第113話 久々のビンタは蜜の味
蘭は、魔法で城と神殿を作り上げる。ギリシャ神話に出てきそうな、白を基調とした神殿に、ノイシュヴァンシュタイン城に似た城を作り上げた。まるで、某ファンタジー遊園地のような造り。ドイツの城からの衝撃ビフォーアフターだ!
「すっげえ……。蘭、半端ないな……」
あまりの素晴らしい造形に言葉を失ってしまう。
「某ドリームな遊園地みたいだね。洋一君、行った事あるの?」
師匠の言葉が、心の傷を海よりも深く、えぐってくる。
「葵、私達近くを車で通った事があるのよ。なんで通ったかは、忘れちゃったけど」
蘭! やめるんだ、忘れたままにするんだ! リア充気分を味わいたくて、駐車場まで入ってリア充達の戦闘力に負けて、蘭を理由に逃げ出した過去をほじくり返すんじゃない!
『へー。洋一達の世界にもお城ってあるんだね。凄いなー! 私も洋一達の国のお城に、行きたいなー!』
リュイが、はしゃいでいる後ろで、エルフの人達は、両手を組み、膝を突き、蘭を崇めている。
「リュイ様、お城として使われている訳ではないんですよ。娯楽施設の一環として、使われていました。ねっ洋一? あってるよね?」
蘭が、俺が昔教えた知識を自慢げに披露している。可愛いんだが……心の傷が……
「……ああ。あってるよ……」
歯切れの悪い俺に、蘭は不思議そうな顔をしている。
「リュイちゃん、その娯楽施設はね、カップルや家族や友人と、一緒に行くのが一般的な用途の施設なので、その……洋一君は余り詳しくないのかと」
師匠おおお!! あってるけど言わなくてもいいじゃん! 1人で行く人だっているよ!
「とっとりあえず洋一、次はどうするの? どっか行く国決めてるの?」
蘭が話題を変えてくれたが、優しさが痛い。心が痛い……
次に行く国かあ。正直わからん、あと何個あるかもわからないしなあ。
『柊君、アスベルクに戻る事を勧めるよ。桜ちゃんだっけ? 危ないかもよ?』
「うおっ!」
堺さん、いきなり話しかけてくるのはやめてください。久々過ぎて、ションベンちびりかけましたから……。
『ごめんごめん。創造神は、アスベルクに行かせたくないみたいで、君達に情報を渡さなかったみたいだけど、キナ臭いんだよねえ。アスベルクに霧が、かかったみたいでこっちから見えないし』
わかりました! 桜さんも心配だし、一度アスベルク王国に戻ってみます。
「蘭、師匠、リュイ、桜さんのピンチかもしれないから、アスベルク王国に、一度戻ろう。堺さんが、行った方が良いって。アスベルク王国に霧がかかってるみたいで、現状が見えないらしいから」
『オッケー! 魔王の指示ってのが気になるけど、桜は友達からね! 困ってるなら助けなきゃ! アタチの友達は、アタチが護る! バーニアの友達のライルも気になるしね』
リュイがふんすと胸を張る。ライルなら、大丈夫そうな気もするけどなあ……。貞操的な意味で、余り近寄りたくないが、ピンチなら助けない訳にはいかない。
「桜さんは、貧乳かな?」
この状況でも師匠は一切ブレない。そこに痺れる憧れるう! って憧れてる場合じゃない。
「いえ、巨乳コスプレイヤーです。忍者コスをしています」
師匠は巨乳で落胆しかけたが、忍者コスと聞いて目の輝きがました。師匠、コスプレ好きなんだな。
「忍者! くのいち! 僕も全力で力を貸そう!」
「桜を助けに行きましょう」
師匠の変わり身の早さに、呆気にとられていた俺の肩を、レイ先生が優しく叩く。
蘭は、俺の肩に乗り
「桜は、私達の仲間だもんね。ピンチなら必ず助けよう。それに桜は洋一の友達だからね」
蘭の言葉は、いつだって俺に勇気をくれる。
「よーし! いっちょ、桜さんを救いに行きますか!」
桜さん、必ず俺が助けます! ピンチかどうかはまだわからないけど!
「意気込んでるけど、行くのは念話石で連絡してからね。いきなり現れたら向こうもびっくりするでしょ?」
はい、その通りです……アポ取りは大事ですもんね……。
そう言えば、役場で働いていた時も、田舎だから大丈夫かなーって、アポ無しで言ったらめちゃくちゃ怒られたなあ。あの爺さんは、元気してるかなー。血圧に気を使ってくれてればいいんだが……。
「洋一!」
「ふえ?」
蘭に名前を叫ばれ、思わず変な声が出てしまう。思考が別の時空にとんでいたようだ。
「桜に念話で話しかけているんだけど繋がらない。ロザリアにも繋がらないし、正直マズい事になってるかもしれない……」
蘭の焦りを感じる。
「えっ!? やっやばいじゃんそれ!! はっ早くたちゅけに行かないと!」
ロザリアさんにも繋がらないって、めちゃくちゃやばいんじゃないのか? スーパーピンチか? 巨乳を傷つけられていたら……! どうしよう、どうしたら……あわわわ。王様とか大分年寄りだったし……! あの兵隊さん達とか、大丈夫なのか!?
「洋一、落ち着いて!」
「へぶらいっ!」
蘭に羽根で引っ叩かれた……。頬が痛い、ジンジンする。だけど、少し落ち着いてきた、とりあえず早く行かなければ!
「洋一、転移で飛ぶから走り出そうとしないで。皆んな、そばに来て」
蘭と俺を中心に、リュイ、レイ先生、師匠が集まる。
「ワターシハ、コノコトクニヲ、マモリマース! オキヲツケテ!」
亮の激励を受け、俺達はアスベルク王国へ飛んだ。




