第116話 命を狩る者は命に対して敬意をはらえ
俺の意識が身体に戻ると、蘭は何故か悲しそうにしているし、師匠は不機嫌になっていて、レイ先生は酷く落ち込んでいる。
リュイは、なんだか落ち着かない感じ? なんでだろう。
「あの? 敵は?」
師匠に睨まれた! 何故だ!? 質問したらいけないパターンか? そう言えば俺敵の最後を見てないな……堺さんと意識の中で話している間になにか起きたのか?
「敵は最後、誰かに操られて爆死。神獣の魂も、その誰かに盗られたから解放できなかったよ。情報持ってそうな感じだったのになー」
だから不機嫌だったのか。師匠が、近くのバスケットボール大の石を城に向けて蹴り飛ばすと、石は城に届く前に消え……えっ? 石が消えた? なんでだ?
「師匠、石が消えたみたいなんですが……」
「うん? 敵の術式だろうねー。はー面倒だなあ、斬り崩したら楽なんだけど、誰か生きてたらまずいからねえ」
石を蹴り飛ばすのは大丈夫なのか?
「力を抑えて、こう俺達だけらが入れるようには……」
「無理! 僕の今使える力を五割位使わないと、斬れないよ」
五割使ったら、きっと城まで無くなるんだろうなあ。神獣の魂も盗られたって事は、きっと敵は神獣の魂を使ってよくない事をするつもりなんだろうな。
『まあ術者を探して、潰した方が早いよねえ』
「うおっ! 堺さん!? 急にびっくりするじゃないですか!」
『僕の事は、スタン○だと思って気にせずにいてね? 誰かに背中を見られたらだめだよ?』
背中を見られたらダメって、最強のスタン○と名高い奴かよ。って言うか堺さんなんで俺に敵の最後を見せなかったんだ?
『君に考える時間を与えるため。それと見ても意味ないからね』
考える時間か……。とりあえず術者? を探さないとだけど敵の情報0だぞ?
「術者を探すって言ってもなあ、特徴とかわからんしなあ。蘭、空から鑑定しながら探せないのかな? 生きてる人メインで」
「はあ。やってみるけど、どちらも期待しないでね」
蘭は空高く飛び上がっていく。しかし、蘭の奴なにかあったのか?
「リュイ、レイ先生……あの蘭になにかあったんですか? 酷く落ち込んでるみたいだし」
『ヨーイチが憎しみに呑まれて、暴走しかけたのを止められなかったからよ』
リュイの言葉が、心なしか冷たく聞こえる。
「そうか……俺……師匠や堺さんがいなかったら」
言葉に詰まる。また暴走しかけて、蘭を傷付けてしまったのか。蘭は優しいから、自分のせいだって思ってるんだろうな。リュイもレイ先生もだから、落ち込んでいる様に見えたのか、全ては俺の心が弱いから。
「皆んな、ごめんなさい……」
俺には、謝るしか出来なかった。
『ヨーイチのせいじゃないわよ。アタチが文句があるとしたら、ヨーイチに邪神の因子を埋め込んだ奴と、そこの意地悪魔王にだし』
堺さんを睨み付けるリュイ。堺さんに意地悪されたのか? 意地悪するようなイメージはないんだが……。
『ははは、随分と嫌われてしまったな。これでも助けたんだけどなあ』
堺さんは、気にしてないみたいだが。
そんなやり取りを見ていたら、レイ先生が俺の前に来て、肩を掴む。真剣な顔だ……。
「ヨーイチ、聞いて? 憎しみは、誰の心にもあるの。憎しみは感情の一つだけど、そこに呑まれて、憎しみのまま力を奮ってはだめなの。そこに正義はないと私は思うの。わかるかな? 私もあんまり口が上手くないから説明が難しいんだけど」
【正義を伴わない力は暴力であり、力を伴わない正義は無力である】
有名な言葉が、頭を過ぎる。
「ヨーイチがやろうとした事は、動けない相手に、戦いに参加した訳じゃないヨーイチが、憎しみだけで相手を殺そうとしたでしょ? そこには憎しみしかなくて、あのまま殺していたらきっと後悔してたわ。だから、葵が止めたのよ」
師匠の方をチラッと見ると結界に石をぶつけまくっている。
「私達、探索者には格言があるの。
【意志なき力を奮う事なかれ 己が信念を胸に刻み戦え】
ちょっと難しいけど、わかるかな? 私もちゃんと実行出来てるかはわからないけど、ヨーイチ、貴方にこの言葉を託すわ」
戦うなら、自分自身の意思で、他人に任せたり、憎しみに任せたりではなく、信念を持って戦えって事かな。
師匠も言ってたな
【命を狩る者は、命に対して敬意をはらえ】
憎しみに任せて、邪神に乗っ取られて力を奮う事は、そこに俺の意志はあるのか? 命に対して敬意をはらえているのか?
どちらも否だ。
「ヨーイチ?」
レイ先生が、心配そうに俺の顔を覗きこんでくる。
「レイ先生、ありがとう。レイ先生のおかげで、師匠の言葉、思い出せました」
レイ先生は、未だに石をぶつけまくっている師匠を見て
「師匠って……葵?」
「ははは、違います。地球での、鷹匠の師匠です。俺に大事な事を教えてくれて、俺を育ててくれた親代りみたいな人です」
レイ先生は、俺の頭を撫でながら
「蘭ちゃんが戻ってきたら、ちゃんとお話するのよ? 飛び立つ瞬間まで、ヨーイチの事見てたんだから」
「うぐっ……そうですね。蘭には、一番心配かけてますし、傷付けちゃったから……」
『アタチも、心配したし! アタチはちゃんと止めたのに! ヨーイチの癖に、無視して生意気だったんだから! 精霊よ? 精霊を無視するなんて、いけないんだからね!
ヨーイチ、笑ってないで、ちゃんと聞いてんの!?』
俺はリュイの頭を撫で
「ごめんな、リュイ。いつもありがとう」
『わっわかればいいの!』
リュイは頬を赤くして笑ってくれた。




