第106話 生首キャッチボール! ポロリは無いよ!
♢蘭視点
「ん? あれが皇国の中心かな? 凄く固い結界で守られてるわね。中も見えないなんて」
結界に触れない高度を保ちながら、上空を旋回する。
突如なにかに見られている様な感覚に落ち入る。
「ッ! なにかのスキル? 感知されない距離にいるはずなんだけどな……人間やエルフじゃ物理的にも見えない高度だし」
『あー! あー! テステス。飛行中の鳥さん! 敵意はありますかー!?』
突如下から、大音量の声が響く。
「敵意はないけど……」
近づきたくはないな、得体が知れないし。
『敵意がないみたいで、よかったでーす! じゃあ俺は**の対応で忙しいんで、お疲れしたー!』
大音量の声は、なにかの対応に忙しいと言い、それっきり聞こえなくなった。
「なんだったんだろうなあ。ノリが、洋一や葵みたいだったからなあ。多分トラブルの元になるだろうなあ……」
今から、気が重いなあ。結界のせいで、瘴気の出所はわからなかったしなあ……。
蘭が、戻って来た。なんだろ? あんまり良い表情じゃないな。言いにくい状況なのか?
「蘭? どうした? 皇国で、なんかあったのか?」
敵か? 戦闘したにしては、早過ぎるし……
「まさか! 蘭ちゃん! 皇国になにかあったの!?」
レイ先生が、蘭に詰め寄る。
「レイ落ち着いて。皇国は、多分無事よ。分厚い結界で中は見えなかったけど。人がいるのは確かよ」
「分厚い結界? 蘭ちゃんですら中が見えない結界を張れる様な人は、皇国にはいないはずなんだけど……」
レイ先生の疑問は、もっともだな。蘭ですら、中が見えない結界って事は、堺さんや師匠レベルの奴がいるって事か? 敵じゃなきゃいいんだが。
「しかも私は、上空3000m以上上にいたのに、感知されたわ。それどころか、上空にいる私に、声をかけてきたわ」
え? 声をかけたって、どう言う事? そんな高さの相手にどうやって? 拡声器付きのドローンでもあるのか?
「確実に勇者がいるね。早く中心街とやらに行こうよ! そうか、そうか。結界の中に引きこもって、僕の感知を避けていたんだな。ブラボー!! 素晴らしいよ勇者!」
師匠のやる気スイッチが入ってしまった……実に厄介だ。絶対トラブルが起きる。多分、「おめえから強い気がビンビン感じっぞ! 戦おうぜ!」的な、龍球展開になる。どうにか、フラグ回避をしなければ……。
「し、師匠? あの勇者? とバトルしようぜ! って展開はダメですからね?」
「じゃあ、デュエルしようぜ?」
「ガッチャ! じゃないわ! デュエルもだめです!」
「がっちゃ? ガチャガチャするの?」
しまった、師匠は初代しか知らないパターンか!
「ガッチャは、恥ずかしいから忘れてください。とにかくバトル展開は無しで、平和的に行きましょう?」
「バトル展開無しかー。じゃあ、神殿の神獣も貰うよ?」
「それは、助けられない時だけにしてください……」
ぶーぶー! とフーリガンの様にブーイングをかましてくる師匠を宥める。
「あれもダメ、これもダメ、そんなんだから、子供は反抗するんだよ! もっと自由にさせてよ!」
師匠め……ゆとり教育的な事を言いやがって……これが、ゆとり教育の弊害か! ならこちらは最終兵器だ!
