第110話 この国の城はもう……
城の神殿があったであろう場所のドアは、鎖でぐるぐる巻きにされている。なにやら物々しい雰囲気をしている。
「すげえ……ガチガチに閉じてる」
どうやって開けるんだこれ? この鎖で閉じてるだけで、瘴気が漏れないのはどう言う使用なんだ? 亮を見ると、亮は神殿を見ながら
「コウシナイト、ダメデース。マンガイチガナイヨウニデース」
それだけ言って、黙ってしまう。気まずい……エセ外人訛りで、シリアスな空気を出されるとなんかなあ……。
「洋一君、僕がやるから、君達はここから中に入らないでね。特に洋一君と蘭ちゃんは、だめだよ。理由はわかるね?」
「蘭は、神獣だから? 俺は「洋一の中に居る、邪神の因子ですか?」
蘭が、俺の言葉を遮って師匠に質問する。
「そうだね。今回は前回と違って、瘴気が濃過ぎるからね。君が、邪神に乗っ取られる可能性がある。そうなったら、僕は君を斬らなければならない」
師匠が、いつの間にかに抜いた剣を俺に突きつける。
「そんな! ヨーイチを斬るだなんて……」
レイ先生が慌てているが、邪神になってしまったら、斬られても仕方ないと俺は思う。この世界に、害を成す可能性があるならば、斬って捨てるべきだと……。
『レイ、だから葵が一人でやるんでしょ? 葵頼んだわよ!』
師匠は、笑いながらリュイに手を振りドアの前に立つ。両手で、剣を持ちドアに向ける。
師匠の剣の刀身が蒼く輝く、師匠が剣を横なぎに振るうと鎖がバラバラと地面に落ちていく。
『すっご……』
リュイには見えていたのかな? 神殿が崩れていく。師匠が苛立った顔をしているが、成功したんじゃないのか?
「チッ……。浅かったかな、蘭ちゃん、亮、防御結界を今すぐ張っておいて。リュイちゃんになにかあったら困るから」
師匠はこちらを見ずに、蘭と亮に指示をだす。
「オッケーデース! ヤクオウヲオネガイシマース」
「葵、無茶はしないでね」
亮は、オレンジ色の結界を張り、蘭は亮の結界に重ねる様に、紫色の結界を張る。
「師匠、俺は……!」
師匠になんて声をかけていいかわからず、口ごもってしまう。
「大丈夫だよ洋一君、僕この戦いが終わったら結婚するんだ……!」
何故、今更使い古されたフラグを立てるんだよ……。
「じゃあ僕は行くよ! 殺人犯のいるこんな場所には、いられないからね!」
余計なフラグを残し、師匠は瘴気渦巻く中に入って行く。
『葵、ここは任せろって感じだったわね』
「いやリュイ、フラグを重ねなくていいから。いや重ねた方が安全なのか?」
「洋一、ふざけてないの。葵の戦いを良く見て」
蘭に言われ師匠の方を見ると、師匠はあるラインから先に行かない。
「なんであの位置から動かないんだろ?」
「ヨーイチ、あの位置が、相手の攻撃の間合いなんだと思うわ」
リュイ先生、間合いとかわかるんだな。流石は探索者って事なのかな? 俺は間合いとか、わからないけど。
師匠の身体がブレた様に見えた瞬間、結界越しでも爆風が伝わってくる。
「師匠が一瞬、ブレた様な」
俺は言葉を止める、瘴気も壁も神殿も城壁も、全てが無くなっている。
「空が青いなー」
思わず現実逃避をしてしまう。
「あっ洋一! 皆んな避難! 城が崩れる!」
蘭の声で、現実に引き戻される。
「逃げろおおおおおおおおおおおお!!!」
感情に浸る間もなく全員で駆け出す。
━━ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
城が、音を立てて崩れていく。城の破片が降り注ぐ、蘭と亮が防御結界を頭上に作り、破片を防いでいる。
「うおっ! 結界があるとは言えこええ〜!」
「洋一! 無駄口叩いてないで走る!」
レイ先生は、額に汗をかきながら全力で走っている。亮は、防御を優先しつつ走っているが、表情に余裕がある。
「洋一君、皆んな伏せてー!」
師匠が、こちらを向いて剣を握っている。全員、全力でその場に伏せる。
「破ッ!!」
師匠が気合いの掛け声と共に、剣を振るう。
音がしないどころか、なにも降って来ないぞ?
「あれ? 瓦礫は……?」
「丸ごと斬り飛ばした。そのうち、創造神も来るんじゃない? 堕ちた神獣も、瘴気ごとまとめて斬り飛ばしたから」
改めて思うが、師匠は規格外の化け物だ。勇者である亮ですら封印しか出来なかったヤクオウを、瘴気ごと斬り裂いてしまうとは……。
「ヤクオウハドウナリマシタカ?」
亮は、やっぱりヤクオウは助けたかったんだろうな。
「ヤクオウ? ああこれ?」
師匠は小さな蛇を亮に手渡す。
「ヤクオウ! ヤクオウウウウ!」
ヤクオウを抱き締め、亮が泣いている。師匠は苦笑いをしながら。
「殺してないよ? いや殺してないは的確じゃないかな。1度は殺したんだけど、身体の中にいたんだよね。瘴気に呑まれてないし、多分生きてるよ」
『葵! やるじゃない!」
リュイが、葵の側を嬉しそうに飛び回る。レイ先生は、固まっている。
「城が……歴史ある皇国の城が……」
レイ先生は、青い顔をしながら城が、城がと呟いている。
そりゃそうだよなあ、原因も責めにくいしなあ。
城を崩壊させたって字面だけみたら、凶悪犯だよなあ……。




