第118話 ゾンビの戦術と言えば
変な臭いが城から漂ってくる。この臭いはなんだ? 例えるなら、チーズが腐ったような感じか? いや放置されたゴミ置き場か?
━━あっああ
変な唸り声の様な物が聞こえ、臭いもだんだんとキツくなってくる。
「マジかよ……ゾンビかよ」
服はボロボロで身体は腐っている、ゾンビとか初めてみたぞ……あれ? ギルドの受付にいたお姉さんか? あっちは、俺を化け物って言ってたギルドの人か?……
「あれって、もしかして皆んなアスベルクの……」
「洋一君、顔見知りでもいたのかな? これは割と死霊術師が良くやる戦法でね、顔見知りのゾンビやグールを使って、相手の心を揺さ振り潰す作戦だよ。まっ僕には関係ないけどね。破っ!」
師匠が剣を振り、次々と斬り裂いていく。アスベルクの人達を。
「洋一……」
俺の視界に映ったのは、アポを売ってくれたお婆ちゃん。お婆ちゃんの方へ走っていく。
「婆ちゃん! アポ売ってた婆ちゃんだろ!? 正気になってくれよ!」
俺の前に師匠の剣の鞘が飛んでくる。
「そこから、入るな。覚悟が出来ていないなら、そこにいろ」
師匠から冷たい言葉を浴びせられ、固まってしまう。
「ヨーイチ、私達がやるわ。蘭ちゃんは、ヨーイチの側にいてね!」
レイ先生は、弓を構え
「ブレイジングアロー!!」
弓のスキルを撃ち、アスベルクの人達を射抜いていく。やめてくれ、もうやめてくれ……。殺さないでくれ
『ヨーイチ、死霊術師を必ず倒さないとね』
死霊術師、なんて後だよ! あの人達は、生きてたんだよ! それをゾンビになったから、助かる方法も探さないで、殺していくなんて
優しいレイ先生が、どんどん弓で射抜いていく。
笑っていた師匠が、1人ずつ殺していく。
「もう……」
「洋一?」
「……くれ……」
『ヨーイチ?』
「やめてくれえええええ!!!!」
紅い力が溢れたのと同時に、城のある場所から不自然な魔力を感じる。
「あああああああああああ!!!」
一瞬で2人に近寄り、師匠の剣とレイ先生の弓を取り上げる。
「洋一君、なんのつもりかな?」
師匠は、俺を冷めた眼で見ている。直ぐに俺から武器を取り戻す。
「もうやめてくれ、2人が人を殺していく「アレは、もう人じゃない。倒す以外に方法は無い」なら……! 俺がやる!」
━━ゴウッ!
血風が舞い紅い力が、鎖の様に身体に巻き付いていく。
「その力を使えば、最悪人じゃなくなる。人じゃなくなったら、僕は洋一君を、斬らなければならなくなる。わかってるよね?」
「……わかってます。だけど……俺が死霊術師を倒すまででいいから、時間をください」
師匠は、俺の目を見る
「ふうん。洋一君、場所はもうわかってるんだよね?」
「はい」
俺は、王城の一番上を睨む。
「なら、そうだねえ。15分だけ時間をあげる。15分たったら全員殺す、それが彼等への手向だからね」
「わかりました……」
『さっヨーイチ、行くよ!』
「行こう洋一!」
リュイと蘭から声をかけられる。
「いや、俺1人で『「だめ!」』えっなんで?」
ハモりながらダメって言われた……。だけど、2人に殺しは絶対にさせられないし、出来れば俺が殺したり、殺される場面は見せたくないんだが……。それに場合によっては、死霊術師と刺し違えるしかない。
「だから、だめなんだよ。洋一、敵わなかったら刺し違えるつもりでしょ?」
蘭に言い当てられた、そんなにわかりやすいのか?
『蘭やアタチに、隠し事は無駄無駄! アタチだってこの街の人を助けられるなら助けたい。望みはないかもしれないけど、死霊術師だけは絶対に許せない』
「私だってそうよ。ロザリアを殺されて、街の人を殺されて、葵に任せっぱなしなんて嫌っ!」
2人の思いや、覚悟は伝わってきたが……やはりだめだ。2人にバレない様に、足に力を溜める。
『ヨーイチ、足に力を集めてるのバレバレだからね。それにアタチと蘭は、飛べるんだから直ぐに行けるんだよ? 1人で行こうとしてもダメよ。桜も探さないとなんだから』
クソっまたバレたか……なら仕方ない、ここは一旦賛同しよう。だけど、俺が死霊術師を絶対に仕留める。その為に、紅い力を使いこなさなければ……。
「……とりあえず、最速であの部屋に行くよ」
俺が違和感を感じた部屋を指している。
蘭が、俺を一度見て魔法を俺にかける。
「風魔法|《空中浮遊》エアログラインド」
俺の身体が宙に浮く、コントロールが難しっ!
「蘭、あの逆さまになったんだけど……」
「そのまま紅い力を、足に溜めて。後、足に力を入れておいてね」
有無を言わさず、紅い力を溜めろと言われる。溜める事は、問題ないんだが……凄く嫌な予感がする。
「洋一、行くよ!」
ライダー宜しくな、ポーズで強制的に飛び蹴りをさせられる。風圧が、すごくて眼が開けられない! 全力で足に紅い力を集めないと、足がブチ折れるかもしれない!
待てよ? これは一応掛け声がいるよな?
「仮面洋一キーック!!!」
激しい音と共に、城の壁を打ち破る事に成功した。
死霊術師と思われる黒髪で白い着物を着た痩せ細った不審な女の眼が、点になっている。
「えっ? 怖っ……犯罪者?」
めちゃくちゃ失礼な事を言いだす不審者。
「犯罪者じゃねえわ! お前だな、国をめちゃくちゃにしたのは! この死霊術師め!」
「えっ? 死霊術師? なんの事?」
不審者は、キョトンとしていた。




