第101話 皇国の秘密 乙女の涙
憎い人だとしても、人が死んでパーティーか。レイ先生、主催のパーティーを俺は……。
パーティーが終わり部屋に籠り膝を抱え、地球との死生観の違いに思い悩む。
『ヨーイチ?』
リュイが、心配そうに俺の顔を見ている。
「いや、なんでもない。なんでもないよ」
蘭が梁の上から降り、俺の膝の上に着地する。俺は、蘭をそっと抱きしめ心の内を話す。
「異世界だから、仕方ないのかなあ。人が死んで、葬式ならわかるけど……パーティーはなあ。いくら悪い人でもさ……なんだかなあ」
「洋一、気にし過ぎちゃダメよ。いくら考えても、育ってきた世界も、価値観も違うんだからさ。レイが、皇国でどんな扱いをされていたのか、皇国の将軍がどんな悪政をしていたのか、私達は知らないしね」
地球にもないわけじゃない、悪政者が死んでお祭り騒ぎになる事が……。
「うーむ」
難しい問題だなあ。皇国の人は、レイ先生しかいないし。
『皇国に行って、自分の目と耳で見たり聴いたりしたら、わかる事もあるんじゃない?』
リュイの言う通りだ、俺はなんにも知らないんだしな。
「それしかないか。師匠は……ダメって言っても来るよなあ。まあなんとかなるか」
━━━コンコン
ドアをノックされる。
「どうぞー」
「ヨーイチ? どうしたの? ご飯、美味しくなかった?」
ドアが開くと、心配そうな顔をした、レイ先生が立っていた。
「うーん、あのさレイ先生、皇国の将軍ってどんな人なの?」
レイ先生は、顎に手をあて一息つく。
「難しいし、長い話になるわよ?」
「いいよ、ちゃんと聞きたいし」
「そう、じゃあ座るわね」
レイ先生が、俺の横に座る。……良い匂いがする。
「先ずあの人は、私の父様を殺して、今の地位に着いのよ。先代将軍である、ジオ・コーラルを殺してね」
いきなり、衝撃の展開だ。レイ先生のお父様が、先代の将軍様で、師匠が刈り取った人が親の仇だったなんて……。
「えっ……じゃあ……親の仇だったんですか?」
「仇かあ、仇と言えばそうね。皇国は、少し特殊なのよ。武功が第一なの。強ければなにをしても許される。新しい将軍になるには、現将軍を倒すしかないの。だから父様も、倒される覚悟はあった筈よ。勝負事態は、正々堂々とした者だったしね」
おおう、リアル戦国時代だ。弱肉強食かあ……。強ければ生き、弱ければ死ぬって感じかあ。
「だから、父様が負けた時もああ、負けちゃったのかあ。みたいな感じだったのよ。元々忙しい人で、私も式典でしか会った事がないしね」
随分と特殊な親子関係だな。
「その……寂しくなかったの?」
「うーん、母様や姉様や兄様がいたから、寂しい気持ちはなかったよ。皇国では、当たり前の事だしね」
ドライと言えば、ドライな関係だなあ。地球でもそう言う家庭はあるけど……。
「父様の政治は、上手くいっていたわ。父様が政治をしていた頃は、差別主義も少なかったわ。今の皇国の将軍、ゲイン・ジグラールに変わるまでね」
レイ先生のお父様は、きちんと政治をしてたのか。流石、レイ先生のお父様。生きてる間にお会いしたかったぜ。
「そのゲインって、どんな人だったの?」
「ゲインは、他種族を嫌っていたわ。ゲインの母が、人間に殺されてから特にね。ゲインは、母が殺されてから、どんどん荒んでいったわ。人間も獣族も魔族も、エルフ以外の種族は全て殺すって、口癖の様に言ってたわね」
母親を殺した種族以外も殺す? 母親を殺した種族を殺したいならまだわかるが、逆恨みにしては苛烈だな。
「邪神の因子に囚われていたのかもね」
蘭の言葉で気付く、多分母親が亡くなった悲しみで、因子が作動したのかな? 最後に戦った相手が悪かったとかしか言いようがないけど。
「邪神? 邪神ってど言う事?」
レイ先生に、邪神の説明はしていなかったか。一から説明しないとだな。皇国の神殿にも行かなきゃならんし。
俺達は、レイ先生に邪神について、邪神の神殿を回らなきゃ行けない事を伝えた。
「ヨーイチ、歯を食いしばりなさい」
「え? ふぎゃっ!」
えっ? なんでビンタ? どうして? 何故何故WHY!?
「ヨーイチ! 危ない事をしないって、私と約束したよね? 命の危険が、ある話ばかりじゃない! どうして帰って直ぐに、ちゃんと話さなかったの!?」
レイ先生の瞳から、大粒の涙が流れる。
「私は、蘭ちゃんよりリュイ様より弱いわ。だから私には言えなかったの? 私は、そんなに頼りない?」
「レイ、洋一は、巻き込みたくなかっただけだから」
「━━蘭ちゃんごめんなさい。少し感情的になったわ。頭を冷やしてくる……」
泣きながら部屋を出て行くレイ先生を、俺は止められなかった。なんて声をかけて良いかわからなかったから。女の人の涙は、母親がフラッシュバックするからどうにも苦手だな。
「蘭、俺……」
『ヨーイチ! 追いかけなよ! レイが泣いてるんだよ? ヨーイチを心配して、ヨーイチに頼りにして貰えない、自分の弱さが辛くて!』
リュイに叱咤される。リュイに言われた事を、頭では理解出来ているんだけどさ。
「でも、俺なんて言えば……」
『ヨーイチ! 男でしょ! 泣いてる女の子を抱き締めるくらいできないの!?』
「だっ抱き締める!? そっそんな事」
『早く行け!』
リュイに喝を入れられた、情けないな俺。
「洋一、男を見せてきなよ!」
蘭にまで、後押しされちまった。もう行くしかないか! 男ヨーイチ、突撃します!




