第130話 KYなハイブリッド異世界人
『話が脱線し過ぎよ。次の国の話をしてもいいの?』
脱線し過ぎよって、アナスタシアに怒られた。解せぬ……脱線させた共犯に言われたのは、納得いかん。
「納得いかないんだが、まあ良い。アナスタシア頼む、次の国の事を教えてくれ」
次の国の話を聞かない訳にはいかないしな。
『くれ?』
ぐぬぬ! こいつ! 後で覚えてろよ!
「教えてください」
ニヤリと笑うアナスタシア。俺は決めたんだ、いつかコイツに尻爆竹してやる。尻爆竹の恐怖に恐れ慄く、アナスタシアが目に浮かぶぜ。
『よろしい! 次はね、流国エルシレア。こっちも小国よ。流国の神獣は、鯉のズイジ。コイツは堕ちてるかもしれないわね、頭が良くないから……』
鯉の神獣か……
『恋!? ヨーイチ、エルシレアに行こう! 恋だって、恋愛的な国よ絶対!』
あーリュイがキャッキャとはしゃいでる。しかも恋と鯉を間違えてやがる。多分アナスタシアの言っているのは川魚の鯉だ。まあ煮物、焼き物、揚げ物と食えるし、新鮮な奴なら刺身としても食えるしな。
酢味噌で味わう『洗い』 鯉のダシを飲み干す汁もの『鯉こく』、甘めの醤油の煮汁で、輪切りの鯉の皮や小骨が柔らかくなるまで煮込む、『甘露煮』もあるしなあ。
「洋一、食べ物の事ばかり考えてるでしょ? 洋一甘露煮好きだもんね」
流石蘭! よくわかってるう!
「ああ。甘露煮めちゃくちゃ美味いしなあ。久々に食べたいなあ」
ん? リュイとアナスタシアが信じられないって顔をして俺と蘭を見ている。
「なんだ? 食った事ないのか? まあ異世界じゃ醤油とか酢味噌ないしなあ」
『あんたねえ……さっき食べる食べないの話したばかりでしょ?』
そう言われてみたらそうだな。
「アナスタシア、こっちでは生魚とか食べないのか?」
『食べないわよ……とりあえず。次の国行くわよ? ヘーラクはそこそこ大きい国よ。ケリュネイは後回しでいいわ、絶対に無事だから』
絶対に無事? なんで無事なんだ? 神獣なら瘴気を浴びてる可能性が高いはずだろ?
「絶対なんてあり得るのか? 瘴気だぞ? 漏れなく神獣はやられたぞ?」
アナスタシアは蘭を指差し
『例外がいるじゃない。それにフーシェンも大丈夫だったんでしょ?』
「蘭やフーシェンは別だろうが! ケリュネイだってやばいかもしんないだろ!」
事の重さがわかってんのか?
『はあ。やれやれ、説明してあげるわよ。ケリュネイは、創造神様と契約してるけど他にも契約してるのよ』
肩を竦めるアナスタシア
「他にも? 俺や亮みたいな契約者の事か?」
チッチッチと指を振るアナスタシア。妙に様になっていて不覚にも可愛いと思ってしまう。アナスタシアが、可愛いだなんて、可愛いだなんて!
『なに、頭振ってんのよ? あー見惚れてたの? このこのお!』
ほっぺを指でツンツンしてきやがる! 恥ずかしい、めちゃくちゃ恥ずかしい!
「はっはやきゅ! 話を進めろよ!」
『ニュフフ、やっと女神の魅力に気付いたのね! ケリュネイの契約者は創造神様と、私なのよ。ケリュネイになにがあれば私に伝わるし、あそこにいる巫女は規格外なのよ。葵に近いレベルなの! それに巫女の夫はいかれてるし……巫女の師匠がいればなんとか会話にはなる筈だけど……』
師匠に近いレベル!? 巫女服なのかな? 上が白で下が赤のあの衣装を?
『巫女服じゃないわよ。普通の服よ、着物装備を昔、渡したんだけど着付が出来ないからいらないって一蹴されたのよ』
「その人達は、転生者か転移者なのか?」
『違う、違う。巫女は現地産まれよ。巫女の父親はこの世界の英雄で、巫女の母親は転生者なの、そんな二人から産まれた巫女はハイブリッドなのよ』
おお、中々のハイスペックだ。さっき言い淀んでいたが、協力体制を気づいた方が良いんじゃないのか?
「ハイスペック感が満載だし、今後の事で協力を仰げるなら、会ってみたいんだけど」
『むっ無理よ……あの巫女、苦手なのよ。絡みにくいし、あんたと同じで神気無効だし、神を恐れないし……』
女の人は俺と同じ称号があるのかな?
『私あの女本当に苦手なのよ、テンションの振り幅がかなりでかいし。魔法や魔術じゃなくて、オーラ? 気? みたいな訳の分からない力を使うのよ。しかも自前の』
すげえ嫌そうな顔をしてやがる。
「テンションの振り幅が高いって、まあ絡みにくそうではあるけどなあ」
KYな人とはあんまり絡みたくはないしな。
『だから行きたくないのよ。あそこは、最後にしましょう。とりあえずどっちの国にするの?』
「うーん、とりあえず近い方から行こうぜ」
『近いのは、ハヌマのいるギレイアね。ここから北西の方角よ。大きな湖が目印よ、少し寒い地域だから厚着した方が良いわよ?』
ギレイアは寒いのかあ。寒い地域ってあんまり行きたくないなあ。俺あんまり暖かい服持ってないからなあ。
「洋一は、寒いの苦手だからね。それに暖かい服なんてないしね」
流石蘭、俺の事をよくわかっている。寒いのだけは、ダメなんだよなあ。
『寒い地域なら、バーニア連れて行くわよ。ちょっと待ってて!』
バーニア来てくれるのか? 多分嫌だって言うだろうなあ。めんどくさがりだし
「精霊をホッカイロ代わりにするとは、リュイちゃんは流石だ!」
師匠がリュイを誉めてるが、それで良いのか?
「洋一、よくないわよ。精霊様をホッカイロ代わりだなんて……」
「ですよねー」




