第135話 おっさんに実年齢がバレた⁉︎
ハヌマは与えられた力に酔っていただけ? 師匠もそうだが、勇者候補生は皆んな規格外過ぎるんじゃないか? 師匠と同等の力を持つ相手が敵なのか? いや……やり方はどうあれ、瘴気をこの地から退けようとしていたんだよな?
「師匠、やり方はどうあれ、一応この地から瘴気を遠ざけようとしていたんですよね?」
師匠の厳しい視線が向けられる。
「そのやり方が世界を壊すと伝えたはずだけど? 伝わらなかったのかな?」
「いやそれは……わかってはいるんですけど……一応瘴気を防いでくれていたわけですし」
師匠の視線がさらに厳しくなる。
「甘い、甘過ぎるね。それはこの世界……いや、全世界への反逆に等しい考え方だよ。柊洋一、お前は世界を潰すつもりか?」
恐ろし程に研ぎ澄まされた殺気を師匠から向けられる。肌がひりつき呼吸が上手くできない……。苦しい、怖い、目の前にいる師匠が獰猛な獣に見える。
「葵……やめて貴方とは戦いたくない。それ以上洋一に殺気を向けないで」
蘭が俺と師匠の間に飛び込んでくる。師匠に対して、最大限の威圧を放ちながら。
━ミシリ
突如鳴り響く不快な音。
空に黒い亀裂が入る。
『世界が泣いている?』
リュイの言葉に呼応するかの様に、黒板を爪で引っ掻いた様な音がする。
「ぐわっ! うるせええええええええ!」
耳が、頭が崩壊しそうだ……。蘭は、蘭は無事か? 耳押さえながら蘭の方を見る。蘭は空を見上げながら、眼光を鋭くしている。
「来る」
師匠が呟くと、空から何かが、雄叫びをあげながら降って来る。
「いよおおおおおお! あおおおおおいいいいい! 相変わらずかああああああ!」
「チッ大和さんか」
師匠が大和さんと呼んだ男は、紫髪の短髪で筋肉ムキムキな男。大剣を背負い、破れたジーンズに黒いシャツ、シャツには男気と赤くデカデカと書いてある。
「なんだなんだ? 葵の他に精霊が3人と神獣が1匹ねえ。相変わらずだなあ、葵!」
師匠の頭を撫でる無骨な男。師匠が反応できない? できないどころか、いつ頭に手を置いたのかすら見えなかったぞ?
「あっあのー貴方は?」
「俺か? 通りすがりの異世界人、英雄や救世主なんて呼ばれたりもしているが、君と同い年のただの世話焼きのおっさんさ。気軽に大和って呼んでくれ、柊洋一君」
なんで俺の歳や、俺の名前を? しかも正確な年齢まで。大和は、俺の疑問を他所に軽く咳払いをして、師匠を見る。
「葵、直ぐキレるのは悪い癖だから、直せって言ったよな? 世界が壊されそうになってそれを止めた、ここまでは良いが、お前がブチ切れて力を解放したら、それこそ本末転倒だろう? 全くいつまで経ってもガキんちょだな」
師匠にデコピンをしニカっと笑う大和。
『あんたがきたせいで、世界が悲鳴をあげてたけど?』
リュイの声に大和は、頬を掻きながら笑う。
「わりーわりー。雷の精霊のお嬢ちゃん、そりゃ俺の力に世界が耐えきれなかったんだよ。まっ……この世界の女神さんが、頑張ってくれたから後はなんとでもなるだろうよ。創造神の依頼じゃなきゃ、強引に世界に割り込んだりはしねーよ」
「創造神様の依頼って?」
「大和さん、創造神の依頼って?」
俺と蘭が同時に疑問の声をあげる。
「創造神が休んでる間に、敵を潰す事と世界の守護だな。後は弟子たちの後始末だよ、警戒しなくても大丈夫だぞ? なんなら魔王にも聞いてみたらいいよ。顔馴染みだからさ」
堺さんとも顔馴染みなのか、敵を潰すって邪神側の事か? 要領を得ないし、多分聞いても答えてくはくれないんだろうな。なんだかそんな気がする。
『へー大和って神様と魔王と仲良しなの?』
「ん? 天敵だろうな。神殺しでもあるし、魔王殺しでもあるからな。ついでに勇者殺しでもあり、英雄殺しでもあるぞ?」
殺しまくりじゃねえか!! 怖えよ!!
「どいつもこいつも殺しまくりじゃないっすか!」
「そういう人なんだよ。はあ、もういいや。でそれだけじゃないんでしょ? 大和さんは、神様の依頼で動く人じゃないし。理由は洋一君?」
俺? 大和さんに狙われてるの? 無理ゲーじゃないのそれ?
「違うけど? 柊君に入ってる邪神の因子は、俺が大昔に倒した奴だからさーちょこっとだけ責任を感じてるけど。狙いはむしろお前ら馬鹿弟子の再教育だよ」
「うげ、僕はこの世界になにもしてないよ? なにかしたのは彼奴だし」
心底嫌そうな顔をする師匠を初めて見た。
「相変わらず、教育って言葉が嫌いだなあ。まあそうだな、葵はまあギリギリ問題ない。さっきのキレた事以外は、大目に見てやろう。アルテミスの封印に関してもまあ良し」
そう言うと拳を横に振るうと、肘から先が空間に消える。
「ちょっと待ってろ? 葵は絶対に動くなわかったな? 動けねえだろうが、動いたらお仕置きするからな?」
師匠が固まって、声すら出せないでいる。
「よいっしょっと!」
「きゃっ!!」
大和さんが、腕を引き戻すと首根っこを掴まれたあの時の不審者がいた。
「あああ!! 不審者!」
「えっ? あっあの時の魔人殺害事件の犯人!」
俺を指差して、大声を出す不審者。
「ぎゃーぎゃー喚くな。亜梨沙、俺が来た理由わかるよなあ? 俺は今すごーく怒ってる。これもわかるよなあ?」
「あっお師匠様……ちわーす。あのえへへへ」
青い顔をして震える亜梨沙
「この馬鹿弟子がああああ!!」
大和の怒声が響いた。




