第104話 リアルな血の池地獄
師匠の転移でエアリ皇国に飛ぶ。
そこは正しく地獄、辺りには血の臭いと、なにかが焼けた臭いが充満している。
血の海と言う言葉に、相応しい光景。建物は壊れ、辺りの木々も焼けている。
そこかしこに、折れた剣、引き裂かれた盾、折れ曲った矢が落ちていて、斬り裂かれた死体、焼け焦げた死体、食いちぎらた死体で辺りは溢れて返っていた。
「おええええ!!」
俺は余りに凄惨な光景にたまらず、嘔吐してましう。
なんだよこれ! なんだよこれ!
死んだエルフと目があった気がした……。
「わーお」
「葵、貴方がこれを……!」
レイ先生が、師匠の胸ぐらに掴みかかる。師匠は、肩を竦めているだけで、否定も肯定もしない。
『レイ! やめなさい! 葵なわけないでしょ! どう考えても戦闘があったのは、ここ半日よ! だって魂が残ってないもの』
リュイが、レイ先生を宥める。
「……ッ! わかってます! けど……! 生きている人を探します!」
レイ先生は、師匠から手を離し歩き出す。
「洋一、大丈夫?」
蘭が、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「うっぐ、そうだ、俺も生きている人を探さないと……」
口を拭い、フラフラと立ち上がる。
『ちょっと、ヨーイチ無理しない方が良いよ!』
レイ先生の力にならないと……
「葵、貴方なら犯人を見つけられるんじゃない?」
「犯人? ああ、この惨状を引き起こした相手ならもう来てるよ。あそこ、見てごらんよ」
師匠が、空を指差す。黒い影が、こちらに向かってくるのがわかる。
━━ゴウッ!!
突風が吹き荒れ、黒い龍が姿を現す。大きさはレッドドラゴンと同じくらいか? だがレッドドラゴンとの違いは羽が無い。口には長い口髭、日本の角、漆黒の鱗、鋭い爪、腹は白い色をしている。
『グッグッグッ。まだ生き残りがいたか』
唸り声の様な、声を上げる。聞き取り難いが、こいつがこの光景を生み出した犯人……
「貴方が、こんな事を!」
レイ先生が、弓を構える。
「殺す! 殺してやる! ブレイジングアロー! ブレイジングアロー! レインアロー!」
レイ先生が、鬼の形相をしながら、連続してスキルを黒龍に向けて放つがまるで効いてない。
「それじゃあ勝てない。残念だけどね」
師匠が呟いた。
『彼奴……物理耐性だけで、レイのスキルを弾いてる』
耐性だけで弾くって、化け物かよ!
『グッグッグッ。弱気エルフの者よ。後ろに強者がいるから、勘違いしたのか? それとも我に対しての怨嗟の念か? 邪神様の匂いを放つ弱気エルフよ』
弓を引くレイ先生の手から、血が流れている。
「洋一君、レイさんを止めないとちょっとまずいかなー。邪神の因子が、発現しかけているよ」
「えっ!? 邪神の因子? マジかよ……! レイ先生! 止まって……!」
「重力拘束魔法! レイ落ちつきなさい!」
蘭が、レイ先生を魔法で拘束する。
「離して! 離してよおおお!」
レイ先生の絶叫がこだまする。
『ヨーイチ! どうするのよ!』
あああ! もう、やるしかない!
「レイ先生、ごめんなさい!」
レイ先生の尻を出し、揉みしだく。邪神の因子を消すスキルが発動する。レイ先生の尻と、俺の手が光る。
「ヨーイチ! なにするの! 今は、ふざけてる場合じゃないのよ!」
きつい、今まで一番きつい。頭が割れそうに痛い。根性だ、根性、耐えるしかない!
「ぐおおお! 消えろおおお!」
「あがっ……」
レイ先生の意識が、途切れる。
「はあ……はあ。なんとかなったか……」
『グッグッグッ。茶番は終わりか? 次はそこの強気者が、戦うのか?』
黒龍が、師匠を睨み付ける
「僕? 興味ないなー。1撃で終わっちゃうし、そうだ! 蘭ちゃん戦ってきなよ、ヨーイチ君がこれだけ頑張ったんだからさ」
師匠は、笑いながら蘭に語りかける。蘭は、師匠の言葉を聞き、飛び上がる。
「待て! 蘭! 危ないって!」
蘭は、俺の声を聞かず黒龍と相対する。
「洋一! 見てて、私がコイツを倒す! リュイ様は、洋一を護って下さい!」
『わかったけど、蘭は大丈夫なの!?』
リュイの言葉に蘭は、力強く頷く。猛禽類独特な、鋭い目で黒龍を睨み付ける。
「任せて下さい! 今回は、エレンから貰った装備もしてますから!」
蘭の足には、エレン爺いから貰った装備をしている。爪が赤く輝く。
「必ず倒します!」
蘭は、足に魔力を溜めている。
『グッグッグッ……貴様神獣か』
黒龍は、蘭を敵と見定めて、黒炎のブレスを、蘭に向けて吐き出す。
「蘭!!」
蘭は、黒炎のブレスを風魔法で打ち消す。
『グッグッグッ。貴様、やるな! ブレスを打ち消すとはな……龍眼! 動けまい小さき物よ』
突如、蘭の動きが空中で止まる。
「こんなものおおお!! はああああああ!」
蘭の身体から魔力が、急激に膨れ上がる。
━━━バギン
「風炎爪撃!!」
赤と緑の魔力が絡み合い、爪状の斬撃が黒龍に向かい飛ぶ。
『グウオオオオ!!! こんなものおぁ!!』
黒龍と蘭の斬撃が、激しく打つかる。瞬間、爆風が吹き荒れる。
「うおっ! 蘭、大丈夫か!」
『ぎざまあああああああ! 負けてたまるかあああ』
黒龍が絶叫する。
「十字風炎斬!!」
黒龍が動く前に蘭が放った、赤と緑の斬撃が黒龍の胸を十字に切り裂くと、黒龍が更に大きな悲鳴を上げ
『ギャアアアアアアアアアア!』
『あーもうしぶといし煩い!風神斬り!』
最後の一撃で黒龍の首が落ちる。
「おー。龍の首が落ちたねえ。あの程度の敵に時間はかかり過ぎかなあ。まあ、及第点だね」
師匠は及第点だと言い、ウンウンと頷いている。
「蘭、すげえな! でも大丈夫か?」
「大丈夫だよ、洋一!」
蘭が、勢いよく俺の肩に止まる。
魔力強化をした爪を装備したまま。
「あぎゃああああああああ!! いたーい!」




