんなに悪い人? じゃなかったから。それに私達に危害を加える気もなかったし」
過去視? サイコメトリー的なやつかな?
『蘭は優しいのね! コポオちゃんもきっと喜んでるわ』
「いやー情けは武士の恥とか言って切腹しそうなキャラだったけどな」
あれは、確実にヤルタイプだな。
「それは本人の自由だよ、私もそこまで責任持てないし」
蘭が責任を取る必要はないな。
とりあえず皆んなで、お茶の時間にする。外から私は女神よ、女神なんだから〜とか、ひい! 私は美味しくないから! あっオシッコしないで、トイレじゃないわ! などと言う、BGMを聴きながら。
「五月蝿いな外、早く帰ればいいのにな。磔にしたけど、女神の力ならなんとでもなるんだろ?」
「多分洋一が縛ったから、自分じゃ取れないよ」
俺が縛ると取れないのか、俺縄縛りのプロじゃないぞ?
「えっ? ほんとに!?」
光一が、真っ青な顔をしながら慌てて助けに行く。律儀な奴だな。
『ヨーイチって魔物や人間には勝てない癖に、神様やら精霊には強いよね』
「おい、魔物や人間に負けたらこの世界じゃ最弱じゃねえか」
最弱と最強が混在してるって、俺1人でカオスじゃねえか。