第122話 ディアナと桜
桜さんの身体を手近な布で包む。そうしないと暴れて話が進まない、ってのは建前で桜さんにこれ以上ボコボコにされたくないからだ。正直殴られた場所が引くほど痛い。
「さっ桜さん、いっいや桜提督……話を聞いて欲しいのであります……」
「なに?」
めちゃくちゃ怖い!
「ひいいいい! この様な仕打ちをした魔人は、討伐しております!」
「そうなんでござるか? じゃあなんでそこの人は、鼻血を出してるのでござるか? 魔人にしたのは、洋一君達じゃないとしても、私の裸を眺めていたんじゃないんでござるか?」
師匠! 師匠のせいでいらぬ誤解が! 確かにここに来る前はガン見したけど、その後は迅速に救助したのに! 師匠は顔を赤くしてなにも言わないし!
「あっあのその、違うんです!」
『桜、洋一の言ってる事は本当よ。葵は、女好きだけど女に免疫が無いのよ。だから桜の刺激的な姿を見て、鼻血が止まらないのよ』
事実だけど、幼女姿のリュイに淡々と性的な部分を暴露されるなんて、ある種の地獄だな……。俺なら嫌すぎる。ん? あれ師匠? なんでニヤけてるんだ? Mか? Mなのか?
「そその、リュイちゃん、あの免疫がないとかそう言うのを女性に暴露するのは……ちょっと……恥ずかしいと言うか、なんと言うか、照れちゃうんだけど」
うっうわあ、師匠がモジモジしてる。誰得だよ! 人前で恥ずかしい事をされた、女の子みたいになってるんだよ。内股でモジモジするんじゃないよ!
『葵のせいでもあるんだから、モジモジしてないで桜に謝りなさい』
リュイが、めちゃくちゃ歳上のお姉さんみたいになっている。師匠が、物凄く子供に見える。
「あっはい。あの、鼻血を出してすみませんでした。僕、女性のそういう姿を生で見た事なくて……前の世界でも、地球でも、見た事なくて」
桜さんは、皆んなの顔を見て深くお辞儀をした。
「はあ……もう良いよ。洋一君、皆んな助けに来てくれてありがとうございます」
「いいのよ、桜。でも助けに来るのが遅くて、サキュバスと桜が混ぜられちゃってね……。一応封印は、神様にしてもらったんだけど」
桜さんは、自分の額と尻尾を触る。
「あははは、忍者から悪魔っ子に転身でござるな……。もう人間じゃないのかあ、あははは」
乾いた笑いをしながら、尻尾を撫でる桜さん。
『さっ桜、あのね、洋一なんてスケベの化け物よ? 化け物より悪魔っ子の方が可愛いわよ? それにこの世界じゃ人間じゃない人の方が沢山いるわよ? だからあのね』
リュイが、桜さんを慌ててフォローしている。だが待って欲しい、俺を化け物として引き合いに出すのは構わないが、スケベの化け物ってなんだよ。
うっ……言い返そうとしたら、蘭とリュイに睨まれた、空気を読めって事なんだろうけど……なんか悲しい。
「それに、レイだってエルフよ? 私は神獣だし。洋一はまあアレだしね。葵も強さ的に普通じゃないし、堺さん「堺さん!?」えっええ、堺さんは魔王だし」
堺さんにめちゃくちゃ食いついてるけど、堺さんの知り合いかな? 堺さんその辺どうなのよ?
『あーうん。うちの四天王のディアナと混じってるね。ディアナ、やられちゃったのかあ。多分楽したいから協力したんだな』
そんなんでいいの? 仲間なんじゃないのかな? 仲間意識が薄いのかな?
『仲間意識が薄い訳じゃないよ。怒ってはいるよ、だけどそれをした魔人はもういないしね。ディアナが協力しなければ、捕まるはずないからね』
ディアナさんが協力? 自分の身体が無くなるのに? なんだそりゃ?
『ディアナは変わり者だからねえ。多分死にたくはないけど、融合しちゃえば働かなくていい位の考えなんじゃないかなー多分ね』
思ったよりロクでもない理由だったぞ……。死にたくない、働きたくない、なら融合だ! って意味がわからんわ! 四天王が自由過ぎる。アレ? このままじゃ四天王は、桜さんになるのか?
『僕がいないんだから、そもそも四天王も糞もないけどね』
ああ確かに!
『ヨーイチ! ヨーイチってば!』
「おわっ! なんだよリュイ急に。びっくりするじゃないか!」
『何度も声かけてんのに、返事しないんだから!』
リュイに怒られてしまった……。堺さんのせいだぞ!
『これからどうすんのよ!』
これからなあ、国はぐちゃぐちゃだしなあ。生存者はかなり少ないしなあ。
「洋一君! 魔王様と話せるの?」
桜さんに肩を掴まれ、めちゃくちゃ揺さぶられる。魔王様? あれ今、魔王様って言わなかったか? あれ? 桜さんの瞳こんな色だったか?
「どうなのよ!」
「話せるけど……」
「なら、ディアナは退職しました、探さないでくださいって伝えて!」
まさかの退職願い? しかも探さないでくださいって、家出かよ!
『受理したって伝えて』
堺さん、受理しちゃうのかよ……。
「なんか、受理しただって」
「やったー! 桜と融合して良かったわ! 魔王様いないから中々辞めれなくてさー。辞めるなら魔王様にって、皆んな言うから!」
「えっ桜さん?」
桜さんの目は片目だけ蒼くなっている。
「ああ、今意識を変わって貰ってるのよ。まあ私が出る事はもうないから、魔王様によろしく伝えてねー」




