第133話 不気味な笑顔が渦巻く街
ハヌマは城の1番上にいるのか、天守閣を陣取るとか殿様気取りかよ。猿のくせに、猿って言われてた武将がいたな。確か秀吉だったかな?
「ハヌマの奴は、秀吉の真似事でもしてるつもりか?」
「どうだろう、秀吉自体知らないと思うけど」
蘭はそう言うが、城の形は大阪城なんだよなあ。
「瘴気を感じないねー。蘭ちゃんはどう思う?」
師匠は首をひねる。
「うーん。天守閣の辺りから、変な気配はしますね。封印をされてる感じもしませんし」
「そうなんだよ、魔術や魔法的な干渉もあんまり感じないから、おかしいんだよね。特に人が荒れてる感じもしないし。洋一、邪神センサーは?」
小難しい話から急に振られたが、邪神センサーの反応はないな。神殿レーダーは、天守閣を指しまくっているけど。
「邪神センサーに反応はないぞ? 神殿レーダーは、うざいぐらい天守閣を指し示してるけどさ。邪神センサーは、多分近くまでいかないと反応しないぞ?」
そんなに便利なスキルじゃないからなあ。
「創造神も使えない物をよこしたもんだねえ。もっと範囲を絞ったり、範囲を広げたりできたら便利なのに」
師匠の言う事が正論過ぎる。もうちょっとマシな機能にして欲しい、切実に。
『ほら3人共行くよー! アナスタシア様寝ちゃってるし』
リュイよ、これは度重なる移動で気絶しただけで、寝てる訳じゃないんだぞ? 仮にアナスタシアが舌出して白目剥いて寝る奴なら、俺は無言で距離を取るぞ。
♢
ギレイアの街の人達は皆んな気さくで穏やかだった。不自然な位、邪神の気配も力も感じない。違和感がある、何故皆んな笑顔なんだ? 城に行くと言えば、案内しますよって言ってくるし……。
ギレイアに着いた途端に、ウインは表情を固くし喋らなくなるし。
「なあ、リュイここの人達なんか変じゃないか?」
『……アタチ、ハヌマ嫌い。とっとと倒しちゃお』
リュイが神獣に対して、はっきりと嫌いと言った。リュイは明確な理由も無く、そんな事を言う奴じゃない。なにかあるんだろうな……気を引き締めていかないと。
「洋一、気を引き締めてね。多分洋一や葵やアナスタシア様には効かないと思うけど」
効かない? 効かないって事は、なにかされてるって事だよな。もう既に攻撃が始まってるのか?
「そんなに身構えなくても、洋一君の称号なら効かないよ。僕に対しては、相手の力量不足で効かないし、アナスタシア様は意識を飛ばして防いでるみたいだしね」
俺や師匠に効かないのは、わかった。だけど師匠? アナスタシアが意識を飛ばしたきっかけは、さっきのジェットコースターと街までの移動スピードが問題ですよ?
見事に置いていかれて、蘭に転移で運んで貰いましたからね?
「ふっふふふ。とっとりあえずハヌマの城にかち込みだー!」
師匠が、また走りだした。あっ師匠にぶつかって、師匠がぶつかって? 城門がぶっ壊れた……普通に敵襲扱いだと思うんだが、いいのだろうか? 兵士の人達は何故か笑って見送ってるし。
「蘭、止めなくていいのかな?」「良いんじゃない? ウインも葵に掴まって、着いてったし。兵士の人達が、あんな感じだしね」
蘭は、兵士達の姿を呆れる様な視線で見ている。自分の護る城の城門が破壊されても、ヘラヘラ、ニヤニヤしている様な連中だしな。
「まっそれもそうか。とりあえずお邪魔します……うちの師匠が、なんかすいませんね」
壊れた城門の横で、笑っている兵士達に頭を下げる。俺達を見て、兵士達は笑いながら
「ハッハッハ、元気なこたあ、良い事だなあ」
「あははは、城の修理に腕がなりますねえ」
壊れたラジオの様に、何度も繰り返している。凄く不気味だ、いや不気味を通り越して不愉快な気持ちになる。馬鹿にしてるのか? 兵士の顔をよく見ると、目の焦点があっていない。
「なんなんだよ……。洗脳でもされてんのか? そんな事をしている猿なら、蜂の巣にしてやる」
俺は雷砲を、アイテムボックスから取り出しておく。即座に撃てるように、リュイに充電をして貰いながら、城内を歩く。
『ヨーイチ、なんでこの城の地図とか見てないのに、階段の場所とかわかるの?』
俺が迷いなく進んでいるもんだから、リュイが不思議そうな顔をして、聞いてくる。
「んまあ、俺が地球にいた時に何回も登った城に造りが似ているのと、後は神殿レーダーだな。矢印でグイグイ方向を示してくる」
そう俺の視界には、赤い矢印が進むべき方向を指し示してくれている。
「ちょっと矢印の主張が、激し過ぎるのがたまに傷だけどな」
グイグイ示してくるから、実際問題かなりうざい。
『良いスキルじゃない! 創造神様に感謝しなさいよ』
師匠や俺と真逆の価値観のリュイに、俺は苦笑いをしてしまう。まあ学園創造神が力をくれなければ神殿を探したり出来なかったしなあ。
『さっ早く葵を追いかけましょ! 葵なら一瞬で倒せちゃうだろうけどね』
確かに師匠なら、剣を一振りしたら終わりだろうしな。
「うーん、なんとなく1撃で終わらせたらダメな様な気がするのよね」
蘭のこの言葉がフラグになるなんて、思いもしなかった。