「リュイ! 師匠を説得してくれ!」
『任せて! アタチが悪者って言った奴以外は、葵は攻撃しないよね?』
上目遣いで言うリュイ。若干あざとく見えるが、師匠なら間違いなく引っかかる。
「もちろんさ! 悪者以外に興味は無し! 勇者? なにそれ? チンカスかなにか? さあ皆んな、皇国に行くぞ!」
説得は成功したけど、なんだこのやるせない気持ちは。リュイは、めちゃくちゃドヤ顔だし、師匠は満面の笑みだし。
「俺はもう疲れたよ蘭……」
「洋一、世界の名作ぽく言わないで。とりあえず、皆んなと行きましょう」
俺のボケは、冷たくあしらわれた。
♢
皇国の中心街が見える位置に来たんだが……灰色のドーム状の膜に覆われてて中が見えない。これが、結界かあ。蘭が、中を見えないわけだよ。これ作った奴は、相当頭がキレるか、ただの馬鹿か、どっちかだな。
━━━カチンカチン
師匠は師匠で、剣を鞘から出してカチカチして遊んでる……いや、結界を斬りたいけどリュイの手前斬れなくて、ウズウズしてるパターンか。
『えー結界の外にいる人達? 精霊も神獣もいるし……人達であってるかな? エルフの国に、なんのようですかー?』
馬鹿でかい声が響く。
「うるさ! なんの用って言われたら、神殿の瘴気を祓いに来たんだが。来る途中で、エルフの人達を虐殺した黒龍も倒したんだけど……他のエルフの人達が、無事かどうか見に来た? みたいな?」
『みたいな? って言われてもなー。黒龍倒せたの? マジで? 結界貼り終わったから、倒しに行こうとしてたんだけど……倒してくれたならサンキューでーす!』
サンキューでーすって軽いわ! ってか中にいれろよ!
「中に入れてくれるかなー?」
『それはダメだねー! そこの斬りかかりそうな人が、ちょっと前に皇国の軍隊潰したり、ダメ将軍を殺したりしたからさー』
だめかー! しかも師匠のせいで……ん? 待てよ? ダメ将軍って言わなかったか?
「それはなんて言うか、ごめんなさーい! でもダメ将軍だったんでしょー?」
『そう、めちゃくちゃダメ将軍! 邪神とズブズブだったし、やりたい放題、差別し放題のクソ野郎だよー!』
「なら、別に討伐されてもよくなーい?」
『それだけならねー! 中心街にも攻撃したでしょー? しかも城を狙ってー! 城の中の人護るの大変だったんだよー?』
えっ? 確かに、中心地を攻撃した的な事を言ってたけど……まさか師匠、本丸を狙った?
「師匠、本丸を狙ったりはしてないですよね?」
「えっ? 狙ってないよ。ちゃんと邪神テューポーンがいた、城の天辺だけを斬り落としたけど? ついでにテューポーンの首もね!」
めちゃくちゃ良い笑顔で、サムズアップしてくる師匠。
こっこれは、挽回の余地はあるのか? 城の天辺と邪神テューポーンの討伐、ううむ。難しい問題だぞ。
「あっあのー? テューポーンの首を斬り落としてるから、チャラになったりは?」
『邪神倒したの? マジで? ちょっと確認に行くわ! トウッ!』
━━━ズカアアアン!
激音と共に現れたのは、身長160cm位、黒い鎧を着た、青髪の少年だった。黒目に青い眉だから似合わない。青い眉って染めてんのかな? あんな重そうな鎧を着て良く動けるな。顔は普通かな? イケメンやら美女を見過ぎて俺の価値観がおかしいだけかもだが……。
「邪神倒したのって、そこのパーカーの人?」
「うん。僕だよ? 証拠にほら?」
師匠は、テューポーンの首を青髪の少年に投げ渡す。
首が飛ぶ姿が、めちゃくちゃホラーだ。まるでお化け屋敷みたい……
「うわ! すげっ! マジモンじゃん! 討伐取られたかー! 残念! 弱らせた時に気配を隠して逃げたから探してたんだよね」
青髪の少年は、テューポーンの首を師匠に投げ返す。……生首キャッチボールを見せられている。グロッ……
「君は勇者じゃないみたいだけど、誰なのかな?」
師匠は値踏みするように、青髪の少年を見ている。勇者じゃないのか?
「自己紹介ね! オイラ一応勇者をやってる、加藤 亮 15歳! よろしくな!」




