第137話 打ち切りエンドじゃないんだからね?
やっぱりか。ここには俺と大和さんしかいないなら、本音を言ってくれるとは思ったが、こうもあっさりと……。俺が警戒していると、大和さんはニカッと笑い
「まあそう、緊張するなよ。今すぐにどうこうしようって話じゃない。あくまで堕ちたらだ、その為に馬鹿弟子も付ける。俺は忙しいからな、救世主に休みはないんだよ」
休みがないなって社畜かよ……。
「ブラックなんですね、救世主って」
「おおよ、ブラックもブラック。世界の為なら恩人だろうと恋人だろうと、容赦なく殺さなきゃいけないからな。星の為に自身の強大な力を、星に捧げた奴もいたよ」
自分自身を生贄に世界を護る救世主……。
『あらあらあらあらあらあらあらあああ! 申し子よ。この方の戯言に惑わされてはいけませんよおお。親殺し、神殺し、遍く全てを殺す者ですよおお?』
道化師が唐突に止まった世界に現れた。そう現れたのだ、全てが停止した世界に。
道化師は、クルクルとその場で周り、ニヤニヤと笑い躍り狂う。狂笑を浮かべながら。
『ひゃははは、殺人鬼の貴方に僕は、殺せない? 2度は殺せないだろう? ねえ師匠?』
大和さんは表情を崩さない。
「よう、宗二。お前が柊君を求めるのは、柊君の中の力が欲しいからか?」
道化師は笑うのをやめ、その瞳は深淵を描いている。
『くひゃ、くひゃははははははは。的外れ、見識違い、勘違い、価値観の違い、違う、違う、違ああああああう』
壊れた様に笑い出す道化師。
「もう終わりにしよう宗二。俺の閻魔羅刹剣の力は知っているな? お前の穢れを斬り払ってやる」
大和さんは大剣を構える。研ぎ澄まされた剣鬼が渦巻く。
『ざああああんねん! さっ申し子よ。私と一緒にいきましョう』
道化師は俺に手を差し伸べてくる、俺はその手を力任せに振り払う。
「俺は、お前とはいかない。お前達の仲間にもならない」
『ひゃはははははは、デハまたお会いしまショう。……師匠殺し……』
最後に道化師は、寂しそうな顔をして大和さんになにかを言った。
道化師はその場から消えた。その言葉の続きを静寂に隠して。
「全く面倒な話だなあ。まだ宗二のカケラが残ってやがるのか、俺に助けを求めるなんてな」
「状況が全然読めないんですけど、なんで道化師はここに? それに大和さんと師弟関係?」
「まあそのうち話すよ。そろそろ戻らないとな」
大和さんが、大剣を床に打ち付けると風がそよぐ。
「洋一、大丈夫? 冷や汗が凄いよ」
「んああ、ちょっと大和さんの顔の迫力が凄過ぎて冷や汗が止まらないんだよ」
蘭にさっきの出来事を話すべきか悩み、俺は話さない事を選んだ。少なくとも大和さんが語らない以上、道化師の話をしても仕方ないからな。
『ねえねえ、この女の子回復しなくていいの? そろそろ死んじゃいそうだよ?』
リュイの見立てで、死にかけってかなりやばいんじゃないか?
「ああ、亜梨沙か。死にはしないよ、此奴は今全力で逃げる算段を整えてる最中だろうからなあ。亜梨沙、お前俺の力を忘れてる訳じゃないよなあ? お前のスキルと繋がりを封じる」
大和さんが、封じると言葉を紡ぐと
「いやあああああああ!!!」
甲高い悲鳴を上げる亜梨沙
「なにが?」
「狸寝入りして、反省せずに逃げようとしてたからなあ。スキルも邪神側との繋がりも全て封じさせて貰ったわ」
亜梨沙は動かなくなる。
「大和さん……亜梨沙は……ここで殺すべきですよ」
師匠は、亜梨沙さんを殺したいのか、動かせないはずの身体や喉を無理やり動かしてまで。
反動なのか師匠は、耳や目や鼻から血を流している。
「お前の恨みは俺に預けとけ。宗二もお前らの殺し合いなんて、望んでない。此奴のせいで、宗二がおかしくなったケジメは、彼奴に依頼をされた俺が付ける」
「宗二の依頼? なにを……宗二は魂ごともう……貴方が斬り払ったはずだ!」
師匠が大和さんに食ってかかる。さっきの話と道化師の事を師匠に伝えようとした瞬間、大和さんが口に指を当て、内緒だと示してくる。
「柊君とこの世界を歩いて行けば、何れわかんだろうよ。柊君達には、残りの神殿の邪気を祓って貰わなきゃ俺も困るしな。今回の邪神は武力だけじゃ、どうにもならなんからな」
武力だけじゃどうにもならないって、そもそも俺には武力すらないんだけどな。
「武力すらない柊君は、賑やかしながら旅を続けろよ。君の賑やかしが必要な事もあるだろうからな。君が築いてきた絆だって力なんだぜ? なあ神獣の蘭ちゃん」
「絆、はい。洋一は色々な人達と絆を紡いできました、それはこれからも変わらないと思います」
あれ? なんか最終回的な雰囲気じゃない? 打ち切り?
『ヨーイチ、なにウチキリって? 可哀想に混乱しているんだね。ヨチヨチ』
何故かリュイに頭を撫でられた、何故だ!
「最終回的な雰囲気になってたから、ツッコミしたのに!」
「洋一、正確にはリュイ様に思考を読まれただけで、口に出して無いからツッコミはしてないわよ」
蘭も冷静に指摘するんじゃない!
「葵、お前も苦労してんだな。面白い仲間達じゃねえか!」
大和さんは、俺達の事を見ながら爆笑している。




